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2章 第1部 十六夜学園
71話 結月と学園
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放課後の時間帯。陽がだんだん沈み始め、学園の校舎が夕暮れの色に染まっていく。そんな中、レイジは結月と学園内の広場でのんびりとした時間を過ごしていた。
本当なら今ごろクリフォトエリアに向かい、徘徊している狩猟兵団を強制ログアウトさせ情報を手に入れる作業をしたかった。だがもしそこで大ダメージを受けてしまうと、のちの戦闘にも引きずることになる。アイギスの戦力に余裕がない状況で、それはマズイ。さらに向こうにいる時、外部との連絡手段がつかないため急な連絡に対応できないのだ。それゆえ情報収集は那由他やゆき、レーシスの方に任せ、レイジは十六夜学園で待機することに。始めは楓に用意してもらった部屋で休んでいたのだが、放課後になって結月が訪ねて来たのである。そしてお互い特にやることがなくヒマを持て余していたため、結月の案内で学園を散策することになったのだ。
放課後とだけあって学生たちは各々帰宅やら部活やら、おしゃべりなどをして学園生活を満喫しており、そんな中を結月と二人で学園内の緑豊かな広場内を歩いていく。広場内は庭師などを雇っているのだろうか。見事な木々や色とりどりの花が植えられた花壇が並んでおり、心がとても安らぐといっていい。天気がいい日にベンチに座ってひなたぼっこでもしたら、さぞ気持ちのいいことだろう。広場でこれなのだから、庭園の方はもっとすごいに違いなかった。
「ねえ、久遠くん。この学園ってどう思う?」
結月がふと立ち止まる。そしてアゴに手を当て、小首をかしげてきた。
「ウワサどおりのすごいところだと思ったよ。一般の学園と違って設備やら敷地内やら、スケールがでかすぎるというか」
「あはは、外から来た人はやっぱりそう思うよね。この十六夜学園は昔から技術者部門のほかに、企業、財閥関係者の経営部門にも力を入れてたの。その分学園の構造が私たち向けになってるってわけ」
レイジの素直な感想に、結月は学園内を見渡しながら説明してくれる。
「なるほど、それで金持ちが通う学園みたいな感じになってるんだな」
「始めの方は戸惑うかもしれないけど、慣れてしまえば快適なんだ! どの設備も充実してるし、お茶したりゆっくりできるところも多いの! 部活の方も部費とかすごいらしいしね! もう、いたれり尽くせりの学園ライフが送れちゃうんだから! すごいでしょ!」
そしてレイジに詰め寄り、胸元近くで両腕をブンブン振りながら力説してくる結月。
ただそれは誇らしく思っているとか、自慢をしているとかでなく、なにかをレイジにうったえようとしているような。
「ははは、確かにここなら優雅な学園生活を送れそうだ」
「うん! おすすめ間違いなし! 通わないと損って断言できるよ! そういうわけでどうかな? 久遠くん!」
結月はレイジの手をつかみながら、なにやら目を輝かせてくる。
「うん?」
「だから! ここの学園生活はおすすめなの! こんな機会もう二度とないんだよ!」
首をひねっていると、結月がさらに念押ししてきた。
「――えっと、結月、まさか……、オレを誘ってるのか?」
どうやら結月はレイジに学園に通ってもらいたいがゆえに、説得を試みているらしい。
「あはは、それ以外になにがあると?」
「――あの、結月さん。さっき納得してくれませんでしたっけ……。オレは学園に通わないということで……」
彼女のまるで有無を言わさない勢いに、おそるおそる確認してみる。
確か学園長室に行く前に、結月には学園へ通う気がないとしっかり伝えておいたはず。それについては彼女も納得し、あきらめてくれたと思っていたのだが。
「一度は諦めたよ。でも、大事なことを思い出したの。久遠くんにメインエリアで言ったことを」
結月はそっと瞳を閉じ、自身の胸に手を当てながら思いをはせだす。
「メインエリアで?」
「ほら、久遠くんがあまりに普通の生活とかけ離れすぎてたから、私がいろいろ教えてあげるって話」
「――あ、あの時の……。やっぱりあれって本気だったのか?」
一昨日のメインエリアでのやり取りを思い出す。あの時はレイジの同年代としてあるまじき生き方に衝撃を受け、結月が指導してあげるみたいな感じになったはず。遊びなどレイジと同じ年頃の子供が過ごす、普通の日々のレクチャーを。あの時はなんとか誤魔化したつもりだったが、まだ覚えていたようだ。
「もちろん! それでね、あの計画を実行するにあたって、一緒に学園生活を送る状況はすごくピッタリだと思うの! 休みの日だけじゃなく、平日でも久遠くんを公正できるからね!」
手をポンっと合わせ、満面の笑顔で告げてくる結月。
「いやいや、さすがにそこまでしてもらうのは心苦しいから、遠慮させてもらうよ」
「全然迷惑じゃないよ! むしろうれしいぐらい! そうやって過ごすのは私にとって、楽しい学園生活を送るのと同じだもの! だから久遠くんのためにもなるし、私のためにもなるってわけ! ね! 問題ないでしょ!」
結月は心から大歓迎というような、まぶしい笑顔を向けてくる。
ここまでいい笑顔でせまられると、レイジとしては非常に断りづらかった。
「――ま、まあ、言いたいことはわかるが……」
「――はぁ……、久遠くんがなかなか折れてくれない……。――こうなれば路線を少し変えてと……、よし!」
なかなか首を縦に振らないレイジに、頭を悩ませる結月。それから拳をぐっとにぎりしめ、意を決したようにとあるアクションを。
「久遠くん! もし十六夜学園に通ってくれるなら、ゆ、結月ちゃんとの甘酸っぱい学園生活が待ってるよ! 一緒に登下校したり、お昼ご飯を食べたり、放課後を二人で満喫するとか盛りだくさん! 私とほぼ一日中いられるんだから!」
結月はアゴの下で両手を添えて、かわいらしくウィンクしてくる。
那由多のようなテンションでの猛アピール攻撃。これにはさすがのレイジも旗色が悪い。那由他に対してはもう免疫がついていたが、それが結月となると話は別。普段まじめでしっかり者の彼女とのギャップもあいまって、心が揺さぶられてしまう。
「――うぅ、一応那由他のノリでやってみたけど、はずかしいね……、あはは……」
そんな那由他みたいにアピールをした結月であったが、そのあまりの大胆さに耐え切れず、はずかしそうに目をふせだす。
「――くっ、なんだか想像してみると、うなづいてしまいたくなりそうだ……」
「あれ? 効いてる? じゃあ、もっと押して……。――えっと……、うん、登下校は手をつなぎながらで! お昼は手作り弁当! 放課後はオシャレな喫茶店でお茶を! でねでね! 休日は水族館や遊園地などを、腕を組みながらデートしたりとか! キャー! そして別れ際にはもちろん……、ふふふ……」
思いのほか効いているレイジを見て、結月はさらにこの路線で推し進めようと。ただそのテンションはしだいにおかしく。ほおに両手を当てながら、妄想にふけっているかのようにみずからの理想をかたりだした。
「ってなに言ってるの私! こ、これじゃあ私がただ好きな人とやりたいことじゃない!? く、久遠くん、今のはなしだから忘れて!? ちょっとした雑念が頭をよぎっただけで!?」
しかし彼女は途中で正気に戻り、顔をこれでもかと真っ赤に。そして手をあわあわさせながら、必死に弁解してくる。
「なんか勝手に自爆した!? 結月、とにかく落ち着け!」
「――あはは……、ごめんね……、とり乱して……」
手をもじもじさせながら、視線をそらす結月。
「そこまでオレに学園に通ってほしいのか?」
「うん、私って学園だとみんなに慕われてて、その分仲良く見えるかもしれないけど、家柄のせいで壁ができちゃってるというか……。そうね、本当に友達と呼べる子がいない感じなの。だから学園でも気軽に話せる友達が欲しくて、できれば那由他だけでなく久遠くんにも通ってほしいなぁって……。やっぱり、ダメかな……?」
結月は胸をぎゅっと押さえ、悲しげに目をふせる。そして上目づかいで、自身の願いを切実に告げてきた。
初めて会った時もアイギスの事務所でこのようなことを言っていたのを思い出す。やはり大財閥のご令嬢という立ち位置は彼女にとって、多大な影を落としているみたいだ。
これにはどう返していいかわからず、二人でしばらく見つめ合う形に。
「うわー、やっばいねー、これは! 今年始まって以来の大スクープかもー!」
そうこうしていると突然、別の声が割り込んできた。
本当なら今ごろクリフォトエリアに向かい、徘徊している狩猟兵団を強制ログアウトさせ情報を手に入れる作業をしたかった。だがもしそこで大ダメージを受けてしまうと、のちの戦闘にも引きずることになる。アイギスの戦力に余裕がない状況で、それはマズイ。さらに向こうにいる時、外部との連絡手段がつかないため急な連絡に対応できないのだ。それゆえ情報収集は那由他やゆき、レーシスの方に任せ、レイジは十六夜学園で待機することに。始めは楓に用意してもらった部屋で休んでいたのだが、放課後になって結月が訪ねて来たのである。そしてお互い特にやることがなくヒマを持て余していたため、結月の案内で学園を散策することになったのだ。
放課後とだけあって学生たちは各々帰宅やら部活やら、おしゃべりなどをして学園生活を満喫しており、そんな中を結月と二人で学園内の緑豊かな広場内を歩いていく。広場内は庭師などを雇っているのだろうか。見事な木々や色とりどりの花が植えられた花壇が並んでおり、心がとても安らぐといっていい。天気がいい日にベンチに座ってひなたぼっこでもしたら、さぞ気持ちのいいことだろう。広場でこれなのだから、庭園の方はもっとすごいに違いなかった。
「ねえ、久遠くん。この学園ってどう思う?」
結月がふと立ち止まる。そしてアゴに手を当て、小首をかしげてきた。
「ウワサどおりのすごいところだと思ったよ。一般の学園と違って設備やら敷地内やら、スケールがでかすぎるというか」
「あはは、外から来た人はやっぱりそう思うよね。この十六夜学園は昔から技術者部門のほかに、企業、財閥関係者の経営部門にも力を入れてたの。その分学園の構造が私たち向けになってるってわけ」
レイジの素直な感想に、結月は学園内を見渡しながら説明してくれる。
「なるほど、それで金持ちが通う学園みたいな感じになってるんだな」
「始めの方は戸惑うかもしれないけど、慣れてしまえば快適なんだ! どの設備も充実してるし、お茶したりゆっくりできるところも多いの! 部活の方も部費とかすごいらしいしね! もう、いたれり尽くせりの学園ライフが送れちゃうんだから! すごいでしょ!」
そしてレイジに詰め寄り、胸元近くで両腕をブンブン振りながら力説してくる結月。
ただそれは誇らしく思っているとか、自慢をしているとかでなく、なにかをレイジにうったえようとしているような。
「ははは、確かにここなら優雅な学園生活を送れそうだ」
「うん! おすすめ間違いなし! 通わないと損って断言できるよ! そういうわけでどうかな? 久遠くん!」
結月はレイジの手をつかみながら、なにやら目を輝かせてくる。
「うん?」
「だから! ここの学園生活はおすすめなの! こんな機会もう二度とないんだよ!」
首をひねっていると、結月がさらに念押ししてきた。
「――えっと、結月、まさか……、オレを誘ってるのか?」
どうやら結月はレイジに学園に通ってもらいたいがゆえに、説得を試みているらしい。
「あはは、それ以外になにがあると?」
「――あの、結月さん。さっき納得してくれませんでしたっけ……。オレは学園に通わないということで……」
彼女のまるで有無を言わさない勢いに、おそるおそる確認してみる。
確か学園長室に行く前に、結月には学園へ通う気がないとしっかり伝えておいたはず。それについては彼女も納得し、あきらめてくれたと思っていたのだが。
「一度は諦めたよ。でも、大事なことを思い出したの。久遠くんにメインエリアで言ったことを」
結月はそっと瞳を閉じ、自身の胸に手を当てながら思いをはせだす。
「メインエリアで?」
「ほら、久遠くんがあまりに普通の生活とかけ離れすぎてたから、私がいろいろ教えてあげるって話」
「――あ、あの時の……。やっぱりあれって本気だったのか?」
一昨日のメインエリアでのやり取りを思い出す。あの時はレイジの同年代としてあるまじき生き方に衝撃を受け、結月が指導してあげるみたいな感じになったはず。遊びなどレイジと同じ年頃の子供が過ごす、普通の日々のレクチャーを。あの時はなんとか誤魔化したつもりだったが、まだ覚えていたようだ。
「もちろん! それでね、あの計画を実行するにあたって、一緒に学園生活を送る状況はすごくピッタリだと思うの! 休みの日だけじゃなく、平日でも久遠くんを公正できるからね!」
手をポンっと合わせ、満面の笑顔で告げてくる結月。
「いやいや、さすがにそこまでしてもらうのは心苦しいから、遠慮させてもらうよ」
「全然迷惑じゃないよ! むしろうれしいぐらい! そうやって過ごすのは私にとって、楽しい学園生活を送るのと同じだもの! だから久遠くんのためにもなるし、私のためにもなるってわけ! ね! 問題ないでしょ!」
結月は心から大歓迎というような、まぶしい笑顔を向けてくる。
ここまでいい笑顔でせまられると、レイジとしては非常に断りづらかった。
「――ま、まあ、言いたいことはわかるが……」
「――はぁ……、久遠くんがなかなか折れてくれない……。――こうなれば路線を少し変えてと……、よし!」
なかなか首を縦に振らないレイジに、頭を悩ませる結月。それから拳をぐっとにぎりしめ、意を決したようにとあるアクションを。
「久遠くん! もし十六夜学園に通ってくれるなら、ゆ、結月ちゃんとの甘酸っぱい学園生活が待ってるよ! 一緒に登下校したり、お昼ご飯を食べたり、放課後を二人で満喫するとか盛りだくさん! 私とほぼ一日中いられるんだから!」
結月はアゴの下で両手を添えて、かわいらしくウィンクしてくる。
那由多のようなテンションでの猛アピール攻撃。これにはさすがのレイジも旗色が悪い。那由他に対してはもう免疫がついていたが、それが結月となると話は別。普段まじめでしっかり者の彼女とのギャップもあいまって、心が揺さぶられてしまう。
「――うぅ、一応那由他のノリでやってみたけど、はずかしいね……、あはは……」
そんな那由他みたいにアピールをした結月であったが、そのあまりの大胆さに耐え切れず、はずかしそうに目をふせだす。
「――くっ、なんだか想像してみると、うなづいてしまいたくなりそうだ……」
「あれ? 効いてる? じゃあ、もっと押して……。――えっと……、うん、登下校は手をつなぎながらで! お昼は手作り弁当! 放課後はオシャレな喫茶店でお茶を! でねでね! 休日は水族館や遊園地などを、腕を組みながらデートしたりとか! キャー! そして別れ際にはもちろん……、ふふふ……」
思いのほか効いているレイジを見て、結月はさらにこの路線で推し進めようと。ただそのテンションはしだいにおかしく。ほおに両手を当てながら、妄想にふけっているかのようにみずからの理想をかたりだした。
「ってなに言ってるの私! こ、これじゃあ私がただ好きな人とやりたいことじゃない!? く、久遠くん、今のはなしだから忘れて!? ちょっとした雑念が頭をよぎっただけで!?」
しかし彼女は途中で正気に戻り、顔をこれでもかと真っ赤に。そして手をあわあわさせながら、必死に弁解してくる。
「なんか勝手に自爆した!? 結月、とにかく落ち着け!」
「――あはは……、ごめんね……、とり乱して……」
手をもじもじさせながら、視線をそらす結月。
「そこまでオレに学園に通ってほしいのか?」
「うん、私って学園だとみんなに慕われてて、その分仲良く見えるかもしれないけど、家柄のせいで壁ができちゃってるというか……。そうね、本当に友達と呼べる子がいない感じなの。だから学園でも気軽に話せる友達が欲しくて、できれば那由他だけでなく久遠くんにも通ってほしいなぁって……。やっぱり、ダメかな……?」
結月は胸をぎゅっと押さえ、悲しげに目をふせる。そして上目づかいで、自身の願いを切実に告げてきた。
初めて会った時もアイギスの事務所でこのようなことを言っていたのを思い出す。やはり大財閥のご令嬢という立ち位置は彼女にとって、多大な影を落としているみたいだ。
これにはどう返していいかわからず、二人でしばらく見つめ合う形に。
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