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1章 第4部 動き始めた運命
52話 甘い展開?
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「ここが久遠様の部屋となっております。なにか御用がおありでしたら、お呼びください。エデンへの接続の方はあらかじめできないようにしているので、ご了承願います」
那由他たちとは別の部屋へと案内されるレイジ。
ターミナルデバイスが取られているので、外への連絡ができない状況。しかもエデンに行けないようにされているときた。こうなってしまうと手の打ちようが完全になくなり、大人しくするしかないみたいだ。
「どうも」
レイジは用意された部屋に入る。
あたりを見回すと、まるでホテルのような宿泊施設の構造をしている。その内装は普通のホテルと違って高級感があふれており、VIP用のスイートルームみたいな感じ。広々とした部屋に、ふかふかベッドや大型テレビ、冷蔵庫なども完備されていた。
実際狩猟兵団連盟の施設の役割は、主に狩猟兵団たちのサポート。ライセンスの発行や、依頼の仲介、宿泊施設の提供など。ほかにも上位クラスの企業、財閥の者たちの施設も用意されているので、VIP用の宿泊施設や会談用の部屋などがいくつもあるのであった。
「――ははは……、さすがVIP用の客室。ここならゆっくりくつろげそうだな」
部屋に対しての感想をつぶやいていると、誰かが奥の方から近づいてくる。
業火のごとく燃えるような赤い髪の、那由他とどことなく雰囲気が似ている制服姿の少女が。
「おかえりなさい! レイジくん! ごはんにする? お風呂にする? それとも、あ、た、し? キャー!」
現れたのはさっき廃ビルの屋上で会った柊森羅。彼女はかわいらしく小首をかしげ、お決まりのセリフをノリノリで言ってくる。そして最後にはほおに両手を当て、はしゃいできた。
「あーあ、変な厳格が見えるだなんて、疲れてるのかな……。ここはさっさと寝て休むとするか」
こめかみに手を当て、目の前で起こっている出来事に現実逃避しながらベッドに寝転び休むことにする。ニコニコとレイジの返事を待っている森羅を素通りして、ベッドに倒れ込んだ。やはりVIP用のベッドとあってその寝心地は最高だ。これならすぐにでも眠りにつけるだろう。そういうわけでさっそく瞳を閉じ、寝ようとする。
「――そうなのね……。――わかったよ! レイジくん! あたしが欲しくて仕方がないってことなのよね! くす、まさかここまでレイジくんが大胆な人だったなんて……。行き成りベッドに誘われるのは想定外だったけど、森羅ちゃん頑張るから! ――で、でも初めてだから、できれば優しくしてほしいかな……」
瞳を閉じていると、はにかんだ口調での聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
「――ふぅ、念のためシャワーを浴びてて正解ね。よし! 待たせてもわるいから、覚悟を決めましょう! えーと、とりあえず……、服を脱げばいいのよね?」
「ちょっと待て!? 一体なにをしてるんだ!?」
なんだか話がとんでもない方向に向かっていることに気付き、レイジは上半身をガバッと起こして慌ててツッコミを入れる。
レイジの視界に飛び込んできたのは、森羅が制服の上着を脱ごうとボタンをはずしている姿。すでに上の方のボタンをはずしていたため、彼女のちょうどいい大きさの胸の谷間。さらには淡いピンク色のブラが見えていた。
「あれ? レイジくんは脱がせたいタイプだった? ならこのまま……」
「違うから! キミは根本的に間違ってる! というかなんでここにいるんだ?」
今にもベッドに飛び込んできそうな勢いの森羅を、手で制し全力で言い聞かせようと。
さすがにそこまで積極的にアプローチされると、思春期の男子ゆえ間違いを起こしそうになってしまう。
「くす、そんなの未来の旦那さまであるレイジくんのことを、待ってたに決まってるでしょ! 森羅ちゃんは好きな人に尽くしまくる、非常によくできた嫁なのです!」
胸元をはだけさせたまま両腰に手を当て、胸を張ってくる森羅。
彼女はきっと那由他同じタイプ。これ以上付き合っていたら、いろいろ疲れそうなのでさっさと追い出すことにした。
「あー、わかったから、さっさと出て行ってくれ。オレはオレでこれからのことを考えないといけないから、キミにかまってる暇はない」
