141 / 253
3章 第2部 姫の休日
136話 休日の終わり
しおりを挟む
レイジたちはあれからゆきたちと合流し、シティゾーンをあとに。そして今はアビスエリアにある十六夜市の方へと来ていた。ただマナに関しては遠隔操作や人混みの疲れで、先に帰ったという。なのでカノンと結月とゆきを合わせた四人で行動を。
「ほんと、廃墟風の構造を見慣れてきた身としては、このきれいな街並みに違和感を感じるな」
「クリフォトエリアは少し不気味で怖かったけど、この場所もある意味怖いよね。現実と変わらない街並みのせいで、自分以外みんないなくなってしまったみたいな孤独感が襲ってくるよ」
レイジと結月は今目の前に広がる無人の街中の景色に、ふと感想をこぼす。
クリフォトエリアはすべてが荒廃し物騒な雰囲気の構造にされているが、このアビスエリアはなにも手を付けずきれいなまま。現実と同じ街並みや自然が広がっているのだ。
ちなみに調べてみると、アビスエリアはシステムや制約面で基本クリフォトエリアと変わらないらしい。アーカイブポイントやデュエルアバター関連、細かい設定など同じといってよかった。
「まあ、なにはともあれ今回の最終目的だった、アビスエリアに入る流れは確認できたな」
なぜアビスエリアを訪れたのか。
実はカノンには休日の中で、一つ確かめたいことがあったらしい。それはクリフォトエリアから、アビスエリアに向かうこと。今や革新派の起こした十六夜タワーの件で、アビスエリアが誰でも入れるようになってしまっている。なので実際どんな感じでこの場所に来れるのか、確認しに来たのだ。
もちろん以前レイジと結月がファントムを連れ向かった時みたいに、アポルオンの権限は使わない。ここに来たのは、一般人がどうアビスエリアに入れるのか。よってその流れを体験するために、人々が普段使っているラインで来たのであった。その流れはクリフォトエリアの十六夜島へと、向かうところから始まる。ここはいわば入口。地下の最深部へ向かうためのラインがあるので、それを使いアビスエリアに入るのだ。今や十六夜タワーの件でアポルオンの権限がなくても入れるが、一つやらなければならないことが。それは毎回改ざんを使って、利用するための許可証を発行するというもの。これさえできればあとはアビスエリアのどこに出るかの座標を設定するだけで、向かえるらしい。
今アビスエリアに向かうために改ざんの力がいるということで、新たなビジネスが。それは改ざんを使える者がアビスエリアに行きたい人間を送るサービス業。皆が皆、改ざんの力を使えるわけではないので、かなり利用客が多く儲かるらしい。彼らは常にクリフォトエリアの十六夜島で待機し、客が来るのを待っているとのこと。ちなみにレイジたちもそのサービスを利用して、アビスエリアに来たのであった。
「ゆき、アビスエリアについて、なにかおもしろい情報とか入ってたりしないか?」
「とくにないなぁ。ここでも狩猟兵団とエデン協会の争いが、勃発しだしたぐらいー」
「まだ解放されてすぐだしな」
「ゆきちゃん、十六夜島周辺はどうなってるのかな?」
「アビスエリアの十六夜島かぁ。えっとぉ、解放された当初は大人気スポットだったらしいよぉ。入ることが叶わない謎の場所。なにかあると、みんな興味津々で押し寄せてきたとかぁ」
クリフォトエリアの十六夜島が特別なら、アビスエリアの方もと思うのは不思議ではない。そして来てみたら中に入れず、十六夜島の最奥部分はブラックゾーンの霧におおわれているのだ。見るからに怪しく、なにかあるのは確実。そんないかにも面白そうな場所に人が集まらないわけがない。
「でもそれも一時だけ。張り込んでもなにも動きはないし、電子の導き手が改ざんをいくら使おうとも侵入不可。結局アビスエリアの説明の件で、あの十六夜島が上位財閥専用の施設とわかりみんな興味を失ったらしいねぇ。今じゃ、よほどのモノ好きしかあの周辺にいないみたいだなぁ」
「それならアポルオンのこと、これ以上外に出回る心配はなさそうだね。ふぅ、よかったんだよ」
カノンは安堵の息をつく。
もし今だ人々が興味を示していれば、様々な憶測が飛びかいいずれアポルオンの実態にたどり着く考えが広まる恐れも。だが一度納得してしまえば新たな憶測が生まれることもなく、今後あまり話題にもならないはず。なので革新派側がなにかしでかさない限り、アポルオンの実態が明るみに出ることはなさそうだ。
