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第二部
34. 密談
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「やぁ、ヴィクトール。今宵の会はまた一段と華やかだね。」
「はい。我が家のパーティーをきっかけに貴族間同士の交流が盛んになってこの国がより良い方向へと進むように願って、今回は広く色々な方にお声掛けさせていただきました。殿下にもご出席していただけて、とても光栄です。」
「うん、……それはとても素晴らしい考えだと思うよ。過去に囚われた貴族間のつまらない対立など、誰も得をしないしね。」
ノルモンド家の応接間では、本日の夜会の主催者であるヴィクトールが、この国の王太子であるレオンハルトと向かい合って座っていた。
ヴィクトールの述べた考えにレオンハルトがニッコリと微笑んで賛同するなど、彼らは一見和やかに会話をしているようではあったが、その実お互いの腹の中は、野心や思惑が渦巻いていたのだった。
「えぇ。その点については、殿下と私の思惑は一致しますよね。」
「そうだね、だから君に特別に声をかけているんだよ。君は、私が求めている事をとても良く理解してくれているからね。」
お互いに笑顔を浮かべているが、二人の目は全く笑っていなかった。
「はい。だから以前ガーデンパーティーの時に殿下から進言を頂いていた通り、今回はミューズリー所縁の家にも積極的に声をかけました。……まぁ、参加率は悪かったですが。」
「それは、先代ノルモンド公爵の負の遺産だね。前公爵はミューズリー側の貴族との関係を絶っていたから、関係改善に次期公爵の君も苦労するね。」
「おっしゃる通りです。」
レオンハルトの言葉に、ヴィクトールは恐縮するしかなかった。殿下の言う通りなのだ。
祖父である前ノルモンド公爵が徹底的にミューズリ出身者を嫌った為、ノルモンド家はミューズリ側の貴族と深い溝が出来てしまっていたのだ。
しかしそれは、ヴィクトールの思うところではなかったし、そのように根付いてしまったノルモンド家の評判は彼が目指す計画の為にはこの上なく邪魔なものであった。
ヴィクトールは、自分の功績を上げる為にこの国の全ての上位貴族と友好的な繋がりを持ちたいのだ。ミューズリーの血統だとか、シュテルンベルグの血統だとか関係なく、とにかく人脈を手に入れたかったのだ。
そして、そんな彼の野心を見透かして、レオンハルトはヴィクトールを焚きつけたのだった。
「けれども、私は期待しているんだよ。君の様な柔軟な考えの持ち主が次世代を担うのだから、きっとこの、長年続いてきたシュテルンベルクとミューズリーの根深い対立を解決してくれるってね。」
「……お祖父様ももうお歳ですからね。そろそろ黙って頂こうと思います。これからは、
古い悪しき慣習は壊していかないと。」
「あぁ、それはとても頼もしいね。」
「はい。いずれ国王陛下になる貴方様の為に、私が率先して悪しき心的傾向を打ち壊しましょう。この国の明るい未来を手にする為に。」
「あぁ、期待しているよ。」
そう言ってレオンハルトは、ニッコリと笑うと目の前の青年を満足そうに見遣った。
自分が思い描く争いごとの火種が取り除かれた未来の為に、ヴィクトールは思った通りの働きをしてくれそうで、レオンハルトは思わず目を細めたのだった。
「はい。我が家のパーティーをきっかけに貴族間同士の交流が盛んになってこの国がより良い方向へと進むように願って、今回は広く色々な方にお声掛けさせていただきました。殿下にもご出席していただけて、とても光栄です。」
「うん、……それはとても素晴らしい考えだと思うよ。過去に囚われた貴族間のつまらない対立など、誰も得をしないしね。」
ノルモンド家の応接間では、本日の夜会の主催者であるヴィクトールが、この国の王太子であるレオンハルトと向かい合って座っていた。
ヴィクトールの述べた考えにレオンハルトがニッコリと微笑んで賛同するなど、彼らは一見和やかに会話をしているようではあったが、その実お互いの腹の中は、野心や思惑が渦巻いていたのだった。
「えぇ。その点については、殿下と私の思惑は一致しますよね。」
「そうだね、だから君に特別に声をかけているんだよ。君は、私が求めている事をとても良く理解してくれているからね。」
お互いに笑顔を浮かべているが、二人の目は全く笑っていなかった。
「はい。だから以前ガーデンパーティーの時に殿下から進言を頂いていた通り、今回はミューズリー所縁の家にも積極的に声をかけました。……まぁ、参加率は悪かったですが。」
「それは、先代ノルモンド公爵の負の遺産だね。前公爵はミューズリー側の貴族との関係を絶っていたから、関係改善に次期公爵の君も苦労するね。」
「おっしゃる通りです。」
レオンハルトの言葉に、ヴィクトールは恐縮するしかなかった。殿下の言う通りなのだ。
祖父である前ノルモンド公爵が徹底的にミューズリ出身者を嫌った為、ノルモンド家はミューズリ側の貴族と深い溝が出来てしまっていたのだ。
しかしそれは、ヴィクトールの思うところではなかったし、そのように根付いてしまったノルモンド家の評判は彼が目指す計画の為にはこの上なく邪魔なものであった。
ヴィクトールは、自分の功績を上げる為にこの国の全ての上位貴族と友好的な繋がりを持ちたいのだ。ミューズリーの血統だとか、シュテルンベルグの血統だとか関係なく、とにかく人脈を手に入れたかったのだ。
そして、そんな彼の野心を見透かして、レオンハルトはヴィクトールを焚きつけたのだった。
「けれども、私は期待しているんだよ。君の様な柔軟な考えの持ち主が次世代を担うのだから、きっとこの、長年続いてきたシュテルンベルクとミューズリーの根深い対立を解決してくれるってね。」
「……お祖父様ももうお歳ですからね。そろそろ黙って頂こうと思います。これからは、
古い悪しき慣習は壊していかないと。」
「あぁ、それはとても頼もしいね。」
「はい。いずれ国王陛下になる貴方様の為に、私が率先して悪しき心的傾向を打ち壊しましょう。この国の明るい未来を手にする為に。」
「あぁ、期待しているよ。」
そう言ってレオンハルトは、ニッコリと笑うと目の前の青年を満足そうに見遣った。
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