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第二部
52. 一件落着?
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「先ず最初は是非、殿下に献上をしたいのですがその前にどうぞラウル様、危険な物ではないかお確かめ下さい。」
満面の笑みを浮かべるヴィクトールに、マキシムは彼の僅かな悪意を感じ取った。
(多分、何かしらラウルに恥をかかせるような仕掛けをあのお茶に仕組んであるんだろうな。)
そうは思ったが、ラウルだって殿下の側近を務めるほどの人物だ。自分で対処出来るだろうと、マキシムはこの流れを静観することに決めた。
……のだったが、ここでまた、予期せぬ声が彼女から発せられたのだった。
「待ってくださいお兄様!ラウル様だってお客様なんですから、毒味役でしたら私がやりますわ!!」
「ロクサーヌ様?!」
突然の出来事に、マキシムも流石に驚いてしまった。まさかロクサーヌがこんな行動に出るとは思ってもいなかったのだ。
「ロクサーヌ様……貴女は自分が何を言っているのか分かっていますか?!」
彼女は勿論ですわと頷くと、とても真剣に、マキシムに耳打ちをしたのだった。
「お兄様はきっとお茶を飲ますことでラウル様に嫌がらせをしようと企んでいると思うんです。だからそのお茶を私が飲んでしまえば、お兄様の企みは完全に阻止できて、この夜会も無事に終えられますわよね。」
どうだ!と言わんばかりの得意げな顔でそう話すロクサーヌに、マキシムは頭を抱えた。
何か仕掛けてあると考えるのなら、何故それを自分が飲んで大丈夫だと思うのかその根拠まで示して欲しかった。
恐らく彼女はそこまで考えておらず、場当たり的に行動する事は今までの言動で分かりきっているので、今回もきっとそうなのだとしか思えなかった。
「ロクサーヌ様、ラウルは特別な訓練を受けています。たとえお茶に、嫌がらせで異物が混入してあっても彼なら問題ありませんよ。」
マキシムは優しく彼女をなだめてみたが、彼女の決意は強かった。
マキシムの他、兄ヴィクトールの静止も振り切って、ロクサーヌはラウルが手にとろうとしていたグラスを素早く掴むと、一気にお茶を飲み干してしまったのだ。
……そして、彼女の挙動に会場が静まり返って注目していると、ロクサーヌは目に涙を溜めて引き攣った笑みを湛えたのだった。
しかし、それも長くは続かなかった。ロクサーヌがその場に崩れ落ちると顔を顰めて悶えだしたので、会場は騒然となったのだ。
「ロクサーヌ様!!」
「ロキシー!!」
マキシムとヴィクトールが、急いで彼女を助け起こすとロクサーヌは泣きながら訴えた。
「お兄様!このお茶、物凄い苦いですわ!!」
「そりゃ、薬茶だからね。一気に飲む物じゃ無いよ!それに、ラウルに飲ませようと特別に濃く苦く抽出してあるんだからね。」
そう、ヴィクトールは、ラウルに嫌がらせとして特別に苦いお茶を淹れていたのだ。
一応殿下への献上という形を取っているので、下手したら不敬罪になってしまうから異物混入は出来なかった。
しかし、ただ苦いだけならいくらでも言い逃れは出来るので、ラウルにみっともない姿を人々の前で晒させる為に特別に苦くなるように抽出したお茶を用意していたのだ。
それを一気に飲み込んだのだから、ロクサーヌの苦悶は計り知れなかった。
吐き出さなかったのだけは本当に褒めてあげて良いくらいだ。
「ヴィクトール様がラウルの事嫌っているのは分かっていたから、下剤くらいは盛ってるのかなって思ってたけど……苦いだけとはね。」
マキシムはロクサーヌを気にかけながら、これを仕掛けた張本人の様子を伺った。
「あぁ、皆様落ち着いてください、毒ではありません!ただ苦いだけです!!」
ヴィクトールはマキシムと同じ様に妹を気にかけながらも、ロクサーヌの様子を見てざわめき出した夜会参加者たちに説明をするのに必死そうであった。
まぁ、自業自得ではあるし、すぐに誤解は解けるだろうからこちらは放っておいても問題ないだろうと判断し、今度はチラリと主君であるレオンハルトの様子を伺った。
「……殿下、堪え切れてませんよ……」
「だって、ねぇ……くくっ……」
横にいるラウルに窘められながらも口元を手で押さえて俯きがちに小刻みに震えているレオンハルトは、この茶番を大いに楽しんでいる様だった。
会場は混乱はしているけれども、当初危惧していた深刻な問題ではなく、何とも滑稽な状況である。
今日のことは貴族の間で暫くは噂されるだろうとは思うが、それもきっとくだらない話として直ぐに忘れられるだろう。
「……まぁ、これくらいで収まって良かったって所かな……」
最悪、この国の土台である五大公爵家の均衡が揺るぎかねなかったので、これ位で済んで良かったと一つ大きく息を吐き出すと、やっと本当に全ての肩の荷が降りたと感じたマキシムは、最後の仕事としてあまりの薬茶の苦さに泣いてしまった令嬢の背中をさすって宥めながら、会場を抜け出したのだった。
