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40. ミッケの完敗

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「おい、お前ん家の猫をなんとかしろっ!!!」
「ジェラミー?!一体どうした?」

 家で休んでいたティルミオとティティルナは予期せぬ来訪者に先ず目を丸くして驚いて、それから二人して青ざめた。

 先程別れたジェラミーが、引っ掻き傷だらけでミッケを抱き抱えながら現れたのだ。

 先程のミッケの言動から、何があったのかは容易く想像が出来た。

「どうしたも、こうしたも、お前ん家の猫が迷子みたいだったから連れ帰ってやろうとしたらコレだよ!お前ん家の猫、元気良すぎるな?!」
「うわ、ごめんなさい!本当にごめんなさい!!」
「ごめん、ジェラミー!この馬鹿猫には良く言って聞かせるから!!」

 ティティルナもティルミオも、とにかくジェラミーに対して平謝りしたが、当の本人のミッケはと言うと、不服そうな顔で、ジェラミーの手をガジガジと噛み付いているのだ。

「ミッケ、落ち着いて。さ、おいで。」

 シャーシャー言ってるミッケをジェラミーから引き離すと、ティティルナはしっかりとミッケを抱き込み、改めてジェラミーに謝罪をした。

「ジェラミーさん、本当にごめんなさい。直ぐに傷の手当てをするわね。」
「あぁ、これ位の傷なら気にしなくていいって。この家業だ、元から傷は多いんでね。それよりその猫、きっと腹が減って気が立ってるんだと思う。何か食べさせてやって。」

 恐縮して頭を下げまくるティティルナに気を遣ってか、それとも素なのか分からないが、ジェラミーは嫌な顔一つ見せずに笑顔でそう言ったのだ。これには流石のミッケも大人しくならざるを得なかった。

「お、やっぱり飼い主が良いんだな。急に大人しくなったな。オレには全然懐かないのに。」
「なんか、本当に、本当ーーに、すみません。」
「明日から暫く、パン無料で持ってって良いから……」

 ティティルナもティルミオも、ミッケが敵意を持ってジェラミーを攻撃しているのを知っている為、何も知らないジェラミーに対して、後ろめたさからひたすらに頭を下げたが、当の本人ジェラミーは全く気にしていないのか、そんな謝り続ける二人を笑い飛ばして謝罪を止めさせたのだった。

「そんな謝らなくって良いって。あ、そうだ、明日渡そうと思ってたけどついでだ。ほらコレ、ティルミオの分の報酬。」

 それからジェラミーは、カバンからギルドで受け取った報酬の半分を取り出してティルミオに手渡したのだ。それは、ティルミオが思っていたよりもズッシリと重い布袋であった。

「何か多くないか?!」
「フォレストベアーの素材が思ったより高く売れたんだよ。」
「でもあれは、ジェラミー一人で倒したじゃないか。俺が分前貰って良いのか?」
「お前の助言があってこそ倒せたんだし、それに胆嚢。お前が気付いたおかげで、儲けが増えたんだ。折半するのは当たり前だろ?」

 そう言って爽やかに笑ってみせるジェラミーは、まるで聖人の様だった。

 目の前でここまでの言動を見せられては、最早ミッケも自分の考えが間違っていた事を認めざるを得なかった。
 ミッケはティティルナの腕の中でシュンとしおらしく項垂れて反省してみせたのだが、しかし、これで終わりという訳にはいか無かった。

「……ミッケ、ちょっと後でお話しましょうね。」
「……そうだな。俺もミッケとじっくり話がしたいな。」
「にゃ……にゃあ……」

 ティティルナとティルミオは、優しそうな笑みを浮かべで穏やかな声でそう言うと、ミッケが逃げ出さない様にがっしりと腕の中で掴んで離さなかったのだ。

(ティニャもティオも物凄く怒っているにゃ。ジェラミーが帰ったらヤバいにゃ。お説教されるにゃ……!!)

 そう本能が感じ取って、咄嗟にミッケはジェラミーを引き留めようとした。しかし、ティティルナにがっしりと抱え込まれているため身動きは取れず、ただ甘えた声で鳴くしかできなかった。

「にゃあぉん!にゃあん、みゃぁん!!(待つにゃ!今お前が居なくなるのは困るにゃ!!)」
「お、なんかまた鳴き始めたから早いとこ何か食わせてやってな。じゃあ、オレはもう行くから。」
「にゃぁぁ!にゃぁぁぁーーっ!!(待つにゃ!行くにゃーーーっ!!)」

 そんなミッケの叫びも虚しく、「今度こそまた明日な」と言って、ジェラミーは帰って行ったのだった。

 こうしてミッケは、目が笑っていないティルミオとティティルナから逃げる間もなく大いにお説教をくらったのだった。
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