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2章 第2部 隠された世界

89話 革新派の狙い

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 レイジたち現在がいるのは、とあるビルの中。受付のカウンターがあり、待合い席が立ち並ぶいたって普通のエントランスである。周囲はレイジたちのほかに誰もらず、シーンと静まり返っていた。
 ブラックゾーンから上位序列ゾーンに戻ったあと、敵が追撃してくる危険性が。なので少し離れた適当な建物に避難し、少しの間身を隠すことにしたのであった。

「よし、追っては来てなさそうだな」

 エントランスの窓から外の様子をうかがうが、だれもいない。どうやら完全に逃げ切れたみたいだ。

「みんな助かったよ。おかげであのやばい状況から切り抜けられた」

 大丈夫そうなので、みんなが集まっているエントランス中央へと向かう。そしてほっと息をつきながら、感謝を伝えた。もし彼女たちが助けに来なければ、今ごろ強制ログアウトされて三日間戦場に出られない状態におちいっていたに違いない。

久遠くおんくんが無事でよかった。一人でブラックゾーンに行っちゃったって聞いて、すごく心配してたんだよ」
「ですです! まあ、なにはともあれ大事にならず、しかも変なフラグも立たなかったみたいなので大バンザイですねー! 那由他ちゃんが奥の手を使ってまで、頑張ったかいがありました!」

 結月と那由多はレイジが無事戻ってきてくれて、心から喜んでくれる。

「ん? 変なフラグ?」
「いえいえー、こちらの話ですよー、あはは……」

 気になったことをたずねると、那由多が視線をそらしながら笑ってごまかしてきた。

「あと森羅しんらとアーネストさんも本来敵なのに、助けに来てくれて」

 まさか敵である二人が来てくれるとは思ってもいなかった。
 なんでも偶然那由他たちと出会い、事情を知って助けに来てくれたそうだ。レイジが無事にここまでたどり着けたのも二人のおかげなので、感謝するしかない。

「自分は指示にしたがっただけだ。感謝なら森羅に言ってやれ」
「くす、気にしないで! あたしはレイジくんのためなら、なんだってしてみせるんだから! もしまた危なくなったらいつでも呼んでね! レイジくんの森羅ちゃんがすぐ駆けつけるよ!」

 森羅は胸に手を当て、陽だまりのような笑顔で宣言を。
 あまりにレイジのことを想ってくれている言葉に、彼女が本当に敵だとは思えなくなってしまうほどだ。

「心遣いはうれしいけど、オレたち敵同士だしいろいろ問題がないか? それに借りを作りまくるのもわるいし」
「ふっふっふ、愛の前にそんなちっぽけな境界線は意味をなさないんだよ! あと、お礼がしたいなら、レイジくんとのデートがいいかなー! キャー!」

 森羅は腕をバッと前に突き出し、声高らかに告げる。そしてレイジの手をとり、上目遣いでねだってきた。

「柊森羅! レイジにちょっかいかけるのもそこまでです! あなたは敵なんですから、なれなれしくしないでください!」

 だがそこへ那由多が彼女を押しのけて、猛抗議する。
 しかし森羅も負けじと押し返し、食い下がる。

「柊那由他、邪魔しないで! あなたと違ってこういう時でないと、レイジくんにアピールができないんだから!」

 そして二人は両手でつかみ合いながら、なにやらいがみ合う。
 レイジとしては止めに入りたいが、そうするとアリスの時と同じく修羅場みたいな状況になりかねない。なので目の前で起こるヒートアップ間近かな争いへの対応を考えていると、アーネストが二人を放って問うてきた。

「久遠、あの場所にいた男について、なにかわかったことはあるか?」
「やばい戦闘力を持ってた以外には、特になにも」
「そうか。奴の力、アポルオンの権限によるアビリティブーストではないはず。となると……」

 レイジの答えに、アーネストはアゴに手を当て思考しだす。

「権限によるアビリティブースト?」
「久遠くんにはまだ教えてなかったよね。アポルオンメンバーはセフィロトから特別な権限を与えられてるの。命令
権、データの閲覧えつらん、アビスエリア関連の許可証とかいろいろとね。その権限の中の一つにアビリティブーストっていうのがあって、使用者にあった上位アビリティをシステムが用意してくれるんだ。しかもこのアビリティは少し特別で、使用時にセフィロトが演算のサポートをしてくれる。だから通常よりも高度なことができちゃうの」
「なるほど。レーシスが言ってた、アポルオンメンバーなら安心って話はそれだったんだな」

