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第1章 転生

閑話 ピクリット族の姉妹

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 私エイラと妹アイラはピクリット族の姉妹。

 ピクリット族は耳がわずかに尖っており、身長は80 から125cm、10歳で成人し平均寿命は300前後とヒューマンに比べれば長く生きることができる。
男は普通にゆっくり年をとるのだが、女は8歳から16歳の間で一度老化が止まり200歳を過ぎる頃まではその容姿のままで、その後は人と同じペースで老化し始める。

指先が器用で、男性は農耕や木工、女性は手工芸といった繊細な作業を得意とし、牧歌的な社会生活を好み、性格は温厚で根気強く協調性も高い。

 現在ピクリット族は8つの部族に分かれ、精霊たちの結界で守られた隠れ里でひっそりと生活しているが、時々私たちのように外の世界に憧れて里から出てくる者もいる。

 ちなみに私(エイラ)とアイラは子供の頃、里の結界の外で遊んでいるところを悪いやつに拐われ、奴隷商人に売られそうになったところをお師匠様に助けられたのだ。

 助けた後に自分たちがピクリット族だということを知ったニーナに「手先が器用なのだから弟子にならないか」と言われたので、その時からお弟子さんにしてもらったのだ。

 里の長老達にはエルフのお師匠さんが話をしてくれた。
お師匠のニーナ様はエルフで見た目はヒューマンの18歳くらいだが実際の年齢は278歳、長命種のエルフとしてはまだ若いらしい。
年齢を人に教えたことがバレるとお仕置きが待っているのでこの事は秘密だ。

 お師匠様は随分昔に里の長老様を助けたことがあるらしく、珍しく里の人間が外に出ることを許してくれたので両親も安心して外の世界へ出してくれた。
お師匠様はエルフとしてはまだ若いが持っている知識は膨大で、私たちは沢山のことを教えてもらっている。

 お師匠さんは素材から糸を紡ぎ、その糸から生地を織って服装を作り上げる魔法服飾師でマールの町でお店を開いている。

 そんなお師匠様の店へ今日、1人の子供がやってきた。

「こんにちは~、ニーナさんいますか?」

「はーい、いらっしゃいませ、どちら様でしょうか」

私は紫、アイラはピンクの可愛いエプロンをして左手には同色の針山をつけた格好でお客様のお出迎えをした。

「僕はジンと言います、ニーナさんに用事があるのですが、いらっしゃいますか?」

「お師匠さま、お客さんです~」「お客さんです」

その子の名前はジン君、成人しているらしいが15歳のヒューマンはどう見ても子供にしか見えない。
なぜ子供にしかみえないというと、私と妹のアイラはすでに成人していて、その子に比べるとお姉さんだからだ。

お師匠様は作業の手を止めて、奥から出てくるとジン君とお話を始めたので、私たちは作業場へ戻って仕事の続きを始めた。

 ジン君が持ってきたのはメタルワームの繭ですごく貴重な糸になるらしい。
お師匠様は私たちに声を掛けると糸を紡ぐ準備を始めた。

私とアイラは紡ぎ車の前に座り糸端を待っていると、お師匠様が大鍋の中の繭から糸の端を拾い出してガイドの上を通して渡された。

「繭1個だけど一度に6本取れるから、ダンジョンスパイダー用のやつでそのまま紡げばいいわ」

いつも使っている小さな普通の繭は1本の糸でできているので6個とか8個で糸を紡ぐのだけれど、お師匠様に渡された繭の糸は6本もあり繭一つだけで糸を紡ぐことができるらしい。

「はーいわかりました」「はーいです」

ダンジョンスパイダー用の糸車を使い紡いでいく。

「キュルキュルキュル」と糸車をまわしていくとすごく綺麗な生糸がどんどんボビンに巻き上げられていく。

「エイラ姉さん、この糸すごく綺麗」

「そうね、ツヤツヤしていて今まで見た中で一番綺麗な生地が織れそうね」

簡単そうに2人は糸を紡いでいるが魔物を素材とした糸を紡ぐには均等に撚りが入るように魔力操作をしながら均等に魔力を糸に馴染ませなけれならない。

初めてなのにメタルワームの糸を紡ぐことができるのは師匠のニーナの指導と私(エイラ)とアイラのセンスとピクリット族の持つ魔力量の賜物であろう。

 ニーナの下で魔法服飾師の修行を続ける私たちであるが、休みの日は趣味と実益を兼ねた冒険者として姉妹で活動しており、時々ニーナも混じって依頼をこなしたりしている。

 私(エイラ)とアイラの外見は10歳頃に成長が止まったので110cmほどの身長しかない為、幼女に見えるらしい。レディなのに失礼しちゃうわ!

 アイラの武器はポールアックスという槍のように長い柄を持った斧だ。
ハルバードに似ているがポール・アックスのほうが若干シンプルな形状をしており、槍の穂先があるので突き刺して攻撃することもできる。
全長は200cmほど、斧刃部分は45cmほど、ほとんどが金属で造られているので6Kgと非常に重い。

柄には鍔がついており、短く持った時に斬り合いや打ち合いにも耐えられるような構造になっている。
斧と槍の長所を兼ね合わせたような武器で小柄なアイラには不釣り合いに映るかも知れないが、【身体強化】を使ったその腕力でこれが打ちおろされたのを見た者はきっと背筋に冷たいものが流れるでしょう。

 私(エイラ)はというと、後方から強化魔法や回復魔法、時には魔法障壁で魔獣の攻撃を防ぐというアイラのサポートに徹しているが、短剣二刀で接近戦もこなす器用さを持っている。
マールの冒険者の間では密かな人気者姉妹で二人とも冒険者ランクがBランクだったりする。

 姉の私(エイラ)は少し前に成人したこともあり、時々ニーナのお気に入りの店でおつまみ片手にエールを飲んでいる。
見た目が子供なので初めの頃は1人で行くとエールを出してもらえなかったりしたが、ニーナと通うことでやっと店主も納得してくれ、今では1人で行ってもエールを飲めるようになった。

そんな事情を知らない人が「子供にエールを出すのはまずいだろう」と店主に食ってかかる風景はその店ではおなじみの光景となっている。
ちなみにアイラは未だにエールの美味さが分からず、食べる事が専門だ。
いつも1Kgもある極厚ステーキを1人で平らげて周囲の人からは「どこに入るのか不思議でならない」と驚愕されているが、本当は腹五分といったところなので帰りに屋台で串焼きを買ってお腹を満たしている。

 この日はジン君が持ってきた繭を全部紡いだが、紡いだ魔力が馴染むまで何もできないので3日はお休みになるだろう。

「エイラ姉様、これが終わったらダンジョンに行きましょう」

「そうね、暫く行ってなかったからダンジョンに素材を取りに行きましょう」

「私はフロアボスを倒して宝箱が欲しい」

「いるといいわね、お師匠様にお休みをもらってくるわね」

「うん、頑張ってね。私は夕食の準備をしておくわ」

紡いで糸になったミスリル糸を見ながらうっとりしているニーナに私(エイラ)は休みが欲しいと話しかけた。

「明日からお休みが欲しいのね、今回はミスリル糸があるから魔力が糸に馴染むまで5日はかかるから良いわよ。
ところでお休みして何をするのかしら?」

「アイラがダンジョンに潜りたいというので、デルタダンジョンにでも行こうと思います」

「そう、わかったわ。
あなたたちの使用登録はしたままだからマジックバッグを持って行きなさい。
中に入ってるポーションや食料は使ってもいいから必ず帰ってくるのよ」

「お師匠様ありがとうございます、きっといいお土産を撮って帰りますね」

「私はこれからすぐに出かけて三日は戻ってこないから店を出るときは戸締りを忘れないようにね」

「はい、わかりました」

ニーナを作業場に残して部屋に戻り、アイラと夕食を食べながら休みが取れたことを話すと余程狩りに行きたかったのだろう、即効で夕食を済ませて明日の準備を始めだした。

「そんなに急いでも行くのは明日よ」

「わかってるわ姉様、でも久しぶりだから・・・」

楽しい旅行に行く前の日の子供のように落ち着かないアイラだったが実は私(エイラ)も久しぶりのダンジョンが楽しみで仕方がなかったのだ。

こうして翌日から姉妹のダンジョンアタックが始まるのであったが、その話はまた後日。
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