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6章 第2部 レーシスの秘密
246話 アリスの答え
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夕日が沈みだし、荒れ果てた荒野がオレンジ色の光に包まれる。
ここはエデンのクリフォトエリアのとある荒野地帯。そこに7歳のレイジとアリスの姿が。
「あー、つかれたー。アリス、オレたちもそろそろ現実に帰ろうぜ」
ぐったりと大の字に寝ころびながら、アリスに声をかける。
実はさっきまで狩猟兵団レイヴンのセンパイたちに、一日中みっちり鍛えてもらっていたという。
そして特訓が終わり、彼らはよくがんばったとねぎらいの言葉をかけて、一足先に現実へと戻っていった。なのでこの場には、レイジとアリスの二人だけに。
「もう帰るのかしら? まだまだこっからでしょ」
すると彼女はさぞ不思議そうに首をかしげてくる。
「おいおい、あれだけみんなにしごかれて、まだやるのかよ」
「あんなのまだ序の口じゃない。むしろ本番は好き勝手できる今からよ」
「それならもう少し休んでからでもよくないか?」
「いやよ、時間がもったいないわ。アタシは一分、一秒でも長くこの世界で暴れたいの!」
アリスは両腰に手を当て、得意げに力説してくる。
「暴れたいか。アリスの闘争に対する執着心てほんとすごいよな。狂気じみてるというか、もうそれ以外なにもいらないってレベルだし」
「フフフ、レージ、わかってるじゃない。アタシにとって、闘争こそすべてといっても過言じゃないんだから!」
アリスは子供らしい無邪気さいっぱいの笑顔を。
「どうしてそこまで?」
「そうね、アタシの心の中にはぽっかり穴が空いているの。そのせいか見て感じるものに色がなく、感動もなにもない。ただただ空虚で乾ききってしまっているわ。そんな心の穴を埋める唯一の手段が闘争なのよ。戦っているときだけアタシは生を実感でき、心を満たすことができる」
彼女は胸をぎゅっと押さえ、自身の抱える問題を教えてくれる。
「でも残念なことに、それも一瞬だけ。この心の穴はよほど底なしらしく、すぐに埋めにいったものを呑み込んでしまう。しかもさらなる闘争を生の実感をと、飢えた獣のように渇望してくるの。それは強迫観念としてアタシを蝕み、突き動かす。このことでタチが悪いのは、ほぼ四六時中鳴り響いて止まないことかしら。そのせいで心が休まることはないの」
どこか疲れたように笑い、遠い目をするアリス。
「――そんな……」
「だからアタシはこの穴を埋めずにはいられないのよ。この胸の内から湧き出る、闘争の狂気がある限りね……」
アリスは切実に自身の想いをつぶやいた。
「――闘争の狂気……。だからアリスはそんなふうに……」
「フフフ、そんなに心を痛める必要はないわよ。だってアタシはこの狂気を受け入れているんだもの。もう愛着がわいてるぐらいにね」
心配するレイジに、アリスは満足げにうなづきだす。
「愛着って、それはなんでも受け入れ過ぎじゃないのか?」
「そうかしら? この狂気にしたがい行動すれば、胸がはずむような生を実感できるのよ! そのときの快感ときたら、病み付きどころの話じゃないわ! たとえ幾百、幾千、幾万回超えようとも、色あせない最高の刹那!」
アリスは両手をかかげ、声高らかにまるで歌うかのごとくかたる。
「じゃあ、アリスはずっとその闘争の狂気に取りつかれたままでもいいのか?」
「当然じゃない! アタシには闘争さえあればいい。これからもずっとずっと戦場を駆けぬけ、闘争の生を謳歌していく! たとえその果てに破滅の未来しかなかったとしても、アタシは迷いなくその道を選ぶわ!」
恋する乙女のごとくまぶしい笑顔で、一切の迷いなく答えるアリス。そんな彼女の瞳には狂気の色が帯ていたといっていい。
