上 下
171 / 253
4章 第2部 それぞれの想い

166話 透とヴァーミリオン

しおりを挟む
「トオルセンパイ、お茶をどうぞっす」
「エリー、ありがとう」

 時刻は十時三十分ごろ。来客用のソファーに座っていると、エリーがお茶を出してくれた。
 とおるがいるのは、昨日アビスエリアの十六夜いざよい島で戦ったエデン協会ヴァーミリオンたちのオフィスである。中はあちこちに物が積まれ散らかっており、気性が荒そうなメンバーが多く集まるせいかどこか物騒な雰囲気がただよっていた。

「それにしてもまさか、透センパイとやり合うことになるとは」

 エリーは向かいのソファーに腰を下ろしながら、感慨深そうに笑う。

「はは、学園の方で嫌な予感はしてたけど、本当に敵として現れた時はきもを冷やしたよ。まさかエリーほどの強敵が立ちふさがるなんてね。おかげで完全に足止めされてしまった」

 出されたお茶をいただきながら、昨日エリーたちと戦った出来事を思い出す。
 レイジと結月を逃がしたあと、透と伊吹いぶきはエリーたちとしばらくやり合っていたのだ。相手の力量は互角かそれ以上だったため切り抜けられず、見事足止めをくらい続けていたのであった。

「あれは主にアキラのおかげっすよ。自分はほとんど援護してただけっすからね」
「いや、エリーの的確なタイミングでの狙撃はほんときつかったよ。現にボクと一緒に戦った伊吹も賞賛してたしね。敵ながら見事なウデだって。さすがは射殺いころしの狩人かりゅうど。その通り名は伊達だてじゃないね」

 謙遜けんそんするエリーに、そんなことないと心からほめたたえる。
 透たちの攻撃のチャンスは、エリーの弓矢によりなんども妨害されてしまったのだ。もちろん攻撃面でもアキラとの見事な連携で、なんどヒヤヒヤさせられたことか。もはや被験者時代とは比べ物にならないほど、ウデを上げていたといっていい。

「フフ、どうもっす」
「アキラさんの方もさすがというか。うん、圧巻あっかんの強さだったね。このボクがあそこまで押されるなんて。やっぱりSSランクとなると、強さの次元が違うよ」

 だるそうに社長席に座っていたアキラにも、賞賛の言葉を送る。
 エリーの強さは被験者時代から知っていたため、そこまで驚きはしなかった。だが実際戦ったことのないアキラを相手にした時は、冷や汗をかきっぱなしだったのだ。というのも彼の恐ろしいアビリティと獣のごとき苛烈な剣さばきを前に、ずっと押され気味だったのだから。

「てめぇもなかなか歯ごたえがあったぜ。あそこまで俺に食いついてくるとはな。あー、ほんと決着がつくまで、とことんやりたかったぜ。途中で撤退命令がなければ、あのまま熱い戦いができたのによ」

 頭の後ろに両手を回し、机の上に両足を乗っけるアキラ。そして天井を見上げながら、すねた感じに愚痴りだす。

「――ははっ……、ボクとしては助かったかな……」

 その件については正直、安堵あんどするしかない。
 結局エリーたちとの戦いは、彼女たちが撤退したことで幕を閉じた。その時にはアポルオンの巫女であるカノンが、ちょうどアビスエリアの十六夜島の外へ出たあたり。向こうは目的を達成したため、これ以上の戦闘は無駄だと撤退することにしたらしい。
 実際のところもしエリーたちがあのまま戦いを続行していれば、強制ログアウトされていた可能性もあった十分あったといっていい。

「いやー、ほんと心苦しかったすよ。あれだけ協力すると言ってた手前、いきなり敵対するんすから」

 エリーは肩をすくめながら、申しわけなさそうに笑う。
 昨日の喫茶店で、透の力になるとあれだけ自信満々に宣言してくれたのだ。それゆえ余計に気まずそうであった

「はは、仕事だったんだからしかたないさ。今回は敵同士だったけど、次は期待させてもらうよ」
「はい、任せてほしいっす。それでトオルセンパイ、今後の予定とかあるんすか? なにかあるならスケジュールの方、あけとくっすよ?」

