上 下
42 / 109

閑話. アルバートの暗躍2

しおりを挟む
アルバートは勿論、ミハイル・メイフィールという人物の評判を全く知らない訳では無かった。

社交界で多くの交流があるアルバートには様々な情報が入って来るので、王太子殿下の側近であるミハイルの人柄や力量等も噂として聞き及んではいた。

しかし、アルバートはその様な上辺だけの評価ではなく、真に迫った情報を欲していたのだ。

「アルバート様はミハイル様に興味がお有りなのですか?」
不意に、主催以外の参加令嬢が声を上げた。

アルバートは、いささかこの話題展開は急であったかなと自省してみせたが、予め想定してあった説明を追加する。

「実は先日の王城での夜会でね、具合を悪くした妹がミハイル様に介抱してもらったそうなのです。それで、兄としてミハイル様にお礼を申し上げたいと思っているのだけども、僕は彼の事を余り知らないので、ここに居る御令嬢たちに教えて貰えたら嬉しいかな。」
ここまで言うとアルバートは、御令嬢方に向けていつもの笑顔を作って見せた。

すると御令嬢達は、納得のいく説明と芸術の様に麗しい彼の笑みを受けて、口々にミハイルについての噂話を披露してくれたのだった。

「まぁ、具合の悪い御令嬢を介抱なさるなんて、やはりミハイル様は噂に違わぬ優しい方なのですね。」

「誠にそうですわね、うちの兄も申していましたわ。うちの兄は文官として王城に勤めておりますが、先日同僚の文官の一人が急病で登城出来ない日が続いてましたの。彼の分まで仕事を任された兄でしたが、作業量の多さに疲弊して居た所を、ミハイル様が手を貸してくださったのですわ。」

「まぁ、なんとお優しい事でしょう。それに私も聞いた事がありますわ。ミハイル様が街の孤児院に通って、子供達に勉強を教えていると。」

「その噂は確かですわ!だって私ミハイル様が孤児院を訪ねるのを見かけましたもの。市井の格好をしておられましたが、あれは間違いなくミハイル様でしたわ!」

一石を投じただけでこうも波紋は広がるのかとアルバートは感心した。
彼は目の前で繰り広げられる御令嬢たちの語らいを、内心ほくそ笑みながら聞いていた。勿論、表向きには完璧な笑顔を浮かべて。

(それにしても、噂に違わぬ高尚な人物像だこと。まぁ、悪い噂というのは無いようだね。)

アルバートは、妹に関心を寄せるミハイル・メイフィールという人物が、アイリーシャにとって相応しい人物なのか、妹を悲しませるような事をしないか、慎重に見極めようとしていたのだった。

そして、それを見極めるための燃料を彼は更に投下する。

「皆様のお話を聞くところによると、ミハイル様はとても御立派な方ですね。そのようなお方ならば、さぞや御令嬢からの人気も高いでしょうね。浮名なども多いのでは?」

アルバートが気にしているのは、ミハイルに妹以外の女性との噂があるかどうかだった。

「それが、ミハイル様にはそう言った噂話を全く聞かないのです。」
「えっ、全く?」
「えぇ。全くですわ。」

これは少々意外であった。アルバート自身特定の本命の女性が居る訳では無いが、浮名の一つや二つ経験があるからだ。そのような高潔な人物が果たして本当に存在するのだろうかと訝しんだ。

「私のこれも兄に聞いたのですが……」
先程の文官を兄に持つ令嬢が口を開いた。

「ミハイル様はなんでも長年お慕いしている御令嬢が居るそうなのですが、立場上その想いはずっと胸に秘めておかないといけないらしいです。」

「まぁ、なんていじらしいのでしょう!一途に想われているお相手が羨ましいわ!」

ずっと胸に秘めておかなくてはいけない事を、本人の居ないこのようなお茶会の場で噂話として暴露されて、アルバートはミハイルに少し同情をした。

そして、ミハイルは長年妹のアイリーシャに想いを寄せていて、他に女性の影もない事を察したのだった。

アルバートは自身が欲しかった情報を大体得られたと感じたが、それでも御令嬢たちのお茶会は、取り留めのないミハイルの噂話で盛り上がって行く。


「ミハイル様は最近ジオール公国の公用語の本を集めてらっしゃるの。遠い異国の言葉を学ぶなんて、なんて勤勉な方なんでしょう。」

「そういえば最近お仕立てになったタイも、ジオール公国産の染糸でお作りになったらしいですわ。私も同じ染糸でリボンを拵えたかったのですがジオール公国とは国交がない為、染糸を入手出来なくて難儀してますの。」

「あら、私も聞きました。最近夕食でジオール公国産のワインを好んで飲んでいらっしゃるとか。私も飲んでみたいのですが取り寄せが出来ないのですよね。」

取り留めのない会話ではあったが、アルバートは頻出する言葉が気になっていた。

(ミハイル様は国交の無いジオール公国の事をお調べになっている?個人的に動いているとは考え難いから、それはつまり、近いうちに我が国とジオール公国との間に何かしらの動きがあると言う事では無いだろうか……)

令嬢達との会話で、近々外交に大きな動きが有るとアルバートは睨んだのだった。

##続きます
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...