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プロローグ
正しい歴史
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――勇者召喚。
私ことは、アリシアは魔王討伐のため、異世界に召喚されてしまった。
なのに、女神様に「能力は平均値で!」とお願いしてしまう。
その結果、四天王の中で最弱である、カタリナにさえも負けてしまった。
「この役立たず!!」
私は、王様に厳しい声で怒られた。
そして、追い払われたのだ。
そんな役立たずの私を、支えてくれたのが 幼馴染の ユウキ だった。
彼はいつも笑顔で励ましてくれていた。そんな彼とは いつしか 一緒に過ごすことが多くなった。そんな ある日 のことだった。
ユウキも 無能のため パーティーを追放されたらしい。
私は、それを聞いたとき 少しだけ 心が高鳴ったのを感じた。
なぜなら、私は彼のことが ずっと 好きだったからだ。だから、追放されて 独りぼっちになった彼に 私が 側にいることを伝えずにはいられなかったのだ。
結局、私たちが王都から追放されてしまうことは変わらなかったのだが……それでも後悔はしていない。最悪な運命に逆らえず、たとえ 2人きり になったとしても、私は ユウキのことを想っていたのだろう。そして ユウキも 私のことを好いてくれるだろうという自信があったからだ。
追放された今となって思えば、この決断をした時点で きっと 私の人生は終わっていたのだろう。なぜなら、そこで 心に 留めておくべきだった 私の心の声が 私自身を確実に蝕んでいったから。
「お前は どのみち クズだったよ」と 笑う声 がした気がした。
でも、あの時の私にとって 自分の選択が 間違っているとは到底思えなかったのだ。
2人で魔王討伐のために頑張っている内に ユウキも 次第に調子を戻し、私たちは互いに力を高めていく。そして ついに――。私たちは魔王の城へと辿り着いたのだ。
魔王との戦いは、想像もしていないほど、とても厳しい戦いとなった。
まず、魔王がイケメン過ぎたのだ。私は 攻撃することを 躊躇ってしまう。
「ユウキ。こんなの、間違ってるよ!」
「アリシア、僕を信じてくれ!」
ユウキが炎魔法で 魔王の服を 焼き焦がすと、魔王は風魔法で反撃して ユウキの服を 切り裂いた。傷つけ合う2人を見て、切なくて 心が締め付けられてしまう。
「どうして…。どうして、イケメン同士で傷つけ合うのッ!?」
魔王 が 吠 え た。
「邪神が、この世にいる限り、我らは 戦い合うが 運命よ!」
「――魔王!よ そ 見を するなぁ!」
ユウキの拳が、魔王のお腹を抉るように撃ちつける。
私は小さく悲鳴をあげた。
「これで、終わりだぁ!!」
ユウキが 渾身の右ストレートを放つと、魔王は 呼吸を合わせて クロスカウンターを繰り出した。まともに 受けた ユウキは、その場で崩れ落ちてしまう。
私は慌てて、ユウキの元へ 駆け出した。
「生命の源よ。彼を勃ちあがらせて! アトミック・リカバリー!」
中級回復魔法。私の能力は平均値だ。どんなに 研鑽を積んでも 平凡からは抜け出せない。その条件の中で 私が 必死で 編み出した変則的な魔法。それは、自分の能力を上げるのではなく、他人の能力を無理矢理に増強させる魔法だ。
その対象の潜在能力が 高ければ 高いほど、その効果は絶大である。
「バカなッ!」
「貴方にも掛けてあげるわ! アトミック・リカバリー!」
――魔法陣が襲う。
「ぐぁああああ!!!!」苦悩する魔王。
絶叫の果て、闇に溶け込むように消えていった。
「やってくれたな、虫けらども! 次は 無いもの と思え!」
負け惜しみではない。彼は「真の姿」を 未だに 隠している。
本気になられたら、きっと 私たちは 手も足も 出せなかっただろう。
……邪神。魔王が恐れる存在。
未だに、ユウキが立ち上がれない理由だ。
青い顔をして、子犬のように震える 彼を そっと 抱きしめてあげた。
