14 / 31
プロローグ
正しい歴史
しおりを挟む
――勇者召喚。
私ことは、アリシアは魔王討伐のため、異世界に召喚されてしまった。
なのに、女神様に「能力は平均値で!」とお願いしてしまう。
その結果、四天王の中で最弱である、カタリナにさえも負けてしまった。
「この役立たず!!」
私は、王様に厳しい声で怒られた。
そして、追い払われたのだ。
そんな役立たずの私を、支えてくれたのが 幼馴染の ユウキ だった。
彼はいつも笑顔で励ましてくれていた。そんな彼とは いつしか 一緒に過ごすことが多くなった。そんな ある日 のことだった。
ユウキも 無能のため パーティーを追放されたらしい。
私は、それを聞いたとき 少しだけ 心が高鳴ったのを感じた。
なぜなら、私は彼のことが ずっと 好きだったからだ。だから、追放されて 独りぼっちになった彼に 私が 側にいることを伝えずにはいられなかったのだ。
結局、私たちが王都から追放されてしまうことは変わらなかったのだが……それでも後悔はしていない。最悪な運命に逆らえず、たとえ 2人きり になったとしても、私は ユウキのことを想っていたのだろう。そして ユウキも 私のことを好いてくれるだろうという自信があったからだ。
追放された今となって思えば、この決断をした時点で きっと 私の人生は終わっていたのだろう。なぜなら、そこで 心に 留めておくべきだった 私の心の声が 私自身を確実に蝕んでいったから。
「お前は どのみち クズだったよ」と 笑う声 がした気がした。
でも、あの時の私にとって 自分の選択が 間違っているとは到底思えなかったのだ。
2人で魔王討伐のために頑張っている内に ユウキも 次第に調子を戻し、私たちは互いに力を高めていく。そして ついに――。私たちは魔王の城へと辿り着いたのだ。
魔王との戦いは、想像もしていないほど、とても厳しい戦いとなった。
まず、魔王がイケメン過ぎたのだ。私は 攻撃することを 躊躇ってしまう。
「ユウキ。こんなの、間違ってるよ!」
「アリシア、僕を信じてくれ!」
ユウキが炎魔法で 魔王の服を 焼き焦がすと、魔王は風魔法で反撃して ユウキの服を 切り裂いた。傷つけ合う2人を見て、切なくて 心が締め付けられてしまう。
「どうして…。どうして、イケメン同士で傷つけ合うのッ!?」
魔王 が 吠 え た。
「邪神が、この世にいる限り、我らは 戦い合うが 運命よ!」
「――魔王!よ そ 見を するなぁ!」
ユウキの拳が、魔王のお腹を抉るように撃ちつける。
私は小さく悲鳴をあげた。
「これで、終わりだぁ!!」
ユウキが 渾身の右ストレートを放つと、魔王は 呼吸を合わせて クロスカウンターを繰り出した。まともに 受けた ユウキは、その場で崩れ落ちてしまう。
私は慌てて、ユウキの元へ 駆け出した。
「生命の源よ。彼を勃ちあがらせて! アトミック・リカバリー!」
中級回復魔法。私の能力は平均値だ。どんなに 研鑽を積んでも 平凡からは抜け出せない。その条件の中で 私が 必死で 編み出した変則的な魔法。それは、自分の能力を上げるのではなく、他人の能力を無理矢理に増強させる魔法だ。
その対象の潜在能力が 高ければ 高いほど、その効果は絶大である。
「バカなッ!」
「貴方にも掛けてあげるわ! アトミック・リカバリー!」
――魔法陣が襲う。
「ぐぁああああ!!!!」苦悩する魔王。
絶叫の果て、闇に溶け込むように消えていった。
「やってくれたな、虫けらども! 次は 無いもの と思え!」
負け惜しみではない。彼は「真の姿」を 未だに 隠している。
本気になられたら、きっと 私たちは 手も足も 出せなかっただろう。
……邪神。魔王が恐れる存在。
未だに、ユウキが立ち上がれない理由だ。
青い顔をして、子犬のように震える 彼を そっと 抱きしめてあげた。
「やろうよ。邪神討伐…」
