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53. 打ち明ける決意
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食事が終わり「また明日」と言って帰宅するルーフェスを見送った後、アンナはエヴァンとエミリアの二人とお茶を飲んでテーブルを囲んでいた。
これは、食後のいつもの習慣で、いつもなら他愛もない話に花が咲いで三人で和気あいあいと会話を楽しむのだが、今日は静かに黙って紅茶を飲んでいる。
アンナが、重苦しいまではいかないがどこか張り詰めているこの空気に居心地の悪さを感じていると、徐にエミリアが口を開いたのだった。
「まずね、貴方達面倒くさいわ。」
紅茶を飲み干すと、彼女は真顔でそう言った。
「いきなり何なのエミリア?!」
余りの言い草に、アンナが呆気に取られていると、構わずにエミリアは説教を続けた。
「想い合ってるんだから、態度をはっきりさせなさいよ!」
お互い自分の立場が複雑だから態度をハッキリさせれない事情は分かるが、ここまであからさまな好意を見せ合っているのに何でこの二人は何も進展していないのかと、エミリアはもどかしく思っていたのだ。
「そんな、想い合ってるだなんて、そんなわけ……」
急なエミリアからの指摘に、アンナは思いっきり動揺して、助けを求めるようなエヴァンの方を見るも「そんなの子供でも見ててわかるわ。」と、彼は冷ややかに相槌を打ったのだった。
「しかし、実際のところどうするのよ?あの人は平民になろうとしていて、アンナは貴族に戻ろうとしているのよ。今のままの関係ではいられないんじゃない?そろそろ、この関係をはっきりさせないとね。」
「分かってる……」
諭すように優しく言うエミリアの言葉にアンナは顔を曇らせて俯くと、両手でカップを持って中の紅茶を見つめながら呟いた。
「まぁ、あの人なら、頼めば一緒にラディウス領に来てくれそうな気がするけどね。王都から離れて地方で暮らした方があの人の都合も良いんでしょう?」
「それは……」
エヴァンの問いにアンナは言葉を詰まらせた。
確かに、ルーフェスならば頼めば一緒に領地へ付いて来てくれそうな気もすると少しばかり甘い考えが頭を過ったが、けれどもそれではいけないと直ぐに気づき首を横に振った。
「それは駄目よ。クライトゥール公爵家の嫡男と同じ顔なのよ。私の側で貴族社会に近づけるのは良くないわ……」
そう言って、アンナはまた暗い表情になり俯いたのだった。
「要は、顔を変えられたら良いのよね?」
何かを思いついたかのようにエミリアが明るい声を上げたので、アンナは複雑な顔で彼女の方を向いた。
「それはそうだろうけど……だからと言って、彼が酷い傷を負うなんてして欲しくないわ……」
「えっ?傷?」
なんの事だか分からないエミリアは、思わず聞き返した。
「ルーフェス、自分の顔を変える為に顔を半分焼こうとしてたから……」
「うわぁ……えぐい……」
話を聞いているだけであったが、想像したら気持ちが悪くなったようでエヴァンは顔を顰めていた。
「ちょっとちょっと、そんな物騒な事しなくても、もっと良い方法が有るわよ。私を誰だと思ってるの?」
暗い顔をするアンナに対してエミリアは得意げに胸を張ると、自信たっぷりにそう言った。
「……エミリア……?」
エミリアが何を言いたいのか分からないアンナは、そんな彼女の態度を怪しんだが、エミリアは不敵に笑うと、力強く言い放ったのだった。
「私は大女優エミリアよ。今までも色んな役を演じてきたわ。顔を変えるのなんて朝飯前だわ。私に任せておきなさい!完璧な化粧術を見せてあげるから!!」
「そっか……メイクね!!」
やっとエミリアの意図に気づき、アンナは彼女が示した解決策に嬉しそうに声を上げた。
「そう。とても平和的で現実的な手段でしょう?フルメイクするだけで顔の印象は簡単に変わるわよ?それでも不安だって言うのならば、特殊メイクって手もあるわよ?」
そう言ってエミリアはウィンクをしてみせたのだった。
「有難うエミリア!確かにその通りだわ。お化粧でも顔を変える事は出来るものね。」
アンナはエミリアの提案に目を輝かせると、彼女の手を取って心からお礼を伝えた。
そんなアンナの喜ぶ様子を満足そうに眺めていると、ふと、エミリアはよからぬ事を思いついたのだった。
「あっ!良いことを思いついたわ。」
「何?」
「女装させよう。」
彼女の突飛な提案にアンナは呆気に取られて固まったが、即座に難色を示した。
「それはちょっと嫌だなぁ……」
「どうして?きっと似合うわよあの人中世的な顔立ちだし。」
「だから嫌なのよ、私よりきっと綺麗になりそうで……」
「あのさぁ……、流石にその話題は本人がいない所でするのはちょっと可哀想じゃないかな……」
話がおかしな方向に盛り上がりそうになっている姉達に、エヴァンは呆れた顔で釘を刺したのだった。
弟からの戒めにアンナとエミリアはお互い顔を見合わせると、苦笑いを浮かべた。
「そうね……。うん、でもなんか分かったわ。顔を変えるのもやりようは色々とあるんだわ。」
アンナは一人納得するように頷くと、それから、エヴァンとエミリアに向き合って、すっきりした顔で自身の決意を告げたのだった。
「彼がどのように考えるかは分からないけれども、私、ルーフェスに全部打ち明けてみるわ。」
明日ルーフェスと会ったら、自分がラディウス前男爵の娘である事、家督を取り戻したら領地へ帰る事、そして、ルーフェスに好意を寄せている事、全てを話そうと、アンナは決めたのであった。
これは、食後のいつもの習慣で、いつもなら他愛もない話に花が咲いで三人で和気あいあいと会話を楽しむのだが、今日は静かに黙って紅茶を飲んでいる。
アンナが、重苦しいまではいかないがどこか張り詰めているこの空気に居心地の悪さを感じていると、徐にエミリアが口を開いたのだった。
「まずね、貴方達面倒くさいわ。」
紅茶を飲み干すと、彼女は真顔でそう言った。
「いきなり何なのエミリア?!」
余りの言い草に、アンナが呆気に取られていると、構わずにエミリアは説教を続けた。
「想い合ってるんだから、態度をはっきりさせなさいよ!」
お互い自分の立場が複雑だから態度をハッキリさせれない事情は分かるが、ここまであからさまな好意を見せ合っているのに何でこの二人は何も進展していないのかと、エミリアはもどかしく思っていたのだ。
「そんな、想い合ってるだなんて、そんなわけ……」
急なエミリアからの指摘に、アンナは思いっきり動揺して、助けを求めるようなエヴァンの方を見るも「そんなの子供でも見ててわかるわ。」と、彼は冷ややかに相槌を打ったのだった。
「しかし、実際のところどうするのよ?あの人は平民になろうとしていて、アンナは貴族に戻ろうとしているのよ。今のままの関係ではいられないんじゃない?そろそろ、この関係をはっきりさせないとね。」
「分かってる……」
諭すように優しく言うエミリアの言葉にアンナは顔を曇らせて俯くと、両手でカップを持って中の紅茶を見つめながら呟いた。
「まぁ、あの人なら、頼めば一緒にラディウス領に来てくれそうな気がするけどね。王都から離れて地方で暮らした方があの人の都合も良いんでしょう?」
「それは……」
エヴァンの問いにアンナは言葉を詰まらせた。
確かに、ルーフェスならば頼めば一緒に領地へ付いて来てくれそうな気もすると少しばかり甘い考えが頭を過ったが、けれどもそれではいけないと直ぐに気づき首を横に振った。
「それは駄目よ。クライトゥール公爵家の嫡男と同じ顔なのよ。私の側で貴族社会に近づけるのは良くないわ……」
そう言って、アンナはまた暗い表情になり俯いたのだった。
「要は、顔を変えられたら良いのよね?」
何かを思いついたかのようにエミリアが明るい声を上げたので、アンナは複雑な顔で彼女の方を向いた。
「それはそうだろうけど……だからと言って、彼が酷い傷を負うなんてして欲しくないわ……」
「えっ?傷?」
なんの事だか分からないエミリアは、思わず聞き返した。
「ルーフェス、自分の顔を変える為に顔を半分焼こうとしてたから……」
「うわぁ……えぐい……」
話を聞いているだけであったが、想像したら気持ちが悪くなったようでエヴァンは顔を顰めていた。
「ちょっとちょっと、そんな物騒な事しなくても、もっと良い方法が有るわよ。私を誰だと思ってるの?」
暗い顔をするアンナに対してエミリアは得意げに胸を張ると、自信たっぷりにそう言った。
「……エミリア……?」
エミリアが何を言いたいのか分からないアンナは、そんな彼女の態度を怪しんだが、エミリアは不敵に笑うと、力強く言い放ったのだった。
「私は大女優エミリアよ。今までも色んな役を演じてきたわ。顔を変えるのなんて朝飯前だわ。私に任せておきなさい!完璧な化粧術を見せてあげるから!!」
「そっか……メイクね!!」
やっとエミリアの意図に気づき、アンナは彼女が示した解決策に嬉しそうに声を上げた。
「そう。とても平和的で現実的な手段でしょう?フルメイクするだけで顔の印象は簡単に変わるわよ?それでも不安だって言うのならば、特殊メイクって手もあるわよ?」
そう言ってエミリアはウィンクをしてみせたのだった。
「有難うエミリア!確かにその通りだわ。お化粧でも顔を変える事は出来るものね。」
アンナはエミリアの提案に目を輝かせると、彼女の手を取って心からお礼を伝えた。
そんなアンナの喜ぶ様子を満足そうに眺めていると、ふと、エミリアはよからぬ事を思いついたのだった。
「あっ!良いことを思いついたわ。」
「何?」
「女装させよう。」
彼女の突飛な提案にアンナは呆気に取られて固まったが、即座に難色を示した。
「それはちょっと嫌だなぁ……」
「どうして?きっと似合うわよあの人中世的な顔立ちだし。」
「だから嫌なのよ、私よりきっと綺麗になりそうで……」
「あのさぁ……、流石にその話題は本人がいない所でするのはちょっと可哀想じゃないかな……」
話がおかしな方向に盛り上がりそうになっている姉達に、エヴァンは呆れた顔で釘を刺したのだった。
弟からの戒めにアンナとエミリアはお互い顔を見合わせると、苦笑いを浮かべた。
「そうね……。うん、でもなんか分かったわ。顔を変えるのもやりようは色々とあるんだわ。」
アンナは一人納得するように頷くと、それから、エヴァンとエミリアに向き合って、すっきりした顔で自身の決意を告げたのだった。
「彼がどのように考えるかは分からないけれども、私、ルーフェスに全部打ち明けてみるわ。」
明日ルーフェスと会ったら、自分がラディウス前男爵の娘である事、家督を取り戻したら領地へ帰る事、そして、ルーフェスに好意を寄せている事、全てを話そうと、アンナは決めたのであった。
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