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5章 第3部 白神コンシェルンの秘密

210話 ゆきへの依頼

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「ほのか、最近のレジスタンス側の動きはどうなんだ?」

 あれから夜が明け、現在時刻は午前十時ごろ。レイジは一緒にお茶を飲んでいた軍人である倉敷くらしきほのかに、気になっていたことをたずねてみる。
 ここはゆきの新拠点であるアーカイブポイント。ばかでかい洋館内の最上階にある、ゆきの仕事部屋だ。以前は新築であったため物がほとんどない部屋であったが、今は製作中の武器やらガーディアン、メモリースフィアなどがあちこちに置かれ散らかっていた。
 現在レイジとほのかは来客用のソファーに座りながら、のんびりしているところ。彼女はとある任務でここを訪れており、今はゆきの代わりにレイジが相手している真っ最中なのであった。ちなみにここの主であるゆきはというと、作業机に座り死に物狂いで作業に没頭していた。

「どうやら下準備に徹しているようで、今のところ目立った動きはありませんね。政府側の情報をかぎ回ったり、演説で賛同者を集めるなどに力をいれてるみたいです。そのおかげで軍の方にもよゆうがでてきて、少し前の怒濤どとうの仕事量から解放されつつあるんですよ」

 ほのかはやっと一息つけたと、口元をゆるませる。

「そっか、お疲れさん。がんばった分、今ゆっくりしといていいぞ。なんなら、ここはオレに任せて、少しサボってくればいいし」
「いえいえ、十分くつろがせてもらってますよ。こうしてお話しにまで付き合っていただいて、もういたりつくせりです。それに学園の方も春休みに入ったことで、プライベートの時間がたっぷりとれるようになりましたし。どうかお気遣いなく!」

 レイジの気遣いに、ほのかはくったくのない笑みで返してくれた。
 そのあまりの純真さに、もはや感動せずにはいられない。

「ほのかは本当にいい子だな。ほら、ゆき、ほのかのためにも早くおわらせてやれよ」
「そう思ってるなら、少しは手伝ってよぉ! こっちは猫の手も借りたいほどなんだからぁ!」

 レイジの催促さいそくの言葉に、ゆきは涙目になりながら助けを求めてきた。
 ただ彼女が今やっているのは改ざんを使う電子のみちびき手の仕事。なのでレイジがいくら手伝いたくても、不可能なのだ。

「ははは、どう考えても無理だろ。オレなんて、見るだけで頭が痛くなる勢いなんだぞ」
「――えっと……、すみません、ゆきさん。できればわたしも手伝いたいんですけど、もうやってることの次元がすごすぎて、まったくついていける自信が……」

 ほのかは申しわけなさそうに目をふせる。

「いや、ほのかは謝らなくていいぞ。元はといえば、仕事をずっとほったらかしにしていたゆきが悪いんだからさ」

 なぜゆきが必死に作業をしているのか。理由は単純たんじゅんで、軍からの依頼を放置しまくっていたからだ。そして現在しびれを切らした軍側が、ほのかを直接送ってかしているという状況なのである。

「好きでほったらかしてたんじゃないもん! ここ数日次期当主になれ宣言で頭がいっぱいで、それどころじゃなかったんだよぉ!」

 ゆきは髪を両手でかきながら、必死に言いわけを。
 なんでも次期当主候補のことをかえでさんに言われてから、あまりの動揺で集中できず、ずっと後回しにしていたらしい。やっていたのは武器作りとか、アーカイブポイントの改造など自分の趣味ばかり。それで心の均衡をたもっていたとか。
 そして白神しらかみコンシェルン本部に呼び出された後は、当主候補の件を回避するためバタバタしっぱなしだった。そのせいで今朝連絡がくるまで、依頼の件を完全に忘れていたそうだ。

「ははは、とはいっても仕事は仕事だろ。ゆきはプロなんだし、引き受けた依頼はきちんとこなさないとな」
「むかぁ、好き放題いいやがってぇ! これがおわったら、あとでおぼえとけよぉ」