***
アリシアは 強力な ボスたちを退けつつ、高難易度ダンジョンの最奥「邪神の心室」に到達した。禍々しい魔力を放ちながら、そこに鎮座している。かつて恐れられた 超有名オンラインゲーム『ベン・ザ・ワールド』の ラスボス でもあり 最強の名を冠する存在でもある 邪神 ココチン が顕現していた。
彼は この世界の滅亡のため 暗躍をしているらしい。アリシアは 悪しき野望を 阻止するために ユウキ と共に立ち向かう。
「勇者様、私達で絶対に邪神を倒しましょう!」
アリシアは力強い言葉を発すると、ユウキは大きく頷いた。
***
そして、世界を救うための戦いが始まる!まず先手を取ったのはアリシアであった。彼女は先制攻撃を仕掛けるべく上級魔法を唱えようとしたその時だった。突如現れた鋭い氷結がアリシアに向けて一直線に迫る。かろうじて避けたものの直撃したらひとたまりもない威力の攻撃を直に受ければ間違いなく絶命していただろう。
反撃をしようと魔法陣を展開させたときだった──すさまじい衝撃と共に彼女の視界が反転する。アリシアの身体は そのまま 地面へと打ち付けられた。
「おっと、大丈夫か?」男の声が聞こえてきたかと思うと身体がふわりと軽くなるのを感じた。まるで赤ん坊のように持ち上げられているようだ。
──そう理解すると 同時に 羞恥心が沸き上がってくる。
しかし、彼女は文句を口にはしなかった。助けてくれたのだ。この魔王に礼を言わねばならないと 無意識のうちに考えていた。強敵が、頼もしい味方となって 現れてくれたのだ。
「あ、ありがとうございます。助かりました……」小さな唇から紡がれる言葉は とても弱弱しかったものの アリシアの気持ちは相手へ 十分に 伝わったようだ。
ユウキは 激しい嫉妬心から 魔王へ『魅惑』の魔法を放つ。その効果は想像以上──魔王からユウキへの好感度が跳ね上がり、瞬く間に魔王のハートがユウキに陥落した。
そんな視線に アリシアは気づく素振りをまったく見せず、ただただ じっと 魔王の仮面で隠れた 両目を見つめつつ尋ねるのだった──
「あの……私はどうしたらいいですか?」
***
『魅惑』に抗うのも至難の業だろう。しかし、心を閉ざさんとばかりに顔を背ける魔王にアリシアの表情が一変し落胆したような顔をするのだ。それは魔王と云うにはあまりに哀れな姿であった。
「ごめんなさい……ユウキ様に対して 無礼な 口をきいてしまいました。どうかお許し下さい」
涙目になりながら 赦しを乞う魔王の姿に 庇護欲を 搔き立てられる。ユウキとしては些細な言動でさえ気に障るものがあるのだが、そう言われては これ以上 強く出られないのだ。だからせめてもの慰みに 頭を撫でて やることにしたのだが、それでも十分過ぎるほどに効果は抜群だったようだ。
たちまち顔が緩み切っていくのを感じた彼だったが、あまりの可愛らしさに思わず悶えそうになるのを抑え込む必要があったほどだ。しかし、そうしてなんとか冷静さを保つことに成功し、3人で邪神へと立ち向かうことになる──。
3人は一丸となって攻撃を仕掛けることにした。ユウキの光属性、魔王の闇属性の攻撃魔法を放ったかと思えば、邪神は攻撃を避けるように飛び込む。杖の先端の装飾を鍵の様に開け閉めしては、姿を消す。
それは、まるで瞬間移動のように敵の後方へと回り込み、攻撃魔法で連続に四属性の魔法を繰り返だし、ユウキ達に着実にダメージを与えていた。
アリシアは 準備していた高難度の術式を構築して対抗しようとするのである。
彼女の能力は平均値だ。どんなに研鑽を積んでも平凡からは抜け出せない。その条件の中でアリシアが必死で編み出した変則的な魔法。その術式の名は『男たちの楽園』だ──桜雲 と 恋の嵐を 呼び起こし、広範囲に 敵を巻き込む 凄まじい技である。それは意志を持った竜巻のように暴れ出し、暴虐の限りを尽くす魔法なのだ。
―――そう。自分ではなく、他人の恋愛脳を書き換えてしまう──
