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物事の対価
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「やっと着いたね?」
にっこりと何か含みを感じるテオドールの顔をつい恨みがましい目で見てしまったクリスティーナは、またも以前ニーナが目撃した状態にされていた。
王都から馬車で三日。その間、口には出しにくい程度のちょっかいを出されながら進んできた。そうしてようやく領地についた頃にはクリスティーナの精神はちょっぴり強化されていた。
元婚約者との触れ合いはエスコートされる以外ではなかったし、そもそもエスコートの機会はあまり無かった。さらに次期王太子妃となれば周囲にいる男性は護衛くらいに限られるため、男性との触れ合いに免疫がある方ではない。
けれど幼い頃、ほのかな恋心を抱いていたテオドールが相手であったからか、恥じらいの中にも多少の安心感や喜びを感じていることに早々に気がついた。元婚約者にされていたらと思えばゾッとする。
それに気づいてからは、そういう触れ合いを大事にしたいと考えるようになった。それは長年、好意すら抱けなかった元婚約者の相手をさせられてきたクリスティーナにとって当然の流れだったように思う。
けれども。
確かにちょっぴり精神は強化された。
されたけれども、人前に出ることが分かっている時にここまでの状態にされるのは頂けない。何せ顔を見れば一目瞭然なのだ。これは恥ずかしすぎる。
「…またやりましたわね…。」
肝心のテオドールと言えば、潤んだ瞳と真っ赤な顔で睨まれても迫力はないし、むしろ可愛いだけだなあなどと、クリスティーナが聞いたら怒りそうなことを考えていた。
そして、いつかのようにクリスティーナを抱き上げて屋敷に入ろうとしたテオドールに、ちょっとした仕返しをしたのはやっぱり変態侍女だった。
「お嬢様、どうぞお手を。お疲れのご様子ですから、すぐに湯浴みを致しましょう。」
「ええ!ありがとう、ニーナ!!」
すっと差し出されたニーナの手を、テオドールに捕まる前にとサッと掴んだクリスティーナは、真っ赤な顔のままでつんっ!として、屋敷の方へ向かった。
花嫁さながら、クリスティーナを抱き上げて屋敷に入りたかったテオドールが呆気に取られて出遅れたのはニーナが初回以降、一度も手を差し出さなかった事で油断していたからだ。
「最後の最後でやられたなあ。」
きっとコレを狙ってたんだなと、いつも口惜しそうに自分を見ていたあの優秀過ぎる侍女に一杯食わされたなと、愉快に思いながら二人の後を追って、久しぶりに訪れる屋敷へ入っていった。
「いらっしゃいませ、テオドール殿下。お帰りなさいませ、クリスティーナ様。」
クリスティーナは領地の屋敷を長年支え続けている家令に出迎えられ、懐かしさを感じつつも兄夫婦がいないことに気がついた。
「お兄様とお義姉様は?」
「若旦那様は今来客中でございます。若奥様は急遽決まったお茶会に参加されておりますが、そろそろお戻りになる頃でございます。
お戻りになるまでゆっくりお休み下さい。」
「わかったわ。ありがとう。
ではテオ様、後ほど。ゆっくりお休み下さいまし。」
「ああ。後で。」
王都に出ずっぱりで、ここで過ごした期間はさほど長いものではなかったが、それでもやっぱり懐かしいと感じる。
自室は子どもの頃の子どもらしい内装はさすがに撤去され、王都の自室を参考にされたのか、大人っぽく落ち着いた雰囲気に変わっていた。
自室についている浴室で旅の汚れを落としてひと段落ついた頃、兄の都合がついたと声がかかった。
早速、兄の執務室に向かえばすでにテオドールがいる。
「ご無沙汰しております、お兄様。お元気そうで何よりですわ。」
「ああ。ティナ、久しぶりだね。綺麗になったね。
婚約おめでとう。きっとこうなるだろうと思っていたよ。」
