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第1章 転生

38話 最速

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 ドアを押し開けるとカランカランとカウベルの音。

「こんにちは~」

「いらっしゃいませ、注文の品はもう出来上がっていますよ。
ズボン2本とジャケットを2着、それとポンチョね。
ここで着てみてくれるかしら、大丈夫だと思うけど大きな調整が必要ならすぐ合わせますよ」

「あの、襟付きのジャケットの色なんですけど」

ニーナは何か間違ってしまったのかと思い、ハッとした表情になる。

「え、間違ってましたか? 間違っていたのならすぐに染め直します」

「いえ、頼んだ色に出来上がっています。
だけど出来上がりをみると違う色の方が良かったかなと思ったので、濃い紺色にできるならお願いしたいんですけど」

「間違ってなかったのね、良かった。
色の変更なら大丈夫ですよ、外の生地だけ染め直してくるので他の服を試着してサイズを確認してください」

カーテンに隠れて服を着替えると動きやすくてちょうど良さそうだったので着たまま染め直しに行ったニーナを待っていると作業場から戻ってきた。

「あら、ちょうど良さそうね。
ミスリル糸で織り上げて作った生地をミスリル糸で縫ったものに物理耐性を付与しているから強度も十分よ、プレートアーマーと比べて優っていても劣る事はないはずよ。
魔法防御も付けたから安心してね、もちろん防汚と防臭機能もついているわ。
それとこれ、色はこのくらいの濃さで良かったかしら」

ニーナが手にしているジャケットをみるととてもい感じに染めなおされていた。

「ありがとうございます、すごくいい感じです。
ダンジョンに入る前に欲しかったので助かります」

そう言って、L2風のジャケットを着ると。他の服はマジックバッグに入れた。

「あれ、そういえば今日はお弟子さんたちはいないんですか?」

「あの子たちね、ジン君の服を仕立て終わったから今日からお休み。
先週もあの2人はダンジョンに行ってたのよ、フロアボスを倒したら綺麗な宝石箱が出たらしくて、もう一つ欲しいからと言ってフロアボスが再生する日に合わせて出かけて行ったわ」

「え、デルタダンジョンはDランク以上の冒険者じゃないと入れないんじゃないんですか?」

「あの子達ああ見えてBランクの冒険者だから何も問題ないわよ」

「え、Bランクなんですか。
でもまだ子供にしか見えないんですけど、成人しないと冒険者になれないと聞きましたが」

「あの子達はヒューマンじゃないのよ、それから年齢はジン君より上よ。
ピクリット族っていうすごく珍しい種族で、小さい頃に成長が一度止まっちゃうから200歳くらいになって老化が始まるまではあの姿のままなのよ。
そのせいで変な趣味の貴族や商人達が奴隷に欲しがるから、悪い奴隷商人に攫われる事件が絶えなかったのよね。
そんな理由で強力な結界を張った隠れ里から出てこなくなったから滅多に見ることはできない種族なのよ」

「そうなんですか、成人しているとは思いませんでした。
でも、あの2人がダンジョンでモンスターと戦っていると思うとなんだかすごいですね」

「エイラは短剣だから見てもそんなに驚かないけど、アイラは重量級のポールアックスを振り回してるから、知らない人が見たら驚いて動けなくなっちゃうみたい」

「それはそうですよ、普通の子供はポールアックスを振りまわすどころか持ち上げるのも大変ですからね」

「ジン君も行ってみたら?
今朝行ったばかりだから、6階層か12階層のフロアボスのところに行けば会えるかもしれないわよ」

「行きたいのですがこれから冒険者ギルドに行くのでその後に考えてみます。
あ、そうだ。
ニーナさん、時間がなくてまだベルンハルトさんに糸を渡してないんですよ。
今日はこれからアラバスタの町の件で冒険者ギルドに行くので作成をお願いした事は言っておきますから、この糸でカレンさんの服を作ってください」

持っていた糸をマジックバッグから出すと全部机の上に置いた。

「あと、ニーナさんは男物の下着を作ったりしますか?
もし作っているのならお願いしたいのですが」

「大丈夫よ、肌触りが良くて丈夫なやつをつくってあげる」

「それなら上下2着ずつお願いします、カレンさんの分と合わせて費用が足りなければ後で請求してください」

「こんな沢山のメタルワームの糸を貰ったら、足りないなんて事は絶対言わないわよ。
いいわ、責任を持ってカレンの服も作る。目一杯付与しておくから心配しないで」

「よろしくお願いします」

ジンはそう言うとニーナの店を後にして冒険者ギルドへ向かった。

ギルドハウスに入るとアラバスタから戻ってきた53人の冒険者がテーブルの周りに腰掛けていた。

「ラージカミカゼアントを倒した人は受付カウンターに来てください」

ソフィーの声が聞こえると20人ほどの冒険者がカウンターに並んだ。
順番にギルドタグを出して機械に差し込んで記録の確認をしていき、最後のジンの番になった。

「こんにちは、お願いします」

「本命が来たわね、あの大群が消えたのに他の冒険者で一番多く倒したSランクの人でも251匹だったのよ。自爆した数は総数に比べると僅かだったとマスターが言っていたから残りは全部ジン君ってことかしら」

ギルドタグを機械に入れると表示された数をソフィーが記録している。

「今回の討伐数は

ラージカミカゼアント      15779匹
ラージカミカゼアントソルジャー   853匹
ラージカミカゼアントキャプテン   131匹

合計1万6763匹って機械が壊れたわけじゃないわよね」

夢でも見ているのか?というような感じでソフィーが数を再確認した。

「ま、間違いないわ。はいどうぞ」

そう言ってソフィーがギルドタグを渡すと横にいたベルンハルトが大きな声で話し始めた。

「今回の報告を始めるぞ。
今回のラージカミカゼアントの暴走は仕組まれたものだったが、とりあえず全員依頼達成ということで報酬が出る。
報酬は大金貨2枚の予定だったがアラバスタの被害が想定に比べて極めて少なかったので大金貨3枚になった」

冒険者の間からは「オォー」という声が上がった、想定外だったようだ。

「それから、ラージカミカゼアントを倒した者には一匹につき大銀貨5枚、それから敵の間者を捕まえたこのギルドには追加の褒賞が出たから一人につき金貨5枚を追加で渡すからあとで取りに来い」

再び喜びの声が全員から上がった。

「それでだ、これからはちょっと物騒な話になる。
王立騎士団の調査によると今回の件はケタール王国が関与していた。というのも捕まえた2人はケタールの諜報部隊だということが分かったからだ。
ケタール王国はここ数年間国民に重税を強いて軍事力強化をしていたという情報をギルド情報部から聞いていたが、どの国に戦争を仕掛けようとしているのか不明だった。
だがどうやら今回の事や様々な調査結果をかんがみてターゲットはどうやらこのフナイ王国のようだ。
 イシーヤ領のゲイズ子爵の娘がケタールの第一王子イーライ・マーミフの第2夫人に嫁いだので鎖国を解いて我が国との国交が再開される予定だったのだが何故か今回のようなテロ行為を仕掛けてきた。
理由はわからんが、どうやら王が病に倒れて相続争いをしている王子が実績を作って次期王の座を確実にしようと功を焦ってやった事のようだ。
先代の王が倒れた時の王位争いの時も隣の伯爵領のエレザスでラージカミカゼアントが溢れて町が1つ消えたんだが、今考えるとそれもケタールの仕業だったのでははないかという話だ。
今回ばかりはエドワード王も激怒していらっしゃるので戦争になる可能性が高い。
冒険者は国家の争いには関わらないが戦争に関連した依頼が出てくるかもしれないから受ける時は注意してくれ。
それじゃあ解散だ」

冒険者達が次々とカウンターに行き報酬を受け取って引き上げていく。

「ジン、話があるから残ってくれ」

ベルンハルトが列に並んでいたジンに声をかけてきた。
全員が報奨金をもらうのを待って最後にカウンターに行くとベルンハルトが中で待っていた。

「ジン、ちょっと聞きにくいことを聞くがいいか?」

「なんですか、大概のことは大丈夫ですよ」

「お前、レベル幾つだ?」

周りに他の人が残っていないのを確認して答えた。

「今回で97になりました」

「97か、お前ユニークスキル持ちだろ。じゃないとあの魔法は説明がつかない」

「はい、詳しくは話せませんが持っています。他の人に言わないでくださいね」

「それは大丈夫だ、なんで聞いたかというと今回の依頼とアントの討伐でお前のギルドポイントが1万を超したから、冒険者ランクを上げようか現状維持にしようか考えていたからだ」

「そうなんですか。それじゃあ現状維持でお願いします」

「いや、お前にはランクアップしてもらう。
前も言ったがシルバーバックを単独討伐したりラージカミカゼアントを1万匹以上倒したりするやつがBランクにいたら、依頼料の安いお前に指名依頼が集中してAランクのやつらに行くはずの仕事が減ってしまうからな。
Aランクの連中から恨まれたくないだろ、だからAランクに昇格だ」

「でもSランク冒険者の推薦が必要なんじゃありませんか?」

「シズラーがSランク冒険者だ。正規職員じゃなくて嘱託だから問題ない。
思うところもあるだろうが諦めてランクアップしてくれ」

「わかりました、ランクアップします」

何を言ってもランクアップしないとダメなようだったので諦めた。
まだ冒険者を始めて2週間しか経たないのに、こんなに早くAランクになると他の冒険者からの風当たりが厳しくならないか心配だが、ランクアップしなくてAランクの冒険者に恨まれるよりは良さそうだと思ったからだ。

こうして登録後最速でのAランク冒険者が生まれることになったのであった。
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