強力な稲妻と共に 巨塔のようにそびえ立つ男の竜巻は 敵の命を確実に削り取るであろう。魔王と邪神の欲望が、巨大に膨れあがる。
そして、最後に ユウキの光属性を纏った 伝説の剣が発動したのだった。彼の剣は 金色に 輝きを放ち、すべてのものを焼き尽くす 劫火を斬り裂くかのような 圧倒的な 存在感を持っていたのである。その力は まさに 最終奥義に相応しいものであり、邪神といえども回避することも敵わぬまま、彼の剣を受け入れようとしていたのだった。
しかしその瞬間、時が止まったように錯覚するほどの出来事が起こったのである──3人の目は敵に釘付けとなり瞬きさえ忘れて大きく見開かれていた。停止した時間の中で、ユウキはアリシアに別れを告げた。
「俺はここまでだ、後はアリシア、君に任せる」
ユウキの 穏やかな声で 現実に戻ってきたアリシアは、唇を強く噛む──必ず生きて帰ってきてくれることを信じて。そして 彼女の足元に 魔法陣が現れると 眩い光が溢れ出す! 次の瞬間、アリシアは女神様に抱きしめられていた。
柔らかな感触と暖かいぬくもりに包まれながら、彼女の意識はだんだんと遠のいていくのだった。
***
これが、この物語の正しい歴史だった。
……でも、事態は 一変していた。
未来から『アリシアに転生した』女性の 精神 が、幼すぎたのだ。
彼女は ストーリーを熟知しており、展開は、す べ て 御見通しであった。
なので、重要な『フラグ』さえ 間違わなければ、邪神を倒して無事に帰れるはずだった。いや、未来を変えようと魔王を誑し込もうとさえしていた(失敗したけど)。……そう、彼女の精神は幼く、これまで社畜として溜めこんできた ストレスを この世界で 発散すべし!、と。
―――や ら か し た !
欲しい物は 迷わず買う。誰にも 文句は言わせない。
だって「あたし、魔王を倒したんですよ?」その結果が、国費の散財。
日本円に換算すれば 数千億にも上り、民への圧政を余儀なくされていた。
甘い汁を吸いつくす聖女。彼女を溺愛する国王。邪神の存在をひた隠すユウキ。
国民の不満は、やがて、第1王子と第2王子を『聖女の暗殺』に走らせた。
この企みは、見事に成功した、かのように みえたのだが……。
◇ つづく...
私ことは、アリシアは魔王討伐のため、異世界に召喚されてしまった。
なのに、女神様に「能力は平均値で!」とお願いしてしまう。
その結果、四天王の中で最弱である、カタリナにさえも負けてしまった。
「この役立たず!!」
私は、王様に厳しい声で怒られた。
そして、追い払われたのだ。
そんな役立たずの私を、支えてくれたのが 幼馴染の ユウキ だった。
彼はいつも笑顔で励ましてくれていた。そんな彼とは いつしか 一緒に過ごすことが多くなった。そんな ある日 のことだった。
ユウキも 無能のため パーティーを追放されたらしい。
私は、それを聞いたとき 少しだけ 心が高鳴ったのを感じた。
なぜなら、私は彼のことが ずっと 好きだったからだ。だから、追放されて 独りぼっちになった彼に 私が 側にいることを伝えずにはいられなかったのだ。
結局、私たちが王都から追放されてしまうことは変わらなかったのだが……それでも後悔はしていない。最悪な運命に逆らえず、たとえ 2人きり になったとしても、私は ユウキのことを想っていたのだろう。そして ユウキも 私のことを好いてくれるだろうという自信があったからだ。
追放された今となって思えば、この決断をした時点で きっと 私の人生は終わっていたのだろう。なぜなら、そこで 心に 留めておくべきだった 私の心の声が 私自身を確実に蝕んでいったから。
「お前は どのみち クズだったよ」と 笑う声 がした気がした。
でも、あの時の私にとって 自分の選択が 間違っているとは到底思えなかったのだ。
2人で魔王討伐のために頑張っている内に ユウキも 次第に調子を戻し、私たちは互いに力を高めていく。そして ついに――。私たちは魔王の城へと辿り着いたのだ。