「やろうよ。邪神討伐…」
***
アリシアは 強力な ボスたちを退けつつ、高難易度ダンジョンの最奥「邪神の心室」に到達した。禍々しい魔力を放ちながら、そこに鎮座している。かつて恐れられた 超有名オンラインゲーム『ベン・ザ・ワールド』の ラスボス でもあり 最強の名を冠する存在でもある 邪神 ココチン が顕現していた。
彼は この世界の滅亡のため 暗躍をしているらしい。アリシアは 悪しき野望を 阻止するために ユウキ と共に立ち向かう。
「勇者様、私達で絶対に邪神を倒しましょう!」
アリシアは力強い言葉を発すると、ユウキは大きく頷いた。
***
そして、世界を救うための戦いが始まる!まず先手を取ったのはアリシアであった。彼女は先制攻撃を仕掛けるべく上級魔法を唱えようとしたその時だった。突如現れた鋭い氷結がアリシアに向けて一直線に迫る。かろうじて避けたものの直撃したらひとたまりもない威力の攻撃を直に受ければ間違いなく絶命していただろう。
反撃をしようと魔法陣を展開させたときだった──すさまじい衝撃と共に彼女の視界が反転する。アリシアの身体は そのまま 地面へと打ち付けられた。
「おっと、大丈夫か?」男の声が聞こえてきたかと思うと身体がふわりと軽くなるのを感じた。まるで赤ん坊のように持ち上げられているようだ。
──そう理解すると 同時に 羞恥心が沸き上がってくる。
しかし、彼女は文句を口にはしなかった。助けてくれたのだ。この魔王に礼を言わねばならないと 無意識のうちに考えていた。強敵が、頼もしい味方となって 現れてくれたのだ。
「あ、ありがとうございます。助かりました……」小さな唇から紡がれる言葉は とても弱弱しかったものの アリシアの気持ちは相手へ 十分に 伝わったようだ。
ユウキは 激しい嫉妬心から 魔王へ『魅惑』の魔法を放つ。その効果は想像以上──魔王からユウキへの好感度が跳ね上がり、瞬く間に魔王のハートがユウキに陥落した。
そんな視線に アリシアは気づく素振りをまったく見せず、ただただ じっと 魔王の仮面で隠れた 両目を見つめつつ尋ねるのだった──
「あの……私はどうしたらいいですか?」
***
『魅惑』に抗うのも至難の業だろう。しかし、心を閉ざさんとばかりに顔を背ける魔王にアリシアの表情が一変し落胆したような顔をするのだ。それは魔王と云うにはあまりに哀れな姿であった。
「ごめんなさい……ユウキ様に対して 無礼な 口をきいてしまいました。どうかお許し下さい」
涙目になりながら 赦しを乞う魔王の姿に 庇護欲を 搔き立てられる。ユウキとしては些細な言動でさえ気に障るものがあるのだが、そう言われては これ以上 強く出られないのだ。だからせめてもの慰みに 頭を撫でて やることにしたのだが、それでも十分過ぎるほどに効果は抜群だったようだ。
たちまち顔が緩み切っていくのを感じた彼だったが、あまりの可愛らしさに思わず悶えそうになるのを抑え込む必要があったほどだ。しかし、そうしてなんとか冷静さを保つことに成功し、3人で邪神へと立ち向かうことになる──。
3人は一丸となって攻撃を仕掛けることにした。ユウキの光属性、魔王の闇属性の攻撃魔法を放ったかと思えば、邪神は攻撃を避けるように飛び込む。杖の先端の装飾を鍵の様に開け閉めしては、姿を消す。
それは、まるで瞬間移動のように敵の後方へと回り込み、攻撃魔法で連続に四属性の魔法を繰り返だし、ユウキ達に着実にダメージを与えていた。
アリシアは 準備していた高難度の術式を構築して対抗しようとするのである。
彼女の能力は平均値だ。どんなに研鑽を積んでも平凡からは抜け出せない。その条件の中でアリシアが必死で編み出した変則的な魔法。その術式の名は『男たちの楽園』だ──桜雲 と 恋の嵐を 呼び起こし、広範囲に 敵を巻き込む 凄まじい技である。それは意志を持った竜巻のように暴れ出し、暴虐の限りを尽くす魔法なのだ。
―――そう。自分ではなく、他人の恋愛脳を書き換えてしまう──
強力な稲妻と共に 巨塔のようにそびえ立つ男の竜巻は 敵の命を確実に削り取るであろう。魔王と邪神の欲望が、巨大に膨れあがる。
そして、最後に ユウキの光属性を纏った 伝説の剣が発動したのだった。彼の剣は 金色に 輝きを放ち、すべてのものを焼き尽くす 劫火を斬り裂くかのような 圧倒的な 存在感を持っていたのである。その力は まさに 最終奥義に相応しいものであり、邪神といえども回避することも敵わぬまま、彼の剣を受け入れようとしていたのだった。
しかしその瞬間、時が止まったように錯覚するほどの出来事が起こったのである──3人の目は敵に釘付けとなり瞬きさえ忘れて大きく見開かれていた。停止した時間の中で、ユウキはアリシアに別れを告げた。
「俺はここまでだ、後はアリシア、君に任せる」
ユウキの 穏やかな声で 現実に戻ってきたアリシアは、唇を強く噛む──必ず生きて帰ってきてくれることを信じて。そして 彼女の足元に 魔法陣が現れると 眩い光が溢れ出す! 次の瞬間、アリシアは女神様に抱きしめられていた。
柔らかな感触と暖かいぬくもりに包まれながら、彼女の意識はだんだんと遠のいていくのだった。
***
これが、この物語の正しい歴史だった。
……でも、事態は 一変していた。
未来から『アリシアに転生した』女性の 精神 が、幼すぎたのだ。
彼女は ストーリーを熟知しており、展開は、す べ て 御見通しであった。
なので、重要な『フラグ』さえ 間違わなければ、邪神を倒して無事に帰れるはずだった。いや、未来を変えようと魔王を誑し込もうとさえしていた(失敗したけど)。……そう、彼女の精神は幼く、これまで社畜として溜めこんできた ストレスを この世界で 発散すべし!、と。
―――や ら か し た !
欲しい物は 迷わず買う。誰にも 文句は言わせない。
だって「あたし、魔王を倒したんですよ?」その結果が、国費の散財。
日本円に換算すれば 数千億にも上り、民への圧政を余儀なくされていた。
甘い汁を吸いつくす聖女。彼女を溺愛する国王。邪神の存在をひた隠すユウキ。
国民の不満は、やがて、第1王子と第2王子を『聖女の暗殺』に走らせた。
この企みは、見事に成功した、かのように みえたのだが……。
◇ つづく...
私ことは、アリシアは魔王討伐のため、異世界に召喚されてしまった。
なのに、女神様に「能力は平均値で!」とお願いしてしまう。
その結果、四天王の中で最弱である、カタリナにさえも負けてしまった。
「この役立たず!!」
私は、王様に厳しい声で怒られた。
そして、追い払われたのだ。
そんな役立たずの私を、支えてくれたのが 幼馴染の ユウキ だった。
彼はいつも笑顔で励ましてくれていた。そんな彼とは いつしか 一緒に過ごすことが多くなった。そんな ある日 のことだった。
ユウキも 無能のため パーティーを追放されたらしい。
私は、それを聞いたとき 少しだけ 心が高鳴ったのを感じた。
なぜなら、私は彼のことが ずっと 好きだったからだ。だから、追放されて 独りぼっちになった彼に 私が 側にいることを伝えずにはいられなかったのだ。
結局、私たちが王都から追放されてしまうことは変わらなかったのだが……それでも後悔はしていない。最悪な運命に逆らえず、たとえ 2人きり になったとしても、私は ユウキのことを想っていたのだろう。そして ユウキも 私のことを好いてくれるだろうという自信があったからだ。
追放された今となって思えば、この決断をした時点で きっと 私の人生は終わっていたのだろう。なぜなら、そこで 心に 留めておくべきだった 私の心の声が 私自身を確実に蝕んでいったから。
「お前は どのみち クズだったよ」と 笑う声 がした気がした。
でも、あの時の私にとって 自分の選択が 間違っているとは到底思えなかったのだ。
2人で魔王討伐のために頑張っている内に ユウキも 次第に調子を戻し、私たちは互いに力を高めていく。そして ついに――。私たちは魔王の城へと辿り着いたのだ。
魔王との戦いは、想像もしていないほど、とても厳しい戦いとなった。
まず、魔王がイケメン過ぎたのだ。私は 攻撃することを 躊躇ってしまう。
「ユウキ。こんなの、間違ってるよ!」
「アリシア、僕を信じてくれ!」
ユウキが炎魔法で 魔王の服を 焼き焦がすと、魔王は風魔法で反撃して ユウキの服を 切り裂いた。傷つけ合う2人を見て、切なくて 心が締め付けられてしまう。
「どうして…。どうして、イケメン同士で傷つけ合うのッ!?」
魔王 が 吠 え た。
「邪神が、この世にいる限り、我らは 戦い合うが 運命よ!」
「――魔王!よ そ 見を するなぁ!」
ユウキの拳が、魔王のお腹を抉るように撃ちつける。
私は小さく悲鳴をあげた。
「これで、終わりだぁ!!」
ユウキが 渾身の右ストレートを放つと、魔王は 呼吸を合わせて クロスカウンターを繰り出した。まともに 受けた ユウキは、その場で崩れ落ちてしまう。
私は慌てて、ユウキの元へ 駆け出した。
「生命の源よ。彼を勃ちあがらせて! アトミック・リカバリー!」
中級回復魔法。私の能力は平均値だ。どんなに 研鑽を積んでも 平凡からは抜け出せない。その条件の中で 私が 必死で 編み出した変則的な魔法。それは、自分の能力を上げるのではなく、他人の能力を無理矢理に増強させる魔法だ。
その対象の潜在能力が 高ければ 高いほど、その効果は絶大である。
「バカなッ!」
「貴方にも掛けてあげるわ! アトミック・リカバリー!」
――魔法陣が襲う。
「ぐぁああああ!!!!」苦悩する魔王。
絶叫の果て、闇に溶け込むように消えていった。
「やってくれたな、虫けらども! 次は 無いもの と思え!」
負け惜しみではない。彼は「真の姿」を 未だに 隠している。
本気になられたら、きっと 私たちは 手も足も 出せなかっただろう。
……邪神。魔王が恐れる存在。
未だに、ユウキが立ち上がれない理由だ。
青い顔をして、子犬のように震える 彼を そっと 抱きしめてあげた。
「やろうよ。邪神討伐…」
***
アリシアは 強力な ボスたちを退けつつ、高難易度ダンジョンの最奥「邪神の心室」に到達した。禍々しい魔力を放ちながら、そこに鎮座している。かつて恐れられた 超有名オンラインゲーム『ベン・ザ・ワールド』の ラスボス でもあり 最強の名を冠する存在でもある 邪神 ココチン が顕現していた。
彼は この世界の滅亡のため 暗躍をしているらしい。アリシアは 悪しき野望を 阻止するために ユウキ と共に立ち向かう。
「勇者様、私達で絶対に邪神を倒しましょう!」
アリシアは力強い言葉を発すると、ユウキは大きく頷いた。
***
そして、世界を救うための戦いが始まる!まず先手を取ったのはアリシアであった。彼女は先制攻撃を仕掛けるべく上級魔法を唱えようとしたその時だった。突如現れた鋭い氷結がアリシアに向けて一直線に迫る。かろうじて避けたものの直撃したらひとたまりもない威力の攻撃を直に受ければ間違いなく絶命していただろう。
反撃をしようと魔法陣を展開させたときだった──すさまじい衝撃と共に彼女の視界が反転する。アリシアの身体は そのまま 地面へと打ち付けられた。
「おっと、大丈夫か?」男の声が聞こえてきたかと思うと身体がふわりと軽くなるのを感じた。まるで赤ん坊のように持ち上げられているようだ。
──そう理解すると 同時に 羞恥心が沸き上がってくる。
しかし、彼女は文句を口にはしなかった。助けてくれたのだ。この魔王に礼を言わねばならないと 無意識のうちに考えていた。強敵が、頼もしい味方となって 現れてくれたのだ。
「あ、ありがとうございます。助かりました……」小さな唇から紡がれる言葉は とても弱弱しかったものの アリシアの気持ちは相手へ 十分に 伝わったようだ。
ユウキは 激しい嫉妬心から 魔王へ『魅惑』の魔法を放つ。その効果は想像以上──魔王からユウキへの好感度が跳ね上がり、瞬く間に魔王のハートがユウキに陥落した。
そんな視線に アリシアは気づく素振りをまったく見せず、ただただ じっと 魔王の仮面で隠れた 両目を見つめつつ尋ねるのだった──
「あの……私はどうしたらいいですか?」
***
『魅惑』に抗うのも至難の業だろう。しかし、心を閉ざさんとばかりに顔を背ける魔王にアリシアの表情が一変し落胆したような顔をするのだ。それは魔王と云うにはあまりに哀れな姿であった。
「ごめんなさい……ユウキ様に対して 無礼な 口をきいてしまいました。どうかお許し下さい」
涙目になりながら 赦しを乞う魔王の姿に 庇護欲を 搔き立てられる。ユウキとしては些細な言動でさえ気に障るものがあるのだが、そう言われては これ以上 強く出られないのだ。だからせめてもの慰みに 頭を撫でて やることにしたのだが、それでも十分過ぎるほどに効果は抜群だったようだ。
たちまち顔が緩み切っていくのを感じた彼だったが、あまりの可愛らしさに思わず悶えそうになるのを抑え込む必要があったほどだ。しかし、そうしてなんとか冷静さを保つことに成功し、3人で邪神へと立ち向かうことになる──。
3人は一丸となって攻撃を仕掛けることにした。ユウキの光属性、魔王の闇属性の攻撃魔法を放ったかと思えば、邪神は攻撃を避けるように飛び込む。杖の先端の装飾を鍵の様に開け閉めしては、姿を消す。
それは、まるで瞬間移動のように敵の後方へと回り込み、攻撃魔法で連続に四属性の魔法を繰り返だし、ユウキ達に着実にダメージを与えていた。
アリシアは 準備していた高難度の術式を構築して対抗しようとするのである。
彼女の能力は平均値だ。どんなに研鑽を積んでも平凡からは抜け出せない。その条件の中でアリシアが必死で編み出した変則的な魔法。その術式の名は『男たちの楽園』だ──桜雲 と 恋の嵐を 呼び起こし、広範囲に 敵を巻き込む 凄まじい技である。それは意志を持った竜巻のように暴れ出し、暴虐の限りを尽くす魔法なのだ。
―――そう。自分ではなく、他人の恋愛脳を書き換えてしまう──
強力な稲妻と共に 巨塔のようにそびえ立つ男の竜巻は 敵の命を確実に削り取るであろう。魔王と邪神の欲望が、巨大に膨れあがる。
そして、最後に ユウキの光属性を纏った 伝説の剣が発動したのだった。彼の剣は 金色に 輝きを放ち、すべてのものを焼き尽くす 劫火を斬り裂くかのような 圧倒的な 存在感を持っていたのである。その力は まさに 最終奥義に相応しいものであり、邪神といえども回避することも敵わぬまま、彼の剣を受け入れようとしていたのだった。
しかしその瞬間、時が止まったように錯覚するほどの出来事が起こったのである──3人の目は敵に釘付けとなり瞬きさえ忘れて大きく見開かれていた。停止した時間の中で、ユウキはアリシアに別れを告げた。
「俺はここまでだ、後はアリシア、君に任せる」
ユウキの 穏やかな声で 現実に戻ってきたアリシアは、唇を強く噛む──必ず生きて帰ってきてくれることを信じて。そして 彼女の足元に 魔法陣が現れると 眩い光が溢れ出す! 次の瞬間、アリシアは女神様に抱きしめられていた。
柔らかな感触と暖かいぬくもりに包まれながら、彼女の意識はだんだんと遠のいていくのだった。
***
これが、この物語の正しい歴史だった。
……でも、事態は 一変していた。
未来から『アリシアに転生した』女性の 精神 が、幼すぎたのだ。
彼女は ストーリーを熟知しており、展開は、す べ て 御見通しであった。
なので、重要な『フラグ』さえ 間違わなければ、邪神を倒して無事に帰れるはずだった。いや、未来を変えようと魔王を誑し込もうとさえしていた(失敗したけど)。……そう、彼女の精神は幼く、これまで社畜として溜めこんできた ストレスを この世界で 発散すべし!、と。
―――や ら か し た !
欲しい物は 迷わず買う。誰にも 文句は言わせない。
だって「あたし、魔王を倒したんですよ?」その結果が、国費の散財。
日本円に換算すれば 数千億にも上り、民への圧政を余儀なくされていた。
甘い汁を吸いつくす聖女。彼女を溺愛する国王。邪神の存在をひた隠すユウキ。
国民の不満は、やがて、第1王子と第2王子を『聖女の暗殺』に走らせた。
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