「まあ…ありがとうございます。」
なんだか恥ずかしくなってテオドールを見れば、ちょうど立ち上がった所でこちらに向かってくる。手を取られて誘導されれば兄の座るソファの向かいテオドールの隣に座らされた。
最初は戸惑いを感じたこの場所も、この三日でだいぶ慣らされていた。
「さて。王都から手紙が届いているよ。
こちらの思惑通りに進んだようだ。ティナの話も祝い事でかき消されたよ。安心しなさい。」
「まあ。さすがお婆様とお父様ですわ。お礼を言わなくては。」
「父上は二週間後には王都を出るそうだ。リンドバークへ行くのはすぐではないと思うが、その頃に合わせて進めておきなさい。
あと、君が用意したあの勘違い共のお仕置きも開始されるようだ。
父上がこちらにくる頃には何か面白い報告ができていると良いな。」
ニヤリと嗤う兄を見れば、なんだかロクでもないことを考えていそうに見える。
「お兄様…。お顔が怖いですわ。」
「そう?ごめんごめん。」
「そういえば、ティナはあいつらに一体どんなお仕置きを用意してきたの?」
聞くのを忘れていたよという言外に、「ティナを堪能するのに夢中で」という言葉が聞こえたような気がしたが、それに触れるのはやめておいた。きっとそれは間違いなく賢明な判断だ。兄の前で暴露されたらそれこそ卒倒しそうだ。
「大した事は提案しておりませんのよ。呑気な彼らに現実を知らしめるために必要な事を提案しただけですわ。
お婆様という要素が入った以上、どのような方向に進むのかも、上手いこと結果が出るかも判らない事ですので、お父様のご帰還をお待ちしましょう?
そう言われてしまえば強く聞く事は出来ず、また、兄の方も詳細は聞いていなかったのか興味津々だったようで、今聞けないことにガッカリしているように見えるが、今聞く気は無いようだ。
テオドールは諦めて大人しく戻ってくる叔父を待つ事にした。
そしてとりあえず今はゆっくり休み、失われた時間を取り戻す事に専念する事にしたテオドールの顔はまたも何か含みを感じる笑顔だった。
にっこりと何か含みを感じるテオドールの顔をつい恨みがましい目で見てしまったクリスティーナは、またも以前ニーナが目撃した状態にされていた。
王都から馬車で三日。その間、口には出しにくい程度のちょっかいを出されながら進んできた。そうしてようやく領地についた頃にはクリスティーナの精神はちょっぴり強化されていた。
元婚約者との触れ合いはエスコートされる以外ではなかったし、そもそもエスコートの機会はあまり無かった。さらに次期王太子妃となれば周囲にいる男性は護衛くらいに限られるため、男性との触れ合いに免疫がある方ではない。
けれど幼い頃、ほのかな恋心を抱いていたテオドールが相手であったからか、恥じらいの中にも多少の安心感や喜びを感じていることに早々に気がついた。元婚約者にされていたらと思えばゾッとする。
それに気づいてからは、そういう触れ合いを大事にしたいと考えるようになった。それは長年、好意すら抱けなかった元婚約者の相手をさせられてきたクリスティーナにとって当然の流れだったように思う。
けれども。
確かにちょっぴり精神は強化された。
されたけれども、人前に出ることが分かっている時にここまでの状態にされるのは頂けない。何せ顔を見れば一目瞭然なのだ。これは恥ずかしすぎる。
「…またやりましたわね…。」
肝心のテオドールと言えば、潤んだ瞳と真っ赤な顔で睨まれても迫力はないし、むしろ可愛いだけだなあなどと、クリスティーナが聞いたら怒りそうなことを考えていた。
そして、いつかのようにクリスティーナを抱き上げて屋敷に入ろうとしたテオドールに、ちょっとした仕返しをしたのはやっぱり変態侍女だった。
「お嬢様、どうぞお手を。お疲れのご様子ですから、すぐに湯浴みを致しましょう。」
「ええ!ありがとう、ニーナ!!」
すっと差し出されたニーナの手を、テオドールに捕まる前にとサッと掴んだクリスティーナは、真っ赤な顔のままでつんっ!として、屋敷の方へ向かった。
花嫁さながら、クリスティーナを抱き上げて屋敷に入りたかったテオドールが呆気に取られて出遅れたのはニーナが初回以降、一度も手を差し出さなかった事で油断していたからだ。
「最後の最後でやられたなあ。」
きっとコレを狙ってたんだなと、いつも口惜しそうに自分を見ていたあの優秀過ぎる侍女に一杯食わされたなと、愉快に思いながら二人の後を追って、久しぶりに訪れる屋敷へ入っていった。
「いらっしゃいませ、テオドール殿下。お帰りなさいませ、クリスティーナ様。」
クリスティーナは領地の屋敷を長年支え続けている家令に出迎えられ、懐かしさを感じつつも兄夫婦がいないことに気がついた。
「お兄様とお義姉様は?」
「若旦那様は今来客中でございます。若奥様は急遽決まったお茶会に参加されておりますが、そろそろお戻りになる頃でございます。
お戻りになるまでゆっくりお休み下さい。」
「わかったわ。ありがとう。
ではテオ様、後ほど。ゆっくりお休み下さいまし。」
「ああ。後で。」
王都に出ずっぱりで、ここで過ごした期間はさほど長いものではなかったが、それでもやっぱり懐かしいと感じる。
自室は子どもの頃の子どもらしい内装はさすがに撤去され、王都の自室を参考にされたのか、大人っぽく落ち着いた雰囲気に変わっていた。
自室についている浴室で旅の汚れを落としてひと段落ついた頃、兄の都合がついたと声がかかった。
早速、兄の執務室に向かえばすでにテオドールがいる。
「ご無沙汰しております、お兄様。お元気そうで何よりですわ。」
「ああ。ティナ、久しぶりだね。綺麗になったね。
婚約おめでとう。きっとこうなるだろうと思っていたよ。」
「まあ…ありがとうございます。」
なんだか恥ずかしくなってテオドールを見れば、ちょうど立ち上がった所でこちらに向かってくる。手を取られて誘導されれば兄の座るソファの向かいテオドールの隣に座らされた。
最初は戸惑いを感じたこの場所も、この三日でだいぶ慣らされていた。
「さて。王都から手紙が届いているよ。
こちらの思惑通りに進んだようだ。ティナの話も祝い事でかき消されたよ。安心しなさい。」
「まあ。さすがお婆様とお父様ですわ。お礼を言わなくては。」
「父上は二週間後には王都を出るそうだ。リンドバークへ行くのはすぐではないと思うが、その頃に合わせて進めておきなさい。
あと、君が用意したあの勘違い共のお仕置きも開始されるようだ。
父上がこちらにくる頃には何か面白い報告ができていると良いな。」
ニヤリと嗤う兄を見れば、なんだかロクでもないことを考えていそうに見える。
「お兄様…。お顔が怖いですわ。」
「そう?ごめんごめん。」
「そういえば、ティナはあいつらに一体どんなお仕置きを用意してきたの?」
聞くのを忘れていたよという言外に、「ティナを堪能するのに夢中で」という言葉が聞こえたような気がしたが、それに触れるのはやめておいた。きっとそれは間違いなく賢明な判断だ。兄の前で暴露されたらそれこそ卒倒しそうだ。
「大した事は提案しておりませんのよ。呑気な彼らに現実を知らしめるために必要な事を提案しただけですわ。
お婆様という要素が入った以上、どのような方向に進むのかも、上手いこと結果が出るかも判らない事ですので、お父様のご帰還をお待ちしましょう?
そう言われてしまえば強く聞く事は出来ず、また、兄の方も詳細は聞いていなかったのか興味津々だったようで、今聞けないことにガッカリしているように見えるが、今聞く気は無いようだ。
テオドールは諦めて大人しく戻ってくる叔父を待つ事にした。
そしてとりあえず今はゆっくり休み、失われた時間を取り戻す事に専念する事にしたテオドールの顔はまたも何か含みを感じる笑顔だった。
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