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4章 第4部 それぞれの想い

185話 風評被害

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 次第に薄暗くなり、夜になりつつある曇った空の下。レイジたちは咲のあとを追いながら、樹木じゅもくに浸食された廃墟の市街地を進んでいく。進行方向の先には街中だというのに、大きな湖が見え始めていた。

「ふふん、みーつけた!」
「くっ、さきか」

 ふと上の方から声が。視線を移すと、咲が電信柱の一番上に乗ってレイジたちを見下ろしていた。

「どうやら隠密行動もここまでのようですね」

 美月の言う通り、ばれてしまってはしかたない。
 今ごろ向こうの通信回線で、侵入したことが知れ渡ったはず。なので逃げられる前に、追い詰めなければ。

「もー、お兄さん、だめだよ。いくら咲が気になるからって、こんなところにまで追いかけて来ちゃー」

 咲は電信柱の上から地面へ華麗に着地。そして小悪魔みたいな笑みを浮かべ、ナイフを器用にクルクル回す。
 彼女はすでに臨戦態勢。どうやら追ってきた陣たちに気付き、消しにきたらしい。

「なるほど、レイジさんがそこまで熱心だったのは、彼女目当てだったというわけですね?」

 そんな緊迫きんぱくした場面だというのに、美月はふくみのある言葉を投げかけてくる。

「おい、美月、急になにを言いだしてるんだ?」
「クス、レイジさんが女の子のおしりを追っかけていた、客観的事実を述べただけですが?」
「え? レージくん、そうだったんだ? 私のためじゃなかったんだね」

 美月のニヤニヤしながらの主張に、カノンは目をふせさびしそうな表情を見せる。

「カノンさん、心中お察しします。どうやらレイジさんは小さい女の子がこのみの、ストーカー野郎だったみたいですね」

 そして美月はカノンの肩に手を置き、同情を。

「ふーん、久遠レイジってそういう男だったんだ」

 するとリネットがあきれた口調で感想を。もし本人がここにいれば、さげすんだ目で見てそうだ。
 カノンは冗談だとわかってくれるだろう。しかしレイジのことをよく知らないリネットや咲だと、勘違いしてもおかしくはない。ゆえにすぐさま抗議を。

「冗談でもやめてくれ。変なウワサでもたったら、どうしてくれるんだ?」
「うんうん、咲ってば罪作りな女だね! みんなに自慢しよっと!」

 レイジの危惧通り、咲が腕を組みながらまんざらでもなさそうに喜びだす。
 ヘタするとエデン財団上層部に、変な風評被害が知れ渡ってもおかしくはない状況であった。

「ほら、見ろ。咲がもり上がって、聞きづてならないことを言いだしたぞ」
「レイジさん。安心してください。彼女が広げなくても、ワタシが広げますので」
「ちっとも安心できんわ!」

 だがレイジの心配に対し、美月は胸に手を当てすずやかな笑顔で主張を。
 もはやあまりの立ちの悪さに、頭をかかえるしかない。レーシスやリネットが言っていた通り、片桐美月かたぎりみつきはやっかいきわまりない少女だと再確認するほかなかった。

「――まったく、それより咲。この先にエデン財団上層部の人間がいるのか?」
「うん、いるよー。すごいえらい人がねー。だから咲も派遣されたんだー」

  どうやらビンゴだったようだ。この先に上層部の中でもかなり上の人間がいるなら、それなりの情報が手に入るはず。
 レイジは刀をさやから引き抜き、咲に言い放つ。 

「そうか。なら、ここを通してもらうぞ」
「ふふん、嫌だよ。せっかくこんなところまで来てくれたんだから、咲がめいいっぱい歓迎してあげる! ひまな任務だなーって退屈してたところだから、ちょうどよかったよ! さあ、お兄さんたち、一緒に遊ぼう!」

 咲は両手を横に広げ、満面の笑みで通せんぼうを。
 無邪気な子供のような咲だが、彼女から放たれる重圧は相当なもの。レイジたちがたばになっても勝てるかどうか。

「リネット、上層部の人間がいると思われる場所まで、あとどのくらいですか?」
「もう少し。ほら、あの高いビルの屋上で、なにか調べてるみたい」

 オオカミ型のガーディアンの視線の先には、少しかたむいた高層ビルが。

「ではワタシたち二人で時間を稼ぎましょう。すぐに来てください」
「もう、向かってる」
「――うん? 空から音が?」」

 そんな彼女たちのやりとりを聞いていると、上空からばたく音がした。
 見上げると、人が乗れるほど巨大な鳥形のガーディアン。そしてその背中から飛び降り、レイジたちの方に降下してくるリネットの姿が。

「まったく、こんなにあたしを働かせて、人使い荒すぎ。その分の報酬はたっぷりもらうから、覚悟しといて」

 リネットは華麗に着地し、めんどくさそうに催促さいそくの言葉を。

「かまいませんよ。レイジさんたちが、たんまり用意してくれるはずですから」

 対して美月はレイジの方へ、得意げにウィンクしてくる。

「美月、なに、さらっとこっちに押し付けてるんだ?」
「クス、細かいことは気にせずに。さあ、先へ、行ってください」

 レイジの抗議を軽く流し、美月は先に進むよううながす。

「咲のやつすごい手強いぞ。それを二人だけでなんて」
「なんとか時間稼ぎぐらい、してみせますよ」
久遠くおんレイジ、幻惑げんわくの人形師のあたしがいるってこと、忘れないで」

 髪をばっとかきあげ、不敵な笑みを浮かべるリネット。

「わかった。ここは頼んだ」
「美月ちゃん、リネットちゃん、無茶はしないでなんだよ」

 上層部の人間に逃げられる恐れがあるため、時間をとられるわけにはいかない。
 美月の実力はわからないが、それなりにウデに自信がある様子。それにここにはゆきと同格であるリネットがいる。なので時間を稼ぐぐらいなら、二人でいけるかもしれない。よってここは彼女たちに任せることに。
 レイジとカノンは二人を残し、先へとひた走る。

「ふふん、逃がしてなんてあげない! ッ!? 炎!?」

 咲は逃がしはしないと追撃に出る。
 だが次の瞬間、レイジたちと咲の間に轟轟ごうごうと燃え盛る火柱が走った。なにが起こったのか後ろを確認すると、美月がレイピアを地面に突き刺しアビリティを起動している姿が。

「行かせませんよ。上層部のエージェント」
「あんたの相手はあたしたち」
「ふーん。ふふん、じゃあ、まずお姉さんたちからやってあげるね!」

 美月とリネットの宣言に、咲はナイフを突き付けニヤリと笑う。
 その隙にレイジたちは上層部の人間がいるであろう、高層ビルへと向かうのであった。

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