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3章 第2部 姫の休日
129話 アイギスの事務所
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今レイジとカノンがいるのは、メインエリアにあるビジネスゾーン。ここはオフィスビルや高層ビル、その仕事にあった外観の様々な形の建物が立ち並び密集している。ようはビジネス街のような形式をとっていた。ビジネスゾーンはメインエリア内のいたる所にあり、一定間隔で無数に設置されているのだ。
今の時代多くの社会人は現実だけでなく、エデンにある自分たちの会社へとおもむいて仕事しているという。エデン内であるならばシステムがサポートしてくれるため、現実よりもはるかに作業スピードが早い。さらに相手先の場所へ座標移動で向かえるため、移動時間など無きに等しいのである。しかもエデンなら現実と違い、金さえあればすぐに支社を用意できるのも魅力の一つであろう。ゆえにその効率性を求め、企業側はどこもこのビジネスゾーンに支社を置くのが、もはや当たり前となっているのであった。
「座標移動完了、じゃあ、早速中に入るとするか」
「うん、そうだね」
レイジたちが座標移動してきたのは、オフィスビルのとあるフロア。そして入ろうとする入口前には、エデン協会アイギスと書かれた看板が。レイジと那由他は基本現実の事務所へ向かいそこから残るか、エデンにリンクしてこの事務所に来るかの二択。ビジネスゾーンにある事務所に関しては、来客が来た時知らせが入るように設定しているため、常にいなくてもいいのであった。
中に入ると現実でのあの寂れた味のある事務所とは違い、ちゃんとしたオシャレなオフィスが。外側の壁はすべてガラスとなっていて解放感があり、外の景色を一望できる。この借りているフロアは上層部分なため、ビジネスゾーンだけでなくメインエリアの方も上から見渡せ、かなり壮観であった。
ちなみにビジネスゾーンは基本居住スペースの部屋のような独立した空間ではなく、その建物内部をそのまま借り使う形式なのだ。
「カノンに久遠くん、来たんだ」
レイジたちが来たことに気付き、結月が近づいてくる。
彼女はさっきまで、アイギスの事務所で暇をつぶしていたらしい。だから那由他へのあいさつと、結月を迎えにいくのもかねてこの事務所に来たのであった。
「レイジにカノン! ささ、そんなところに立ってないでこちらへ!」
那由他が大きく手を振りながら、歓迎してくれる。
彼女の方に視線を向けると、この部屋には結月と那由他以外にもう一人いた。
「レイジさんお邪魔してます」
ぺこりと頭を下げてくるのは一つ年下の軍に所属するデュエルアバター使い、倉敷ほのか准尉。軍服姿の彼女は来客用のソファに座り、向かいに座る那由他となにやら話していたようだ。
「むむむ、少し待ってください! ――あはは……、あのあのー、レイジにカノン。なんだかお互いの距離が近くないですかー? 二人は確か仲たがいしてましたよね? だというのにこれだと……」
那由多はほおに指を当てながらレイジたちの方に近づき、おそるおそるたずねてくる。 確かに言われて見れば、レイジのすぐ隣に立っているカノン。その距離は知り合いというレベルでなく、かなり親しい間がらの距離間かもしれない。
「もちろん、もう仲直りしたんだよ。今の私とレージくんは幼馴染の関係だもん! ね、レージくん!」
レイジの手をとり、にっこりほほえむカノン。
「ぐはっ!? お、幼馴染ですか!? あの恋愛の定番! 強ポジに位置するあの!? ぐぬぬ……、ヤバイですよ!? カノンはただでさえお姫様属性を兼ね備えているのに、そこに幼馴染属性までつくと!? は、反則すぎます! もはや那由他ちゃんが恐れていた以上の事態に!」
すると那由多は大ダメージを受けたと胸を押さえながら、カノンのあまりのスペックに怖気づきだす。そしてなにやらことの重大さを、噛みしめ始めた。
「うわー、那由他のやつ、まためんどくさいことを言い出しやがった」
「――はぁ……、まだレイジとの関係がぎくしゃくならよかったのですが、もうすでに距離が……。これがあれですか。小さいころから互いに見知った者同士だからできる伝説の技。幼馴染特権ゼロパーソナルスペース!? ななな、なんてうらやましい……。――ああ、那由他ちゃん大ピンチすぎて、めまいが……」