「えー、そうはいってもあたし、レイジくんのお世話係なの。だからたっぷりご奉仕しないと!」
森羅は胸元近くでぐっと両拳をにぎり、かわいらしく気合いを入れだす。
「そんなサービス頼んだ覚えはないな。たとえあったとしても却下だ、却下」
「ぶー、レイジくん、なんだか冷たい……。――あ、なるほど! お世話係で来るならメイド服を着て来いってことか! 森羅ちゃんとしたことが、まさかの凡ミスを……。ごめんね! そういうことなら次来る時、メイド服を着てくるよ! 可愛いく着飾った森羅ちゃんを、楽しみにしといてね!」
ほおを膨らませる森羅。だがそれもつかの間、ひらめいたように手をポンとたたき、一人でなにやら納得し始める。そしてこれで完璧と得意げにウィンクしてきた。
「いや、そういう問題でもないからな」
「くす、安心して。レイジくんが満足できるように、どんなシチュエーションもこなしてみせるから! ご奉仕から、ご主人様のお仕置きまで、なんでもね!」
(――はぁ……、ダメだ、この子。完全に那由他と同じタイプだ……」
もはやおかまいなしにグイグイ攻めてくる森羅に、頭を抱えるしかない。
その感じは、まさにいつもレイジのことを振り回し続ける那由他そのものであった。
「もう限界だ。寝よう」
「待って! 待って! あたしが悪かったから、もっとお話しようよ! さっきまでのはレイジくんとこうしてお話できるのがつい嬉しくて、舞い上がっちゃってただけなの! だから、ね!」
再び寝転ぼうとすると、森羅はすぐさまレイジの隣に座ってくる。そしてグイッと詰めよりお願いと手を合わせながら、上目づかいで笑いかけてきた。
二人の距離が近いためか、シャンプーのいい香りが鼻孔をくすぐる。そういえばさっきシャワーを浴びたと言っていたので、それが原因なのだろう。このまま間近にいられると精神状あまりよろしくなく、それにかわいそうな気がしたのでしかたなく彼女との話に付きやってあげることに。
「――わかったから、少し離れてくれ。ちょっと近すぎるぞ」
ベッドに座り直し、彼女の横につきながら頼み込む。
「えー、いやよ! 森羅ちゃんは少しでも、レイジくんの近くにいたいんだもん!」
すると森羅はレイジの腕に抱き着き、子供のように駄々をこねてくる。
結果、レイジの腕にやわらかいものが押し付けられる形に。しかも彼女の上着は胸元がはだけたままであり、谷間がしっかりと見えるときた。もはやその気持ちのいい感触と眼福な光景に、頭がクラクラしそうになる。
過剰に反応したら負けた気がするため、できるだけ冷静をよそい話を進めることにした。
「――はぁ……、もういい。で、柊さんは」
「森羅」
彼女を名字で呼ぶと、森羅レイジを真っ直ぐに見つめてすぐさま訂正を求めだす。
「――うっ、森羅さんは……」
腕に抱き着かれている関係上彼女の顔があまりにも近く、思わず視線をそらしてしまう。
「森羅! もしくは森羅ちゃんでもいいよ!」
森羅は至近距離からの満面の笑顔でねだってくる。
どうやら聞き届けるしかないようで、テレながらもその通りに呼んでたずねることに。
「――森羅とオレって初対面だよな。なのになんでそんな……」
「好き好きオーラ全開って?」
ほおにゆび指を当て、小首をかしげてくる森羅。
「――ああ、そんな感じだ……」
そこまではっきり言われると、さすがに気恥ずかしくなってしまう。それはつまり彼女がレイジに、好意を持っているということなのだから。
「うーん、それはほら、一目惚れってやつかな!」
「え? 一目惚れってあの……?」
「そう! あの一目惚れ! レイジくんを見た瞬間、森羅ちゃんの心は射抜かれてしまったの! そして気づいてしまった。この人こそあたしの運命の人なんだってね!」
森羅はレイジの腕をさらにぎゅーと抱きしめ、はにかんだ微笑みを向けてくる。
「――そ、そうなのか……」
「あはは、驚くのも無理はないよ! あたし自身、すごく驚いてることだもん!」
困惑するレイジに、森羅は感慨深そうにうんうんとうなずく。
「――それにしても柊の血筋は久遠の血筋に惚れっぽいって話、まさか本当だったとは……。この分だと柊は恋に狂う宿命というのが、現実になりそうな勢いね……。――くす、でもこれはこれでうれしい誤算かな。力になってあげたい人が、好きな人だなんて素敵だもんね……」
そしてレイジに熱のこもったまなざしを向け、おかしそうに口元を緩めながら意味ありげにつぶやく森羅。
「――ん? なにを一人で納得してるんだ?」
「ううん、なんでもないよ。ただうちの血筋って、ほんとちょろすぎるんだなーって、改めて思ってただけ。柊那由他もあたしと同じみたいだしね」
「なんだそれ? ――いや、それよりも……。――と、とりあえずこの話は置いておこう」
少しひどいかもしれないが、現状どうすればいいのかわからないのでしかたない。なので那由他によく使うスルー技術を、ここで存分に発揮しておいた。
「あー、森羅ちゃんの告白をスルーしちゃうんだー」
すると森羅はレイジの腕をゆさゆさ揺らしながら、ほおを膨らませてくる。
「しかたないだろ。いきなりそんなこと言われても、反応に困るんだから。それに森羅は災禍の魔女。オレたちの敵だ」
実は森羅がこの建物に向かう途中に、自分が災禍の魔女だと教えてくれたのである。まさかゆきに頼まれていたターゲットと、こんなに簡単に接触できるとは。
「うー、それはそうだけどさー。――あーあ、あたしも柊那由他みたいに、レイジくんのそばにいようかなー。そうすれば敵としてのわだかまりもなく、思いっきりアタックできるのにー」
森羅は天井を見上げて、本気で悩み始める。
そんな彼女に、レイジは即座に主張を。もちろん懇願の思いでだ。
「それだけはマジ勘弁してください」
「――すごく切実なんだね……」
「――ははは……、那由他だけでも精一杯なのに、森羅まで来たらオレの精神的負担がカンストしそうだからな……」
これにはがっくりうなだれながら、答えるしかない。
「柊那由他と組むのは不本意だけど、レイジくんの困った顔を見れるのはなかなか魅力的な話ね!」
森羅はいたずらっぽくほほえみ、ウィンクしてきた。
「おい」
「くす、冗談よ。いくらそうしたくても森羅ちゃんにはやることがあるから、レイジくん側には行けないの……。――ある人との大切な誓いを、果たすまではね……」
そっと瞳を閉じ、万感の想いを込めてかたる森羅。
どうやら久遠レイジが、カノンやアリスとの誓いを果たそうとしているのと同じく、柊森羅にも譲れないなにかがあるようだ。自分の幸せよりも、優先すべき想いが。
「――さて、そろそろあたしはあたしの役目を果たそうかな。ほんとはレイジくんともっとお話してたいけど、アラン・ライザバレットが動き始めるころあいだろうし」
森羅はレイジから離れ、ベッドから立ち上がる。そして制服のボタンをとめ服装を整えながら、レイジに向き直った。
那由他たちとは別の部屋へと案内されるレイジ。
ターミナルデバイスが取られているので、外への連絡ができない状況。しかもエデンに行けないようにされているときた。こうなってしまうと手の打ちようが完全になくなり、大人しくするしかないみたいだ。
「どうも」
レイジは用意された部屋に入る。
あたりを見回すと、まるでホテルのような宿泊施設の構造をしている。その内装は普通のホテルと違って高級感があふれており、VIP用のスイートルームみたいな感じ。広々とした部屋に、ふかふかベッドや大型テレビ、冷蔵庫なども完備されていた。
実際狩猟兵団連盟の施設の役割は、主に狩猟兵団たちのサポート。ライセンスの発行や、依頼の仲介、宿泊施設の提供など。ほかにも上位クラスの企業、財閥の者たちの施設も用意されているので、VIP用の宿泊施設や会談用の部屋などがいくつもあるのであった。
「――ははは……、さすがVIP用の客室。ここならゆっくりくつろげそうだな」
部屋に対しての感想をつぶやいていると、誰かが奥の方から近づいてくる。
業火のごとく燃えるような赤い髪の、那由他とどことなく雰囲気が似ている制服姿の少女が。
「おかえりなさい! レイジくん! ごはんにする? お風呂にする? それとも、あ、た、し? キャー!」
現れたのはさっき廃ビルの屋上で会った柊森羅。彼女はかわいらしく小首をかしげ、お決まりのセリフをノリノリで言ってくる。そして最後にはほおに両手を当て、はしゃいできた。
「あーあ、変な厳格が見えるだなんて、疲れてるのかな……。ここはさっさと寝て休むとするか」
こめかみに手を当て、目の前で起こっている出来事に現実逃避しながらベッドに寝転び休むことにする。ニコニコとレイジの返事を待っている森羅を素通りして、ベッドに倒れ込んだ。やはりVIP用のベッドとあってその寝心地は最高だ。これならすぐにでも眠りにつけるだろう。そういうわけでさっそく瞳を閉じ、寝ようとする。
「――そうなのね……。――わかったよ! レイジくん! あたしが欲しくて仕方がないってことなのよね! くす、まさかここまでレイジくんが大胆な人だったなんて……。行き成りベッドに誘われるのは想定外だったけど、森羅ちゃん頑張るから! ――で、でも初めてだから、できれば優しくしてほしいかな……」