ここでレイジはさとってしまう。もうこの子は手遅れなほど、狂気に堕ちてしまっているのだと。
(そんなの間違ってる。オレはアリスに……)
ゆえにレイジは。
「はっ!?」
目を覚ますと、見慣れた天井が目に飛び込んでくる。
まだまだ夜中であり、カーテンの隙間から月の光が漏れていた。
(また懐かしい記憶を……。あのときオレは確か……)
夢の内容は過去の出来事。あれはアリスと初めて会ってまだ間もないころ。彼女の抱える問題を聞き、レイジはある決心をしたのだ。
「あれ? アリスのやつがいない」
そこでふと気づく。同じふとんの右隣で寝ていたアリスの姿が、見当たらないのだ。
ちなみに左隣には幸せそうな表情で那由多が寝ていた。なぜこんなことになっているのか。本来ならレイジはソファーで。那由多とアリスはベッドと、ゆきが泊りに来ていたときに用意したふとんでそれぞれ寝てもらうつもりであった。というのも二人がレイジの隣で寝るのをめぐって言い争っており、仮に二人を片方に押し込んでもどうせこっそりこちらへもぐりこんでくるはず。なので先手をとりレイジは、一人分しかスペースのないソファーで寝ようと。すると那由多とアリスが結託し、レイジを無理やりふとんの方へと連行。結局、レイジを真ん中三人で同じふとんで寝るはめになったという。
「どこにもいない。もしかして」
レイジはふとんから出て、ベランダへと向かう。
するとそこには夜空の星々をぼーと眺めているアリスの姿が。
「おいおい、そんな恰好で寒くないのか?」
なんと彼女は着替えておらず、ワイシャツ一枚だけの姿。一応春にはなったが、夜だとまだ肌寒い温度。さすがにその姿だと寒い気が。
「フフフ、少し肌寒いけど、今はこれぐらいがちょうどいいのよ。レージによってぬくもったこの心を、冷ますにはね」
どこか自嘲気味に笑うアリス。
「冷ます?」
「あなたのそばにいると、この闘争の狂気に染まってどうしようもなくなってしまった心が安らぐの。まるで本来闘争でしか埋められない心の穴が、満たされていくかのように。とてもあたたかくて、気づけばいつも寄り添ってしまっている」
アリスは胸をぎゅっと押さえながら、満ち足りたような表情を。
「それはいいことなんじゃないのか?」
「それがだめなのよ。この一年でどれだけアタシの中で、レージの存在がいかに大きいか気づいてしまった今、これ以上あなたのそばにいるのは危険なの。前にも言ったけど、アタシという存在がどんどんブレていってしまう」
しかしそれもつかの間、彼女は肩を震わせながら深刻な表情で告白してくる。
「アタシはただ狂気にしたがい、闘争を続けられればいい。だってそのときこそこの空虚な心は生を実感できるもの! 全力で戦場を謳歌し、愚直なまでに次の戦場を求め続ける。どこまでもどこまでも、ただひたすらに。まだ見ぬ至高の戦場があると信じて。それがアリス・レイゼンベルトという少女の、ただ一つの願い」
狂気の色を帯びた瞳で、自身の心からの渇望を紡ぐアリス。
「考えてみなさい。今のレージがいるのは、カノンの理想を叶える道。その道は言ってしまえば、アタシが願う混沌の道とは真逆の世界なのよ。そこにいくらレージがいるからといって、おいそれいけるわけないじゃない。もしここであなたを優先してしまったら、アタシはもう完全にアタシでいられなくなってしまう。それはアリス・レイゼンベルトの根底を、願いをすべて裏切ることになるんだから……」
今回の件はただアリスがレイジがいる場所へ来るという、単純な話ではないのだ。問題は目指すべき道。カノンが目指すのは人々の自由と安寧。それはアリスの求める闘争と混沌の世界とまるで真逆。そんなカノンのもとに来るということは、客観的に見て自身の闘争の想いを裏切るも同じ。こちらで戦えば戦うほどカノンの理想が近づき、アリスの望んだ闘争の道を否定していくことになるのだから。
