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第1章 転生

32話 精錬

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 ジンは3人が見えなくなる場所まで降り周囲に誰かいないか確認するとエール岳の精錬所に転移した。
精錬所に顔を出すと入り口の横にある事務所でゴーシュ親方と数人が休憩している姿が見えた。

「ゴーシュ親方~戻ってきたよ」

「もう諦めたか、最近の若い奴は我慢が足らねえな」

「いやいやいや、もう掘ってきましたよ」

「ブハッ!」

飲みかけの熱々の茶を吹き出した。

「アッチッチ、きたねーなーもう」

目の前のドワーフはもろに吹き出したお茶を全身に浴びて大被害だ。

「スマンスマン。あまりに早かったからびっくりした」

「トーリさんっていう人が三人で手伝ってくれたから採掘が早くすみました」

「トーリか、あいつの親父と俺は幼馴染だ、いい鉱夫だったよ。落盤で死ななきゃ今頃は一財産築いていただろうに、惜しいやつをなくした。息子もいい鉱夫になったみたいだが運が悪いのか良い鉱脈に当たらないみたいだ」

「今日見つけた鉱脈は良さそうだって言っていましたよ。これがそこで出た鉱石です」

鉄鉱石と銀の鉱石を取り出した。

「良い鉄鉱石だな、色と重さが良い感じだ。こっちは銀か、他にも何か少し入っているな。ちょっと確認しても良いか?」

そう言うと横にいた職人に指示を出した。

「すぐにこいつを見てこい、金が少し入っていそうだから見落とすなよ」

「ちょっと待っていろ、すぐに結果が出る」

ゴーシュ親方は精錬所に消えていった。

鉱石を手に持った職人さんも精錬所に入っていくと20分ほどで二つのを持って親方と一緒に戻ってきた。

「思っている以上にいい鉱石だな、銀が1トンにつき2キロ、金は1トンにつき5グラムだ。ものすごくいい鉱脈だな。
トーリにもやっと運が向いてきたか。それでジン、どれくらい精錬するんだ?」

「ちょっと待ってください、今から出します」

マジックバッグに詰めた鉄鉱石500キロと、銀鉱石4トンを精錬所横の鉱石置き場の空いたスペースに出した。

「急ぐなら明日の昼までに精錬しておく、代金は抽出鉱物の10%でいいか?」

思ったより早く精錬してもらえるようだった。村の宿舎に戻るときに親方が冒険者だから早く精錬できるように調整してくれたことを聞いた。

  (いい人たちだな、あったばかりの俺にこんなに良くしてくれるなんて。
   何かお礼をしたいな、そうだ、あれにしよう)

 ジンはあることを思いついたのですぐに、精錬所の近くに転移するとマップを出して水脈と原泉を探し始めた。
精錬所の宿舎から50メートルほど離れた場所の壁面の中に原泉を見つけたが温度と湧出量が分からないので試しに掘ってみる。

ツルハシに魔力を込めて腰の高さくらいの場所を50センチくらい掘った時にツルハシが岩に刺さる感じがしたが、そのままツルハシを引き抜くと横に5メートルも飛ぶ勢いで熱湯が噴き出し始めた。

そのままでは前で作業ができないので飛ばされない大きさのの岩を持ってきてとりあえず前に飛んでこないようにして塞いだ岩の横から漏れてくるお湯が流れる通り道の岩盤を掘り始める。
身体能力を加速してツルハシに魔力を流し込みながら掘ると1時間ほどで深さ60センチ・幅2メートル・奥行き2メートルの湯船が出来上がった。
お湯が噴き出している穴を広げると吹き出す勢いは弱くなったが出てくるお湯の量は多くなっていた。
お湯が吹き出しているので上に飛ばないように周りにあった岩で覆い、隙間から溢れる原泉が湯船に流れ込む溝を作った。
20分ほどで湯船にお湯が溜まり溢れ始めた、源泉掛け流し温泉の完成だ。

前の林が邪魔で景色がよく見えない。しかし切ってしまえばその向こうは斜面になっているので景色が良さそうだったので斜面に生える木を切り開くと村が下の方に見えた。

  (よし、景色は良くなった)