 結月がクリフォトエリアで初戦闘した時、あそこまで氷のアビリティを使いこなしていたのはアビリティブーストのおかげだったのだろう。アビリティの出力は演算力のレベルに大きく影響するため、高ければ高いほど強力な力を発揮できるのだ。おそらくアーネストの反則級といっていい鉄壁の防御も、演算力のサポートをフルに使っているに違いない。

「はい、アビリティブーストの権限によりアビリティの操作や出力がすごいため、戦力としては申し分ないというわけです!」

 するといがみ合いから戻ってきた那由多が、話しに加わってくる。

「これらの権限はアポルオンの序列を持つ当主、そしてその近しい親族にも与えられるんだ。だから片桐家当主の娘である私にも、その権限があるの。さすがに私に与えられてる権限は、当主ほど強くないんだけどね」
「そういうことだ。奴はアポルオンメンバーの血縁の者ではないはず。ゆえにほかの可能性があがる。そう、エデン財団がかつて研究していたという、第三世代計画の人間かもしれん。まあ、確証はないがな」

 第三世代計画、聞いたことのない言葉であった。
 そういえば那由他が、エデン財団による倫理に反した研究のウワサがあると話していたのを思い出す。おそらく第二世代よりも更なるエデンに特化した人種を生み出そうと、裏で非合法的な人体実験をしていたに違いない。もしそうなら、あの人外レベルのスペックにも納得がいくというもの。

「うーん、それだけじゃなくて、もっと別の力も働いてると思う。もしかするとアレは研究データにあった……」

 森羅はアゴに指を当てながら、意味ありげにつぶやく。
 どうやら彼女には、謎の青年の力の正体に心当たりがあるらしい。

「あの男の正体がどうあれ、保守派側がブラックゾーンでなにかをしていたのは確か。やはり奴らの計画を止めるためにも、あそこに向かわなければならんようだ」

 アーネストは信念のこもった瞳で、ブラックゾーンの方を見つめる。

「ええ、今回は運がこちらにかたむいて入れたけど、次はそううまくいかないはず。最終決戦の舞台に乗り込むためにも、あのセキュリュティの壁をどうにかしないと」
「もしかして今回の森羅たちの狙いは、ブラックゾーンのセキリュティを解除することなのか?」

 アーネストと森羅が今後のことを話し合っているのを聞いて、レイジはある答えにたどり着く。
 ブラックゾーンに保守派側の人間がいたということは、彼らの計画とあの場所に密接な関係性があるはず。結果、計画を止めるにはなんとしてでもブラックゾーンに向かわなければならないため、革新派の狙いはおのずと見えてきてしまう。

「くす、ブラックゾーンにはアポルオンのすべて、ううん、セフィロトの中枢ちゅうすうがあるって話よ! 保守派がたどり着こうとしてるなら、あたしたちも当然向かわなくっちゃ! そういうわけで今回の件、あなたたちアイギスは大人しくしておくべきよ! 保守派については、あたしたちがなんとかしてあげるから!」

 森羅は意味ありげに笑いながら、胸をドンっとたたいて宣言する。

「――さあ、アーネスト、リネットのところに行こう! あの子の方もそろそろ順備ができてるはずだしね!」
「そうだな」
「待ってください! わたしたちがそう簡単に逃がすとでも?」

 森羅たちがこの場所から立ち去ろうとすると、那由他が愛銃であるデザートイーグルの銃口を突き付けた。
 そう、アイギスは彼女たちの計画を止めるために動いているのだ。今だなにをしでかすのか具体的な内容はわからないが、ここでしとめてしまえばすべてが解決する。柊森羅の災禍さいかの魔女の力が、今回の計画のかなめであるはずゆえに。

「ふーん、邪魔するんだー。そっちがその気ならもちろん相手をしてあげてもいいけど、レイジくん、どうする? 今ここで森羅ちゃんと闘う?」

 ほおに指を当て、ちょこんと首をかしげてくる森羅。

「確かに森羅は敵だがいろいろ助けられたし、ここは見逃してやりたいかな。那由他、ダメか?」

 アイギスの人間としてはあるまじき選択だが、森羅には今回の件とアラン・ライザバレット側から逃がしてくれた恩がある。第一この彼女たちと今いる状況は、レイジたちを助けてくれたから生まれたもの。それに対し今がチャンスと牙を向くのは、どうかと思うのだ。

「――ムムム……、レイジがそういうなら……」

 そんなレイジの頼みを、那由他はしぶしぶ受け入れてくれた。

「ありがとう! だからレイジくんは大好きよ! じゃあ、また本番の時に会おうね!」

 森羅はウィンクしながら礼を言い、アーネストと共にビルから出ていってしまった。

「さーて! いろいろあったけどここで解散でいいかなー! ワタシの方は興味深いデータを十分とれたしさー! アビスエリアにブラックゾーン、おまけに柊那由他や災禍の魔女が使っていた力とか!」

 そして取り残されたレイジたちに、今まで話に加わらなかったファントムがしゃべりだす。

「――おや、まだいたんですかファントム」
「そういえばファントムさんのことすっかり忘れてたよ」
「もー、ワタシを忘れるなんてひどいなー。バレたくないから、身を隠していただけなのにさー」

 ファントムはみなに忘れ去られていたことに抗議する。
 レイジ自身ブラックゾーンのことや森羅たちのことで頭がいっぱいで、完全に忘れていたといっていい。

「手に入れたデータ、こちらに渡してくれるんですよね?」
「心配なさんな! こっちもプロなんだから、取り引はきちんと守る! 後でメモリースフィアをコピーして、久遠たちと会ったあの教会の方に置いといてあげるのよん! 回収しに来てねー」
「お願いしますね。それでなにか有益なデータはありましたか?」
「面白いのが盛りだくさんなのよん! とくにブラックゾーン。あそこは十六夜島とは別の空間にある感じだねー!」

 嬉々爛々ききらんらんとかたるファントムからみて、よほど興味深いことがわかったようだ。

「ファントムさん、別の空間ってどういう意味なんですか?」
「文字通りの意味! ワタシたち別の空間に飛ばされてたみたいなんだよねー。だからブラックゾーンの先は十六夜島の最奥部分だけでなく、さらに広大な大地が広がってる感じかなー」

 実際の十六夜島の広さからブラックゾーンはそこまで広くはないと思っていたが、違ったらしい。別の空間につながっているため規模は未知数。一体ブラックゾーンになにが隠されているというのか。

「しかも! あそこには致命的な欠陥けっかんがある! くわしくはわからないけどなにか大切な部分が抜け落ちて、崩壊間近状態! すごく不安定になってた!」

 それに関してはレイジにもわかっていた。あの世界の終わりと称してもいい風景。体感した感じ、いつすべてが崩壊してもおかしくはないと思えるほどという。

「それと柊さんが欲しがってたデータも、少しはつかめたよー。そちら側についてる剣閃の魔女なら、くわしく解析してくれるんじゃないかなー。――ということで、ファントムさんはメモリースフィアを回収して、おさらばなのよん!」

 ファントムが別れの言葉を言った直後、小鳥型のガーディアンが機能を停止。埋め込まれていたメモリースフィアが消えた。
 今ごろはクリフォトエリアの十六夜島に送ったメモリースフィアを、ファントムが回収しているのだろう。

「那由他、これからどうする?」
「そうですねー。もし革新派がブラックゾーンのセキリュティをどうにかする気なら、今後のことも考え見逃すという手もあります。ですが相手はあの柊森羅。もっとなにか裏が、ええ、恐ろしいことを企んでる気がして止まないんですよね……。――だから今回アイギスは全力で革新派を止めようと思います! まずはファントムが言ってた通り、ゆきちゃんに解析かいせきを頼みましょう! そうすれば敵の本命の場所が、見つかるかもしれませんので!」

 話がまとまったため、レイジたちはログアウトして現実へと戻るのであった。
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