「もしレージが昔みたいにアタシの目指す道についてきてくれるなら、共にある未来があったはず。でもこうなった以上、別々の道を進んだほうがきっといいのよ」
アリスの目指す混沌の道へ一緒に堕ちるなら、これまで通り彼女といられただろう。アリスとしては闘争とレイジ、両方手に入る最高の結末になったに違いない。だがレイジがアリスを選ばず、対極のカノンを選んでしまったことで、その道は閉ざされてしまった結果に。
「――それって……」
「これが保留にしていた答えよ。アタシはあなたたちの誘いを断るわ。だからこの依頼が終われば、アタシたちは敵同士。戦場で思う存分に斬り合いましょう」
アリスはレイジを見すえ、キッパリと言い切った。
「アリスは本当にそれでいいのか?」
「ええ、アタシはこれまで通り、闘争の日々を謳歌できるもの! それにレージの敵として、前みたいな胸踊る最高の闘争をこれから何度もくり広げることになるのよ! 今から楽しみで楽しみでしかたないわ!」
彼女は両腕を広げ、無邪気な子供みたいにはしゃぐ。
「とはいえ確かにさみしくはあるけど、これもお互いのためよ。レージにしたって、これからもカノンの力になってあげたいならそのほうがいいはずだしね」
アリスがレイジの顔を下からのぞき込み、はかなげにほほえんでくる。
その姿はどこか悲痛げで、見ていられなかったといっていい。
「――アリス、おまえ……」
「フフフ、そういうわけだからこの依頼が終わるまではよろしくね。さあ、そろそろ眠りましょう。あまり起き過ぎていると、明日の活動に支障をきたしちゃうわ」
「アリス、待ってくれ」
部屋の中に戻ろうとするアリスへ、このままではいけないと手を伸ばし呼び止めようと。
「ッ!?」
しかしその手は途中で止まってしまった。
なぜならそのときとある考えが脳裏に浮かんだのだ。それはせっかくたどり着いたカノンへの道が、アリスの手をとることで閉ざされてしまうのではないかという不安。それによりアリスを呼び止められなかったのだ。
「――オレは……」
もはやどうすればいいかわからず、しばらくのあいだ立ち尽くすしかないレイジなのであった。
ここはエデンのクリフォトエリアのとある荒野地帯。そこに7歳のレイジとアリスの姿が。
「あー、つかれたー。アリス、オレたちもそろそろ現実に帰ろうぜ」
ぐったりと大の字に寝ころびながら、アリスに声をかける。
実はさっきまで狩猟兵団レイヴンのセンパイたちに、一日中みっちり鍛えてもらっていたという。
そして特訓が終わり、彼らはよくがんばったとねぎらいの言葉をかけて、一足先に現実へと戻っていった。なのでこの場には、レイジとアリスの二人だけに。
「もう帰るのかしら? まだまだこっからでしょ」
すると彼女はさぞ不思議そうに首をかしげてくる。
「おいおい、あれだけみんなにしごかれて、まだやるのかよ」
「あんなのまだ序の口じゃない。むしろ本番は好き勝手できる今からよ」
「それならもう少し休んでからでもよくないか?」
「いやよ、時間がもったいないわ。アタシは一分、一秒でも長くこの世界で暴れたいの!」
アリスは両腰に手を当て、得意げに力説してくる。
「暴れたいか。アリスの闘争に対する執着心てほんとすごいよな。狂気じみてるというか、もうそれ以外なにもいらないってレベルだし」
「フフフ、レージ、わかってるじゃない。アタシにとって、闘争こそすべてといっても過言じゃないんだから!」
アリスは子供らしい無邪気さいっぱいの笑顔を。
「どうしてそこまで?」
「そうね、アタシの心の中にはぽっかり穴が空いているの。そのせいか見て感じるものに色がなく、感動もなにもない。ただただ空虚で乾ききってしまっているわ。そんな心の穴を埋める唯一の手段が闘争なのよ。戦っているときだけアタシは生を実感でき、心を満たすことができる」
彼女は胸をぎゅっと押さえ、自身の抱える問題を教えてくれる。
