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第二部

18. 疑惑と陰謀のガーデンパーティー2

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「あぁそうだ。この林にはねとっておきの場所があるんだ。レスティア嬢、折角だから私の代わりに二人を案内してあげてくれないか。」
「はい。分かりましたわ殿下。」

立ち去り際にレオンハルトがそんな置き土産を残していったので、マキシムとロクサーヌはレスティアに案内されて、ギスギスした雰囲気のまま林の中へと移動していた。

「殿下からの提案でなければ貴女たちと散策だなんて絶対にやらないのに……」
「まぁ、奇遇ですわね!私も殿下からのお願いでなければ、自分の事を敵視してる方とご一緒なんかしませんわ。」
「あぁ、もう!泥が跳ねて靴が汚れてしまいましたわ。貴女もっとまともな道を案内する気遣いも出来ないのかしら?!」
「淑女らしくゆっくりそっと歩けば大丈夫ですわよ。ロクサーヌ様は、ちょっと足を踏み鳴らしすぎなのでは無いかしら。」

皮肉の応酬をしながら前を歩くレスティアとロクサーヌの一歩後を、マキシムは引き気味についていった。

自分は何故この場に居なくてはならないのか。

何度目か分からないくらい自問自答を繰り返し、マキシムは死んだ魚のような目で黙って二人の後をついて行っていたのだが、ふと急に、何やら違和感を覚えて、パッと顔を上げて周囲を見渡した。

人気のない林の中なのに、自分たち以外の人の気配がするのだ。
それも複数人の。

「レスティア様待って下さい!!」

マキシムはなんだか嫌な予感がして、先を歩くレスティアに止まるように声をかけたのだが、どうやら気付くのが少し遅かったようだ。

林に潜んでいた手に刃物を持った人相の悪い男たちが、レスティアの前に立ち塞がったのだ。
その数、六人。

「なんなんですか貴方たち?!」
「悪いなお姫様。個人的になんの恨みもないが、依頼主があんたを連れてこいって御指名なんだ。」

(嘘だろう?!!)

王宮所有の林で野盗が現れるなんて前代未聞だった。警備は厳重で、侵入者など許されるはずがないのだ。
それなのにこんな事態に見舞われるなんて、全く予測できなかった。

マキシムに武術の心得は殆どない。
護身術程度なら身に付いているが、相手は武器を持った複数人で、こちらは護らなくてはならない御令嬢が二人もいるのだ。
だからこれは、マキシム一人でどうこうできる状況では無かった。

しかしそれでも、王太子殿下の婚約者であるレスティアを何もせずに悪漢の手に渡すわけにはいかない。

彼はレスティアを庇うように彼女の前に立って、目の前の悪漢と対峙した。

すると、その時だ。

「何ぼさっとなさってるの?!!逃げますわよ!!」

そう叫んだロクサーヌが、野盗の隙を突いて勢いよく走りだしたのだ。

「あっ!おい!!」
ロクサーヌの突然の行動に野盗たちは、逃げ出したロクサーヌを追いかけるか、無視してこの場のレスティアを捕縛するかの咄嗟の判断をどうやら出来なかったようで、明らかにこちらへの集中が乱れたのだ。

そして、その隙をマキシムも見逃さなかった。
「レスティア様!逃げますよ!!」
マキシムはレスティアの手を掴んでロクサーヌの後に続いて走り出したのだった。

正直、逃げた所で追いつかれるのでは無いかと思っているが、それでも今出来る最善手はこれしかなかった。

レスティアの手を引きながら後ろは振り返らずに、前を走るロクサーヌの後を追った。
令嬢にしては足が速いななどと思いながらその後ろ姿見失わないように走った。

すると急に、前を走っていた彼女はマキシムの前から姿を消してしまったのだった。

先頭を切って逃げ出したロクサーヌは道を誤って足を踏み外し、マキシムとレスティアの目の前で崖下へと転げ落ちたのだ。

「えっ?!ちょっと!崖から落ちるのは聞いてないわ!!」
「レスティア様……?!」

何やら妙な事を口走ったレスティアにマキシムは怪訝な目を向けると、彼女は何やら予定外の事態に頭を抱えているようだった。

そして後ろを見返して見ると、レスティアだけでなく、追って来た野盗のほうもロクサーヌが崖から落ちた事に酷く動揺し困惑しているようだった。

崖っぷちに追い詰められている状況なのに、誰一人レスティアを捕縛する動きを見せずに、野盗らはただオロオロとその場でこちらの様子を伺っているのだ。

(……うん。これはなんの茶番かな?)

流石にマキシムも気付いた。
これが自作自演である事に。

「あの……レスティア様……」

もうバレてますから普通に人を呼んでロクサーヌ様を助けましょうと、マキシムは彼女に進言しようとしたのだが、彼が言葉を続ける前に、レスティアは緊迫した声で、とんでもない事を言い出したのだった。

「予定とはだいぶ違うけれどもまぁいいわ。
野盗は私が引きつけますから、貴方はロクサーヌ様を助けに行ってください!!」
彼女はまだ、追われている演技を続ける気だったのだ。

「いや、レスティア様……」
普通王太子の婚約者を囮に使うとかあり得ないですから。もう演技しなくていいですから。

マキシムはそう口にしたかったけれども、それは叶わなかった。彼が何か言う前にレスティアは野盗たちを引き連れて、この場から颯爽と走り去ってしまったのだ。
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