湯船に溜まるお湯を鑑定してみた。

温泉
泉質: 炭酸水素塩泉
Ph: 9.8
効能:筋肉痛・神経痛・関節痛・うちみ・切り傷・やけど・美肌

山の上の温泉と同じ泉質だった。

  (よし、ゴーシュ親方を呼びに行こう)

宿舎に行くと親方は精錬所だと言うことなので精錬所に行くと、ジンの鉱石をトロッコに載せて運んでいた。

「ゴーシュ親方、手伝いましょうか?」

「ジン、どうした?これを運んだら俺の仕事は終わりだから用事ならちょっと待て」

「俺のをやっているなら手伝いますよ」

そう行って鉱石の運搬を手伝った。

「どうした?追加の注文か?」

「いえ、違いますよ。ちょっとこっちに来てください」

林を抜けると目の前に岩の湯船が現れた。

「なんだなんだ? こんな物いつできたんだ?」

「散歩していたら岩が少し暖かかったのでもしかしてと思い掘ったらお湯が出てきました、皆さんで使ってください」

「お前、水脈というか温泉の位置がわかるのか?
わし達は山のあっちこっちに温泉があるのを知っているから時々入りに行っていたんだが、これは助かる。
職員には温泉好きも多いからな、実は俺も温泉が好きで週に1回は入っているんだぞ。
ちょっと待っていろ、準備してくる」

そう言うと親方はドタドタと宿舎に走って行き、着替えとタオル2枚を持って戻って来た。

「よし、入るぞ!ジン、お前も入れ」

ジンはそう言われてタオルを渡されたので、一緒に入ることにした。

「オンジ村が見える。
前の木を少し切ったんだな、いい景色だ。
この山の温泉は火傷に効くから俺たちにゃもってこいの湯なんだ。疲れや肩の痛みにも効くぞ。
これがいつでも入れるんなら薬代が少なくなって助かる」

鑑定で確認して知っていたが地元の人たちは感覚で効能を知っていたようだ。

「ジン、お前いいやつだな」

「いい男でしょ」

ジンは親方に向かって笑顔で言った。

「グワッハッッハッハ!こりゃ愉快だ、楽しいぞ、いいな、いい!」

ゴーシュ親方の笑い声に誘われたのかどうかは分からないが、ドワーフが二人やって来た。親方に聞いていたのかその手にはタオルが握られていた。

「わし達も入っていいかな?」

「どうぞ、ここは皆さんの温泉です、誰も気兼ねしなくてもいいと思いますよ」

「作ったばかりでほとんどの奴がこの温泉の事を知らないから看板を作った方がいいな。爺さん頼まれてくれるか」

「いいぞ、わし達は暇じゃからな」

「この爺さん達は前の精錬所長とオンジ村の村長だ、今は引退して若い者の世話をしている。まあ簡単にいえば暇なお節介ジジイだな」

「誰が暇なジジイじゃ、人生を満喫していると言わんか」

「これだけ元気ならあと100年は死なないな、明日から新しい鉱山で頑張ってもらおう」

「あたたたた、持病の神経痛が」
「わしは腰痛がぶり返した」

「まったく、口の減らねえ爺さん達だ」

じい様達はペロッと舌を出しておどけてみせた。

この後、ジンとゴーシュ親方それから温泉で一緒になったローウンさんとバンブールさんと一緒に宿舎で宴会になり気がつくと沢山の鉱夫達も集まり大宴会になった。
鉱夫という者達はよほど酒宴が好きなのであろう。
ジンはアイテムボックスに入れていた遠征用の食材を放出して宴を盛り上げ、結局その夜は騒ぎ疲れて宿舎に泊まることになった。

 翌日は朝からはせっかく作った岩風呂が雨の日でも使えるように切り倒した木を使って横に小屋を作り、着替えが雨で濡れないようにした。
藪の中を通らなくても良いように温泉までの通路も作ったのは言うまでもない。

小屋作りの作業を終えて事務所に戻るとのジンの鉱石の精錬が終わっていた。
昨日帰るときに、採れた鉱石を下で精錬するとジンが教えたので結果が気になったトーリも山から降りてきていた。

「これが昨日預かったやつから取れた物だ、鉄が310キロ・銀が9キロ・金が28グラムだ。含有量がすごい鉱石だな。
鉄だけは1個20キロの塊にしておいたからな、その方が使いやすいだろ。
精錬の費用はトーリ達がお前の分を出すと言っているから全部持って行っていいぞ」

「あんないい鉱脈を掘らせてもらうんだ、自分たちにそれくらいはさせてくれ」

「そうなんですか、トーリさんありがとうございます」

「上で頑張っているから暇ができたら遊びに来てくれよな」

「ぜひ、伺います」

ジンは魔力で素材の抽出ができるようになったので掘る必要は無いのだが、トーリさんたちや精錬所の人たちと仲良くなったので時々遊びに来ようと思った。

「トーリ、これだけの鉱石が出たんだ、横から掘られないように鉱区の権利登録をしとけよ。急がないと横掘りされるぞ」

昨夜分かった事がある。
ゴーシュ親方は精錬所の親方だと思っていたが、実は鉱山ギルドのギルドマスターだった。
そんな偉い人には全く見えなかったし聞いた今でも酒の席での冗談じゃないかと疑っていたりする。

この鉱山では誰がどこを掘り始めても良いが見つけた鉱脈を横から掘られて横取りされるのを防止する為に鉱区が登録できるようになっている。
鉱区の大きさは決められており、その鉱区を超えるほどの大きな鉱脈の場合は超えた部分からはギルド管理となり鉱脈を見つけた者に採掘した量に対して50%の配当が出る仕組みになっているそうだ。当然、良質の鉱石が出る場合のみだ。

「今はまだ金がないから少し掘ってから登録します。あそこなら3ヶ月も掘ればなんとか登録代を稼げると思います」

「これだけいい鉱石が採れるとすぐ噂になってしまうぞ、横から掘られる前に急いで金を集めて登録しろよ」

中にはたちの悪い鉱夫達もいて、平気で横から鉱脈に割り込んでくるらしい。
せっかく見つけた鉱脈をたちの悪い奴らに取られたくなかったので登録代を立替えてあげる事にする。

「俺が登録代を立替えましょうか?
実は少し手持ちがあるんです。
せっかく見つけた鉱脈を知らない人に横取りされるのは悔しいので立替えますよ。
後で返してもらえれば良いのでそうしましょうよ」

「ジン、鉱区の登録料ってすごく高いぞ。大白金貨1枚1000万Gを出せるのか?」

ゴーシュ親方がそんなには出せないだろうというような顔をしてジンを見た。
ジンはマジックバッグから取り出すふりをしてアイテムボックスから大白金貨を1枚取り出して見せた。

「これで登録をお願いします。登録者はトーリさんとバーリンさんそれとオリンさんの3人でいいですね」

そう言ってゴーシュ親方に大白金貨を渡した。
トーリさんは有り難いがそれは出来ないと頑なに断るので結局はジンの名前を入れた4人で登録することになり、登録代金をかえしてもらった後は採掘した鉱石の10%の配当を貰うことで決着した。
鉱区を登録する際に、ギルド員以外は登録できないという事で、結局ジンも鉱山ギルドに登録する事になってしまった。

「返してもらった後もこんなに配当をもらうなんて、なんだか申し訳ないです」

ジンはトーリに申し訳なさそうに言った。

「いや、お前がいなければ見つからなかった鉱脈なんだ、せめてこれくらいはさせてくれ」

ジンはトーリ達の厚意を快く受け取って鉱区の登録を完了した。
トーリさんはこのことを他の2人に知らせると言って鉱区の印をつけに行く鉱山ギルド職員と共に登録証を持って山へと戻っていった。
嬉しかったのか足取りは軽く駆け出しそうにも見えた。

  (途中でへばらないといいけどな~)

ジンは出来上がった金、銀、鉄をマジックバッグに入れ、ゴーシュ親方や他の人たちに挨拶して山を降り、マールの町へと向かうのであった。
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