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6章 第1部 アリスの来訪
233話 レーシスの誓い
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時刻は21時ごろ。ここは田舎にあるさびれた孤児院である。
ほかの孤児たちが建物内でガヤガヤしてる中、8歳のレーシスは外に出た。
外は少し肌寒いが、ちょうどいい感じの風が吹いていて心地よい。あと田舎ゆえ空気が済んでおり、上空を見上げれば満点の星空が広がっている。さらにあたりは降り注ぐ月の光で、夜だというのに明るかった。
孤児院の敷地内にある庭はかなり広々としており、子供たちが遊べるよう様々な遊具が設置されているという。さすがにこんな時間ゆえ外で遊んでいる子供はいないが、一人ぽつんとベンチに座っている少女の姿が。彼女はターミナルデバイスで、周囲に様々な空中ディスプレイを表示させながらなにやら作業をしていた。
「よお、リネット、こんな遅くまでがんばってるのか」
「今忙しいから邪魔しないで」
話しかけると、リネットは話しかけてくるなと言いたげに冷たく告げてきた。
彼女はレーシスと同い年で、最近この孤児院に来た少女。口が悪く、どこか冷たい少女でいつも一人。遊ばず黙々とターミナルデバイスをいじっているという。
「ウデを上げるのはいいことだが、根を詰めすぎじゃないのか?」
「ふん、このクソみたいな世界を壊せるなら、なんだってしてみせるんだから」
リネットは手を止め、忌々しげに空を見上げ宣言する。
「そんなに今の世界が嫌いなのか?」
「弱者が踏みにじられるこんな世界、大っ嫌いよ! アタシの過去、知ってるでしょ?」
「ああ、俺も大概だが、リネットのはさらに拍車がかかってるもんな」
彼女の家族は、セフィロトの不変の世界によってめちゃくちゃにされたらしい。というのも今の世の中、上の者たちが富を増やし続けたことによって起こる貧富の差の拡大で、下の者は非常に生きずらくなっているのだ。金銭の問題はもちろん、不変の世界により一度枠組みに組み込まれたら上にはいけない社会体制。そういった様々な事情により、家庭が崩壊するというのはよくある話らしい。リネットの場合は、両親が今の社会にメンタルがやられ、毎日ケンカばかり。さらには人生に絶望し、彼女を残して自殺してしまったとか。ここまではレーシスも大体同じ過去。しかしリネットはそこから親戚にたらいまわしにされ、あげくの果てに完全に捨てられてしまった。そこからしばらく、一人だけで生きてきた壮絶な過去を持っていた。そんなリネットゆえ、どれほどこの世界を憎んでいるのか想像もつかなかった。
「だから放っておいて。アタシはあんたたちと慣れあってるヒマはない」
「ハハハ、そうかい」
拒絶されたレーシスだったが、笑いながらもリネットの隣に座る。
「って、人の話聞いてる! 邪魔だから、さっさとどっか行けっ言ってるの、バカ」
「そう言うなって。俺もこのクソみたいな世界は大っ嫌いなんだ。だからリネットについていってやるよ」
そして彼女の頭に手を乗せながら、万感の思いをこめて告げた。
「はあ? あんた正気?」
「おいおい、まさかこれから世界を回す歯車となって、奴隷のごとく生きていけっていうのかよ。誰がこんなクソみたいな世界のために、犠牲にならないといけないんだって話だ。それならリネットについて行って、世界を壊すために人生を使ったほうが何倍もマシだ、ハハハ」
大げさに肩をすくめながら、豪快に笑う。
(なによりこんなリネットを、放っておけるわけないしな)
レーシス自身、人生をめちゃくちゃにされたためこの世界を憎んでいる。その気持ちは確かだが、一番の理由はリネットのことが心配だからだった。実をいうと初めて会ったときから、なぜだか彼女に惹かれていたのだ。それは同情心なのか、恋心なのかわからない。ただどうしても放っておけなかったのである。
「フフ、あんたもアタシと同じで結構いかれてるのね」
さっきまでずっと険しい表情だったリネットだが、少しやわらかくなった気がする。どうやらちょっとだけ、心を開いてくれたみたいだ。
「そういうことだ。だから組もうぜ」
「いいわよ。ちょうどアタシの手足となって使える駒が、欲しかったところだし」
「ひでー、言いようだな」
「駒がイヤならいっぱい役に立ちなさい。そうしたらアタシのパートナーとして、使ってやらないこともない」
リネットはぷいっとそっぽを向きながら主張する。ほおを赤く染めながらだ。
「へいへい、せいぜいがんばらせてもらいますよ」
「――レーシス……」
それからリネットはまっすぐにレーシスを見つめる。
「うん?」
「――二人でこんな世界変えよう……」
手をレーシスの方へ差し出しながら、心からの願いを口にするリネット。
「ああ、そうだな。絶対に」
そんな彼女の手を取り、迷いなくうなずく。たとえこれからどんなことが起ころうと、この願いだけはかなえてみせると誓いながらだ。
そして二人で輝く星々を見上げ、世界を変えてみせると決心しあう。つかみあった手に、ギュっと力をこめて。
「いやいや、興味深い話をしてるね、キミたち」
だがそこへ見知らぬ男の声が割り込んできた。
「なによ」
リネットはパッと手を離し、気恥ずかしそうに男へ文句を言う。
「ハハハ、すまない。あまりに心踊る話だったから、いい雰囲気だったのについつい割り込んでしまったよ」
「別にそんなんじゃ……」
「ふっ、それでキミたち、先ほどの話、ワタシも一枚噛んでいいかな?」
そして男はレーシスたちに手を差し出し、不敵にほほえんできた。
「「え?」」
これがレーシスたちと、のちの狩猟兵団を作った男、アラン・ライザバレットの出会いであった。
「――う……、また懐かしい夢を見ちまったもんだぜ」
目を開けると、レーシスの借りているマンションの天井が見える。
どうやらソファーに座ったまま、寝ていたらしい。時刻を見ると現在23時であった。
「うん、誰だ? こんな時間に」
ふと着信が鳴ったので、とりあえず出ることに。
「やあ、レーシス。ワタシだ、アランだよ」
電話の相手は小さいころからよく知っている人物、アラン・ライザバレットである。
「実はキミに一つ、頼みがあってね」
そしてアランは執行機関のエージェントであるレーシスに、とある頼みを告げてくるのであった。
ほかの孤児たちが建物内でガヤガヤしてる中、8歳のレーシスは外に出た。
外は少し肌寒いが、ちょうどいい感じの風が吹いていて心地よい。あと田舎ゆえ空気が済んでおり、上空を見上げれば満点の星空が広がっている。さらにあたりは降り注ぐ月の光で、夜だというのに明るかった。
孤児院の敷地内にある庭はかなり広々としており、子供たちが遊べるよう様々な遊具が設置されているという。さすがにこんな時間ゆえ外で遊んでいる子供はいないが、一人ぽつんとベンチに座っている少女の姿が。彼女はターミナルデバイスで、周囲に様々な空中ディスプレイを表示させながらなにやら作業をしていた。
「よお、リネット、こんな遅くまでがんばってるのか」
「今忙しいから邪魔しないで」
話しかけると、リネットは話しかけてくるなと言いたげに冷たく告げてきた。
彼女はレーシスと同い年で、最近この孤児院に来た少女。口が悪く、どこか冷たい少女でいつも一人。遊ばず黙々とターミナルデバイスをいじっているという。
「ウデを上げるのはいいことだが、根を詰めすぎじゃないのか?」
「ふん、このクソみたいな世界を壊せるなら、なんだってしてみせるんだから」
リネットは手を止め、忌々しげに空を見上げ宣言する。
「そんなに今の世界が嫌いなのか?」
「弱者が踏みにじられるこんな世界、大っ嫌いよ! アタシの過去、知ってるでしょ?」
「ああ、俺も大概だが、リネットのはさらに拍車がかかってるもんな」
彼女の家族は、セフィロトの不変の世界によってめちゃくちゃにされたらしい。というのも今の世の中、上の者たちが富を増やし続けたことによって起こる貧富の差の拡大で、下の者は非常に生きずらくなっているのだ。金銭の問題はもちろん、不変の世界により一度枠組みに組み込まれたら上にはいけない社会体制。そういった様々な事情により、家庭が崩壊するというのはよくある話らしい。リネットの場合は、両親が今の社会にメンタルがやられ、毎日ケンカばかり。さらには人生に絶望し、彼女を残して自殺してしまったとか。ここまではレーシスも大体同じ過去。しかしリネットはそこから親戚にたらいまわしにされ、あげくの果てに完全に捨てられてしまった。そこからしばらく、一人だけで生きてきた壮絶な過去を持っていた。そんなリネットゆえ、どれほどこの世界を憎んでいるのか想像もつかなかった。
「だから放っておいて。アタシはあんたたちと慣れあってるヒマはない」
「ハハハ、そうかい」
拒絶されたレーシスだったが、笑いながらもリネットの隣に座る。
「って、人の話聞いてる! 邪魔だから、さっさとどっか行けっ言ってるの、バカ」
「そう言うなって。俺もこのクソみたいな世界は大っ嫌いなんだ。だからリネットについていってやるよ」
そして彼女の頭に手を乗せながら、万感の思いをこめて告げた。
「はあ? あんた正気?」
「おいおい、まさかこれから世界を回す歯車となって、奴隷のごとく生きていけっていうのかよ。誰がこんなクソみたいな世界のために、犠牲にならないといけないんだって話だ。それならリネットについて行って、世界を壊すために人生を使ったほうが何倍もマシだ、ハハハ」
大げさに肩をすくめながら、豪快に笑う。
(なによりこんなリネットを、放っておけるわけないしな)
レーシス自身、人生をめちゃくちゃにされたためこの世界を憎んでいる。その気持ちは確かだが、一番の理由はリネットのことが心配だからだった。実をいうと初めて会ったときから、なぜだか彼女に惹かれていたのだ。それは同情心なのか、恋心なのかわからない。ただどうしても放っておけなかったのである。
「フフ、あんたもアタシと同じで結構いかれてるのね」
さっきまでずっと険しい表情だったリネットだが、少しやわらかくなった気がする。どうやらちょっとだけ、心を開いてくれたみたいだ。
「そういうことだ。だから組もうぜ」
「いいわよ。ちょうどアタシの手足となって使える駒が、欲しかったところだし」
「ひでー、言いようだな」
「駒がイヤならいっぱい役に立ちなさい。そうしたらアタシのパートナーとして、使ってやらないこともない」
リネットはぷいっとそっぽを向きながら主張する。ほおを赤く染めながらだ。
「へいへい、せいぜいがんばらせてもらいますよ」
「――レーシス……」
それからリネットはまっすぐにレーシスを見つめる。
「うん?」
「――二人でこんな世界変えよう……」
手をレーシスの方へ差し出しながら、心からの願いを口にするリネット。
「ああ、そうだな。絶対に」
そんな彼女の手を取り、迷いなくうなずく。たとえこれからどんなことが起ころうと、この願いだけはかなえてみせると誓いながらだ。
そして二人で輝く星々を見上げ、世界を変えてみせると決心しあう。つかみあった手に、ギュっと力をこめて。
「いやいや、興味深い話をしてるね、キミたち」
だがそこへ見知らぬ男の声が割り込んできた。
「なによ」
リネットはパッと手を離し、気恥ずかしそうに男へ文句を言う。
「ハハハ、すまない。あまりに心踊る話だったから、いい雰囲気だったのについつい割り込んでしまったよ」
「別にそんなんじゃ……」
「ふっ、それでキミたち、先ほどの話、ワタシも一枚噛んでいいかな?」
そして男はレーシスたちに手を差し出し、不敵にほほえんできた。
「「え?」」
これがレーシスたちと、のちの狩猟兵団を作った男、アラン・ライザバレットの出会いであった。
「――う……、また懐かしい夢を見ちまったもんだぜ」
目を開けると、レーシスの借りているマンションの天井が見える。
どうやらソファーに座ったまま、寝ていたらしい。時刻を見ると現在23時であった。
「うん、誰だ? こんな時間に」
ふと着信が鳴ったので、とりあえず出ることに。
「やあ、レーシス。ワタシだ、アランだよ」
電話の相手は小さいころからよく知っている人物、アラン・ライザバレットである。
「実はキミに一つ、頼みがあってね」
そしてアランは執行機関のエージェントであるレーシスに、とある頼みを告げてくるのであった。
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