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18. 令嬢、計画を打ち明ける1
しおりを挟む「私ずっと考えていました。この国は大変豊かなのですがどこか歪んでいます。その一端となっている、ミューズリーに所縁のある者が蔑まれている風潮を変えられないかと。」
ミハイルに問われ、アイリーシャは自分の内に秘めている計画について語り始めた。
この国シュテルンベルグは、ミューズリーと合併して一つの国となってもう長い年月が経過しているにも関わらず、系譜がシュテルンベルグの人の中にはミューズリー側の人間を見下している者がいて、あたかもそれが当たり前であるような風潮が出来上がってしまっているのだ。
「広く根付いた風潮を変えるのは並大抵ではありません。そこで考えついたのは、今人々に根付いている考え方を正すのは無理でも、これから根付かさないようにする事はできるのではないかと言う事です。」
アイリーシャの話を、ミハイルもアルバートもただ静かに聞いている。
「まだ偏見を持っていない子供達に対しては、今ある建国の絵本では偏見を助長してしまい、この風潮は変えられません。ですが、建国の絵本に変わる新しい絵本が出来れば長い目で見たら、この今の風潮を変えられるのではないかと思いました。なので私は、建国の絵本に変わる偏見を助長しない新しい絵本を作り広めたいのです。」
これが、アイリーシャが内に秘めたる計画の全容である。
王太子殿下の婚約者候補という重責から解き放たれた今、色々な事が制限なく出来るようになった為、この国の未来を憂いて何か行動が出来ないかと考えていたのだ。
この計画は、兄には既に打ち明けていて賛同を貰っていたが、果たしてミハイルにも理解をして貰えるだろうかとアイリーシャは不安そうに彼の様子を伺った。
しかし、そんな彼女の不安は次のミハイルの反応で、全くの杞憂であると証明されたのだった。
「アイリーシャ様、素晴らしいお考えだ!!」
ミハイルは、アイリーシャの計画にとても感銘を受けて熱のこもった声を上げた。
彼自身この国の歪み、根底にある差別意識に違和感を覚えており、将来的に対策を行いたい事の一つであったのだ。
それを、具体的な改善計画まで掲げてなんとかしたいという思いを聞かされて、心を打たれない訳がなかった。
「貴女はその様なことをずっと考えていらっしゃったのですか?」
真剣な眼差しを向けて問いかけるミハイルに対して、アイリーシャは急に恥ずかしくなり下を向いて返答をする。
「はい。私王太子殿下との交流の場でもずっと違和感を感じておりました。ミューズリー所縁の御令嬢スタイン公爵家のアリッサ様、ブノア侯爵家のメアリ様に対する一部の方の風当たりが強すぎると。」
「あぁ、ノルモンド公爵家ですね。あそこは特に強固な旧王室崇拝派ですからね。」
その様子に覚えがあるので、ミハエルは顔を顰めて相槌を入れた。
旧王室崇拝派とは名前の通り、この国がまだシュテルンベルグ単独国家であった頃から続く古い家柄の貴族で多く構成される統一前の旧王室を崇拝している一派で、シュテルンベルグの王侯貴族にミューズリーの血が混ざる事を忌み嫌っていた。
「考えるきっかけはそこでした。それから様々な事を注意深くみてみると、広く市井にまでミューズリー所縁の者を蔑ろにする風潮が出来上がっていると気付きました。一つの国となってもう長い年月が経過しております。皆同じシュテルンベルグの国民なのに、国民同士で差別をする事が無くなるにはどうしたら良いのか、ずっと考えており、その結論が建国の絵本に変わる、この国の子供達が最初に触れる正しい史実の絵本の作成ということです。」
ここまで話すと、アイリーシャは俯いていた顔を上げてミハイルの方を見た。彼の反応が気になったからだ。
「アイリーシャ様、実に素晴らしいお考えだ!そういった計画ならば喜んで協力しよう、いや、むしろこちらからお願いしてでも手伝いたい。」
自身が取り組めなかった問題の解決を、目の前の令嬢が解決しようと思い描いている計画を知り、賛同せずにはいられなかった。ミハイルは熱心に協力を申し出た。
「しかし、ミハイル様はお城でのお勤めもありますしお忙しいのでは?ご迷惑はおかけできませんわ。」
ミハイルの申し出は大変有り難かったが、彼の王太子殿下の側近としての多忙さも知っているので、アイリーシャは素直に申し出を受け入れる事は出来なかった。
しかし、ミハイルも引き下がらない。
「いいえ、この様な素晴らしい計画に携われるならば時間はいくらでも捻出します。これは、この国の未来の為にもなるとても有益な話ですよ。」
そこから暫く二人の押し問答が続いたので、見かねた第三者が声を上げたのだった。
「僕もミハイル様を巻き込んだ方が良いと思うよ。」
ここまで静観していたアルバートが、話に割って入ってきたのだ。
「公爵家の力を借りないと、絵本を完成させたとしても普及させるのが困難だ。この計画を成功させたいのならば、言い方は悪いけど公爵家の影響力を利用させてもらうべきだよ。」
「アルバート様のおっしゃる通り、どのようにして普及させるのか。それがこの計画で一番重要で一番難しいところです。私ならそれのお役に立てます。」
迷っているアイリーシャに、ミハイルはもう一押し入れる。
「この計画はこの国の未来を変えるかもしれない重大なものです。この国を憂う気持ちは同じですから、どうか協力させてください。」
彼の熱意に負けて、アイリーシャはミハイルにこの計画への協力をお願いしたのだった。
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