「でも残念なことに、それも一瞬だけ。この心の穴はよほど底なしらしく、すぐに埋めにいったものを呑み込んでしまう。しかもさらなる闘争を生の実感をと、飢えた獣のように渇望してくるの。それは強迫観念としてアタシを蝕み、突き動かす。このことでタチが悪いのは、ほぼ四六時中鳴り響いて止まないことかしら。そのせいで心が休まることはないの」
どこか疲れたように笑い、遠い目をするアリス。
「――そんな……」
「だからアタシはこの穴を埋めずにはいられないのよ。この胸の内から湧き出る、闘争の狂気がある限りね……」
アリスは切実に自身の想いをつぶやいた。
「――闘争の狂気……。だからアリスはそんなふうに……」
「フフフ、そんなに心を痛める必要はないわよ。だってアタシはこの狂気を受け入れているんだもの。もう愛着がわいてるぐらいにね」
心配するレイジに、アリスは満足げにうなづきだす。
「愛着って、それはなんでも受け入れ過ぎじゃないのか?」
「そうかしら? この狂気にしたがい行動すれば、胸がはずむような生を実感できるのよ! そのときの快感ときたら、病み付きどころの話じゃないわ! たとえ幾百、幾千、幾万回超えようとも、色あせない最高の刹那!」
アリスは両手をかかげ、声高らかにまるで歌うかのごとくかたる。
「じゃあ、アリスはずっとその闘争の狂気に取りつかれたままでもいいのか?」
「当然じゃない! アタシには闘争さえあればいい。これからもずっとずっと戦場を駆けぬけ、闘争の生を謳歌していく! たとえその果てに破滅の未来しかなかったとしても、アタシは迷いなくその道を選ぶわ!」
恋する乙女のごとくまぶしい笑顔で、一切の迷いなく答えるアリス。そんな彼女の瞳には狂気の色が帯ていたといっていい。
ここでレイジはさとってしまう。もうこの子は手遅れなほど、狂気に堕ちてしまっているのだと。
(そんなの間違ってる。オレはアリスに……)
ゆえにレイジは。
「はっ!?」
目を覚ますと、見慣れた天井が目に飛び込んでくる。
まだまだ夜中であり、カーテンの隙間から月の光が漏れていた。
(また懐かしい記憶を……。あのときオレは確か……)
夢の内容は過去の出来事。あれはアリスと初めて会ってまだ間もないころ。彼女の抱える問題を聞き、レイジはある決心をしたのだ。
「あれ? アリスのやつがいない」
そこでふと気づく。同じふとんの右隣で寝ていたアリスの姿が、見当たらないのだ。
ちなみに左隣には幸せそうな表情で那由多が寝ていた。なぜこんなことになっているのか。本来ならレイジはソファーで。那由多とアリスはベッドと、ゆきが泊りに来ていたときに用意したふとんでそれぞれ寝てもらうつもりであった。というのも二人がレイジの隣で寝るのをめぐって言い争っており、仮に二人を片方に押し込んでもどうせこっそりこちらへもぐりこんでくるはず。なので先手をとりレイジは、一人分しかスペースのないソファーで寝ようと。すると那由多とアリスが結託し、レイジを無理やりふとんの方へと連行。結局、レイジを真ん中三人で同じふとんで寝るはめになったという。
「どこにもいない。もしかして」
レイジはふとんから出て、ベランダへと向かう。
するとそこには夜空の星々をぼーと眺めているアリスの姿が。
「おいおい、そんな恰好で寒くないのか?」
なんと彼女は着替えておらず、ワイシャツ一枚だけの姿。一応春にはなったが、夜だとまだ肌寒い温度。さすがにその姿だと寒い気が。
「フフフ、少し肌寒いけど、今はこれぐらいがちょうどいいのよ。レージによってぬくもったこの心を、冷ますにはね」
どこか自嘲気味に笑うアリス。
「冷ます?」
「あなたのそばにいると、この闘争の狂気に染まってどうしようもなくなってしまった心が安らぐの。まるで本来闘争でしか埋められない心の穴が、満たされていくかのように。とてもあたたかくて、気づけばいつも寄り添ってしまっている」
アリスは胸をぎゅっと押さえながら、満ち足りたような表情を。
「それはいいことなんじゃないのか?」