 笑顔で目くばせすると、エリーは胸に手を当てさっそく透の力になってくれようと。
 これから戦力が欲しい時は、エリーたちに依頼するのも一つの手だろう。伊吹がどういうかわからないが、彼女も昨日の戦いでヴァーミリオンを高く評価していた。なので信頼に値すると推薦すいせんすれば、以外と許可してくれるかもしれない。

「今回みたいなアイギスとやり合うのはねーのかよ? あいつらと敵対するなら、よろこんで引き受けてやるぜ」

 するとアキラの方も、なにやら期待に満ちた視線を向け協力してくれようと。

「ありがとう。でも今のところエデンでの作戦の話はなさそうだね。くわしいことは伊吹に聞かないとわからないけど」

 ルナたちに今後の動きを聞いたところ、とくにないとのこと。というのもすでにカノンをしばるくさりが壊されたため、現状エデンでやれることはないらしい。

「そうっすか。じゃあ、その人によろしく言っといてほしいっす。ぜひごひいきにと」
「はは、ボクから打診しておくよ。ただアポルオン関係の依頼になりそうだから、キツイ仕事になるかもだけどね」
「フフ、その分の報酬をいただけるなら、よろこんでっす!」

 手でぜにマークを作りながら、ニヤリと笑うエリー。

「おうよ、上等だ。なんならうちの連中全員でカチコミに向かってやるぜ!」

 アキラもアキラで不敵な笑みを浮かべ、ドンっとこいと乗り気に。

「頼もしい限りだよ。それじゃあ、早いけどおいとまさせてもらおうかな」

 二人の頼もしい返事を聞けたところで、立ち上がる。

「トオルセンパイ、なにもないところっすけど、もっとゆっくりしていけばいいのに」
「ごめん、このあと待ち合わせをしてるんだ」

 そう、実はこのあと予定が入っているのである。なのでゆっくりしたいのはやまやまだが、そろそろ待ち合わせ場所に向かわなければ。

「へぇ、だれとっすか?」
「はは、少しお姫様とね」

 こうして透はルナとの待ち合わせ場所に向かうため、ヴァーミリオンの事務所をあとにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお
SF
姉と言うのは年上ときまったものですが、友子の場合はちょっと……かなり違います。

NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~

ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。 それは現地人(NPC)だった。 その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。 「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」 「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」 こんなヤバいやつの話。

決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方
SF
 ドグミス国連軍陣地に立て籠もり、全滅の危機にある島民と共に戦おうと、再上陸を果たした陸上自衛隊警備中隊は、条約軍との激戦を戦い抜き、遂には玉砕してしまいます。  今より少し先の未来、第3次世界大戦が終戦しても、世界は統一政府を樹立出来ていません。  南太平洋の小国をめぐり、新世界秩序は、新国連軍とS条約同盟軍との拮抗状態により、4度目の世界大戦を待逃れています。  そんな最中、ドグミス島で警備中隊を率いて戦った、旧陸上自衛隊1等陸尉 三枝啓一の弟、三枝龍二は、兄の志を継ぐべく「国防大学校」と名称が変更されたばかりの旧防衛大学校へと進みます。  しかし、その弟で三枝家三男、陸軍工科学校1学年の三枝昭三は、駆け落ち騒動の中で、共に協力してくれた同期生たちと、駐屯地の一部を占拠し、反乱を起こして徹底抗戦を宣言してしまいます。  龍二達防大学生たちは、そんな状況を打破すべく、駆け落ちの相手の父親、東京第1師団長 上条中将との交渉に挑みますが、関係者全員の軍籍剥奪を賭けた、訓練による決戦を申し出られるのです。  力を持たない学生や生徒達が、大人に対し、一歩に引くことなく戦いを挑んで行きますが、彼らの選択は、正しかったと世論が認めるでしょうか?  是非、ご一読ください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ヒトの世界にて

ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」 西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。 その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。 そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており…… SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。 ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。 どうぞお楽しみ下さい。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

処理中です...