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5章 第3部 白神コンシェルンの秘密
211話 マナのお願い
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軍に頼まれていた仕事があらかたおわったため、レイジとゆきはかつて白神守に連れてこられた巫女の間の入り口に来ていた。
ここは神々しさが際立つ巨大な神殿のような構造をしており、最奥にはエデンの巫女の作業場があるらしい。建物内は暗いが壁に等間隔で火のついた松明が設置され、全体がほんわかした明かりに照らされている。あとここはブラックゾーンの中に位置しているそうで、どこか空気が重々しく得体のしれない気配が周囲に満ちているといってよかった。
この巫女の間こそ今回の守との待ち合わせ場所なのである。ちなみにここに座標移動する権限はゆきとレイジにも与えられており、いつでも来れることが可能であった。
「そういえばゆき、守さんはなんて言ってたんだ?」
「マナがいる巫女の間に、来て欲しいとだけぇ。なんでも連れて行きたい場所があるんだってぇ」
「連れて行きたい場所か。このタイミングとなると、やっぱり次期当主候補関連だよな」
「たぶんねぇ。――はぁ……、なんだかすごく気が重いー。このままなし崩し的に話が進んで、逃げれなくなりそうでさぁ」
ゆきはがっくり肩を落とし、ため息をつく。
「ははは、やれることはもうほとんどやったし、そろそろ潮時か?」
「――くっ、まだこんなところでおわれるかぁ。ゆきの優雅な引きこもり生活が、かかってるんだからぁ!」
胸元近くで手をぐっとにぎりしめながら、闘志を燃やすゆき。
「――まあ……、オレとしては早く折れて、この案件から解放してもらいたいんだがな」
レイジとしてはゆきのサポートではなく、そろそろアイギスの仕事の方に戻って暴れたいのだが。
「レイジにいさまー! ゆきねえさまー!」
「おっ、マナ、来てくれたのか」
そんなことを考えていると、奥の方からエデンの巫女であるマナがはずむ足取りでかけてきた。
「はい、お二人が来てるのに、顔を見せないわけにはいきません! いち早く歓迎するためにも、猛ダッシュで来ましたぁ!」
マナはその場でぴょんぴょん飛び跳ねながら、力説を。
「そっか、お出迎え、ごくろうさま」
そんなマナの頭を優しくなでてやる。
「えへへ、レイジにいさまになでられるの、すごくここちいいですぅ」
するとマナはくすぐったそうに目を細め、甘えてきた。
そのなつかれ具合と、さらに彼女の小動物のような容姿もあって、思わず抱きしめたくなる衝動に駆られてしまう。
「――そうだ、まながいたぁ……」
そうこうしていると、ゆきがマナに対し目を見開きだす。
「どうしましたか? ゆきねえさま?」
「まな、折り入って頼みがあるのぉ! どうか協力してぇ!」
小動物のように首をかしげるマナに、ゆきは彼女の手をとって泣きつきにいった。
「おいおい、まさかマナに助けてもらう気か?」
「もうなりふりかまってられないもん! たとえ妹分に泣きつくことになってもねぇ!」
「うーん、妹というか、姉に泣きついているようにしか見えないが」
ゆきの容姿はレイジと同い年でありながら、小学生と勘違いしそうなほど。なのでマナの方が身長が高く、妹に泣きつくというより、正直姉に泣きついているようにしかみえなかった。
「うるさいなぁ! くおんは少しだまっといてぇ! そんなことより、まなー!」
「ゆきねえさま、もしかして次期当主候補の件ですかぁ?」
「それぇ! なんとかならないー?」
「そうですねぇ。巫女の力が持つ、反則技を使いまくればなんとかなるかもぉ……」
いくらマナでもと思っていたが、なんと手があるみたいだ。
さすがはエデンの巫女。彼女の持つ力や権限は今だよくわからないが、やはりすごい存在だったようだ。
「まじでぇ!」
思いもよらない展開に、目を輝かせるゆき。
「――でも、ごめんなさい、ゆきねえさま。この方法はちょっと問題がありすぎるといいますかぁ。なによりマナ自身、気があまり進まないんですよねぇ」
うまくいきそうな雰囲気だったが、マナが申しわけなさそうに首を横に振った。
「えー、どうしてぇ!?」
「もしゆきねえさまが当主になったら、エデンの巫女の管理を守さんから引き継ぐことになります。そうなればゆき姉さまと一緒にいられる時間が増え、いっぱい甘えられることに! だからゆきねえさま! ぜひとも白神家当主になってください! そしてマナの面倒をもっとみてほしいですぅ!」
マナはゆきにギューっと抱き着く。そして上目遣いで、お願いしだした。
どうやら今回の件に関して、マナは味方になってはくれなさそうだ。もはや守や楓たちの味方をしそうな勢いといっていい。
「――うっ……、なんていじらしいお願いだぁ。ゆきはまなのためにも当主に……」
「お-、ゆきの心が揺れている」
あんなに目をキラキラさせてお願いされたら、レイジとてうなずくしかないというもの。
ゆきもそのあまりのかわいさに、葛藤が押しよせているようだ。
「――いや、だめだぁ……。さすがに失う物が多すぎるー。ごめんなぁ、まな」
だがなんとか自分の方に天秤をかたむけられたらしい。ゆきはマナの頭をなでながら謝る。
「それは残念ですねぇ。でも、マナはずっと待っていますのでぇ」
するとマナは祈るように手を組みながら、けなげにほほえんだ。
「――ゆき、レイジさん、お待たせしました。それでは早速、向かいましょうか」
そうこうしていると守が座標移動でやってくる。
「――あ、父さん、やっときたぁ。一体どこに連れて行くきなのぉ?」
「フッ、ゆきにとっては非常に興味深いところにですよ。白神家のことや、エデンの巫女のことを説明する前に、まずは見てきてほしいのです。今のエデン、いや、セフィロトの状態をね」
そして意味ありげな発言をしながら、守はレイジたちをある場所に誘うのであった。
ここは神々しさが際立つ巨大な神殿のような構造をしており、最奥にはエデンの巫女の作業場があるらしい。建物内は暗いが壁に等間隔で火のついた松明が設置され、全体がほんわかした明かりに照らされている。あとここはブラックゾーンの中に位置しているそうで、どこか空気が重々しく得体のしれない気配が周囲に満ちているといってよかった。
この巫女の間こそ今回の守との待ち合わせ場所なのである。ちなみにここに座標移動する権限はゆきとレイジにも与えられており、いつでも来れることが可能であった。
「そういえばゆき、守さんはなんて言ってたんだ?」
「マナがいる巫女の間に、来て欲しいとだけぇ。なんでも連れて行きたい場所があるんだってぇ」
「連れて行きたい場所か。このタイミングとなると、やっぱり次期当主候補関連だよな」
「たぶんねぇ。――はぁ……、なんだかすごく気が重いー。このままなし崩し的に話が進んで、逃げれなくなりそうでさぁ」
ゆきはがっくり肩を落とし、ため息をつく。
「ははは、やれることはもうほとんどやったし、そろそろ潮時か?」
「――くっ、まだこんなところでおわれるかぁ。ゆきの優雅な引きこもり生活が、かかってるんだからぁ!」
胸元近くで手をぐっとにぎりしめながら、闘志を燃やすゆき。
「――まあ……、オレとしては早く折れて、この案件から解放してもらいたいんだがな」
レイジとしてはゆきのサポートではなく、そろそろアイギスの仕事の方に戻って暴れたいのだが。
「レイジにいさまー! ゆきねえさまー!」
「おっ、マナ、来てくれたのか」
そんなことを考えていると、奥の方からエデンの巫女であるマナがはずむ足取りでかけてきた。
「はい、お二人が来てるのに、顔を見せないわけにはいきません! いち早く歓迎するためにも、猛ダッシュで来ましたぁ!」
マナはその場でぴょんぴょん飛び跳ねながら、力説を。
「そっか、お出迎え、ごくろうさま」
そんなマナの頭を優しくなでてやる。
「えへへ、レイジにいさまになでられるの、すごくここちいいですぅ」
するとマナはくすぐったそうに目を細め、甘えてきた。
そのなつかれ具合と、さらに彼女の小動物のような容姿もあって、思わず抱きしめたくなる衝動に駆られてしまう。
「――そうだ、まながいたぁ……」
そうこうしていると、ゆきがマナに対し目を見開きだす。
「どうしましたか? ゆきねえさま?」
「まな、折り入って頼みがあるのぉ! どうか協力してぇ!」
小動物のように首をかしげるマナに、ゆきは彼女の手をとって泣きつきにいった。
「おいおい、まさかマナに助けてもらう気か?」
「もうなりふりかまってられないもん! たとえ妹分に泣きつくことになってもねぇ!」
「うーん、妹というか、姉に泣きついているようにしか見えないが」
ゆきの容姿はレイジと同い年でありながら、小学生と勘違いしそうなほど。なのでマナの方が身長が高く、妹に泣きつくというより、正直姉に泣きついているようにしかみえなかった。
「うるさいなぁ! くおんは少しだまっといてぇ! そんなことより、まなー!」
「ゆきねえさま、もしかして次期当主候補の件ですかぁ?」
「それぇ! なんとかならないー?」
「そうですねぇ。巫女の力が持つ、反則技を使いまくればなんとかなるかもぉ……」
いくらマナでもと思っていたが、なんと手があるみたいだ。
さすがはエデンの巫女。彼女の持つ力や権限は今だよくわからないが、やはりすごい存在だったようだ。
「まじでぇ!」
思いもよらない展開に、目を輝かせるゆき。
「――でも、ごめんなさい、ゆきねえさま。この方法はちょっと問題がありすぎるといいますかぁ。なによりマナ自身、気があまり進まないんですよねぇ」
うまくいきそうな雰囲気だったが、マナが申しわけなさそうに首を横に振った。
「えー、どうしてぇ!?」
「もしゆきねえさまが当主になったら、エデンの巫女の管理を守さんから引き継ぐことになります。そうなればゆき姉さまと一緒にいられる時間が増え、いっぱい甘えられることに! だからゆきねえさま! ぜひとも白神家当主になってください! そしてマナの面倒をもっとみてほしいですぅ!」
マナはゆきにギューっと抱き着く。そして上目遣いで、お願いしだした。
どうやら今回の件に関して、マナは味方になってはくれなさそうだ。もはや守や楓たちの味方をしそうな勢いといっていい。
「――うっ……、なんていじらしいお願いだぁ。ゆきはまなのためにも当主に……」
「お-、ゆきの心が揺れている」
あんなに目をキラキラさせてお願いされたら、レイジとてうなずくしかないというもの。
ゆきもそのあまりのかわいさに、葛藤が押しよせているようだ。
「――いや、だめだぁ……。さすがに失う物が多すぎるー。ごめんなぁ、まな」
だがなんとか自分の方に天秤をかたむけられたらしい。ゆきはマナの頭をなでながら謝る。
「それは残念ですねぇ。でも、マナはずっと待っていますのでぇ」
するとマナは祈るように手を組みながら、けなげにほほえんだ。
「――ゆき、レイジさん、お待たせしました。それでは早速、向かいましょうか」
そうこうしていると守が座標移動でやってくる。
「――あ、父さん、やっときたぁ。一体どこに連れて行くきなのぉ?」
「フッ、ゆきにとっては非常に興味深いところにですよ。白神家のことや、エデンの巫女のことを説明する前に、まずは見てきてほしいのです。今のエデン、いや、セフィロトの状態をね」
そして意味ありげな発言をしながら、守はレイジたちをある場所に誘うのであった。
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