那由多はショックのあまりか、額に手を当てふらふらな足取りになる。もはや今にもくずれ落ちそうであった。
そんな彼女を心配し、あわてて駆け寄り那由多を支える結月。
「那由他、大丈夫!? 気をしっかりもって!?」
「あはは、心配ありがとうございます、結月! ええ、そうですとも! まだあわてる事態ではありません! 幼馴染属性といえば、負けフラグもそなえてるものですからチャンスはまだ!」
那由多は結月の気遣いによって冷静さを取り戻したのか、手をぐっとにぎりしめ意気込みだす。
だがそこへカノンが不敵な笑みを。そして。
「――ふっ、――えへへ、レージくん!」
なんと急にレイジの腕に抱き着き、ほおをすりすりしてくるカノン。
これにより彼女のぬくもりはもちろん、少し控えめながらもやわらかい感触が。この事態は那由他はもちろん、レイジにとっても予想外。ただただ困惑するしかない。
「カノン!? 急にどうしたんだ!?」
「私たち仲良しさんなんだから、これくらいのスキンシップは当然だよね?」
カノンは上目づかいで、意味ありげな視線を向けてくる。
「え!? そういうものなのか?」
「えっへへ、どのみちお姫様特権ということで、レージくんは大人しく従うしかないんだよ!」
そしてとびっきりの笑顔で、かわいらしくウィンクしてくるカノン。
「ぐは!? なんて戦闘力!?」
そんなイチャつく光景を見せつけられ、那由多は一発ノックアウト。その場に膝をつき、くずれ落ちてしまった。
結月はそんな那由他の看病へ。
「那由他!? しっかりして!?」
「か、カノン、もういいだろ。一端離れよう。これ以上はさすがにオレの精神衛生上に悪い」
レイジとしてはカノンみたいな美少女に抱き付いてもらうのは、大変うれしいこと。しかも腕に抱き付かれているため、さっきからむにむにとやわらかい感触が。さすがに初恋の少女にここまでのことをされると、気を確かに持つのが難しくなってしまう。なのでカノンに頼み込み、離れてもらうことに。
「えっへへ、はーい」
するとカノンは満足したのか、すんなり離れてくれた。
「――ふ、ふう、とりあえずだ。あそこで倒れてる那由他は放っておいて、ほのか来てたのか」
一息ついて落ち着きを取り戻し、とりあえず今の話の流れを区切るためほのかに話を振ることにする。
するとカノンの方もほのかに話かけにいく。
「あなたがほのかさんだね。那由他からいろいろ聞いてるんだよ。わたしはカノン。よろしくね!」
「わわっ!? こんなすごくきれいな人に名前を知ってもらえてるなんて、光栄です! 倉敷ほのかです!」
目を輝かせ、どこか興奮した面持ちで応えるほのか。
まるで有名人に会ったかのようである。どうやらカノンのにじみ出るお姫様オーラに圧倒されたのだろう。
「で、今日は何の用で来たんだ?」
「――あ、はい、那由他さんに現状の分析と、今後の依頼のことでお力添えをと思いまして」
「あの一大事があって、休む間もなく動いてるとは大変だな」
二日前の狩猟兵団とレジスタンスが暴れ回る大騒動。あれに寝る間を惜しみ全力で事に当たっていた軍であったが、一度事態が収束してもまだ動いているとは。もはや感心せざるを得ない。
「――あはは……、そうですね……。あんなことがあったためレジスタンスの危険視が跳ね上がり、今や軍はどこも殺気だってて。彼らの情報を少しでも集めようとエデン協会の方々に依頼を回しまくるのはもちろん、軍のデュエルアバター使いも総動員で動いてるんですよ」
ほのかは少し困ったようにほほえみ、現状を説明してくれる。
軍がそうだと、ここしばらく依頼を回されるエデン協会側は仕事に困ることはないだろう。みな情報集めや、監視の目を張りめぐらせるなどで忙しくなってくるはずだ。
「おそらくこれも革新派側の狙いだったのでしょう。狩猟兵団やレジスタンスを暴れさせたのは、保守派側の戦力を割くためだけじゃありません。今後も軍側を警戒させ、戦力として使えないようにするのが狙いかと」
さっきまでダウン状態の那由他であったが、いつもの彼女に戻り小声で補足を。
