155 / 253
3章 第4部 逃走劇
150話 那由他への誓い
しおりを挟む
「――レイジ……。あはは、あなたのそういう那由他ちゃんを気遣ってくれるとこ、大好きですよ!」
レイジの心からの礼に、那由他はどこか満ち足りたようにほほえむ。
「ですが、そんなに気をやまなくてもいいんです! レイジはこのわたしを好きなだけ使えばいい! だってあなたの力になることが、那由他ちゃんにとっての至上の幸せ! もはやそれ以外、なにもいらないというほどなんですから! そういうわけで、これからもどんどん頼っちゃってください! 久遠レイジの幸運の女神である、この那由他ちゃんを!」
そしてレイジの罪悪感に対し、自身のことをかえりみない懇親の愛でさとしてくる那由多。
「いや、そういうわけにはいかないだろ」
「はて、またおかしなこと。レイジの願いがいくらでも叶うんですよ? 問題なんてなにひとつないじゃないですか?」
「あのな、那由他がよくても、オレの気が済まないんだよ」
このおかしい点を本気でわかっていない那由他に、肩をすくめるしかない。
確かにレイジからしてみればいいかもしれない。だが那由他にとってだと、それは間違いだ。自身の幸せをかえりみず、他者の幸せにすべてを捧げるなど。それは言ってしまえば、狂気の部類に存在する愛。その愛を柊那由他という少女は、心の底から正しいと信じてやまないのである。
「むー、わけがわかりません」
「ようは借りを作ったままだと、わるい気がするんだよ。だからオレのわがままを聞いてくれたように、那由他のわがままを聞いてやる。もしなにかあった時や、心から望んだ時、その願いを言え。そうすればオレがなにがなんでも叶えてやる」
決して譲れない覚悟を胸に、宣言する。
これは久遠レイジが柊那由他へ送る誓い。ここまで彼女には世話になったのだ。ならばその借りを返さなければ。ゆえにレイジは那由他のわがままを必ず叶えてみせよう。これこそ久遠レイジにできる、彼女への精一杯の恩返しなのだから。
「え!? それってもしかして!」
「ただし色恋沙汰は勘弁な。まあ、それがどうしてもというのなら、考えてやらんこともないが」
「いえ、レイジの意に少しでも反するなら、微塵も叶えたくありませんので」
那由多は自身のレイジが好きという気持ちがあるのにも関わらず、あっさりと引く。
それもこれも彼女にとって自身のことなど二の次だから。すべては自分の力になってあげたい人のため。その相手の幸せを至上としているがゆえに、そこへ陰りが入ることを認められるはずがないのだ。それがたとえ自身の恋心であろうとも。
「――それ以外となると……、ふむ、ダメですねー。なにひとつ思い浮かびません」
那由他は考えをめぐらせるが、いまいちピンとこないらしい。お手上げといった感じで、頭を悩ますしかないようだ。
「今じゃなくていいさ。この誓いに期限はない。なにか心残りになりそうなことができたら、言ってくれ」
「――誓いですか……。あはは、なんだか特別なモノをもらった気分がして、すごく嬉しいです! レイジ! ありがたく受け取っておきますね!」
誓いという言葉をかみしめ、幸せいっぱいに笑う那由多。どうやらかなりうれしかったみたいだ。
「おい、それだけで満足してもらったら困るからな。ちゃんと使えよ」
「はーい! わかってますってばー! フン、フーン、レイジとの誓い! 誓い! キャー!」
機嫌がよさそうに歌を口ずさみながら、うっとりしっぱなしの那由多。
もはや那由他は完全に、誓ってくれたことだけで満足していた。まるでもらったプレゼントを飽きずになんども見て、幸せにひたるかのように。
「――はぁ……、ほんとかよ。――まあ、今はいいか。じゃあ、切るぞ」
「あ、はい! そうでした! そうでした! ではカノンを自由にするためにがんばりましょう!」
那由他の掛け声とともに、通話が切れる。
誓いの件本当に大丈夫なのかと不安はあるが、今はやるべきことに集中するべきだろう。
「――よし、行くとするか」
こうして伝えたいことは言えたので、レイジはエデンへ向かう準備をするのであった。
レイジの心からの礼に、那由他はどこか満ち足りたようにほほえむ。
「ですが、そんなに気をやまなくてもいいんです! レイジはこのわたしを好きなだけ使えばいい! だってあなたの力になることが、那由他ちゃんにとっての至上の幸せ! もはやそれ以外、なにもいらないというほどなんですから! そういうわけで、これからもどんどん頼っちゃってください! 久遠レイジの幸運の女神である、この那由他ちゃんを!」
そしてレイジの罪悪感に対し、自身のことをかえりみない懇親の愛でさとしてくる那由多。
「いや、そういうわけにはいかないだろ」
「はて、またおかしなこと。レイジの願いがいくらでも叶うんですよ? 問題なんてなにひとつないじゃないですか?」
「あのな、那由他がよくても、オレの気が済まないんだよ」
このおかしい点を本気でわかっていない那由他に、肩をすくめるしかない。
確かにレイジからしてみればいいかもしれない。だが那由他にとってだと、それは間違いだ。自身の幸せをかえりみず、他者の幸せにすべてを捧げるなど。それは言ってしまえば、狂気の部類に存在する愛。その愛を柊那由他という少女は、心の底から正しいと信じてやまないのである。
「むー、わけがわかりません」
「ようは借りを作ったままだと、わるい気がするんだよ。だからオレのわがままを聞いてくれたように、那由他のわがままを聞いてやる。もしなにかあった時や、心から望んだ時、その願いを言え。そうすればオレがなにがなんでも叶えてやる」
決して譲れない覚悟を胸に、宣言する。
これは久遠レイジが柊那由他へ送る誓い。ここまで彼女には世話になったのだ。ならばその借りを返さなければ。ゆえにレイジは那由他のわがままを必ず叶えてみせよう。これこそ久遠レイジにできる、彼女への精一杯の恩返しなのだから。
「え!? それってもしかして!」
「ただし色恋沙汰は勘弁な。まあ、それがどうしてもというのなら、考えてやらんこともないが」
「いえ、レイジの意に少しでも反するなら、微塵も叶えたくありませんので」
那由多は自身のレイジが好きという気持ちがあるのにも関わらず、あっさりと引く。
それもこれも彼女にとって自身のことなど二の次だから。すべては自分の力になってあげたい人のため。その相手の幸せを至上としているがゆえに、そこへ陰りが入ることを認められるはずがないのだ。それがたとえ自身の恋心であろうとも。
「――それ以外となると……、ふむ、ダメですねー。なにひとつ思い浮かびません」
那由他は考えをめぐらせるが、いまいちピンとこないらしい。お手上げといった感じで、頭を悩ますしかないようだ。
「今じゃなくていいさ。この誓いに期限はない。なにか心残りになりそうなことができたら、言ってくれ」
「――誓いですか……。あはは、なんだか特別なモノをもらった気分がして、すごく嬉しいです! レイジ! ありがたく受け取っておきますね!」
誓いという言葉をかみしめ、幸せいっぱいに笑う那由多。どうやらかなりうれしかったみたいだ。
「おい、それだけで満足してもらったら困るからな。ちゃんと使えよ」
「はーい! わかってますってばー! フン、フーン、レイジとの誓い! 誓い! キャー!」
機嫌がよさそうに歌を口ずさみながら、うっとりしっぱなしの那由多。
もはや那由他は完全に、誓ってくれたことだけで満足していた。まるでもらったプレゼントを飽きずになんども見て、幸せにひたるかのように。
「――はぁ……、ほんとかよ。――まあ、今はいいか。じゃあ、切るぞ」
「あ、はい! そうでした! そうでした! ではカノンを自由にするためにがんばりましょう!」
那由他の掛け声とともに、通話が切れる。
誓いの件本当に大丈夫なのかと不安はあるが、今はやるべきことに集中するべきだろう。
「――よし、行くとするか」
こうして伝えたいことは言えたので、レイジはエデンへ向かう準備をするのであった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~
ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。
それは現地人(NPC)だった。
その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。
「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」
「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」
こんなヤバいやつの話。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ヒトの世界にて
ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」
西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。
その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。
そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており……
SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。
ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。
どうぞお楽しみ下さい。
鉄錆の女王機兵
荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。
荒廃した世界。
暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。
恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。
ミュータントに攫われた少女は
闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ
絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。
奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。
死に場所を求めた男によって助け出されたが
美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。
慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。
その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは
戦車と一体化し、戦い続ける宿命。
愛だけが、か細い未来を照らし出す。
【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、pixivにも投稿中。
※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。
※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。
Night Sky
九十九光
SF
20XX年、世界人口の96%が超能力ユニゾンを持っている世界。この物語は、一人の少年が、笑顔、幸せを追求する物語。すべてのボカロPに感謝。モバスペBOOKとの二重投稿。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる