電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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5章 第5部 ゆきの決意

223話 忍び寄る陰

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 静野しずのナツメは月明かりに照らされた荒野を、歩いて行く。周囲は静まり返っており、荒れた大地を蹴る二人分の足音だけがひびいていた。
 ナツメのすぐ後ろには、一人の少年の姿が。彼はナツメの二つ年上でロウガと名乗っている。人相がわるく、非常に無口な少年だ。すでになんども一緒に任務をこなしてはいるが、今だ彼のことはよくわからなかった。
 二人で歩いていると、次第に大きな廃工場が見えてくる。そしてその道中にメガネをかけ白衣を着た、三十代後半の男の後ろ姿が。

「はかせ、言われた通り、軽くちょっかいかけてきた」
「ご苦労様でした、ナツメさん、ロウガくん」

 ヴィクターはナツメたちに振り返り、ねぎらいの言葉をかけてくる。
 彼こそエデン財団上層部の人間、ヴィクター・エストマン。ナツメたちの護衛対象である。

「けっ」

 しかしロウガは苛立ちげに、顔をそむけた。

「おや、機嫌がわるそうですね、ロウガくん」
「ロウガだけじゃない。不服なのは私も同じ。なんで倒しちゃだめだったの? あんなんじゃ、全然暴れ足りない」

 ヴィクターに非難の視線を向けながらたずねる。
 実は敵の車両を破壊してすぐ、ヴィクターから通信でもう十分だと撤退の指示を受けていたのだ。本来ならすぐにでも追い打ちをかけたかったが、しぶしぶ退くことにしたという。

「ふっ、ここで二人に疲れてもらっては困りますからね。我々の目的は例のモノの回収。正直彼女たちにかまってるヒマなどないのですよ」

 するとヴィクターはナツメたちのトゲのある態度に対し、すずしげに返してきた。

「もういい。それで場所は特定できたの?」
「ええ、二人が彼女たちの足止めをしてくれている間に、無事特定しおわりました。あとはこのまま乗り込むだけです」

 大型の廃工場に視線を向けながら、不敵に笑うヴィクター。
 どうやらあそこにエデン財団上層部が狙っているブツがあるらしい。

「いっぱい斬れる?」
「ええ、向こうも盛大に歓迎してくれそうですから、それはもう」

 ナツメの無邪気な質問に、ヴィクターはにっこりほほえんだ。

「ハッ、すべて食らいつくしてやる」
「私の得物をとったら容赦しないから」

 ナツメ同様ヤル気になっているロウガへ、釘をさしておいた。
 だが彼は吐き捨てるだけで。

「けっ、知るか」
「こいつ」
「倒すのは敵だけにしといてくださいね。とりあえず好きなだけ暴れていいですが、もし邪魔者が来たら梅雨払いをお願いします。例のモノには近づかせないように」

 今すぐ斬りかかろうかと思っていると、ヴィクターが仲裁ちゅうさいに入りながらオーダーを。

「それでは参るとしましょう。我々が植えた種が、どれほど育ったのかを確認しにね。うまくことが進めば、計画は一気に加速する、ふっ」

 そしてヴィクターは不気味な笑みを浮かべながら、歩みを進めるのであった。




 レイジたちは幽霊の女の子にいざなわれるように、移動していた。
 あれからすぐ幽霊の女の子は姿を消してしまった。だがその接触せっしょくにより、マナが彼女からバグの余波を感知したという。それにより幽霊の女の子の痕跡こんせきを追えるようになり、ここまできたというわけだ。ただ気になるのは、彼女があえて痕跡を残しているのではないかという事実。その証拠に彼女は道中度々姿を見せていたのだ。まるでこっちだよと、手招きしてるかのように。

「もしかしてここにバグが?」
「へー、なかなかでかい工場跡地じゃん」

 レイジたちがたどり着いたのは、荒野の中にたたずむ大型の工場。どうやら自動車の組み立て工場らしく、その規模はかなりのもの。いくつもの工場施設が立ち並んでいるといっていい。ただそんな立派な工場だが、ここはクリフォトエリアのため廃墟はいきょ風。あちこち窓ガラスが割れ、壁や天井が崩れていた。

「マナ、どうだ? なにか感じるか?」
「はい、微弱ですが、バグの気配を感知しましたぁ。おそらくこの工場地帯のどこかにアーカイブポイントのような空間があるはずですぅ」
「詳細な位置はわかるか?」
「少し時間をいただければ、見つけられるとおもいますぅ」
「ここのどっかにあるなら、直接探しに行ってもありかもな。となると二手に分かれるか?」

 このままだとレイジはしばらくなにもすることがない状態に。なのでマナに調べてもらってる間に、廃工場内に潜入して探しておくべきだろう。そこへ電子の導き手のゆきか花火に同行してもらえば、効率がさらに上がるはずであった。

「それがよさそうだねー。じゃあ、ウチがマナちゃんの護衛をしとくよ。さすがに中で戦闘になったら、遮蔽物しゃへいぶつが多くて不利になりそうだし」

 花火がマナの白ネコのガーディアンの頭をなでながら、提案してくる。

「確かに。じゃあ、お互い気を付けて行動しよう。いつさっきのやつらが襲ってくるか、わかったもんじゃないからな」
「先手をとれてたらいいんだけどねー。もし後手に回ってたら、待ち伏せとかいろいろ厄介なことになりかねないし」

 そう、問題は先に見つけたのが、レイジたちなのかという話。今のところ周辺に人の気配はないらしい。だが改ざんのステルス状態にしていたり、先にバグの生み出した空間に入っている可能性も。なのでもしもの場合も想定しておかなければならなかった。

「ははは、その時は返り討ちにするだけさ。今のところマジのバケモノクラスは見かけてないし、オレたちでもなんとかできるはずだ」

 前回乱入してきたエデン財団上層部のエージェント。バイロンや咲がいたら、戦力的なことを考えもっと慎重に動かなければならない。しかしナツメとあの大型オオカミなら、レイジたちでもまだ対処可能な相手。ゆえに少しぐらい強気にでても大丈夫だと判断していた。

「だといいけど。とりあえず護衛しながら、迎撃準備を整えて周辺を見張ってるから」
「花火、頼んだ。そういうことでいくぞゆき」

 花火にこの場を任せ、先ほどから口数が少なくおとなしいゆきに声をかける。

「え? ゆきも行くのぉ……? ゆきもまなたちとお留守番がいいよぉ……」
「いや、オレだけだと目視で探すことになるんだぞ。改ざんで調べながら歩いたほうが、絶対効率がいいだろ」

 まったく乗り気じゃないゆきに、正論をぶつける。

「――で、でもぉ……」

 目をふせながら、震えた声でなんとか抗議しようとするゆき。

「ほら、いくぞ」

 このままではラチがあかないので、彼女の腕を引っ張りながら建物内へと向かう。

「まてぇ!? くおん!? ゆきも残るんだもん! 行きたくないよぉ!」

 ゆきが必死に抵抗しようと声を荒げるが、おかまいなしに連れて行くレイジなのであった。
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