「それがだめなのよ。この一年でどれだけアタシの中で、レージの存在がいかに大きいか気づいてしまった今、これ以上あなたのそばにいるのは危険なの。前にも言ったけど、アタシという存在がどんどんブレていってしまう」
しかしそれもつかの間、彼女は肩を震わせながら深刻な表情で告白してくる。
「アタシはただ狂気にしたがい、闘争を続けられればいい。だってそのときこそこの空虚な心は生を実感できるもの! 全力で戦場を謳歌し、愚直なまでに次の戦場を求め続ける。どこまでもどこまでも、ただひたすらに。まだ見ぬ至高の戦場があると信じて。それがアリス・レイゼンベルトという少女の、ただ一つの願い」
狂気の色を帯びた瞳で、自身の心からの渇望を紡ぐアリス。
「考えてみなさい。今のレージがいるのは、カノンの理想を叶える道。その道は言ってしまえば、アタシが願う混沌の道とは真逆の世界なのよ。そこにいくらレージがいるからといって、おいそれいけるわけないじゃない。もしここであなたを優先してしまったら、アタシはもう完全にアタシでいられなくなってしまう。それはアリス・レイゼンベルトの根底を、願いをすべて裏切ることになるんだから……」
今回の件はただアリスがレイジがいる場所へ来るという、単純な話ではないのだ。問題は目指すべき道。カノンが目指すのは人々の自由と安寧。それはアリスの求める闘争と混沌の世界とまるで真逆。そんなカノンのもとに来るということは、客観的に見て自身の闘争の想いを裏切るも同じ。こちらで戦えば戦うほどカノンの理想が近づき、アリスの望んだ闘争の道を否定していくことになるのだから。
「もしレージが昔みたいにアタシの目指す道についてきてくれるなら、共にある未来があったはず。でもこうなった以上、別々の道を進んだほうがきっといいのよ」
アリスの目指す混沌の道へ一緒に堕ちるなら、これまで通り彼女といられただろう。アリスとしては闘争とレイジ、両方手に入る最高の結末になったに違いない。だがレイジがアリスを選ばず、対極のカノンを選んでしまったことで、その道は閉ざされてしまった結果に。
「――それって……」
「これが保留にしていた答えよ。アタシはあなたたちの誘いを断るわ。だからこの依頼が終われば、アタシたちは敵同士。戦場で思う存分に斬り合いましょう」
アリスはレイジを見すえ、キッパリと言い切った。
「アリスは本当にそれでいいのか?」
「ええ、アタシはこれまで通り、闘争の日々を謳歌できるもの! それにレージの敵として、前みたいな胸踊る最高の闘争をこれから何度もくり広げることになるのよ! 今から楽しみで楽しみでしかたないわ!」
彼女は両腕を広げ、無邪気な子供みたいにはしゃぐ。
「とはいえ確かにさみしくはあるけど、これもお互いのためよ。レージにしたって、これからもカノンの力になってあげたいならそのほうがいいはずだしね」
アリスがレイジの顔を下からのぞき込み、はかなげにほほえんでくる。
その姿はどこか悲痛げで、見ていられなかったといっていい。
「――アリス、おまえ……」
「フフフ、そういうわけだからこの依頼が終わるまではよろしくね。さあ、そろそろ眠りましょう。あまり起き過ぎていると、明日の活動に支障をきたしちゃうわ」
「アリス、待ってくれ」
部屋の中に戻ろうとするアリスへ、このままではいけないと手を伸ばし呼び止めようと。
「ッ!?」
しかしその手は途中で止まってしまった。
なぜならそのときとある考えが脳裏に浮かんだのだ。それはせっかくたどり着いたカノンへの道が、アリスの手をとることで閉ざされてしまうのではないかという不安。それによりアリスを呼び止められなかったのだ。
「――オレは……」
もはやどうすればいいかわからず、しばらくのあいだ立ち尽くすしかないレイジなのであった。
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