満面の笑みを浮かべるヴィクトールに、マキシムは彼の僅かな悪意を感じ取った。
(多分、何かしらラウルに恥をかかせるような仕掛けをあのお茶に仕組んであるんだろうな。)
そうは思ったが、ラウルだって殿下の側近を務めるほどの人物だ。自分で対処出来るだろうと、マキシムはこの流れを静観することに決めた。
……のだったが、ここでまた、予期せぬ声が彼女から発せられたのだった。
「待ってくださいお兄様!ラウル様だってお客様なんですから、毒味役でしたら私がやりますわ!!」
「ロクサーヌ様?!」
突然の出来事に、マキシムも流石に驚いてしまった。まさかロクサーヌがこんな行動に出るとは思ってもいなかったのだ。
「ロクサーヌ様……貴女は自分が何を言っているのか分かっていますか?!」
彼女は勿論ですわと頷くと、とても真剣に、マキシムに耳打ちをしたのだった。
「お兄様はきっとお茶を飲ますことでラウル様に嫌がらせをしようと企んでいると思うんです。だからそのお茶を私が飲んでしまえば、お兄様の企みは完全に阻止できて、この夜会も無事に終えられますわよね。」
どうだ!と言わんばかりの得意げな顔でそう話すロクサーヌに、マキシムは頭を抱えた。
何か仕掛けてあると考えるのなら、何故それを自分が飲んで大丈夫だと思うのかその根拠まで示して欲しかった。
恐らく彼女はそこまで考えておらず、場当たり的に行動する事は今までの言動で分かりきっているので、今回もきっとそうなのだとしか思えなかった。
「ロクサーヌ様、ラウルは特別な訓練を受けています。たとえお茶に、嫌がらせで異物が混入してあっても彼なら問題ありませんよ。」
マキシムは優しく彼女をなだめてみたが、彼女の決意は強かった。
マキシムの他、兄ヴィクトールの静止も振り切って、ロクサーヌはラウルが手にとろうとしていたグラスを素早く掴むと、一気にお茶を飲み干してしまったのだ。
……そして、彼女の挙動に会場が静まり返って注目していると、ロクサーヌは目に涙を溜めて引き攣った笑みを湛えたのだった。
しかし、それも長くは続かなかった。ロクサーヌがその場に崩れ落ちると顔を顰めて悶えだしたので、会場は騒然となったのだ。
「ロクサーヌ様!!」
「ロキシー!!」
マキシムとヴィクトールが、急いで彼女を助け起こすとロクサーヌは泣きながら訴えた。
「お兄様!このお茶、物凄い苦いですわ!!」
「そりゃ、薬茶だからね。一気に飲む物じゃ無いよ!それに、ラウルに飲ませようと特別に濃く苦く抽出してあるんだからね。」
そう、ヴィクトールは、ラウルに嫌がらせとして特別に苦いお茶を淹れていたのだ。
一応殿下への献上という形を取っているので、下手したら不敬罪になってしまうから異物混入は出来なかった。
しかし、ただ苦いだけならいくらでも言い逃れは出来るので、ラウルにみっともない姿を人々の前で晒させる為に特別に苦くなるように抽出したお茶を用意していたのだ。
それを一気に飲み込んだのだから、ロクサーヌの苦悶は計り知れなかった。
吐き出さなかったのだけは本当に褒めてあげて良いくらいだ。
「ヴィクトール様がラウルの事嫌っているのは分かっていたから、下剤くらいは盛ってるのかなって思ってたけど……苦いだけとはね。」
マキシムはロクサーヌを気にかけながら、これを仕掛けた張本人の様子を伺った。
「あぁ、皆様落ち着いてください、毒ではありません!ただ苦いだけです!!」
ヴィクトールはマキシムと同じ様に妹を気にかけながらも、ロクサーヌの様子を見てざわめき出した夜会参加者たちに説明をするのに必死そうであった。
まぁ、自業自得ではあるし、すぐに誤解は解けるだろうからこちらは放っておいても問題ないだろうと判断し、今度はチラリと主君であるレオンハルトの様子を伺った。
「……殿下、堪え切れてませんよ……」
「だって、ねぇ……くくっ……」
横にいるラウルに窘められながらも口元を手で押さえて俯きがちに小刻みに震えているレオンハルトは、この茶番を大いに楽しんでいる様だった。
会場は混乱はしているけれども、当初危惧していた深刻な問題ではなく、何とも滑稽な状況である。
今日のことは貴族の間で暫くは噂されるだろうとは思うが、それもきっとくだらない話として直ぐに忘れられるだろう。
「……まぁ、これくらいで収まって良かったって所かな……」
最悪、この国の土台である五大公爵家の均衡が揺るぎかねなかったので、これ位で済んで良かったと一つ大きく息を吐き出すと、やっと本当に全ての肩の荷が降りたと感じたマキシムは、最後の仕事としてあまりの薬茶の苦さに泣いてしまった令嬢の背中をさすって宥めながら、会場を抜け出したのだった。
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