先日革新派側が狩猟兵団やレジスタンスを使い、政府のアーカイブポイントを狙わせた件。あそこまで大掛かりにしたのはその時だけでなく、今後の展開さえも考慮していたから。そう、軍側に圧倒的戦力をぶつければ、今後も同じ規模で攻められるという可能性を植え付けられるのだ。そうなれば軍側は、常に前回と同じ万全の態勢で防備を固めるはめに。それは先日の戦い同様、保守派側の戦力を常に割けることにつながる。こうなってしまうと保守派側にとってかなりの痛手。ずば抜けた策略であった。
「国自体がつぶされたら、アポルオンが敷く世界のバランスがくずれてしまいますからねー。それは保守派側にとって、なんとしてでも避けたい事態。ゆえに無理やり軍側の戦力を集め、防備を薄くするわけにはいきません」
保守派ほどの権力なら、今の状況でも軍を無理やり動かせるだろう。
しかしそれをすれば防備が薄くなり、最悪日本がめちゃくちゃになる恐れが。となれば使いたくても、使うわけにはいかない。さすがに国家を落とされたら今の世界のバランスがくずれ、多大な修正プランを実施しなければならなくなるのだから。
「なるほど、今のこの状況は革新派側の思い描いた通りになってるわけか」
「――うぅ……、しかもうちの部署にいたすごい頼りになる先輩が、急に転属してしまい人手不足がさらに深刻に。――はぁ……、まさか透先輩までいなくなってしまうなんて……」
ほのかががっくりうなだれながら、憂鬱そうに話しを進める。
「ん? その言い方だと、もう一人先にいなくなったってことだよな」
「はい、正義観あふれる軍人の鏡のような先輩がいたんですが、彼女は少し前に突然軍を辞めてしまわれて。なのでこれからは私が、二人の穴を埋めるためにも頑張らないといけません!」
気落ちしながらも、手をぐっとにぎり決意表明をするほのか。
そのあまりの健気さに、力になってあげたくなってしまうほどだ。
「ほのか、あまり無理はするなよ。なにかあればオレたちが手伝ってやるからさ」
「あはは、レイジさんありがとうございます。迷惑をかけるかもしれませんが、今後ともよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ、お願いしてくるほのか。
「任せろ、と言いたいところだが那由他。これからのアイギスの方針はどうなるんだ? 最悪オレだけでも派遣してくれれば、後は勝手にやっとくが」
ほのかには十六夜タワーの件で借りもあるし、これまでの仲から力になってやりたい。ただ問題はこれまで通りに、エデン協会アイギスが動くのかということ。今やアポルオンの内部争いが激しいため、もしかすると方針も変わってくるかもしれなかった。
一応那由他たちが動けなくても、レイジの手が空いた時にほのかの依頼を受ければいい話なのだが。
「それなら私も。力になれるかわからないけど頑張るよ」
結月も手を上げ、レイジに続き協力を申し出る。
「ふーむ、そうですねー。こちら側も事態が急変してきたため、これまで通りとはいかなくなるでしょう。革新派や保守派のことを調べながら、わたしたちの計画を進めることになります。なので依頼の方は厳選する形にしましょう」
那由多は腕を組みながらほおに指を当て、今後についての方針をかたる。
アポルオン側の事態が急変したことで、アイギスもアイギスで忙しくなってくるみたいだ。これからは本格的に動くらしいので、気を引き締めないといけないだろう。
「あれ? それでは私が軍の依頼を持ってくるのは……」
「あはは、安心してください! ほのかちゃん! レジスタンスの動向を探るのは、こちらにもメリットがありますのでお手伝いしますよ! なによりそれがほのかちゃんの力になるなら、なおさらにね!」
がっかりするほのかの後ろに回り込み、彼女の両肩に手を置く那由多。そしてほがらかに笑いかけた。
「――うぅ……、那由他さんたちの心遣いに感謝感激すぎて涙が……」
そんなレイジたちの気遣いに、ほのかは瞳を潤ませ感動を。
「もー、ほのかちゃん、大げさすぎますってばー! ――おや、もうこんな時間ですか。私たちは少し軍の方に行こうと思ってるんですが、カノンたちはこれからどうするんですか?」
那由多はおかしそうに笑ったあと、レイジたちの予定をたずねてきた。
どうやら彼女たちは今からやることがあるらしい。ならばここで引きとめるわけにはいかない。こちらもこちらでカノンの休日を再会するべきだろう。
「実はゆきのところに行こうと思ってるの。カノンもそれでいい?」
「結月が熱くかたってた、すごくかわいい女の子ところだね。了解なんだよ」
「クリフォトエリアですかー。わかりました! 一応気をつけてくださいね! レイジ、カノンのこと頼みましたよ!」
「ああ、言われなくてもお姫様の護衛はまかせとけ」
那由他のオーダーに、レイジは力強く答えるのであった。
今の時代多くの社会人は現実だけでなく、エデンにある自分たちの会社へとおもむいて仕事しているという。エデン内であるならばシステムがサポートしてくれるため、現実よりもはるかに作業スピードが早い。さらに相手先の場所へ座標移動で向かえるため、移動時間など無きに等しいのである。しかもエデンなら現実と違い、金さえあればすぐに支社を用意できるのも魅力の一つであろう。ゆえにその効率性を求め、企業側はどこもこのビジネスゾーンに支社を置くのが、もはや当たり前となっているのであった。
「座標移動完了、じゃあ、早速中に入るとするか」
「うん、そうだね」
レイジたちが座標移動してきたのは、オフィスビルのとあるフロア。そして入ろうとする入口前には、エデン協会アイギスと書かれた看板が。レイジと那由他は基本現実の事務所へ向かいそこから残るか、エデンにリンクしてこの事務所に来るかの二択。ビジネスゾーンにある事務所に関しては、来客が来た時知らせが入るように設定しているため、常にいなくてもいいのであった。
中に入ると現実でのあの寂れた味のある事務所とは違い、ちゃんとしたオシャレなオフィスが。外側の壁はすべてガラスとなっていて解放感があり、外の景色を一望できる。この借りているフロアは上層部分なため、ビジネスゾーンだけでなくメインエリアの方も上から見渡せ、かなり壮観であった。
ちなみにビジネスゾーンは基本居住スペースの部屋のような独立した空間ではなく、その建物内部をそのまま借り使う形式なのだ。
「カノンに久遠くん、来たんだ」
レイジたちが来たことに気付き、結月が近づいてくる。
彼女はさっきまで、アイギスの事務所で暇をつぶしていたらしい。だから那由他へのあいさつと、結月を迎えにいくのもかねてこの事務所に来たのであった。
「レイジにカノン! ささ、そんなところに立ってないでこちらへ!」
那由他が大きく手を振りながら、歓迎してくれる。
彼女の方に視線を向けると、この部屋には結月と那由他以外にもう一人いた。
「レイジさんお邪魔してます」
ぺこりと頭を下げてくるのは一つ年下の軍に所属するデュエルアバター使い、倉敷ほのか准尉。軍服姿の彼女は来客用のソファに座り、向かいに座る那由他となにやら話していたようだ。
「むむむ、少し待ってください! ――あはは……、あのあのー、レイジにカノン。なんだかお互いの距離が近くないですかー? 二人は確か仲たがいしてましたよね? だというのにこれだと……」
那由多はほおに指を当てながらレイジたちの方に近づき、おそるおそるたずねてくる。 確かに言われて見れば、レイジのすぐ隣に立っているカノン。その距離は知り合いというレベルでなく、かなり親しい間がらの距離間かもしれない。
「もちろん、もう仲直りしたんだよ。今の私とレージくんは幼馴染の関係だもん! ね、レージくん!」
レイジの手をとり、にっこりほほえむカノン。
「ぐはっ!? お、幼馴染ですか!? あの恋愛の定番! 強ポジに位置するあの!? ぐぬぬ……、ヤバイですよ!? カノンはただでさえお姫様属性を兼ね備えているのに、そこに幼馴染属性までつくと!? は、反則すぎます! もはや那由他ちゃんが恐れていた以上の事態に!」
すると那由多は大ダメージを受けたと胸を押さえながら、カノンのあまりのスペックに怖気づきだす。そしてなにやらことの重大さを、噛みしめ始めた。
「うわー、那由他のやつ、まためんどくさいことを言い出しやがった」
「――はぁ……、まだレイジとの関係がぎくしゃくならよかったのですが、もうすでに距離が……。これがあれですか。小さいころから互いに見知った者同士だからできる伝説の技。幼馴染特権ゼロパーソナルスペース!? ななな、なんてうらやましい……。――ああ、那由他ちゃん大ピンチすぎて、めまいが……」
那由多はショックのあまりか、額に手を当てふらふらな足取りになる。もはや今にもくずれ落ちそうであった。
そんな彼女を心配し、あわてて駆け寄り那由多を支える結月。
「那由他、大丈夫!? 気をしっかりもって!?」
「あはは、心配ありがとうございます、結月! ええ、そうですとも! まだあわてる事態ではありません! 幼馴染属性といえば、負けフラグもそなえてるものですからチャンスはまだ!」
那由多は結月の気遣いによって冷静さを取り戻したのか、手をぐっとにぎりしめ意気込みだす。
だがそこへカノンが不敵な笑みを。そして。
「――ふっ、――えへへ、レージくん!」
なんと急にレイジの腕に抱き着き、ほおをすりすりしてくるカノン。
これにより彼女のぬくもりはもちろん、少し控えめながらもやわらかい感触が。この事態は那由他はもちろん、レイジにとっても予想外。ただただ困惑するしかない。
「カノン!? 急にどうしたんだ!?」
「私たち仲良しさんなんだから、これくらいのスキンシップは当然だよね?」
カノンは上目づかいで、意味ありげな視線を向けてくる。
「え!? そういうものなのか?」
「えっへへ、どのみちお姫様特権ということで、レージくんは大人しく従うしかないんだよ!」
そしてとびっきりの笑顔で、かわいらしくウィンクしてくるカノン。
「ぐは!? なんて戦闘力!?」
そんなイチャつく光景を見せつけられ、那由多は一発ノックアウト。その場に膝をつき、くずれ落ちてしまった。
結月はそんな那由他の看病へ。
「那由他!? しっかりして!?」
「か、カノン、もういいだろ。一端離れよう。これ以上はさすがにオレの精神衛生上に悪い」
レイジとしてはカノンみたいな美少女に抱き付いてもらうのは、大変うれしいこと。しかも腕に抱き付かれているため、さっきからむにむにとやわらかい感触が。さすがに初恋の少女にここまでのことをされると、気を確かに持つのが難しくなってしまう。なのでカノンに頼み込み、離れてもらうことに。
「えっへへ、はーい」
するとカノンは満足したのか、すんなり離れてくれた。
「――ふ、ふう、とりあえずだ。あそこで倒れてる那由他は放っておいて、ほのか来てたのか」
一息ついて落ち着きを取り戻し、とりあえず今の話の流れを区切るためほのかに話を振ることにする。
するとカノンの方もほのかに話かけにいく。
「あなたがほのかさんだね。那由他からいろいろ聞いてるんだよ。わたしはカノン。よろしくね!」
「わわっ!? こんなすごくきれいな人に名前を知ってもらえてるなんて、光栄です! 倉敷ほのかです!」
目を輝かせ、どこか興奮した面持ちで応えるほのか。
まるで有名人に会ったかのようである。どうやらカノンのにじみ出るお姫様オーラに圧倒されたのだろう。
「で、今日は何の用で来たんだ?」
「――あ、はい、那由他さんに現状の分析と、今後の依頼のことでお力添えをと思いまして」
「あの一大事があって、休む間もなく動いてるとは大変だな」
二日前の狩猟兵団とレジスタンスが暴れ回る大騒動。あれに寝る間を惜しみ全力で事に当たっていた軍であったが、一度事態が収束してもまだ動いているとは。もはや感心せざるを得ない。
「――あはは……、そうですね……。あんなことがあったためレジスタンスの危険視が跳ね上がり、今や軍はどこも殺気だってて。彼らの情報を少しでも集めようとエデン協会の方々に依頼を回しまくるのはもちろん、軍のデュエルアバター使いも総動員で動いてるんですよ」
ほのかは少し困ったようにほほえみ、現状を説明してくれる。
軍がそうだと、ここしばらく依頼を回されるエデン協会側は仕事に困ることはないだろう。みな情報集めや、監視の目を張りめぐらせるなどで忙しくなってくるはずだ。
「おそらくこれも革新派側の狙いだったのでしょう。狩猟兵団やレジスタンスを暴れさせたのは、保守派側の戦力を割くためだけじゃありません。今後も軍側を警戒させ、戦力として使えないようにするのが狙いかと」
さっきまでダウン状態の那由他であったが、いつもの彼女に戻り小声で補足を。
先日革新派側が狩猟兵団やレジスタンスを使い、政府のアーカイブポイントを狙わせた件。あそこまで大掛かりにしたのはその時だけでなく、今後の展開さえも考慮していたから。そう、軍側に圧倒的戦力をぶつければ、今後も同じ規模で攻められるという可能性を植え付けられるのだ。そうなれば軍側は、常に前回と同じ万全の態勢で防備を固めるはめに。それは先日の戦い同様、保守派側の戦力を常に割けることにつながる。こうなってしまうと保守派側にとってかなりの痛手。ずば抜けた策略であった。
「国自体がつぶされたら、アポルオンが敷く世界のバランスがくずれてしまいますからねー。それは保守派側にとって、なんとしてでも避けたい事態。ゆえに無理やり軍側の戦力を集め、防備を薄くするわけにはいきません」
保守派ほどの権力なら、今の状況でも軍を無理やり動かせるだろう。
しかしそれをすれば防備が薄くなり、最悪日本がめちゃくちゃになる恐れが。となれば使いたくても、使うわけにはいかない。さすがに国家を落とされたら今の世界のバランスがくずれ、多大な修正プランを実施しなければならなくなるのだから。
「なるほど、今のこの状況は革新派側の思い描いた通りになってるわけか」
「――うぅ……、しかもうちの部署にいたすごい頼りになる先輩が、急に転属してしまい人手不足がさらに深刻に。――はぁ……、まさか透先輩までいなくなってしまうなんて……」
ほのかががっくりうなだれながら、憂鬱そうに話しを進める。
「ん? その言い方だと、もう一人先にいなくなったってことだよな」
「はい、正義観あふれる軍人の鏡のような先輩がいたんですが、彼女は少し前に突然軍を辞めてしまわれて。なのでこれからは私が、二人の穴を埋めるためにも頑張らないといけません!」
気落ちしながらも、手をぐっとにぎり決意表明をするほのか。
そのあまりの健気さに、力になってあげたくなってしまうほどだ。
「ほのか、あまり無理はするなよ。なにかあればオレたちが手伝ってやるからさ」
「あはは、レイジさんありがとうございます。迷惑をかけるかもしれませんが、今後ともよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ、お願いしてくるほのか。
「任せろ、と言いたいところだが那由他。これからのアイギスの方針はどうなるんだ? 最悪オレだけでも派遣してくれれば、後は勝手にやっとくが」
ほのかには十六夜タワーの件で借りもあるし、これまでの仲から力になってやりたい。ただ問題はこれまで通りに、エデン協会アイギスが動くのかということ。今やアポルオンの内部争いが激しいため、もしかすると方針も変わってくるかもしれなかった。
一応那由他たちが動けなくても、レイジの手が空いた時にほのかの依頼を受ければいい話なのだが。
「それなら私も。力になれるかわからないけど頑張るよ」
結月も手を上げ、レイジに続き協力を申し出る。
「ふーむ、そうですねー。こちら側も事態が急変してきたため、これまで通りとはいかなくなるでしょう。革新派や保守派のことを調べながら、わたしたちの計画を進めることになります。なので依頼の方は厳選する形にしましょう」
那由多は腕を組みながらほおに指を当て、今後についての方針をかたる。
アポルオン側の事態が急変したことで、アイギスもアイギスで忙しくなってくるみたいだ。これからは本格的に動くらしいので、気を引き締めないといけないだろう。
「あれ? それでは私が軍の依頼を持ってくるのは……」
「あはは、安心してください! ほのかちゃん! レジスタンスの動向を探るのは、こちらにもメリットがありますのでお手伝いしますよ! なによりそれがほのかちゃんの力になるなら、なおさらにね!」
がっかりするほのかの後ろに回り込み、彼女の両肩に手を置く那由多。そしてほがらかに笑いかけた。
「――うぅ……、那由他さんたちの心遣いに感謝感激すぎて涙が……」
そんなレイジたちの気遣いに、ほのかは瞳を潤ませ感動を。
「もー、ほのかちゃん、大げさすぎますってばー! ――おや、もうこんな時間ですか。私たちは少し軍の方に行こうと思ってるんですが、カノンたちはこれからどうするんですか?」
那由多はおかしそうに笑ったあと、レイジたちの予定をたずねてきた。
どうやら彼女たちは今からやることがあるらしい。ならばここで引きとめるわけにはいかない。こちらもこちらでカノンの休日を再会するべきだろう。
「実はゆきのところに行こうと思ってるの。カノンもそれでいい?」
「結月が熱くかたってた、すごくかわいい女の子ところだね。了解なんだよ」
「クリフォトエリアですかー。わかりました! 一応気をつけてくださいね! レイジ、カノンのこと頼みましたよ!」
「ああ、言われなくてもお姫様の護衛はまかせとけ」
那由他のオーダーに、レイジは力強く答えるのであった。
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