魔王との戦いは、想像もしていないほど、とても厳しい戦いとなった。
まず、魔王がイケメン過ぎたのだ。私は 攻撃することを 躊躇ってしまう。
「ユウキ。こんなの、間違ってるよ!」
「アリシア、僕を信じてくれ!」
ユウキが炎魔法で 魔王の服を 焼き焦がすと、魔王は風魔法で反撃して ユウキの服を 切り裂いた。傷つけ合う2人を見て、切なくて 心が締め付けられてしまう。
「どうして…。どうして、イケメン同士で傷つけ合うのッ!?」
魔王 が 吠 え た。
「邪神が、この世にいる限り、我らは 戦い合うが 運命よ!」
「――魔王!よ そ 見を するなぁ!」
ユウキの拳が、魔王のお腹を抉るように撃ちつける。
私は小さく悲鳴をあげた。
「これで、終わりだぁ!!」
ユウキが 渾身の右ストレートを放つと、魔王は 呼吸を合わせて クロスカウンターを繰り出した。まともに 受けた ユウキは、その場で崩れ落ちてしまう。
私は慌てて、ユウキの元へ 駆け出した。
「生命の源よ。彼を勃ちあがらせて! アトミック・リカバリー!」
中級回復魔法。私の能力は平均値だ。どんなに 研鑽を積んでも 平凡からは抜け出せない。その条件の中で 私が 必死で 編み出した変則的な魔法。それは、自分の能力を上げるのではなく、他人の能力を無理矢理に増強させる魔法だ。
その対象の潜在能力が 高ければ 高いほど、その効果は絶大である。
「バカなッ!」
「貴方にも掛けてあげるわ! アトミック・リカバリー!」
――魔法陣が襲う。
「ぐぁああああ!!!!」苦悩する魔王。
絶叫の果て、闇に溶け込むように消えていった。
「やってくれたな、虫けらども! 次は 無いもの と思え!」
負け惜しみではない。彼は「真の姿」を 未だに 隠している。
本気になられたら、きっと 私たちは 手も足も 出せなかっただろう。
……邪神。魔王が恐れる存在。
未だに、ユウキが立ち上がれない理由だ。
青い顔をして、子犬のように震える 彼を そっと 抱きしめてあげた。
「やろうよ。邪神討伐…」
***
アリシアは 強力な ボスたちを退けつつ、高難易度ダンジョンの最奥「邪神の心室」に到達した。禍々しい魔力を放ちながら、そこに鎮座している。かつて恐れられた 超有名オンラインゲーム『ベン・ザ・ワールド』の ラスボス でもあり 最強の名を冠する存在でもある 邪神 ココチン が顕現していた。
彼は この世界の滅亡のため 暗躍をしているらしい。アリシアは 悪しき野望を 阻止するために ユウキ と共に立ち向かう。
「勇者様、私達で絶対に邪神を倒しましょう!」
アリシアは力強い言葉を発すると、ユウキは大きく頷いた。
***
そして、世界を救うための戦いが始まる!まず先手を取ったのはアリシアであった。彼女は先制攻撃を仕掛けるべく上級魔法を唱えようとしたその時だった。突如現れた鋭い氷結がアリシアに向けて一直線に迫る。かろうじて避けたものの直撃したらひとたまりもない威力の攻撃を直に受ければ間違いなく絶命していただろう。
反撃をしようと魔法陣を展開させたときだった──すさまじい衝撃と共に彼女の視界が反転する。アリシアの身体は そのまま 地面へと打ち付けられた。
「おっと、大丈夫か?」男の声が聞こえてきたかと思うと身体がふわりと軽くなるのを感じた。まるで赤ん坊のように持ち上げられているようだ。
──そう理解すると 同時に 羞恥心が沸き上がってくる。
しかし、彼女は文句を口にはしなかった。助けてくれたのだ。この魔王に礼を言わねばならないと 無意識のうちに考えていた。強敵が、頼もしい味方となって 現れてくれたのだ。
「あ、ありがとうございます。助かりました……」小さな唇から紡がれる言葉は とても弱弱しかったものの アリシアの気持ちは相手へ 十分に 伝わったようだ。
ユウキは 激しい嫉妬心から 魔王へ『魅惑』の魔法を放つ。その効果は想像以上──魔王からユウキへの好感度が跳ね上がり、瞬く間に魔王のハートがユウキに陥落した。
そんな視線に アリシアは気づく素振りをまったく見せず、ただただ じっと 魔王の仮面で隠れた 両目を見つめつつ尋ねるのだった──
「あの……私はどうしたらいいですか?」
***
『魅惑』に抗うのも至難の業だろう。しかし、心を閉ざさんとばかりに顔を背ける魔王にアリシアの表情が一変し落胆したような顔をするのだ。それは魔王と云うにはあまりに哀れな姿であった。
「ごめんなさい……ユウキ様に対して 無礼な 口をきいてしまいました。どうかお許し下さい」
涙目になりながら 赦しを乞う魔王の姿に 庇護欲を 搔き立てられる。ユウキとしては些細な言動でさえ気に障るものがあるのだが、そう言われては これ以上 強く出られないのだ。だからせめてもの慰みに 頭を撫でて やることにしたのだが、それでも十分過ぎるほどに効果は抜群だったようだ。
たちまち顔が緩み切っていくのを感じた彼だったが、あまりの可愛らしさに思わず悶えそうになるのを抑え込む必要があったほどだ。しかし、そうしてなんとか冷静さを保つことに成功し、3人で邪神へと立ち向かうことになる──。
3人は一丸となって攻撃を仕掛けることにした。ユウキの光属性、魔王の闇属性の攻撃魔法を放ったかと思えば、邪神は攻撃を避けるように飛び込む。杖の先端の装飾を鍵の様に開け閉めしては、姿を消す。
それは、まるで瞬間移動のように敵の後方へと回り込み、攻撃魔法で連続に四属性の魔法を繰り返だし、ユウキ達に着実にダメージを与えていた。
アリシアは 準備していた高難度の術式を構築して対抗しようとするのである。
彼女の能力は平均値だ。どんなに研鑽を積んでも平凡からは抜け出せない。その条件の中でアリシアが必死で編み出した変則的な魔法。その術式の名は『男たちの楽園』だ──桜雲 と 恋の嵐を 呼び起こし、広範囲に 敵を巻き込む 凄まじい技である。それは意志を持った竜巻のように暴れ出し、暴虐の限りを尽くす魔法なのだ。
―――そう。自分ではなく、他人の恋愛脳を書き換えてしまう──
強力な稲妻と共に 巨塔のようにそびえ立つ男の竜巻は 敵の命を確実に削り取るであろう。魔王と邪神の欲望が、巨大に膨れあがる。
そして、最後に ユウキの光属性を纏った 伝説の剣が発動したのだった。彼の剣は 金色に 輝きを放ち、すべてのものを焼き尽くす 劫火を斬り裂くかのような 圧倒的な 存在感を持っていたのである。その力は まさに 最終奥義に相応しいものであり、邪神といえども回避することも敵わぬまま、彼の剣を受け入れようとしていたのだった。
しかしその瞬間、時が止まったように錯覚するほどの出来事が起こったのである──3人の目は敵に釘付けとなり瞬きさえ忘れて大きく見開かれていた。停止した時間の中で、ユウキはアリシアに別れを告げた。
「俺はここまでだ、後はアリシア、君に任せる」
ユウキの 穏やかな声で 現実に戻ってきたアリシアは、唇を強く噛む──必ず生きて帰ってきてくれることを信じて。そして 彼女の足元に 魔法陣が現れると 眩い光が溢れ出す! 次の瞬間、アリシアは女神様に抱きしめられていた。
柔らかな感触と暖かいぬくもりに包まれながら、彼女の意識はだんだんと遠のいていくのだった。
***
これが、この物語の正しい歴史だった。
……でも、事態は 一変していた。
未来から『アリシアに転生した』女性の 精神 が、幼すぎたのだ。
彼女は ストーリーを熟知しており、展開は、す べ て 御見通しであった。
なので、重要な『フラグ』さえ 間違わなければ、邪神を倒して無事に帰れるはずだった。いや、未来を変えようと魔王を誑し込もうとさえしていた(失敗したけど)。……そう、彼女の精神は幼く、これまで社畜として溜めこんできた ストレスを この世界で 発散すべし!、と。
―――や ら か し た !
欲しい物は 迷わず買う。誰にも 文句は言わせない。
だって「あたし、魔王を倒したんですよ?」その結果が、国費の散財。
日本円に換算すれば 数千億にも上り、民への圧政を余儀なくされていた。
甘い汁を吸いつくす聖女。彼女を溺愛する国王。邪神の存在をひた隠すユウキ。
国民の不満は、やがて、第1王子と第2王子を『聖女の暗殺』に走らせた。
この企みは、見事に成功した、かのように みえたのだが……。
◇ つづく...
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
Archaic Almanac 群雄流星群
しゅーげつ
ファンタジー
【Remarks】
人々の歴史を残したいと、漠然と心に秘めた思いを初めて人に打ち明けた――あの日、
私はまだ若く、様々な可能性に満ち溢れていた。
職を辞し各地を巡り、そして自身のルーツに辿り着き、河畔の草庵で羽筆を手に取るまでの幾年月、
数多の人と出会い、別れ、交わり、違えて、やがて祖国は無くなった。
人との関わりを極限まで減らし、多くの部下を扱う立場にありながら、
まるで小鳥のように流れていく積日を傍らから景色として眺めていた、
あの未熟でちっぽけだった私の後の人生を、
強く儚く淡く濃く、輝く星々は眩むほどに魅了し、決定付けた。
王国の興亡を、史書では無く物語として綴る決心をしたのは、
ひとえにその輝きが放つ熱に当てられたからだが、中心にこの人を置いた理由は今でも分からない。
その人は《リコ》といった。
旧王都フランシアの南に広がるレインフォール大森林の奥地で生を受けたという彼の人物は、
大瀑布から供給される清水、肥沃する大地と大樹の守護に抱かれ、
自然を朋輩に、動物たちを先達に幼少期を過ごしたという。
森の奥、名も無き湖に鎮座する石柱を――ただ見守る日々を。
全てを遡り縁を紐解くと、緩やかに死んでいく生を打ち破った、あの時に帰結するのだろう。
数多の群星が輝きを増し、命を燃やし、互いに心を削り合う、騒乱の時代が幕を開けた初夏。
だからこそ私は、この人を物語の冒頭に据えた。
リコ・ヴァレンティ、後のミッドランド初代皇帝、その人である。
【Notes】
異世界やゲーム物、転生でも転移でもありません。
クロスオーバーに挑戦し数多のキャラクターが活躍する
そんなリアルファンタジーを目指しているので、あくまで現世の延長線上の物語です。
以前キャラ文芸として応募した物の続編更新ですが、ファンタジーカテゴリに変更してます。
※更新は不定期ですが半年から1年の間に1章進むペースで書いてます。
※5000文字で統一しています。およそ5ページです。
※文字数を揃えていますので、表示は(小)を推奨します。
※挿絵にAI画像を使い始めましたが、あくまでイメージ画像としてです。
-読み方-
Archaic Almanac (アルカイクxアルマナク) ぐんゆうりゅうせいぐん
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
知らない世界はお供にナビを
こう7
ファンタジー
私の異世界生活の始まりは土下座でした。
大学合格決定してからの帰り道、一ノ瀬楓はルンルン気分でホップステップジャンプをひたすら繰り返しお家へと向かっていた。
彼女は人生で一番有頂天の時だった。
だから、目の前に突如と現れた黒い渦に気づく事は無かった。
そして、目を覚ませばそこには土下座。
あれが神様だって信じられるかい?
馬鹿野郎な神様の失態で始まってしまった異世界生活。
神様を脅……お願いして手に入れたのはナビゲーター。
右も左も分からない異世界で案内は必要だよね?
お供にナビを携えて、いざ異世界エスティアへ!
目指すはのんびり旅の果てに安住の地でほそぼそとお店経営。
危険が蔓延る世界でも私負けないかんね!
シリアスよりもコメディ過多な物語始まります。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる