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2章 第3部 戦争の開幕
92話 十六夜タワーの戦い
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レイジたちはクリフォトエリアにある、十六夜タワーのすぐ近くに座標移動していた。
見上げればすぐ近くに十六夜島のシンボル的存在。現実と変わらない近未来感あふれるおしゃれな超高層ビル、十六夜タワーがそびえたっていた。クリフォトエリアの建物はどれもメインエリアのように近未来ふうではなく、だいたいが2020年代ぐらいの仕様になっている。しかしたまに現実の主要な建物などが、そのままの形で再現されることもあるのであった。
ほかの建物の物陰から十六夜タワーの正面玄関を観察すると、そこにはざっと三十人ほどのデュエルアバター使いが配置され、防衛網を敷いている。しかも全員武器を取りだし臨戦状態。きっとこの場所に座標移動してきたのが、向こうの電子の導き手にばれてしまっているのだろう。
「これだけ戦力が集まってるってことは、どうやら当たりみたいだな」
「はい、おそらくあの中に柊森羅がいるはずです」
「敵の電子の導き手が場の支配を開始したなぁ。これでこっちの動きはかなり制限されたけど、このまま放っておくー? 手ぎわ的に見て、向こうはSランクの電子の導き手が数人いるみたいだから、どうにかするのに少し時間が掛かるけどぉ」
ゆきは改ざんで辺りの状況を確認しながら、指示を求めてくる。
「セオリー通りまずは電子の導き手をどうにかしたいですが、ここは仕方ありません。時間が惜しいので手はず通り、彼らは放っておいて敵陣に乗り込みましょう! ゆきちゃん、まずはあの中の状況を調べてください!」
那由多は少し思考をめぐらせたあと、十六夜タワーを指さしゆきにオーダーを。
本来ならここで相手側の電子の導き手の場の支配を解除し、あちらの有利性を潰しておきたいところ。だがそれには時間が掛かってしまい、さらにゆきが思うように動けなくなってしまうはず。なぜなら場の支配は電子の導き手同士の支配領域の奪い合いなので、少しでも目を離せばその隙に形勢を逆転される恐れが。ゆえにゆきは場の支配を維持し続けないといけないため、力を制限されてしまうのであった。
一応相手の電子の導き手をすべて倒せば問題ないのだが、向こうは当然索敵に引っかからないよう自身にステルスを張っているはず。Sランクの電子の導き手の隠ぺい工作となれば、さすがのゆきでも少し手間取るのは明白。しかも彼らには護衛がついている可能性が高いため、そう簡単にうまくいきそうになかった。
「了解ー。少し待っててぇ。場の支配に割り込んで、マップデータと索敵の部分だけ使えるようにするからぁ
ゆきは自身の周りにいくつもの画面をだし、操作し始める。
「――よぉし、できたぁ。わぁ! これすっごーい! 十六夜タワーのエントランスにアーカイブポイントみたいなのがあるよぉ! きっと災禍の魔女が無理やり開けたんだろうねぇ! うーんと、中には……、近くで少しいじれば入れそう」
よほど興味深い結果だったのか、ぴょんぴょんとび跳ね報告してくれるゆき。
先に場の支配を敷かれ不利な状況だというのに、こんなにも早く権限を奪えるとはさすがSSランクの電子の導き手であった。
「ゆきちゃん、敵戦力の配置はわかりますか?」
「索敵に引っかかった分だと、十六夜タワー周辺に十五、正面に三十、中は十人ぐらいだなぁ。あとここら一帯に結構な数が配置されてるみたいー。これだとすぐにでも増援として、向かってくるだろうねぇ」
思ったよりもガチガチに固められているみたいだ。いくらこちらにも増援がいるとはいえ、これだとほのかたちはかなり苦戦を強いられかねない。
「わっかりましたー! ではみなさんの役割を説明しますね! まずエリーちゃんを除くヴァーミリオンの方々には正面玄関の方へ突撃して、敵の注意を引いてもらいます! その隙にわたしたちは側面に回り込み、ゆきちゃんのアビリティを使って上から建物内に侵入。ほのかちゃんとエリーちゃんで、中の敵をかく乱してもらう流れでいきましょう! わたしたちが目的地にたどり着いた後は、各自敵の足止めをしてできるだけ時間を稼いでください!」
那由多は腕をバッと前にだし、全員に作戦を告げる。
「ようは敵を全滅させればいいんだろぉ! オレらヴァーミリオンに任せろやー!」
するとヴァーミリオンの集団の中から一人の少年が前に出てきた。
見るからにごつい真紅の大剣をにぎるこの少年こそエデン協会ヴァーミリオンの社長、紅炎アキラ。レイジよりも一つ年上で、外見はどこにでもケンカを吹っかけるチンピラみたいな少年といっていい。ただその腕はレイジ以上であり、狩猟兵団ヴァーミリオン時代にはなんとSSランクであった。
「おう、レイジ。この件がおわれば少し付き合えや! 久しぶりにてめぇとさしでやりたい気分なんだよ!」
アキラはぎらつく視線をレイジに向け、誘ってくる。
「またか。アキラも好きだな。いくら狩猟兵団時代の因縁があるとはいえ、そこまでオレとやり合いたいのか?」
「ったりめぇだ! てめぇら黒い双翼の刃にやられまくった借りを、少しでも晴らしてぇんだよ!」
アキラは手をぐっとにぎりしめながら、興奮気味に詰め寄ってきた。
「レイジさん、観念した方がいいっすよ。アキラはケンカしたくてしょうがない、まさにチンピラ。こうやって手当たり次第ケンカを売る常習犯っすから。まあ、レイジさんの場合は、昔アキラがいきがってる時にコテンパンにやっつけてしまったから、その屈辱がてら標的になる頻度が高いんっすよ。ライバル認定されてるぐらいに」
するとエリーがやれやれと肩をすくめながら、同情めいた視線を向けてくる。
実際アキラとは狩猟兵団時代、何度もやり合っているのだ。当時はまだアリスと黒い双翼の刃としてコンビを組んでおり、その抜群のコンビネーションで彼を打倒し続けていたのである。どうやらそれがレイジに高頻度でケンカを吹っかけてくる理由らしい。
「――はぁ……、変な奴に目を付けられてしまったってことか。アキラとやり合うのは楽しいが、あんたのアビリティってえげつないからな。さすがにSSランクの腕と組合わされたら、毎回きつすぎるんだよ」
これにはがっくり肩を落とすしかない。ただでさえ今はレイジ一人ゆえ、彼の相手はさすがに厳しいのであった。
「フフ、ご愁傷さまっす。アキラ、今は仕事中っすから、さっさとみんなを率いて仕掛けるべきっすよ。これでもし報酬が減らされたら、どうなるかわかってるっすよね?」
エリーはアキラの肩をがっしりつかみ、仕事をうながしてくれる。
「――おう……、金が掛かってる時のエリーは、相変わらずこえぇ……」
そんな彼女の殺意が混じった笑みに、アキラは身を震わせだす。
あの怖いもの知らずのアキラが物怖じするとは。それほどまでに金に執着したエリーは怖いということだろう。
「そいじゃあ、暴れるかぁ! おう、野郎ども! やっとオレたちの出番だぜ! 待ちくたびれた鬱憤をやつらにぶつけにいくぞぉ!」
ごつい真紅の大剣をかかげ宣言するアキラ。
「うぉーーーーッ!」
それに続き、ヴァーミリオンの面々が雄たけびを上げる。
「全員、突撃ー!」
そしてアキラはヴァーミリオンのメンバーを引き連れ、十六夜タワー正面へと突っ込んでいった。
こうしてエデン協会ヴァーミリオンと待ちかまえていた狩猟兵団たちが激突し、戦いの火蓋が切って落とされた。
レイジたちは窓ガラスを割り、十六夜タワーの内部へ侵入することに成功する。
正面をヴァーミリオンたちが強襲したため、敵の目が彼らに集中。その隙にレイジたちは側面から回り込み、ゆきのアビリティで宙へ。そして十六夜タワー三階の窓を突き破り、建物内に突入したのだ。十六夜タワーを守っていた狩猟兵団たちも、まさか空から突入してくるとは予想外だったはず。
ちなみにここに来るまで相手側の電子の導き手の索敵に引っかからないよう、ゆきにステルス状態にしてもらっていた。おかげでここまですんなり来れたのであった。
「無事、中に潜入できたか。じゃあ、ほのかにエリー、二人だけで相手をかく乱することになるけどいけるよな?」
「はい、倉敷ほのか准尉、全力で与えられた役目を果たしてみせます」
「いただく報酬分、きっちり働かせてもらうっすよ。だから安心して追加のボーナスのことでも考えといて欲しいっす」
レイジの問いに、二人は頼もしく答える。
そしてかく乱するためレイジたちよりも先に、一階のエントランスへと向かってくれた。
「二人だけで本当に大丈夫なの? 私たちも少し手伝った方がいいんじゃ」
「いや、二人の腕ならいけるさ。今回はかく乱が主な仕事だし、あいつらのアビリティにはもってこいの舞台だ」
心配そうに二人の通って行った経路を見つめる結月に、問題ないと笑いかける。
「――おや、一階で戦闘音が聞こえてきましたねー!」
彼女たちが一階に向かってしばらくすると、激しい戦闘音が響いてきた。
どうやら狩猟兵団たちと戦闘を開始したらしい。
「二人が頑張ってくれてるうちに、わたしたちも動きましょう! ゆきちゃん、道を作るのは任せましたよー!」
「ふふーんだ、なゆたたちは少しの間だけ、時間を稼いでくれればいいからぁ。その隙にゆきが速攻で片をつけてあげるもん!」
手をぐっとにぎり、不敵な笑みを浮かべるゆき。もはや頼もしいかぎりであった。
そしてレイジたちも彼女たちに続いて階段を降り、一階のエントランスへと向かう。十六夜タワーは十六夜島のシンボルの一つとしてはじない、斬新な構造をしていた。その中でもエントランスは特に開放感あふれる広々とした空間となっており、ある程度立体的な戦闘も可能であった。
「お、二人ともやってるな」
一階にたどり着くとすでに戦闘が。中で守っていた狩猟兵団たちは現在、二人の少女の奇襲により引っ掻き回されていた。
まずはエントランスを縦横無尽に疾走する少女、倉敷ほのか。そのスピードはレイジや那由他よりも明らかに速く、もはや目でとらえるのも難しい神速の域。敵側はそうやすやすと彼女に触れることさえ叶わず、神速の舞踏に翻弄されるしかない。そんな彼らにとってマズイのはただ速いだけでなく、そのすれ違いざまにきらめくナイフの閃光。突風が吹いたと思えば、いつの間にか斬撃の跡が。まさにかまいたちにあったかのごとく、斬り刻まれていくのだ。とはいってもここにいるのは上位クラスの狩猟兵団。そこらの中、下位クラスならなすすべもなくナイフの餌食になるだろうが、彼らは違う。ゆえに彼女の動きに対応しようとするのだが、そううまくはいかなかった。なぜならここにいるのは一人だけではないのだから。
彼らに降りそそぐは精確無慈悲の狩人の矢。その矢はただの矢ではなく、電子の導き手により貫通性能を高められた特注品。もろにくらえば大ダメージをまのがれないほどの威力をほこる死の閃光が、得物を求め飛翔する。
弓を装備し矢を射るのは射殺しの狩人の異名を持つ、エリー・バーナード。エリーは壁を走りながら標的をさだめ矢を放ち、ほのかの援護を。エリーの動きでおかしいのは、一向に下に落ちようとせず壁を走っていること。まるで壁が彼女にとっての地表だといわんばかりだ。こうなると相手側は非常に手が出しにくい。たとえ跳躍でエリーに攻撃が届いても、彼女は壁を蹴って天井や支柱に再び張り付き、矢を射ってくるのだから。
結果二人の少女によって、相手側の陣形は見事に崩れていた。
「ゆき、今のうちだ」
「わかってるー。さぁ、さっさと開きやがれぇ!」
ゆきは一足先にエントランス中央に向かい、改ざんを開始。
レイジたちもすぐさま彼女の後を追う。ほのかとエリーがかく乱してくれていたおかげで、容易く目的の場所にたどり着くことができたといっていい。
「新手か!? 全員、なんとしてでもくい止めろ!」
「させるかよ」
狩猟兵団たちは新手に気付き、攻撃の矛先をレイジたちへ。
ゆきの邪魔をさせるわけにはいかないので、レイジたちは武器をかまえ前に出る。
「エリーさん! お願いします!」
「わかってるっすよ」
ほのかが指示をだすと、狩猟兵団側とレイジたちの間に割り込む形で矢が降りそそいだ。視線を移すとエリーが連射で弓を射ており、彼らの足止めを。
さすがに相手側は一瞬足がすくみ立ち止まるしかなく、その間にほのかがレイジたちの前へたどり着く。
「あなたたちの相手は私たちです」
ほのかはナイフをかまえ宣言を。
どうやらレイジたちの消耗をさけるため、かく乱だけでなく足止めもしてくれるらしい。
「開いたよぉ! このまま一気に飛ぶから、全員ゆきの近くに来てぇ!」
そして道が開けたのか、ゆきが合図を送ってくる。
「でかした。じゃあ、後は任せたぞ、二人とも」
レイジたちがゆきのすぐそばまでさがった瞬間、座標移動の感覚が襲ってきた。
見上げればすぐ近くに十六夜島のシンボル的存在。現実と変わらない近未来感あふれるおしゃれな超高層ビル、十六夜タワーがそびえたっていた。クリフォトエリアの建物はどれもメインエリアのように近未来ふうではなく、だいたいが2020年代ぐらいの仕様になっている。しかしたまに現実の主要な建物などが、そのままの形で再現されることもあるのであった。
ほかの建物の物陰から十六夜タワーの正面玄関を観察すると、そこにはざっと三十人ほどのデュエルアバター使いが配置され、防衛網を敷いている。しかも全員武器を取りだし臨戦状態。きっとこの場所に座標移動してきたのが、向こうの電子の導き手にばれてしまっているのだろう。
「これだけ戦力が集まってるってことは、どうやら当たりみたいだな」
「はい、おそらくあの中に柊森羅がいるはずです」
「敵の電子の導き手が場の支配を開始したなぁ。これでこっちの動きはかなり制限されたけど、このまま放っておくー? 手ぎわ的に見て、向こうはSランクの電子の導き手が数人いるみたいだから、どうにかするのに少し時間が掛かるけどぉ」
ゆきは改ざんで辺りの状況を確認しながら、指示を求めてくる。
「セオリー通りまずは電子の導き手をどうにかしたいですが、ここは仕方ありません。時間が惜しいので手はず通り、彼らは放っておいて敵陣に乗り込みましょう! ゆきちゃん、まずはあの中の状況を調べてください!」
那由多は少し思考をめぐらせたあと、十六夜タワーを指さしゆきにオーダーを。
本来ならここで相手側の電子の導き手の場の支配を解除し、あちらの有利性を潰しておきたいところ。だがそれには時間が掛かってしまい、さらにゆきが思うように動けなくなってしまうはず。なぜなら場の支配は電子の導き手同士の支配領域の奪い合いなので、少しでも目を離せばその隙に形勢を逆転される恐れが。ゆえにゆきは場の支配を維持し続けないといけないため、力を制限されてしまうのであった。
一応相手の電子の導き手をすべて倒せば問題ないのだが、向こうは当然索敵に引っかからないよう自身にステルスを張っているはず。Sランクの電子の導き手の隠ぺい工作となれば、さすがのゆきでも少し手間取るのは明白。しかも彼らには護衛がついている可能性が高いため、そう簡単にうまくいきそうになかった。
「了解ー。少し待っててぇ。場の支配に割り込んで、マップデータと索敵の部分だけ使えるようにするからぁ
ゆきは自身の周りにいくつもの画面をだし、操作し始める。
「――よぉし、できたぁ。わぁ! これすっごーい! 十六夜タワーのエントランスにアーカイブポイントみたいなのがあるよぉ! きっと災禍の魔女が無理やり開けたんだろうねぇ! うーんと、中には……、近くで少しいじれば入れそう」
よほど興味深い結果だったのか、ぴょんぴょんとび跳ね報告してくれるゆき。
先に場の支配を敷かれ不利な状況だというのに、こんなにも早く権限を奪えるとはさすがSSランクの電子の導き手であった。
「ゆきちゃん、敵戦力の配置はわかりますか?」
「索敵に引っかかった分だと、十六夜タワー周辺に十五、正面に三十、中は十人ぐらいだなぁ。あとここら一帯に結構な数が配置されてるみたいー。これだとすぐにでも増援として、向かってくるだろうねぇ」
思ったよりもガチガチに固められているみたいだ。いくらこちらにも増援がいるとはいえ、これだとほのかたちはかなり苦戦を強いられかねない。
「わっかりましたー! ではみなさんの役割を説明しますね! まずエリーちゃんを除くヴァーミリオンの方々には正面玄関の方へ突撃して、敵の注意を引いてもらいます! その隙にわたしたちは側面に回り込み、ゆきちゃんのアビリティを使って上から建物内に侵入。ほのかちゃんとエリーちゃんで、中の敵をかく乱してもらう流れでいきましょう! わたしたちが目的地にたどり着いた後は、各自敵の足止めをしてできるだけ時間を稼いでください!」
那由多は腕をバッと前にだし、全員に作戦を告げる。
「ようは敵を全滅させればいいんだろぉ! オレらヴァーミリオンに任せろやー!」
するとヴァーミリオンの集団の中から一人の少年が前に出てきた。
見るからにごつい真紅の大剣をにぎるこの少年こそエデン協会ヴァーミリオンの社長、紅炎アキラ。レイジよりも一つ年上で、外見はどこにでもケンカを吹っかけるチンピラみたいな少年といっていい。ただその腕はレイジ以上であり、狩猟兵団ヴァーミリオン時代にはなんとSSランクであった。
「おう、レイジ。この件がおわれば少し付き合えや! 久しぶりにてめぇとさしでやりたい気分なんだよ!」
アキラはぎらつく視線をレイジに向け、誘ってくる。
「またか。アキラも好きだな。いくら狩猟兵団時代の因縁があるとはいえ、そこまでオレとやり合いたいのか?」
「ったりめぇだ! てめぇら黒い双翼の刃にやられまくった借りを、少しでも晴らしてぇんだよ!」
アキラは手をぐっとにぎりしめながら、興奮気味に詰め寄ってきた。
「レイジさん、観念した方がいいっすよ。アキラはケンカしたくてしょうがない、まさにチンピラ。こうやって手当たり次第ケンカを売る常習犯っすから。まあ、レイジさんの場合は、昔アキラがいきがってる時にコテンパンにやっつけてしまったから、その屈辱がてら標的になる頻度が高いんっすよ。ライバル認定されてるぐらいに」
するとエリーがやれやれと肩をすくめながら、同情めいた視線を向けてくる。
実際アキラとは狩猟兵団時代、何度もやり合っているのだ。当時はまだアリスと黒い双翼の刃としてコンビを組んでおり、その抜群のコンビネーションで彼を打倒し続けていたのである。どうやらそれがレイジに高頻度でケンカを吹っかけてくる理由らしい。
「――はぁ……、変な奴に目を付けられてしまったってことか。アキラとやり合うのは楽しいが、あんたのアビリティってえげつないからな。さすがにSSランクの腕と組合わされたら、毎回きつすぎるんだよ」
これにはがっくり肩を落とすしかない。ただでさえ今はレイジ一人ゆえ、彼の相手はさすがに厳しいのであった。
「フフ、ご愁傷さまっす。アキラ、今は仕事中っすから、さっさとみんなを率いて仕掛けるべきっすよ。これでもし報酬が減らされたら、どうなるかわかってるっすよね?」
エリーはアキラの肩をがっしりつかみ、仕事をうながしてくれる。
「――おう……、金が掛かってる時のエリーは、相変わらずこえぇ……」
そんな彼女の殺意が混じった笑みに、アキラは身を震わせだす。
あの怖いもの知らずのアキラが物怖じするとは。それほどまでに金に執着したエリーは怖いということだろう。
「そいじゃあ、暴れるかぁ! おう、野郎ども! やっとオレたちの出番だぜ! 待ちくたびれた鬱憤をやつらにぶつけにいくぞぉ!」
ごつい真紅の大剣をかかげ宣言するアキラ。
「うぉーーーーッ!」
それに続き、ヴァーミリオンの面々が雄たけびを上げる。
「全員、突撃ー!」
そしてアキラはヴァーミリオンのメンバーを引き連れ、十六夜タワー正面へと突っ込んでいった。
こうしてエデン協会ヴァーミリオンと待ちかまえていた狩猟兵団たちが激突し、戦いの火蓋が切って落とされた。
レイジたちは窓ガラスを割り、十六夜タワーの内部へ侵入することに成功する。
正面をヴァーミリオンたちが強襲したため、敵の目が彼らに集中。その隙にレイジたちは側面から回り込み、ゆきのアビリティで宙へ。そして十六夜タワー三階の窓を突き破り、建物内に突入したのだ。十六夜タワーを守っていた狩猟兵団たちも、まさか空から突入してくるとは予想外だったはず。
ちなみにここに来るまで相手側の電子の導き手の索敵に引っかからないよう、ゆきにステルス状態にしてもらっていた。おかげでここまですんなり来れたのであった。
「無事、中に潜入できたか。じゃあ、ほのかにエリー、二人だけで相手をかく乱することになるけどいけるよな?」
「はい、倉敷ほのか准尉、全力で与えられた役目を果たしてみせます」
「いただく報酬分、きっちり働かせてもらうっすよ。だから安心して追加のボーナスのことでも考えといて欲しいっす」
レイジの問いに、二人は頼もしく答える。
そしてかく乱するためレイジたちよりも先に、一階のエントランスへと向かってくれた。
「二人だけで本当に大丈夫なの? 私たちも少し手伝った方がいいんじゃ」
「いや、二人の腕ならいけるさ。今回はかく乱が主な仕事だし、あいつらのアビリティにはもってこいの舞台だ」
心配そうに二人の通って行った経路を見つめる結月に、問題ないと笑いかける。
「――おや、一階で戦闘音が聞こえてきましたねー!」
彼女たちが一階に向かってしばらくすると、激しい戦闘音が響いてきた。
どうやら狩猟兵団たちと戦闘を開始したらしい。
「二人が頑張ってくれてるうちに、わたしたちも動きましょう! ゆきちゃん、道を作るのは任せましたよー!」
「ふふーんだ、なゆたたちは少しの間だけ、時間を稼いでくれればいいからぁ。その隙にゆきが速攻で片をつけてあげるもん!」
手をぐっとにぎり、不敵な笑みを浮かべるゆき。もはや頼もしいかぎりであった。
そしてレイジたちも彼女たちに続いて階段を降り、一階のエントランスへと向かう。十六夜タワーは十六夜島のシンボルの一つとしてはじない、斬新な構造をしていた。その中でもエントランスは特に開放感あふれる広々とした空間となっており、ある程度立体的な戦闘も可能であった。
「お、二人ともやってるな」
一階にたどり着くとすでに戦闘が。中で守っていた狩猟兵団たちは現在、二人の少女の奇襲により引っ掻き回されていた。
まずはエントランスを縦横無尽に疾走する少女、倉敷ほのか。そのスピードはレイジや那由他よりも明らかに速く、もはや目でとらえるのも難しい神速の域。敵側はそうやすやすと彼女に触れることさえ叶わず、神速の舞踏に翻弄されるしかない。そんな彼らにとってマズイのはただ速いだけでなく、そのすれ違いざまにきらめくナイフの閃光。突風が吹いたと思えば、いつの間にか斬撃の跡が。まさにかまいたちにあったかのごとく、斬り刻まれていくのだ。とはいってもここにいるのは上位クラスの狩猟兵団。そこらの中、下位クラスならなすすべもなくナイフの餌食になるだろうが、彼らは違う。ゆえに彼女の動きに対応しようとするのだが、そううまくはいかなかった。なぜならここにいるのは一人だけではないのだから。
彼らに降りそそぐは精確無慈悲の狩人の矢。その矢はただの矢ではなく、電子の導き手により貫通性能を高められた特注品。もろにくらえば大ダメージをまのがれないほどの威力をほこる死の閃光が、得物を求め飛翔する。
弓を装備し矢を射るのは射殺しの狩人の異名を持つ、エリー・バーナード。エリーは壁を走りながら標的をさだめ矢を放ち、ほのかの援護を。エリーの動きでおかしいのは、一向に下に落ちようとせず壁を走っていること。まるで壁が彼女にとっての地表だといわんばかりだ。こうなると相手側は非常に手が出しにくい。たとえ跳躍でエリーに攻撃が届いても、彼女は壁を蹴って天井や支柱に再び張り付き、矢を射ってくるのだから。
結果二人の少女によって、相手側の陣形は見事に崩れていた。
「ゆき、今のうちだ」
「わかってるー。さぁ、さっさと開きやがれぇ!」
ゆきは一足先にエントランス中央に向かい、改ざんを開始。
レイジたちもすぐさま彼女の後を追う。ほのかとエリーがかく乱してくれていたおかげで、容易く目的の場所にたどり着くことができたといっていい。
「新手か!? 全員、なんとしてでもくい止めろ!」
「させるかよ」
狩猟兵団たちは新手に気付き、攻撃の矛先をレイジたちへ。
ゆきの邪魔をさせるわけにはいかないので、レイジたちは武器をかまえ前に出る。
「エリーさん! お願いします!」
「わかってるっすよ」
ほのかが指示をだすと、狩猟兵団側とレイジたちの間に割り込む形で矢が降りそそいだ。視線を移すとエリーが連射で弓を射ており、彼らの足止めを。
さすがに相手側は一瞬足がすくみ立ち止まるしかなく、その間にほのかがレイジたちの前へたどり着く。
「あなたたちの相手は私たちです」
ほのかはナイフをかまえ宣言を。
どうやらレイジたちの消耗をさけるため、かく乱だけでなく足止めもしてくれるらしい。
「開いたよぉ! このまま一気に飛ぶから、全員ゆきの近くに来てぇ!」
そして道が開けたのか、ゆきが合図を送ってくる。
「でかした。じゃあ、後は任せたぞ、二人とも」
レイジたちがゆきのすぐそばまでさがった瞬間、座標移動の感覚が襲ってきた。
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