「で、くおんたちはこれからどうするのぉ? もしかしてあの十六夜島に向かうとかぁ?」
ゆきは十六夜島のほうへ視線を向けながら、目を輝かせる。
どうやら彼女はアビスエリアの十六夜島に行きたいらしい。あそこはアポルオンの中枢的場所。中に入れば新発見があるかもと、期待しているようだ。
「ゆきちゃん、ごめんね。さすがにここから向かうのは、人目につくから無理なんだよ」
今のレイジたちがアビスエリアの十六夜島に行くには、実際に橋を渡り人工島の方へ歩いて行くしかない。そこを目撃されれば、いろいろ面倒なことになりかねないのはもはや明白。ゆえに行くならアビスエリアに入る時、直接あの十六夜島内に座標移動するしかないのであった。
「ちぇー、わかったよぉ。じゃあ、アビスエリアならではということで、野良のガーディアンでも狩りにいくー? 一回あいつらのデータを、取ってみたかったんだよねぇ!」
がっくり肩を落とすゆき。だがそれもつかの間、今度は十六夜市の街並みに手を向け、興奮気味に提案してきた。
このアビスエリアにはクリフォトエリアと違う点の一つとして、野良のガーディアンが無限湧きしているとか。これはクリフォトエリア同様、アビスエリアの方にもなにかしらのリスクを負わすためにできた設定らしい。これにともない野良のガーディアンは見つけたものを、手当たりしだいに襲ってくるそうだ。今だレイジも彼らとは戦ったことがないため非常に興味深く、思わずその話に食いついてしまう。
「おっ、いいな、それ、面白そうだ」
「あのー、久遠くん、乗り気なところわるいんだけど、今回カノンの休日だからあまり物騒なことは……、――あはは……」
二人で乗り気になっていると、結月が手で制しながらお願いしてきた。
「結月、別に問題はないんだよ。たまにはデュエルアバター戦で暴れるのも、わるくないと思うしね!」
するとカノンは両腕でガッツポーズして、ウィンクを。
「さすがカノンだ。話がわかるな。とはいえカノンって実際どれぐらい戦えるんだ?」
これはかなり気になっていたこと。カノンはそのお姫様の雰囲気から、非力そうなイメージが。だが以前の巫女の間の戦いで最後、カノンが剣を取り出し前へ出たところを見るにウデには自信があるようだ。一体アポルオンの巫女である彼女は、どれほどの力量を持っているのであろうか。
「そうだねー。世間一般でいう、SSランクぐらいの戦力にはなると思うんだけど」
カノンはアゴに指を当てながら、小首をかしげる。
「あれ? もしかしてカノンって、オレより強いのか?」
その予想外の答えに、もはや目を丸くしてしまう。
レイジは狩猟兵団時代Sランクだったため、当然カノンの方が強いということになるのだから。
「えへへ、最近のお姫様は守ってもらうだけじゃなく、前線に出てみんなを導くこともできるんだよ!」
カノンはレイジの顔ををのぞき込み、にっこりほほえんでくる。
「でもカノン。もうそんなに時間が残ってないんじゃ……」
「あー、もうこんな時間かー。確かにそろそろ戻らないとかも」
時間を確認し、申しわけなさそうに目をふせるカノン。
そんなガーディアンを倒しに行く流れであったが、カノンの自由時間がせまってきているらしい。
「じゃあ、ここで解散だなぁ。まなを待たせてもわるいし、ゆきもそろそろ戻るよぉ。また会おうねぇ、くおんたち」
するとゆきは空気を呼んだのか、解散の意を示す。そしてログアウト設定をして、別れの言葉を。
「名残惜しいけど、私たちも帰ろっか」
「そうだな」
ゆきに続き、レイジと結月も解散することに。
「あ、レージくん。最後に少しだけ、私に付き合ってくれるかな?」
しかしカノンは最後、レイジの上着の袖をつかみ呼びとめてくるのであった。
レイジとカノンは、十六夜市の海岸沿いにある広場に来ていた。
視界の先には現実と変わらないような海と、十六夜島がそびえ立つのが見える。二人して少しの間海をながめていると、カノンがふとレイジの方を振り向いた。
「レージくん、もう、あまり時間がないから、さっそく本題に入るね。キミのアイギス除名の件、しばらく保留にさせてもらうんだよ」
カノンはスカートの裾をぎゅっとにぎりしめながら、意を決したように伝えてきた。
