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5章 第5部 ゆきの決意

226話 銃撃姫

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 ゆきが建物内へ入ってすぐ、外では激しい戦闘が。
 幾度となく銀閃が交差し、火花が舞う。廃工場入口辺りでは現在、レイジとエデン財団上層部のエージェントであるナツメが刀を振るい斬り結んでいた。

「ハッ!」
「フッ!」

 両者渾身こんしんの斬撃がぶつかり、火花を散らしながらはじき合う。
 そしてレイジはすぐさま連撃を放とうと斬りかかるが。

「ちっ、ちょこまかと!」

 レイジの一閃は空振ってしまう。というのもすぐさまナツメが大きく後方に跳躍ちょうやくしたのだ。
 相手が距離をとったと思ったのもつかの間、彼女は縦横無尽に疾走しながらまたたく間に接近。すれ違いざまに精確無慈悲な鋭い斬撃をくりだしてくる。
 それをなんとか受け流し追撃しようとするが、またもやナツメは距離をとっていた。

(真っ向から斬り合ってはくれないタイプか)

 彼女は持ち前の機動力をいかした、ヒットアンドアウェイによる一撃必殺重視の戦闘スタイルらしい。そのため真っ向からの斬り合いが難しく、決定打をなかなか与えられていなかった。
 ここで分がわるいのは、ナツメの方が速度が上ということ。そのため高速戦闘に持ち込めるは持ち込めるのだが、どうしても相手の方にアドバンテージが。しかも彼女の剣は精確無慈悲に敵の急所を狙う、暗殺に特化した代物。下手に仕掛ければ、返り討ちに合う可能性が高いのだ。レイジとしては苦手なタイプといっていい。

「こうなってくると力でねじ伏せたくなるが、あっちもあっちで」
「これで終わり。死んじゃえ!」
(きやがった!?)

 ここで一番警戒していたことが。
 それはナツメが大きく跳躍し、レイジの真上をとった時に起こった。その瞬間、彼女の振りかぶった刀に禍々まがまがしい黒い炎が。そして放たれる通常のアビリティをはるかに超える、極大の一撃が。

「そっちが抜くなら、こっちも使わせてもらうぞ!」

 対してレイジはその攻撃を正面から受け止めようと。とっさに森羅しんらからもらった破壊のアビリティを起動し、こちらも刀に黒い炎をまとわせた。
 そして激突し合う、極度の破壊の概念をまとった斬撃。その余波で大気が震え、地面に亀裂が走っていく。

「くっ!?」
「きゃっ!?」

 切り札による激突であったが、勝敗は引き分け。あまりの力のぶつかり合いに、両者はじき飛ばされる結果に。

「やっぱり同じアビリティか。まさかエデン財団側にも、この力を使えるやつがいただなんて。ただものじゃないやつら、ばっかりだな」
「ふーん、あなたもこの力を使えるんだ。ふふっ、いいよ、ならこの黒炎で存分に斬り合おうよ。ナツメの破壊か、あなたの破壊か、どちらが上か。そして斬り捨てさせて!」

 ナツメは心底おかしそうに笑う。そして再び刀に黒炎をまとわせ、レイジに突き付けてきた。
 敵は同じアビリティを見て、おもしろいとテンション爆上がりの様子。ひるむどころか、やる気満々になってしまった。

(ヤバい、ガッツリ黒炎を使う気だ。こっちはただでさえ扱い慣れてないのに……)

 軽々使っているところを見るに、熟練度は明らかにナツメが上。今まではこのアビリティの規格外の破壊力でゴリ押しして、なんとかなってきた。しかし相手も同じ力を使ってくると、その優位性はなくなってしまう。となればあとは練度がモノをいうことに。

(そもそもの話、この力はあまり使いたくないんだが……)

 せっかくカノンに出会え、彼女のもとでちかいを果たせるようになった今、破壊のアビリティを使うことにためらいがあった。というのもこの破壊の力を行使するのに必要な破壊衝動は、かつての狩猟兵団のころの自分。闘争の狂気に取りつかれていた久遠レイジに戻る必要がある。それは平和を愛するカノンの想いを、踏みにじるような気がして止まないのだ。

「いくよ!」
「ッ!? やるしかないか!?」

 ナツメが地を蹴り突撃を。
 迎え撃とうとしたそのとき、レイジの後方から鳴り響く銃撃音の数々が。

「この!?」

 だがその攻撃はレイジに向けてではなく、ナツメへ。一斉掃射は彼女の進行を妨げようと、牙をむく。                                    
 そのおかげでナツメは後方に下がることを余儀よぎなくされ、レイジに対する猛攻が一時止んだ。

「花火!?」
「きゃはは、助けに来てあげたよー、久遠くおん!」

 花火が軽機関銃を持ちながら、駆けつけてくれる。
 どうやら彼女もバグの位置を特定し、空間内に入ってきてくれたみたいだ。

「ここは花火さんがひと肌脱いであげるから、先へ進みな!」
「あの炎は災禍さいかの魔女と同じ力だぞ。いけるか?」
「ようは近づかせなければいい話っしょ。ウチの自慢の銃器たちにお任せってね!」
「じゃあ、頼む。マナは?」
「一緒にこっちに来てるよ。今はバグの本体の位置を特定してくれてる。わかり次第座標を送るってさ」
「わかった」

 花火にナツメの相手を任せ、建物内に向かおうとすると。

「あなたはナツメの絶好の得物。逃がさない」

 ナツメが地を蹴り、刀をきらめかせながら突撃を。
 しかしそこへレイジをかばうように前に出てくれる花火。

「おっと、お嬢ちゃんの相手はウチってね!」
「邪魔するなら、あなたから斬り捨てる」
「わお、物騒だねー。女の子が刃物なんて振り回しちゃいけないよー」
「銃を撃ちまくる女に言われたくない」
「きゃはは、確かに、ね!」

 花火はケラケラ笑いながら、軽機関銃をかまえる。そして突貫とっかんしてくる敵めがけて、銃をぶちかました。
 そんな彼女たちの戦闘が始まったと同時に、建物内へ侵入するレイジなのであった。






 けたましい銃撃音を響かせ、マズルフラッシュの光が幾度となくきらめく。次の瞬間、彼女特性の強化された銃弾が、襲いかかるナツメに飛翔していった。

「ふっ、そんな攻撃、当たらない」

 だがナツメは銃弾の猛攻を左右に疾走しながら、軽くかわしていく。そして間合いを詰め、花火に斬りかかろうと。

「おっと、やるねー! なら次はこれでどうだ!」

 花火は軽機関銃を放り投げ、アイテムストレージからセミオート式のショットガンを二丁取り出す。それから敵めがけて、連射した。

「チッ!?」

 さすがに正面にばらまかれる散弾の雨にはたまらず、大きく後退するナツメ。

「きゃはは、あがってきたー! ここからがウチの真骨頂しんこっちょうじゃん! さあ、撃ちまくるよー!」

 花火はショットガンをアイテムストレージに入れ、手を横に大きく振りかざす。するとその直後軽機関銃が六丁、宙に浮いた状態で目の前に展開された。そして彼女の掛け声とともに一人でに動き出す。銃口を標的にさだめ、一斉掃射を。

「ナッ!? この! 黒炎よ!」

 降りそそぐ銃弾の嵐を前に、ナツメは黒い炎をまとわせた刀をその場で一閃させた。
 次の瞬間、いかなるものも破壊しつくす炎がナツメを守るように広がり壁に。無数の銃弾を飲み込み、焼き尽くしていく。
 そしてその隙にナツメは左方向へと跳躍。黒炎の壁が消える前に回避しきり、やり過ごした。

「やるじゃん! でも、チェックメイトってね!」

 花火は不敵な笑みを浮かべながら、指をパチンと鳴らす。
 するとすぐそこの建物の屋上の方から、一発の銃声が響き渡った。

「ハッ!? クソッ!?」

 ナツメは背後から迫りくる高威力の弾丸を、間一髪のところではじいた。
 ただ完全には軌道をずらせず、肩の方をかすめたみたいだが。

「マジ!? 今のをはじくってどういう反射神経してんの!?」

 これには花火も予想外。屋上に仕掛けた対物ライフルの一撃を、完璧な不意打ちで放ったにも関わらずしのがれてしまったのだから。

「もう一人いる? いや? これはもしかして」
「きゃはは、これがウチの銃劇じゅうげきのアビリティ。見てのとおり銃器を、自由自在に操ることができるんだよねー。だから降参するなら今のうち! でないとハチの巣にされちゃうよー?」

 得意げに笑いながら、手で銃の形を作る。そしてウィンクし、バーンと撃つジェスチャーを。

「もう怒った。あなたを斬って斬って斬り殺す」

 ナツメは挑発とこれまでの銃による攻撃で、怒りが爆発したらしい。特大の殺意を向け、刀を突き付けてくる。

「あちゃー、怒らせちゃったかー。まっ、そっちがその気なら受けて立つじゃん! 本当なら銃器を仕掛けまくった、元の入り口のところでやりたいけどしかたない。さあ、ウチのかわいい銃器たち。電子の導き手SSランク銃劇姫の本領ほんりょう、とくと見せてやるじゃんよ!」

 対してさまざまな銃器を展開し、迎え撃つ花火なのであった。





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