上 下
87 / 253
2章 第2部 隠された世界

83話 アビスエリア

しおりを挟む
 レイジたちは先ほどいた住宅街にある教会から、すぐ近くの十六夜いざよい市へ。そして鉄橋を渡り、十六夜島へたどり着いていた。もちろんここはクリフォトエリア。通常はほとんどランダムで地形が作られているのだが、十六夜市と十六夜島の部分だけはほぼ再現されているのである。そのため十六夜島は現実と同じく海にそびえる巨大な人工島で、関東アースのクリフォトエリアのはし側の部分にあった。
 クリフォトエリア内の建物はだいたいが2020年ぐらいの仕様になっている関係上、その当時の街並みで再現されているという。ただ主要な建物などは最近の形で再現されることもあり、その代表的な例でいうと十六夜島の有名な観光スポットの一つ。近未来感あふれるおしゃれな超高層ビル、十六夜タワーは現実同様にそびえたちここからでも目立っていた。

「ここらあたりでいいかな。ファントムさん、周りにほかの人の姿とかある?」

 二人でしばらく十六夜島内の廃墟と化した市街地を歩いていると、結月がふと立ち止まる。

「少し待ってね。ふむ、近くにはだれもいないみたいなのよん!」 

 ファントムがレイジの肩にとまっていた小鳥型のガーディアンごしに、索敵の報告をしてくれる。

「ありがとう。じゃあ、ここから向かうおうか」
「結月、そのアビスエリアって、この島からじゃないと入れないのか?」
「ここがアビスエリアにつながるゲートみたいな感じなの。わかりやすく説明すると、この場所から地下に降りた場所がそう。だけどわざわざここに来なくても、ほかのエリアからアビスエリアに座標移動できるのよね。向かおうとすれば、自動で経由してくれるから」

 通常アビスエリアに向かう場合は、メインエリアなどのほかのエリアから向かうようだ。
 確かにここに立ち寄るとなると、襲われたり目撃されたりといったリスクがあるためそうなるのが普通だろう。

「ちなみに向こうはデュエルアバター限定ね。あとラグ問題もあるから、現実の入る場所も気を付けないといけないの」

 エデンは現実をもとに作られた擬似的地球なため、地理的要因がリンクしている。そのため現実でエデンに入った場所と、クリフォトエリアの位置によってラグ問題が発生するわけだが、今回の件もそういった感じの話なのだろう。

「へー、そこらへんはクリフォトエリアと同じなのか」
「ほかのくわしい説明は着いてからでいいよね。アビスエリアはアポルオン関係者の権限がないと入れない、隠された世界。部外者がいないから、表のことを気にせず活動できる場所なんだ」

 アポルオンは世界を裏で支配するほどの組織。そのため彼らの活動は機密性において、一般人が普通にいるであろう場所はあまりよろしくない。よってアポルオンの内部情報漏えいを気にせず、自分たちの役目をこなせるようにとセフィロトが用意したのだろう。

「それじゃあ、さっそくいくよ」
「ああ、頼んだ」

 結月が宙に画面を出し操作を。そして地面に手をかざした。その直後、座標移動した時の感覚がレイジたちを襲う。
 次に視界に映ったのは、十六夜市から十六夜島にかかる橋の光景。どうやらレイジたちは現在鉄橋を渡る手前の場所に座標移動してきたようだ。
 ここはエデンの中だというのに現実と変わらない心地よい潮風が吹きわたり、波の音が響いている。海面は太陽の光を反射しキラキラ光っており、どこまでも果てしなく広がっていた。

(あれ、建物が廃墟はいきょじゃない……)

 辺りを見渡すと、一つ気がかりなことが。そう、ここから見える建物すべてが普通なのだ。クリフォトエリアでは建物がすべて廃墟風になっているのだが、このアビスエリアでは通常のままで構成されているらしい。どこもいたって普通の外見であり、人がいてもなんら不思議ではない様子。これまで物騒さ極まる廃墟風の景色を見慣れてきたため、違和感が半端はんぱなかった。

「ここがうわさのアビスエリア! すごいのよん!」

 小鳥型のガーディアンがレイジたちの周辺をとび回り、ファントムの興奮をあらわにする。

「あはは、アビスエリアに着いたよ。ここは関東アースにあるクリフォトエリアの裏側。だから表側と同じ構造をしてるの」
「それってまさか表側の全土とか言わないよな……?」
「あはは、その通りよ。アポルオン専用のクリフォトエリアを丸々用意した感じね!」
「――ははは……、マジかよ……」

 彼女の返答にもはや笑うしかない。

「この場所って普通のクリフォトエリアとなにか違いがあるのか?」
「うーん、わかりやすいのはアビスエリア一帯に、野良のガーディアンが徘徊はいかいしてるとかだろうね。なんか見つかったら攻撃を仕掛けてくるらしいよ。たとえ倒しても、しばらくしたらまたいてきていろいろ大変みたい」
「なんだ? そのどこぞのゲームみたいな話は?」

 レイジ自身そういうゲームをやったことはなかったが、どういう内容かは一応聞いたことがあった。

「えっと、ここって入れる人が限られてる分比較的安全でしょ。だからリスクを与えようということで用意されたとかだったはず。――まあ、ほかにも少し違うところはあるけど、基本はクリフォトエリアと同じよ。アーカイブポイントも作れるからデータの奪い合いもできるんだって。実際このアビスエリアにアーカイブスフィアを持ち込んでるメンバーが、多いらしいしね」
「アポルオン関係者しか入れないから、クリフォトエリアより安全かもしれないってわけか。これだけ広ければ、アーカイブポイントを見つけ出すのにも苦労しそうだし」