 ゆきはレイジを恨みがましくにらんでくる。だがそれもつかの間、今は時間がないため作業に戻っていた。

「そういえばほのか、今回軍側はどういう仕事を依頼したんだ?」
「主に新しいアーカイブポイントの設置場所の候補や、内部のセキュリティ案ですかね」

 アーカイブポイントを設置する時に大事なのは、その一帯の地理状況。近くにほかのアーカイブポイントがあったり、人通りが多かったりすると、それだけで狙われる可能性が高くなるのだ。なのでどこもできるだけ人目につかず、守りに適した地形を好むのであった。
 この適した場所を見つけるには、まずそのエリアのデータベース内にアクセス。地理データを読み込んでいく流れ。こうすることで座標移動で入ってきた地点や、一日にその場所を訪れた人数、戦闘が起こった場所など、さまざまな統計データを見ることが可能なのだ。あとはこれらのデータを分析していき、絶好の場所を見つけ出すのである。
 ただこの地理データの詳細を読み込んでいくには、その分改ざんのウデが必要となるそうだ。なのでどれだけランクが高いかで、分析できるレベルが違うといっていい。

「ほかにも倒した相手の履歴りれきデータの断片から、場所の特定などもお願いしてます」

 デュエルアバターを強制ログアウトすると、内部データ、個人データ、行動履歴のデータなどをランダムに落とす。だがそれは完全な形ではなく、断片的。そのため実際に有効活用するには、その断片をヒントに解読し特定していかなければならないのだ。そのため軍がレジスタンス側のデュエルアバターを強制ログアウトさせても、それですぐ逮捕や潜伏先を割り出すことができないのであった。

「現実での身分は軍の方で調べられるのですが、行動履歴の方はやはり電子の導き手の方じゃないと」
「行動履歴のやつって、難しいんだってな。できてもかなりアバウトな範囲までしか、特定できないとか」

 やり方はまずエリア内のデータベースにアクセスし、地理データを習得する。そこから手に入れた断片データと座標を照らし合わせ、特定していく流れらしい。話だけなら簡単そうだが、その難易度はきわめて高い。というのも詳細な地理データでないと照らし合わせることができず、それを呼び出すには最低でもAランクレベルのウデがないとだめとか。しかも断片データから得られる座標を解析するのさえ、骨が折れるそうだ。
 ちなみに特定は完璧にはできず、基本一、二キロぐらいの範囲内のどこかみたいになるとのこと。この範囲は、改ざんウデがすごいほどちぢまっていくらしい。

「はい、なのでゆきさんによく依頼させてもらうんです。彼女のクラスのレベルになれば、特定の精度はすごいですから」
「――よし、こっちはおわったぁ! ――はぁ……、でも、まだこんなにも残ってるんだよねぇ……。もぉ! ゆきはこんなことしてるヒマないのにー」

 話し込んでいると、ゆきが一段落ついたみたいだ。しかし彼女は喜ぶのも一瞬、すぐにぐったりと作業机に顔をふせてしまう。そしてうんざりした口調で文句を。

「――とはいっても、どうせ当てがないんだろ?」
「――うぅ……、そうだけどさぁ……」

 もはや当主候補の話を回避するため動きたくても、思いつく案はやりきってしまった。なので軍の仕事がなかったとしても、途方に暮れるしかないのである。

「あれぇ? メール? げっ、父さんからだぁ……」

 そうこうしているとゆきがなにかに気づいた。

「もしかして呼び出しか?」
「――はぁ……、そうみたいー。無視したいけど、さすがにあとが怖いからなぁ。しかたない、この仕事がおわったら、顔を出しにいくかぁ……」

 もはや投げやりな感じで、このあとの予定を立てるゆき。どうやらそうとう精神的にまいっているようだ。

「おう、がんばれ、がんばれ」
「もちろん、くおんも一緒だからなぁ」
「またかよ……。――はぁ……、いつになったら解放されることやら……」

 そしてレイジもゆきと同じく、大きなため息をこぼすのであった。





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