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第1章 転生

42話 籠城

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 ベルンハルトとジンは領主館から出ると衛兵が住民の避難を指示するのを横目に移動を始める。
町の防壁の強化と武器の準備をしている南側とバリケードを築いている東西の門は通行できなくなっていたので住民達は北門から町の外へ避難し始めていた。

 ベルンハルトの実家に着くと両親が背負えるだけの荷物と小さなバッグを抱えて出発する準備をしていた。

「親父、すぐに出るぞ。持って行くものはそれだけか?」

「ベル! 必要なものはマジックバッグに入れたからこれだけだ」

「よし、行こう。親父とお袋は俺たちが乗ってきた馬車でマールに行ってメルの所にでも泊まっていてくれ。
俺は少ししたら追いかける」

 乗ってきた馬車を渡した二人は南門へと向かった。
南門の外では領軍が道を封鎖して二重三重に柵を並べていた。
ベルンハルトは門の中で指示を出していた指揮官の横に立っている男に声をかけた

「ダニエル、俺だ。久しぶりだな」

「ベルンハルトか?お前が知らせてくれたんだってな。
偵察に出した兵が戻ってきて、相当な数の兵が町の裏に隠れていたそうだ。
これからどうするんだ?」

「籠城するんだろ、手伝うよ」

「助かる、多勢に無勢だから少しでも多い方がいいから助かる」

2人が話をしていると指揮官が近づいてきて親しげにベルンハルトに話しかけてきた。

「死ぬなよベル、お袋が悲しむからな」

「マイク兄さんも無理をするなよ、所詮無理な戦いなんだからやばくなったら逃げろ、意地を張って無駄死にするんじゃないぞ」

「わかってるよ」

「そういえば兄さんのところには魔法使いは何人くらいいるんだ?」

「攻撃魔法は12人、防御が6人、医療系が4人だな。もう少し障壁を張れる奴がいると良かったんだが、ある戦力でやるしかない」

「ジン、正面の障壁を張ってくれないか?
最初だけでいい、ラージカミカゼアントを止めたやつを頼みたいんだけど、無理か?」

「大丈夫ですよ、でも僕が張る障壁はどれくらいの強度があるかわかりませんよ。
魔獣相手にしか使った事がありませんから」

「そうだな、強度を確認しないと兵士が不安に思うよな。
よし、今からテストしてみよう。
兄さん、魔法使いは近くにいないか?
こいつは広域の障壁を張れるんだが戦争で使った事が無いから障壁の強度確認をしておきたいんだ」

「攻撃魔法を使える者なら門の上で明日の位置確認をしているはずだからすぐに呼ぼう」

そう言って魔法部隊を呼び出した。
いきなり強度テストって言われて少し戸惑ったが、いきなり実戦で使って死んでしまうより良いだろうと思い、テストしてもらうことにした。

「ジン君だったね、街中でやって被害が出るとまずいからここでやろう。
ダニエルそっちの準備はいいか?」

「いいですよ、いつでも攻撃できます」

30メートルほど離れた場所に魔法使い8人とダニエルが並んで準備ができたようだ。
こちら側は湖を背にしてベルンハルトとその兄マイクがジンの横に並んでいた。

「俺が旗を振ったら攻撃開始してくれ。
ジン、強力な障壁を張ってくれ、頼むぞ」

  (強力なやつね、左右300mずつの幅くらいでいいかな)

そう思い幅600m高さ50mもある強力な二重障壁を張った。
ベルンハルトが旗を振ると、魔法使いが一斉に持てる限りの魔力を込めて撃ち込んできた。
1人ずつが徐々に魔法の威力を上げていき、強度を確認しながら攻撃魔法を撃ってくると思い込んでいたのだが実際は全員同時だった。
炎の塊や巨大な氷の槍そして滝のような水流が障壁に向かっていった。

「嘘だろ!」
「まずい!」

ベルンハルトとマイクが同時に叫んだ。
攻撃をした魔法部隊の兵士達は順番を決めていなかった。
ベルンハルトに旗を降られたので自分が最初に撃ち込んでやろうと思い全員が同時に詠唱を始めてしまったのだった。
途中で詠唱をやめてしまうと術者に反動が返ってしまい最悪死に至ってしまう為、最大の魔力を込めた魔法を途中で止めることはできなかった。
それに、何処の馬の骨ともわからない奴がこれでもかと大きな障壁を張ってしまったので意地になってしまったのだ。その上悪いことにいつもの癖で8人が8人共、攻撃対象に向けてまっすぐに撃ってしまった。

ゴォォォー!ドカッ、ガガン!ザザザーー!


全ての魔法が障壁にぶつかったが二重に張った障壁の最初の1枚に全て弾かれてしまった。全く無傷の障壁の後ろでベルンハルトとマイクの2人は腕を上げて顔をカバーし体は半身に身構えてしまっていた。
ものすごい音の後、2人は引きつった顔を見合わせて笑い始めた。

「ハハハハハ、すごいな」
「これはすごい、ハハハハハハ」

とりあえず魔法障壁の強度テスト済んだが、副官のダニエルはマイクから拳骨を食らっていた。
きっと順番を決めていなかったことを叱られていたのであろう。
領軍の人たちはこの後も防御策の設置や擁壁の補修などをしていた。
ジンとベルンハルトは馬を借りて領の境界付近の偵察に出た。
マップを確認しながら偵察をしているとゲイズ領に向かう敵の偵察隊を見つけた。

「ベルさん敵の兵が2人います、偵察部隊ですかね」

「2人だとするとそうかもな、捕まえよう」

ベルンハルトは馬に鞭を入れて敵の背後に回り込んだ。
それをみてジンは敵に向かって音を消さずに馬を走らせて囮になって近づいた。

「誰だ、リンダルのものか?」

ジンに斬りかかろうと剣を抜いて立ちふさがったところにベルンハルトが現れ1人を切り倒し、もう1人は剣の柄で殴り倒して捕まえた。

「ベルさんお見事です」

「いや、お前がうまく囮になってくれたからな。
早く連れて帰ろう、何か情報が取れるかもしれない」

「そうですね、急ぎましょう」

早く情報を引き出すことで次の対策が取れるというのもあったが、偵察に出たものが帰ってこないという事で相手が警戒して進軍が早くなる可能性があるのだ。
町に戻り偵察していた男をマイクに引き渡すとその男はどこかに連れて行かれた。これから尋問されるのであろう。
ジンとベルンハルトは夜明け前に戻ってくると伝え、誰もいないベルンハルトの実家に行った。
緊張しているのかあまり腹が減っていなかったので、明日のために短い睡眠をとることにしたのだが夜中の1時を過ぎた頃、開戦の緊張からか早く目が覚めてしまった。
一度目が覚めてしまうともう眠れそうになかったジンは夜の散歩に出かけようと思い立った。

 黒いジャケットに黒いズボン頭の全身黒づくめで黒鞘の刀を装備すると、ユリーカの南側で出陣前の2万の兵が野営している近くに転移した。
陣内は警備の兵士が少しいるようだがまさか襲われるとは思っていないようで隙だらけだった。

 ジンが周りの林に大きめのファイヤーボールを10発ほど撃ち込むと野営地の周囲をは火の海になり、火事に気づいた兵士達が騒ぎはじめた。
ジンは全員が叩き起こされて周囲の消火作業を始めたのを確認すると、テントを覗いて人がいないことを確認しながらテントを次々と燃やし始めた。
敵とはいえ、寝ている人間を焼き殺すほど鬼畜な事をする気にはなれなかったのだ。

テントが燃え始めたのに敵が気づく頃には半数以上のテントが燃えて使用不可能になっていた。
周囲の林を消化したと思えば今度はテントの消火作業、次々に起きる火災に野営地は蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。

 夜の間は馬は馬車に馬は繋がれていないので騒ぎに乗じて投げ槍や矢をせ載ている馬車を片っ端からアイテムボックスに収納していく。
馬は別の場所に集められていたので入口の板を切り倒して反対側に火をつけると驚いて逃げ出し始めた。
周りの柵を燃やして追い討ちをかけるとパニックになった馬の暴走が始まり、野営地は全体的なパニック状態になっていった。

  (次は食料だな)

 食料や物資を管理している兵站部隊もこの騒ぎで警備が甘くなっているようだったので食料や可動式投石機などを見つけると次々とアイテムボックスに収納した。

「敵だ、敵が入り込んでいるぞ!」

  (見つかったか、これだけ派手にやれば仕方ないな)

しかしすでに半数以上の物資を奪ったジンは残りの物資のある場所に特大のファイヤーボールを放った。油なども荷台に載せていたのか周囲を巻き込んで盛大に燃え広がり大きな火柱となった。
他に物資を集めている場所がないか確認していると、放たれた矢がジンの腕に当たった。

  (やられた!)

 そう思ったがエルフ秘伝の技術で織り上げたミスリル糸の生地に物理防御を付与したジャケットはその矢の衝撃はそこそこあるものの貫通させず肌に傷一つ付ける事もなく防いでいた。

  (さすがエルフ秘伝の服だな、ニーナさんにお礼を言わなきゃ)

 ジンに気づいた兵士たちが集まり始めたので、敵に囲まれる前に急いで湖畔へと転移した。
野営地は至る所で火があがっている、それを消すために兵士たちによるバケツリレーも始まっていた。

 ゲイズ領軍の兵士達はずぶ濡れになりながら、どうにか夜明け前に全てを鎮火することができた。
ジンは駄目押しで周囲にや上空にブリザードを放つと森や大地が凍りつき、そして空気が冷やされたことにより雪が舞い始める。
この雪によって消化作業で濡れた兵士は寒さに震える事になるのであった。
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