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4章 姫と騎士の舞踏 下  第1部 道化子との会談 

160話 アルスレイン家とアポルオンの巫女について

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「えっと、序列一位、アルスレイン家は表の世界に姿を現さない裏の一族。その役割はアポルオンの幾末を見守り、正しき方向に導くこと。だからアポルオンの巫女みたいな、すごい権限をいろいろ持ってるんだよ」

 レイジの問いに、カノンはくわしく説明してくれる。
 アポルオンを創設したのがアルスレイン家であることは、アラン・ライザバレットから聞いていた。ゆえにそれなりの権限を持っているのは、うなづけることだろう。

「とはいっても、今の序列一位側の発言力はそう大きくない。昔、セフィロトの開発の件で少し問題を起こして、立場がかなり悪くなってしまったんだよね。それ以来、序列一位はほかの序列にアポルオンの運営の大部分を任せ、主に見守る側に。しかも最近では序列二位側がうまく立ち回って、ほとんど蚊帳かやの外状態。もう、権力があるのは巫女の役目をおった、私だけになってしまったの」

 カノンは胸に手を当て、複雑そうな表情を。
 話をまとめると、これまでアポルオンに強い影響力を与えていたアルスレイン家は没落ぼつらく。ルナたち序列二位側がその権力の大半を奪い、今やアポルオンを取りまとめるほどに影響力を高めていったということ。一体アルスレイン家が過去になにをしでかしてしまったのかは気になるが、それはまた今度でいいだろう。

「そうだったのか。じゃあ、アポルオンの巫女については?」
「巫女のシステムは、セフィロト起動時に生まれたもの。これはアルスレイン家の女性が代々任につくことになっていて、セフィロトとアポルオンの仲介をするのが仕事なんだよ。主な業務内容はアポルオンのセフィロトに提出するデータに、私のサインをして送ることだね。あとアポルオンの意向を、じかに伝えるとかもあるんだよ」
「へー、その業務をこなすのって、やっぱり巫女のじゃないとダメなのか?」
「サインに関してはエデン内のどこでもできるし、現実でも大丈夫だね。さすがに意向を伝えるのは、巫女の間からしかできないみたいだけど。こっちは滅多にないことだからしばらくはあそこに行かなくて済むはず。――そしてここから話すのが、これからの活動でもっとも大事なことで」

 カノンがなにやら重大なことを説明しようと。
 おそらくレーシスが言っていた、アポルオンの巫女の持つ特別な権限の事だろう。アポルオンを変革することができるという、反則技について。

「カノンさん、待った。そういう説明はほかでやって欲しいわ。あたしとしてはさっさとこの会談をおわらせて、遊びたいもの」

 だがそこへかえでが手で制しながら、めんどくさそうに話をさえぎった。
 こうなるとカノンのアポルオンの巫女に対する話を、これ以上続けるわけにはいかない。そのため彼女は話を、今回の会談の方へと戻し始める。

「――えっへへ……、じゃあ、レージくん、この件はまた後日だね。――えっと、話を戻すと、今早急にアポルオン側の後ろ盾が必要なんだよ。でないと最悪、監督権かんとくけんを持ってる序列二位側に無理やり確保されるおそれがあるからね」
「――監督権か……」

 アポルオンの巫女はその役割から、かなり特別。そのため彼女の力を利用しようと、近づいてくるやからは大勢出てくる。それゆえ巫女を外敵から守り、円滑えんかつに使命をまっとうできるよう管理する者が必要になってくるわけだ。その権限こそ監督権と事前に那由多から聞いていた。

「うん、現実でエデンの巫女に危害を加えるのは、御法度ごはっと。もしその禁を少しでも破れば重いペナルティ、最悪序列剥奪まであるらしいの。だから外を出歩いても、連れ去られたりすることはまずない。だけど監督権という保護の役割を与えられていれば、少しぐらいの実力行使が許されてしまうんだよ」

 監督するためという口実であれば、無理やり保護するのに大義名分がでるというもの。いくら強引でも降りかかる火の粉を未然に防ぐことにつながるゆえ、すべて巫女のためだといえるのだから。

「まあ、序列二位側からしてみれば、私の機嫌を損なう恐れがあるからそうすぐに使ってはこないと思うけどね」
「だからカノンは監督権を、別のアポルオンメンバーに譲渡じょうとしないといけないわけだな」

 なんでもこの監督権、アポルオンの巫女が信頼のできる者にたくすシステム。ゆえに巫女側と相手側との合意があれば、その者に監督権を持たせることが可能らしい。ただそれなりの上位序列であること。必ず誰かに監督権を与える決まりがあるのだそうだ。
 ちなみに誰もその役目に応じなかった場合は、セフィロトが選びその責務を負わせるとのこと。

「うん、でもそこが一番厄介な問題かな。こちらの譲渡に応じてくれたアポルオンメンバーには、当然序列二位側の圧力がかかるだろうね。彼らは保守派の中でも特に厳格。アポルオンの規律をなにより重んじてるから、自分たちの手で私を管理しようと躍起やっきになるはず。もはや保守派をべ、今やアポルオンのもっとも権限が高い場所にいる序列二位。彼らに敵対する案件を、受け入れてくれるアポルオンメンバーがいるかどうか……」
 カノンはあまりかんばしくない状況に、目をふせる。

「革新派だといけそうだが、利用される恐れがあるからな。一応那由他の奴が序列八位グランワース家次期当主であるシャロンさんに、OKをもらったらしいが」

 実はこの件で那由他が探し回った時、アポルオン序列八位グランワース家次期当主シャロンと話て、了承をもらったらしいのだ。とはいっても彼女と結ぶのは、すべての手を打ち尽くしどうしようもない時の最終手段。彼女たちはいわば敵ゆえ、できれば避けたい手段であった。

「革新派の手はあまり借りたくないね。彼らのやり方には賛同できないから」
「となると普通に考えて、この件を受けてくれるバカはいないことに。――ははは……、だがあいにくオレには、その案件を面白がって応じそうな奴が一人、心当たりがあったんだよな」

 レイジは苦笑しながら、とある人物のことを思い出す。
 すると楓は顔をしかめ、ため息交じりに問いただしてきた。

「――はぁ……、アポルオン序列四位東條家次期当主、東條冬華。まさか血塗られたご令嬢と名高い、イカレタお嬢さまとの会談の席を、久遠くおんが取ってくるとは。あたしもウワサでいろいろ聞いてるけど、本当に大丈夫なの? もし受け入れてくれたらくれたで、あなたたちと同盟を結んだあたしも関わらないといけないんだけど?」
「あー、そのことに関しては、まったく自信がないですね。というか冬華とカノンはもうヤバイレベルで正反対ですから、不安しかなくて、――ははは……」

 この件に関しては、もはや笑うしかなかった。
 冬華はとにかく快楽主義者。自身の愉悦のためなら他者をどれだけ巻き込んでもいとわない、はた迷惑な少女。しかも相手をいたぶることが大好きな、サディストときたものだ。そんな問題児をカノンに会わせていいのか。非常に悩ましい事案なのだ。

「レージくん、性格のことは置いといて、とりあえず序列四位東條家が後ろ盾になってくれるなら、これほど理想的なことはないんだよ。今後の私の計画を進めるためにも、東條家の看板は効果絶大だからね!」

 カノンは手をぐっとにぎり、希望に満ちた瞳を。
 というのも彼女は東條側との会談について、かなり乗り気。よくぞこの話をもってきてくれたと、レイジをほめたたえてくれたものだ。

「久遠、明日の東條冬華との会談はすべて任せるわ。今回あたしはあなたたちをかくまい、場所を提供する。この件は白神家当主の父さんも了承してるから、しばらくは安心してちょうだい。じゃあ、話は以上! あとのことは好きになさい。各自解散!」

 楓は手をパンっとたたいて話しをまとめ出す。そしてさっそうと立ち上がり、自然な流れでこの部屋を後にした。
 おそらくこれ以上会談に付き合うのが、めんどくさくなったのだろう。

「――ははは……、楓さん、丸投げ感半端はんぱないな」
「えっへへ、そうだね。でも楓さんは那由他いわく、すごく頼りになるらしいからとても心強いかな。さあ、私たちも行こう、レージくん。明日の冬華さんとの会談のためにも、休まないと」

 こうして会談をおえ、レイジたちは楓が用意してくれた部屋へと向かうのあった。
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