「カノン、いいのか?」
「うん、ここまで来ていきなり追い返すのは、さすがにひどいもんね。そういうわけでもう少しだけ考えてみるよ。ただ私の答えが出るまで、レージくんは謹慎扱い。アイギスの業務に参加できないから」
「謹慎って、そこはカノンの答えが出るまで、アイギスで働かせてくれても」
「ダメなんだよ。私の言いつけを守れなかった悪い子には、罰を受けてもらわないとだもん。これが今の私にできる最大限の譲渡。大人しく受け入れるように」
カノンはレイジの顔をのぞき込み、人差し指を立てながらたしなめてくる。
「――はぁ……、それにしても、我ながらなんて甘々な選択なんだろうね……。ここは心を鬼にして遠ざける場面なのに、レージくんへの未練がそうさせてくれないなんて。そこまで私はキミのことを……」
ほおに手を当て、自嘲ぎみにつぶやくカノン。そして瞳を潤ませながら、レイジの方へ意味ありげな視線を向けてくる。
「なあ、カノンはなにも気にせず、オレを使ってくれればいいんだぞ。キミの力になる事がオレのしたいことなんだからさ!」
そんな負い目を感じているせいか素直になれないカノンに対し、レイジはいてもたってもいられずみずからの想いを口に。
「はい、口説くのはおわりなんだよ。レージくんってば、どうしてそうも私をキュン死させるようなことばかり言うかなぁ。もう、心が揺さぶられ過ぎて、私情を優先しちゃいそうになるんだよ」
しかしレイジの口元にカノンの指が当てられる。そして彼女はほおを染めながら、どこか恨めしそうに告げてきた。
まったく口説いているつもりはないのだが、彼女にはそう聞こえるらしい。そのせいでこれ以上の説得ができなくなってしまう。
「いや、そんなつもりはまったく……」
「もぉ、いくらレージくんがそう思っていても、私にとっては殺し文句なの。だから天然さんはだまっていようねー」
弁解を試みたが、口元に彼女の指が押し付けられ念押しされてしまう。
「はい、じゃあ、今度こそお別れだね。えへへ、今日は本当に楽しかったんだよ! またいっしょに外で遊ぼうね! バイバイ、レージくん!」
そしてカノンは最後満ち足りたようにほほえみ、手を振りながら別れを告げてきた。
こうしてお姫様との休日は幕を下ろすのであった。
「ほんと、廃墟風の構造を見慣れてきた身としては、このきれいな街並みに違和感を感じるな」
「クリフォトエリアは少し不気味で怖かったけど、この場所もある意味怖いよね。現実と変わらない街並みのせいで、自分以外みんないなくなってしまったみたいな孤独感が襲ってくるよ」
レイジと結月は今目の前に広がる無人の街中の景色に、ふと感想をこぼす。
クリフォトエリアはすべてが荒廃し物騒な雰囲気の構造にされているが、このアビスエリアはなにも手を付けずきれいなまま。現実と同じ街並みや自然が広がっているのだ。
ちなみに調べてみると、アビスエリアはシステムや制約面で基本クリフォトエリアと変わらないらしい。アーカイブポイントやデュエルアバター関連、細かい設定など同じといってよかった。
「まあ、なにはともあれ今回の最終目的だった、アビスエリアに入る流れは確認できたな」
なぜアビスエリアを訪れたのか。
実はカノンには休日の中で、一つ確かめたいことがあったらしい。それはクリフォトエリアから、アビスエリアに向かうこと。今や革新派の起こした十六夜タワーの件で、アビスエリアが誰でも入れるようになってしまっている。なので実際どんな感じでこの場所に来れるのか、確認しに来たのだ。
もちろん以前レイジと結月がファントムを連れ向かった時みたいに、アポルオンの権限は使わない。ここに来たのは、一般人がどうアビスエリアに入れるのか。よってその流れを体験するために、人々が普段使っているラインで来たのであった。その流れはクリフォトエリアの十六夜島へと、向かうところから始まる。ここはいわば入口。地下の最深部へ向かうためのラインがあるので、それを使いアビスエリアに入るのだ。今や十六夜タワーの件でアポルオンの権限がなくても入れるが、一つやらなければならないことが。それは毎回改ざんを使って、利用するための許可証を発行するというもの。これさえできればあとはアビスエリアのどこに出るかの座標を設定するだけで、向かえるらしい。
今アビスエリアに向かうために改ざんの力がいるということで、新たなビジネスが。それは改ざんを使える者がアビスエリアに行きたい人間を送るサービス業。皆が皆、改ざんの力を使えるわけではないので、かなり利用客が多く儲かるらしい。彼らは常にクリフォトエリアの十六夜島で待機し、客が来るのを待っているとのこと。ちなみにレイジたちもそのサービスを利用して、アビスエリアに来たのであった。
「ゆき、アビスエリアについて、なにかおもしろい情報とか入ってたりしないか?」
「とくにないなぁ。ここでも狩猟兵団とエデン協会の争いが、勃発しだしたぐらいー」
「まだ解放されてすぐだしな」
「ゆきちゃん、十六夜島周辺はどうなってるのかな?」
「アビスエリアの十六夜島かぁ。えっとぉ、解放された当初は大人気スポットだったらしいよぉ。入ることが叶わない謎の場所。なにかあると、みんな興味津々で押し寄せてきたとかぁ」
クリフォトエリアの十六夜島が特別なら、アビスエリアの方もと思うのは不思議ではない。そして来てみたら中に入れず、十六夜島の最奥部分はブラックゾーンの霧におおわれているのだ。見るからに怪しく、なにかあるのは確実。そんないかにも面白そうな場所に人が集まらないわけがない。
「でもそれも一時だけ。張り込んでもなにも動きはないし、電子の導き手が改ざんをいくら使おうとも侵入不可。結局アビスエリアの説明の件で、あの十六夜島が上位財閥専用の施設とわかりみんな興味を失ったらしいねぇ。今じゃ、よほどのモノ好きしかあの周辺にいないみたいだなぁ」
「それならアポルオンのこと、これ以上外に出回る心配はなさそうだね。ふぅ、よかったんだよ」
カノンは安堵の息をつく。
もし今だ人々が興味を示していれば、様々な憶測が飛びかいいずれアポルオンの実態にたどり着く考えが広まる恐れも。だが一度納得してしまえば新たな憶測が生まれることもなく、今後あまり話題にもならないはず。なので革新派側がなにかしでかさない限り、アポルオンの実態が明るみに出ることはなさそうだ。
「で、くおんたちはこれからどうするのぉ? もしかしてあの十六夜島に向かうとかぁ?」
ゆきは十六夜島のほうへ視線を向けながら、目を輝かせる。
どうやら彼女はアビスエリアの十六夜島に行きたいらしい。あそこはアポルオンの中枢的場所。中に入れば新発見があるかもと、期待しているようだ。
「ゆきちゃん、ごめんね。さすがにここから向かうのは、人目につくから無理なんだよ」
今のレイジたちがアビスエリアの十六夜島に行くには、実際に橋を渡り人工島の方へ歩いて行くしかない。そこを目撃されれば、いろいろ面倒なことになりかねないのはもはや明白。ゆえに行くならアビスエリアに入る時、直接あの十六夜島内に座標移動するしかないのであった。
「ちぇー、わかったよぉ。じゃあ、アビスエリアならではということで、野良のガーディアンでも狩りにいくー? 一回あいつらのデータを、取ってみたかったんだよねぇ!」
がっくり肩を落とすゆき。だがそれもつかの間、今度は十六夜市の街並みに手を向け、興奮気味に提案してきた。
このアビスエリアにはクリフォトエリアと違う点の一つとして、野良のガーディアンが無限湧きしているとか。これはクリフォトエリア同様、アビスエリアの方にもなにかしらのリスクを負わすためにできた設定らしい。これにともない野良のガーディアンは見つけたものを、手当たりしだいに襲ってくるそうだ。今だレイジも彼らとは戦ったことがないため非常に興味深く、思わずその話に食いついてしまう。
「おっ、いいな、それ、面白そうだ」
「あのー、久遠くん、乗り気なところわるいんだけど、今回カノンの休日だからあまり物騒なことは……、――あはは……」
二人で乗り気になっていると、結月が手で制しながらお願いしてきた。
「結月、別に問題はないんだよ。たまにはデュエルアバター戦で暴れるのも、わるくないと思うしね!」
するとカノンは両腕でガッツポーズして、ウィンクを。
「さすがカノンだ。話がわかるな。とはいえカノンって実際どれぐらい戦えるんだ?」
これはかなり気になっていたこと。カノンはそのお姫様の雰囲気から、非力そうなイメージが。だが以前の巫女の間の戦いで最後、カノンが剣を取り出し前へ出たところを見るにウデには自信があるようだ。一体アポルオンの巫女である彼女は、どれほどの力量を持っているのであろうか。
「そうだねー。世間一般でいう、SSランクぐらいの戦力にはなると思うんだけど」
カノンはアゴに指を当てながら、小首をかしげる。
「あれ? もしかしてカノンって、オレより強いのか?」
その予想外の答えに、もはや目を丸くしてしまう。
レイジは狩猟兵団時代Sランクだったため、当然カノンの方が強いということになるのだから。
「えへへ、最近のお姫様は守ってもらうだけじゃなく、前線に出てみんなを導くこともできるんだよ!」
カノンはレイジの顔ををのぞき込み、にっこりほほえんでくる。
「でもカノン。もうそんなに時間が残ってないんじゃ……」
「あー、もうこんな時間かー。確かにそろそろ戻らないとかも」
時間を確認し、申しわけなさそうに目をふせるカノン。
そんなガーディアンを倒しに行く流れであったが、カノンの自由時間がせまってきているらしい。
「じゃあ、ここで解散だなぁ。まなを待たせてもわるいし、ゆきもそろそろ戻るよぉ。また会おうねぇ、くおんたち」
するとゆきは空気を呼んだのか、解散の意を示す。そしてログアウト設定をして、別れの言葉を。
「名残惜しいけど、私たちも帰ろっか」
「そうだな」
ゆきに続き、レイジと結月も解散することに。
「あ、レージくん。最後に少しだけ、私に付き合ってくれるかな?」
しかしカノンは最後、レイジの上着の袖をつかみ呼びとめてくるのであった。
レイジとカノンは、十六夜市の海岸沿いにある広場に来ていた。
視界の先には現実と変わらないような海と、十六夜島がそびえ立つのが見える。二人して少しの間海をながめていると、カノンがふとレイジの方を振り向いた。
「レージくん、もう、あまり時間がないから、さっそく本題に入るね。キミのアイギス除名の件、しばらく保留にさせてもらうんだよ」
カノンはスカートの裾をぎゅっとにぎりしめながら、意を決したように伝えてきた。
「カノン、いいのか?」
「うん、ここまで来ていきなり追い返すのは、さすがにひどいもんね。そういうわけでもう少しだけ考えてみるよ。ただ私の答えが出るまで、レージくんは謹慎扱い。アイギスの業務に参加できないから」
「謹慎って、そこはカノンの答えが出るまで、アイギスで働かせてくれても」
「ダメなんだよ。私の言いつけを守れなかった悪い子には、罰を受けてもらわないとだもん。これが今の私にできる最大限の譲渡。大人しく受け入れるように」
カノンはレイジの顔をのぞき込み、人差し指を立てながらたしなめてくる。
「――はぁ……、それにしても、我ながらなんて甘々な選択なんだろうね……。ここは心を鬼にして遠ざける場面なのに、レージくんへの未練がそうさせてくれないなんて。そこまで私はキミのことを……」
ほおに手を当て、自嘲ぎみにつぶやくカノン。そして瞳を潤ませながら、レイジの方へ意味ありげな視線を向けてくる。
「なあ、カノンはなにも気にせず、オレを使ってくれればいいんだぞ。キミの力になる事がオレのしたいことなんだからさ!」
そんな負い目を感じているせいか素直になれないカノンに対し、レイジはいてもたってもいられずみずからの想いを口に。
「はい、口説くのはおわりなんだよ。レージくんってば、どうしてそうも私をキュン死させるようなことばかり言うかなぁ。もう、心が揺さぶられ過ぎて、私情を優先しちゃいそうになるんだよ」
しかしレイジの口元にカノンの指が当てられる。そして彼女はほおを染めながら、どこか恨めしそうに告げてきた。
まったく口説いているつもりはないのだが、彼女にはそう聞こえるらしい。そのせいでこれ以上の説得ができなくなってしまう。
「いや、そんなつもりはまったく……」
「もぉ、いくらレージくんがそう思っていても、私にとっては殺し文句なの。だから天然さんはだまっていようねー」
弁解を試みたが、口元に彼女の指が押し付けられ念押しされてしまう。
「はい、じゃあ、今度こそお別れだね。えへへ、今日は本当に楽しかったんだよ! またいっしょに外で遊ぼうね! バイバイ、レージくん!」
そしてカノンは最後満ち足りたようにほほえみ、手を振りながら別れを告げてきた。
こうしてお姫様との休日は幕を下ろすのであった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる