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3章 第4部 逃走劇

147話 エデン協会ヴァ―ミリオン

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 レイジとカノンと結月は、エリーに連れられ十六夜いざよい島内にあるエデン協会ヴァーミリオンの事務所に来ていた。
 ヴァーミリオンの事務所はとある九階建てのビル内にある立派なオフィス。もはやアイギスのおんぼろ事務所とは、比べ物にならないほどである。ただ中はもともと荒っぽい者たちが集まるヴァーミリオンゆえ、あちこちに物が積まれ結構散らかっていた。あとメンバーの中には屈強くっきょうな男たちも多く、少し物騒な雰囲気がただよっていたといっていい。
 そんな事務所内を歩いて行くと、社長である紅炎こうえんアキラがだるそうに代表の席に座っていた。

「よう、アキラ。世話になるぞ」
「ケッ、また共闘かよ。おい、エリー、どうせ仕事を取ってくるなら、こいつとやり合えるのにしろよ」

 いかにもチンピラみたいなアキラが、机の上に両足を乗せながら会って早々文句を。
 彼とは狩猟兵団レイヴン時代の因縁いんねんがら、ライバル視されているらしい。なのでよく戦いを吹っかけられるのであった。

「アキラ、なに言ってるんすか。レイジさんたちはうちの超お得意様。今後とも仲良くやって、どしどし依頼を持ってきてもらうんすからね」

 対してエリーは両腰に手を当てながら、あきれ気味に言い聞かせる。

「でもよ、レイジはまさに宿敵の一人。そんなやつと背を並べて戦うのは、俺としちゃ、なんていうかこうムズかゆいというかだな」
「ハイハイ、エデン協会ヴァーミリオンの財政、さらには運営も自分がやってるんすよ。だから文句は言わない。もしどうしてもやり合いたいなら、レイジさんを雇ってみればどうっすか? アイギスに対する依頼形式なら、なんとかなるかもしれないっすよ」

 髪をくしゃくしゃかき抗議するアキラに、エリーはやれやれと肩をすくめながら却下を。そしてレイジにいたずらっぽい笑みを浮かべてきた。
 するとアキラがそれは名案だと、勢いよく立ち上がりなにやら闘志を燃やしだす。

「おぉ! その手があったか! さすがエリー、えてやがる!」
「それはいいが、また今度な。しばらくはいろいろ立て込んでるから、強制ログアウトされるわけにはいかないんだよ」
「ケッ、結局お預けかよ。あー、どっかからレイジとやり合える、高額の依頼が回ってこねーかねー。そうすればエリーが喜んで引き受けるってのに」

 正論で返すと、アキラはどっと腰を下ろしながらぼやきだす。

「ところでエリーちゃん。一つ聞いていい?」

 そんなやり取りをしていると、結月が気になることをたずね始めた。

「ユヅキ様からなら、なんだってお答えするっすよ」
「ここってエデン協会ヴァーミリオンよね? でも何度か狩猟兵団って話も聞いたことがあったような」
「ああ、その通りっすよ。本来ヴァーミリオンは狩猟兵団。でも当時社長であったアキラのおやっさんが、少々無茶な依頼を受けまして」
「あー、あれか。約一年前、政治家がらみ依頼で、とある政府のデータを狙うことがあってな。いやー、あの時はほんと楽しかったぜ。次から次へと強敵が来て、お祭り状態。最高の戦場だった」

 頭の後ろに両手を回し、机の上に両足を乗っけるアキラ。そして天を仰ぎ見ながら、感慨深く笑った。
 この話はレイジが狩猟兵団レイヴンを出て、しばらくたってからの出来事。狩猟兵団ヴァーミリオンはレイヴンと並ぶ最上位クラスの狩猟兵団とあって、この業界内では結構有名な話である。

「え? それってまずくないの?」
「フフ、おおヤバっすよ。いくらデータを奪うことが認められてても、その対象が対象だけにアウト。狩猟兵団の規定をはるかにいっした案件っすね。そのペナルティのせいで狩猟兵団ヴァーミリオンは活動停止処分っすよ。アキラのおやっさんもあと二,三年はムショで世話になるはめに」

 エリーは苦笑しながら、肩をすくめる。
 狩猟兵団はすでに世界中で認められているビジネスだが、その対象が大きすぎれば話は別。相手が国のような機関だと、そこからおうじる被害は比べ物にならない。もはやテロリスト同様の行為ゆえ、法でさばかれてしまうのだ。ただこうなった場合狩猟兵団連盟が動くため、そこまでひどい罪に問われることはないのであった。

「ハハッ、オヤジもドジ踏んだもんだ。まあ、当の本人は好きなだけ暴れられて満足そうだったぜ。悔いはないってよ」
「それで残った自分たちですが、狩猟兵団で活動できないならエデン協会に移ればいいという結論になりまして。どうせ戦うことに変わりはないっすからね。ちなみにこの件はレイジさんがエデン協会に移ったことも要因の一つっすよ。アキラが聞きつけ、なにやらよくわからない対抗心を燃やしまして」
「ヴァーミリオンがエデン協会に移った件、聞いた時耳を疑ったが、あれってオレの影響もあったのかよ」

 まさかのカミングアウトに驚くしかない。
 ヴァーミリオンの連中はみな特に血の気の多い者たちが多いため、データを奪う狩猟兵団のイメージにはもってこいだった。だがそんな連中がデータを守るエデン協会だと、違和感が半端はんぱないといっていい。当時のレイジもこのことでどれだけ驚いたことか。
 ちなみに元狩猟兵団ヴァーミリオンが、エデン協会に移るのはなんら問題はなかった。というのも今のエデン協会はその需要の多さゆえ、人手はいくらあってもいいほど。それゆえエデン協会側がこばむ理由はない。しかもそこがトップクラスの戦力を有しているなら、逆にエデン協会側が頼み込むぐらいの案件なのだから。

「まあ、狩猟兵団でほかの事務所を立ち上げる話もありましたが、できればヴァーミリオンを存続させたいという想いもあってすがね……」

 エリーは胸をぎゅっと押さえながら、しみじみとかたる。
 これまで活動してきた組織とあって、みな愛着は相当なものなのだろう。その想いゆえ、狩猟兵団とは真逆のエデン協会に移ることをいとわなかったというわけだ。聞いた話によると、ヴァーミリオンのメンバーのほとんどが賛同しついてきてくれたとか。

「そうなんだ。そんなことがあったのね」
「これがエデン協会ヴァーミリオンの経緯っす。とはいっても金を積まれれば、いくらでも狩猟兵団まがいのことはやるっすよ!」
「ハハッ、むしろ大歓迎だぜ!」

 もはやノリノリで物騒なことを主張する二人。
 そんなエデン協会にあるまじき発言に、結月は困惑するしかないみたいだ。

「え? それ大丈夫なの?」
「フフ、そこは事務所外のフリーの活動とでもなんとでも。それにエデン協会はエデンでのなんでも屋という肩書きもありますので、少しばかりは許されるんすよ」

 いくらエデン協会側に属していても、休みの日などは基本自由。クリフォトエリアで傭兵や小遣い稼ぎのデータ狩りをしようが関係ない。その点を利用し、エデン協会の事務所が狩猟兵団の依頼を受けることはめずらしくなかった。ただこの場合、狩猟兵団連盟のサポートは受けられないのだが。
 さらにはエデン協会自体、エデンでのなんでも屋という側面が強い。治安維持以外でも研究の手伝いや、データ採取など様々な依頼が回ってくる。そのためそこらへんをうまく利用し、依頼内容を誤魔化せば割となんとかなるのであった。
 エデン協会に属する者たちに課せられる絶対条件。依頼主を裏切らないという制約を破らない限りは、案外どうとでもなるのがエデン協会なのである。

「エデン協会ってそんなにもアバウトなんだ……、――あはは……」
「では雑談はこれぐらいにして、本題に入るとするっすかね。カノン様の件、結構急ぎの用らしいっすからね」

 話が切りのいいところまでいったのを見計らい、エリーは本題へと移るのであった。

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