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第二部
3. 従兄妹たちのお茶会3
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「成程、何となく分かったわ。ご忠告有難う。」
難しい顔でマグリットはアルバートにお礼を言った。
彼の説明で大体のところは分かったし、理解も出来てはいるのだが、マグリットのその顔は、今の話に全然納得がいっていないという顔だった。
自分の知らない所でそんな陰謀に巻き込まれるかもしれないだなんて、そんな事態を急に呑み込める訳がないのだ。
「それでマグリット、縁談話は進められそうなの?」
今のアルバートの話を聞いて、横からアイリーシャが心配そうにマグリットに声をかけた。
今までずっと黙って二人の話を聞いていたが、彼女なりに従姉妹の窮地を察して、力になりたいと思ったのだ。
「そうね、それが出来たら苦労はしないんだけどねぇ……」
マグリットはアイリーシャからの問いかけに少し寂しそうな顔で笑って答えた。
それから父親のレルウィン侯爵の事を思い出して、暗い顔で再び深いため息を吐いたのだった。
前に一度、交際をしている伯爵令息がレルウィン家にマグリットとの婚約の申し込みに来たことがあったのだが、レルウィン侯爵は彼に会おうともせずそのまま追い返したのだ。
そしてその出来事を、マグリットは二人にも説明をした。
「まぁ、伯父様はそんなにも強く反対されているの?」
「そうなのよ……まさか会ってさえくれないなんて思ってなかったわ……」
「しかし何で伯父様はそんなにも頑ななんだろう?娘を溺愛してて嫁にはやらんっていうタイプでは無いし、伯爵家なら格下だけどそこまで家格も悪くないじゃないか。何か他に理由があるのかな?」
「お父様の考えてることなんか、分からないわよ……」
状況を知った従兄妹たちが、口々にマグリットに同情を寄せる。二人からの言葉にマグリットは少し慰められた気持ちになったが、それでもまだ彼女の表情はどこか冴えないままだった。
するとアイリーシャはマグリットの手にそっと触れて、彼女を励ますかのように、真剣な眼差しでじっと見つめた。
「ねぇマグリット、私で何か貴女の力になれることあるかしら?」
政治的思惑にも恋愛話にも疎い自分では彼女の何の力にもなれないかもしれないが、それでもアイリーシャは、大好きなマグリットを助けたいというその想いだけは強かったのだ。
そして、少し不安そうな子犬のような目のアイリーシャからじぃっと見つめられて、マグリットも彼女が自分の力になりたいと本当に強く思っている事を感じ取ったのだった。
それは、とても嬉しい心遣いだった。
「有難うリーシャ。……そうね、ちょっと相談に乗ってもらいたいかも。」
どこかほっとした様な顔で、マグリットは微笑みながらアイリーシャに答えた。
自分一人で悩んでいた彼との事に、一人でも味方が居ると分かっただけで沈んでいた気持ちが随分と楽になったのだ。
そして更に、予想外に有り難い申し出は続く。
「僕も出来ることがあるなら手を貸すけど?」
なんとアルバートまで、力になってくれると言うのだ。
「……アルがそんな事を言うなんて、どうしたの?!」
彼のこの発言には、驚かざるを得なかった。
利己的で恋愛ごとに興味の無いアルバートが、まさか自分の難航している婚約話を手伝ってくれるだなんて言うとは全く思っていなかったのだ。
だからマグリットは目を丸くしてひどく驚いた様子で彼の方を見たのだが、アルバートは心外だというような表情でマグリットを見返していたのだった。
「マグリットは本当、僕のことなんだと思ってるのさ……。可愛い従姉妹が困っているのなら力を貸すのは当然だろう?」
そう言ってアルバートは、不満そうな目をマグリットに向ける。
「そうね、ごめんなさい。貴方の気遣いもとても嬉しいわ。でも……アルの力を借りるのは怖すぎるから止めておく。貴方はその……ほら……色々と容赦のない所があるから。」
マグリットは社交界で流れるアルバートが関係する噂話を思い出しては、折角の彼からの申し入れを丁重に辞退したのだった。
「僕、身内には優しいけど?」
「身内以外にも優しくしないと、貴方恨みばっかり買うわよ?!」
「僕はそんな一円の得にもならないものは買わないよ。」
平然と言ってのけるアルバートのその感じが小憎いとも思ったが、けれどそれがいつもの彼なのだ。
先程のまでの深刻な顔と声で話す姿から、すっかり元の調子に戻ったアルバートを見て、マグリットの気持ちもだいぶ落ち着いたのだった。
「……でも、まぁ、私が本当に困った時はアル、貴方を頼る事にするわ。だからその時は助けてね。」
「了解したよ。まぁ、僕に頼る様な事態にならずにすんなりと話が進むと良いね。」
「えぇ。ありがとう。……しかし、身内に切り札があるのは本当に心強いわね。」
「そうでしょう?マグリットは僕と従兄妹で良かったね。」
「まぁ、自分で良く言うわね。」
ニヤリと笑って得意そうな顔を見せるアルバートに、マグリットは呆れながらも笑顔になった。
それから、アイリーシャとアルバートを改めて眺めると、二人からの自分を気遣う気持ちに勇気が湧いてきたのだった。
「有難う、二人とも。お陰で元気が出てきたわ。私、彼がお父様に会ってもらえるようにもう少し頑張ってみる事にするわ。」
「えぇ、マグリットのこと応援してるし、伯父様がそれでもお会いにならないのなら、私も一緒にお願いするわ。」
こうして、この話題は一応は終わりを見せて、三人は冷めてしまった紅茶を侍女に淹れ直させて、再び穏やかに午後のひとときを楽しんでいた。
主にアイリーシャとマグリットの二人で話して、アルバートはそんな二人を温かい目で見守りながら、楽しそうに彼女たちの話を聞いている。
いつもの従兄妹会の日常だった。
難しい顔でマグリットはアルバートにお礼を言った。
彼の説明で大体のところは分かったし、理解も出来てはいるのだが、マグリットのその顔は、今の話に全然納得がいっていないという顔だった。
自分の知らない所でそんな陰謀に巻き込まれるかもしれないだなんて、そんな事態を急に呑み込める訳がないのだ。
「それでマグリット、縁談話は進められそうなの?」
今のアルバートの話を聞いて、横からアイリーシャが心配そうにマグリットに声をかけた。
今までずっと黙って二人の話を聞いていたが、彼女なりに従姉妹の窮地を察して、力になりたいと思ったのだ。
「そうね、それが出来たら苦労はしないんだけどねぇ……」
マグリットはアイリーシャからの問いかけに少し寂しそうな顔で笑って答えた。
それから父親のレルウィン侯爵の事を思い出して、暗い顔で再び深いため息を吐いたのだった。
前に一度、交際をしている伯爵令息がレルウィン家にマグリットとの婚約の申し込みに来たことがあったのだが、レルウィン侯爵は彼に会おうともせずそのまま追い返したのだ。
そしてその出来事を、マグリットは二人にも説明をした。
「まぁ、伯父様はそんなにも強く反対されているの?」
「そうなのよ……まさか会ってさえくれないなんて思ってなかったわ……」
「しかし何で伯父様はそんなにも頑ななんだろう?娘を溺愛してて嫁にはやらんっていうタイプでは無いし、伯爵家なら格下だけどそこまで家格も悪くないじゃないか。何か他に理由があるのかな?」
「お父様の考えてることなんか、分からないわよ……」
状況を知った従兄妹たちが、口々にマグリットに同情を寄せる。二人からの言葉にマグリットは少し慰められた気持ちになったが、それでもまだ彼女の表情はどこか冴えないままだった。
するとアイリーシャはマグリットの手にそっと触れて、彼女を励ますかのように、真剣な眼差しでじっと見つめた。
「ねぇマグリット、私で何か貴女の力になれることあるかしら?」
政治的思惑にも恋愛話にも疎い自分では彼女の何の力にもなれないかもしれないが、それでもアイリーシャは、大好きなマグリットを助けたいというその想いだけは強かったのだ。
そして、少し不安そうな子犬のような目のアイリーシャからじぃっと見つめられて、マグリットも彼女が自分の力になりたいと本当に強く思っている事を感じ取ったのだった。
それは、とても嬉しい心遣いだった。
「有難うリーシャ。……そうね、ちょっと相談に乗ってもらいたいかも。」
どこかほっとした様な顔で、マグリットは微笑みながらアイリーシャに答えた。
自分一人で悩んでいた彼との事に、一人でも味方が居ると分かっただけで沈んでいた気持ちが随分と楽になったのだ。
そして更に、予想外に有り難い申し出は続く。
「僕も出来ることがあるなら手を貸すけど?」
なんとアルバートまで、力になってくれると言うのだ。
「……アルがそんな事を言うなんて、どうしたの?!」
彼のこの発言には、驚かざるを得なかった。
利己的で恋愛ごとに興味の無いアルバートが、まさか自分の難航している婚約話を手伝ってくれるだなんて言うとは全く思っていなかったのだ。
だからマグリットは目を丸くしてひどく驚いた様子で彼の方を見たのだが、アルバートは心外だというような表情でマグリットを見返していたのだった。
「マグリットは本当、僕のことなんだと思ってるのさ……。可愛い従姉妹が困っているのなら力を貸すのは当然だろう?」
そう言ってアルバートは、不満そうな目をマグリットに向ける。
「そうね、ごめんなさい。貴方の気遣いもとても嬉しいわ。でも……アルの力を借りるのは怖すぎるから止めておく。貴方はその……ほら……色々と容赦のない所があるから。」
マグリットは社交界で流れるアルバートが関係する噂話を思い出しては、折角の彼からの申し入れを丁重に辞退したのだった。
「僕、身内には優しいけど?」
「身内以外にも優しくしないと、貴方恨みばっかり買うわよ?!」
「僕はそんな一円の得にもならないものは買わないよ。」
平然と言ってのけるアルバートのその感じが小憎いとも思ったが、けれどそれがいつもの彼なのだ。
先程のまでの深刻な顔と声で話す姿から、すっかり元の調子に戻ったアルバートを見て、マグリットの気持ちもだいぶ落ち着いたのだった。
「……でも、まぁ、私が本当に困った時はアル、貴方を頼る事にするわ。だからその時は助けてね。」
「了解したよ。まぁ、僕に頼る様な事態にならずにすんなりと話が進むと良いね。」
「えぇ。ありがとう。……しかし、身内に切り札があるのは本当に心強いわね。」
「そうでしょう?マグリットは僕と従兄妹で良かったね。」
「まぁ、自分で良く言うわね。」
ニヤリと笑って得意そうな顔を見せるアルバートに、マグリットは呆れながらも笑顔になった。
それから、アイリーシャとアルバートを改めて眺めると、二人からの自分を気遣う気持ちに勇気が湧いてきたのだった。
「有難う、二人とも。お陰で元気が出てきたわ。私、彼がお父様に会ってもらえるようにもう少し頑張ってみる事にするわ。」
「えぇ、マグリットのこと応援してるし、伯父様がそれでもお会いにならないのなら、私も一緒にお願いするわ。」
こうして、この話題は一応は終わりを見せて、三人は冷めてしまった紅茶を侍女に淹れ直させて、再び穏やかに午後のひとときを楽しんでいた。
主にアイリーシャとマグリットの二人で話して、アルバートはそんな二人を温かい目で見守りながら、楽しそうに彼女たちの話を聞いている。
いつもの従兄妹会の日常だった。
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