 アビスエリアはアポルオン関係者しか入れないから、データを求め徘徊している者がいない。さらに狩猟兵団の方もアポルオンの存在が表に漏れる恐れがあるため、呼ぶことが難しいのだ。
 ほかにも関東アースのクリフォトエリアと同じ規模ゆえ、アーカイブポイントを探すこと自体困難。クリフォトエリアならばまだ情報屋や電子の導き手、金で雇った野良などを使って大勢に調べさせることもできるが、ここでは機密性の問題で不可能である。そのためアーカイブスフィアやメモリースフィアを守るには、打ってつけの場所といえるだろう。ただ襲われた場合に関しては人手を呼びにくいため、守りが若干じゃっかん手薄になる恐れも。ゆえに必ずしもこちらの方が安全とはいえないのかもしれないのだが。

「でもこの場所にアーカイブスフィアを持ち込むのってどうするんだ?」
「クリフォトエリアのアーカイブポイントからなら、どこからでもこっちに送れるらしいね。時間が一日ぐらいかかるのと、クリフォトエリアにあったメモリースフィアのバックアップ用のデータが全部消えちゃうって話だけど。ようするにどちらかのエリアでしか、データを守ることができないみたい」

 データの保管が一つのエリアでしか認められていないため、それに関係するデータが入ったメモリースフィアは強制的に削除される。なのでクリフォトエリアで用意していたバックアップ用のデータを、すべて失うはめになるということ。
 よってまた一からバックアップ用のデータをメモリースフィアにいれ、アビスエリアのほかの場所にアーカイブポイントを設置する羽目に。これによりアビスエリアのデータをすべて消去する事態におちいったとしても、クリフォトエリアにまだデータが残っているという安全策は使えないわけだ。

「あとアビスエリアで納品されてくるデータを受け取る場合、クリフォトエリアで中継点を設置しとくんだって。そうすればそこから送り込めるらしいよ」

 どうやらクリフォトエリアのアーカイブポイントに中継点を置き、そこから納品されてきたデータを送る流れのようだ。確かにそういうふうにしなければ、アビスエリアで管理していた場合納品データを受け取れない。さらにこうすれば納品する側の傘下に、クリフォトエリアで管理しているように見せられるためこのような仕組みをとったのだろう。

「じゃあ、ここからは十六夜島の話ね。アビスエリアのメインとなる十六夜島には、権限による侵入制限があるの。中に入るにはアポルオン関係者の権限が必要で、そこから進むにつれて権限のレベルが大きくなっていくんだ。まず集会や密談、セフィロトの敷く経済状況のデータにアクセスしたり、アポルオン関係の活動をするために用意された管理区かんりくゾーン。アポルオンメンバーの権限があれば誰でも入れる場所よ。本来なら管理区ゾーンに出れたけど、ファントムさんのデータ収集もあるし、まずはこの場所に来たんだ」

 結月は十六夜島に視線を向けて説明してくれる。

「次に十六夜島内部分の聖域と呼ばれる上位序列ゾーン。序列二十位以内のメンバーの権限があれば入れて、利用できるの。そしてほら、あそこ」

 彼女が指さすその先には、巨大なきりのようなものが。
 それはここに来て気になっていたことの一つ。十六夜島の最奥から三分の一ほどの地点は、霧におおわれて中の様子が見えないのだ。まるであそこから先は別の世界とでも言いたいかのように。

「あの霧で覆われて中の様子が見えないのが、ブラックゾーン。アポルオンという組織のすべてがあるってうわさだけど、中がどうなってるのか誰も知らない。まったくの謎に包まれてるの」
「――ようは内部に進むほど、重要性が増していくわけか……。――まあ、とりあえずは結月の権限で入れるところまで行く流れになるんだろうな」
「そうそう。アビスエリアの十六夜島に入るにはアポルオン関係者の権限のほかに、もう一つ条件があるんだ。実はあそこだけ現実の十六夜市か十六夜島から、エデンに入らないといけないっていうね」

 那由他が十六夜市や十六夜島に隠された秘密があると言っていたが、こういうことだったのかもしれない。

「――うん、アビスエリアについての大体の説明はこんなところかな」
「ささっ、早く十六夜島へ行くのよん!」

 小鳥型のガーディアンは再びレイジの肩にとまる。そしてファントムがもはや待ちきれない様子でせかしてきた。

「ファントム、テンションバク上がりだな」
「なんたって事前情報通り、おもしろいところだからねー! もう調べたくて調べたくてうずうずしちゃってるのよん!」

 小鳥型のガーディアンがレイジの肩で、ぴょんぴょん飛び跳ねる。

「おもしろいって?」
「このアビスエリアって、なんだか不安定みたいなんだよねー。空間や、建物とかのオブジェクトとかがあいまいというか。そのおかげで電子の導き手が、いろいろとわるさできちゃいそうなのよん!」
「そんな話もあったね。だからアーカイブポイントの隠ぺい工作や、空間内部の建造物もすごい改造ができるとか」
「にひひ、興味深いデータが取れる予感! ほらほら、早く早くー!」

 こうしてファントムの催促さいそくのもと、アビスエリアの十六夜島へと向かうのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

謎の隕石

廣瀬純一
SF
隕石が発した光で男女の体が入れ替わる話

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。 *60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。  『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!

処理中です...