瞳を閉じていると、はにかんだ口調での聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
「――ふぅ、念のためシャワーを浴びてて正解ね。よし! 待たせてもわるいから、覚悟を決めましょう! えーと、とりあえず……、服を脱げばいいのよね?」
「ちょっと待て!? 一体なにをしてるんだ!?」
なんだか話がとんでもない方向に向かっていることに気付き、レイジは上半身をガバッと起こして慌ててツッコミを入れる。
レイジの視界に飛び込んできたのは、森羅が制服の上着を脱ごうとボタンをはずしている姿。すでに上の方のボタンをはずしていたため、彼女のちょうどいい大きさの胸の谷間。さらには淡いピンク色のブラが見えていた。
「あれ? レイジくんは脱がせたいタイプだった? ならこのまま……」
「違うから! キミは根本的に間違ってる! というかなんでここにいるんだ?」
今にもベッドに飛び込んできそうな勢いの森羅を、手で制し全力で言い聞かせようと。
さすがにそこまで積極的にアプローチされると、思春期の男子ゆえ間違いを起こしそうになってしまう。
「くす、そんなの未来の旦那さまであるレイジくんのことを、待ってたに決まってるでしょ! 森羅ちゃんは好きな人に尽くしまくる、非常によくできた嫁なのです!」
胸元をはだけさせたまま両腰に手を当て、胸を張ってくる森羅。
彼女はきっと那由他同じタイプ。これ以上付き合っていたら、いろいろ疲れそうなのでさっさと追い出すことにした。
「あー、わかったから、さっさと出て行ってくれ。オレはオレでこれからのことを考えないといけないから、キミにかまってる暇はない」
「えー、そうはいってもあたし、レイジくんのお世話係なの。だからたっぷりご奉仕しないと!」
森羅は胸元近くでぐっと両拳をにぎり、かわいらしく気合いを入れだす。
「そんなサービス頼んだ覚えはないな。たとえあったとしても却下だ、却下」
「ぶー、レイジくん、なんだか冷たい……。――あ、なるほど! お世話係で来るならメイド服を着て来いってことか! 森羅ちゃんとしたことが、まさかの凡ミスを……。ごめんね! そういうことなら次来る時、メイド服を着てくるよ! 可愛いく着飾った森羅ちゃんを、楽しみにしといてね!」
ほおを膨らませる森羅。だがそれもつかの間、ひらめいたように手をポンとたたき、一人でなにやら納得し始める。そしてこれで完璧と得意げにウィンクしてきた。
「いや、そういう問題でもないからな」
「くす、安心して。レイジくんが満足できるように、どんなシチュエーションもこなしてみせるから! ご奉仕から、ご主人様のお仕置きまで、なんでもね!」
(――はぁ……、ダメだ、この子。完全に那由他と同じタイプだ……」
もはやおかまいなしにグイグイ攻めてくる森羅に、頭を抱えるしかない。
その感じは、まさにいつもレイジのことを振り回し続ける那由他そのものであった。
「もう限界だ。寝よう」
「待って! 待って! あたしが悪かったから、もっとお話しようよ! さっきまでのはレイジくんとこうしてお話できるのがつい嬉しくて、舞い上がっちゃってただけなの! だから、ね!」
再び寝転ぼうとすると、森羅はすぐさまレイジの隣に座ってくる。そしてグイッと詰めよりお願いと手を合わせながら、上目づかいで笑いかけてきた。
二人の距離が近いためか、シャンプーのいい香りが鼻孔をくすぐる。そういえばさっきシャワーを浴びたと言っていたので、それが原因なのだろう。このまま間近にいられると精神状あまりよろしくなく、それにかわいそうな気がしたのでしかたなく彼女との話に付きやってあげることに。
「――わかったから、少し離れてくれ。ちょっと近すぎるぞ」
ベッドに座り直し、彼女の横につきながら頼み込む。
「えー、いやよ! 森羅ちゃんは少しでも、レイジくんの近くにいたいんだもん!」
すると森羅はレイジの腕に抱き着き、子供のように駄々をこねてくる。
結果、レイジの腕にやわらかいものが押し付けられる形に。しかも彼女の上着は胸元がはだけたままであり、谷間がしっかりと見えるときた。もはやその気持ちのいい感触と眼福な光景に、頭がクラクラしそうになる。
過剰に反応したら負けた気がするため、できるだけ冷静をよそい話を進めることにした。
「――はぁ……、もういい。で、柊さんは」
「森羅」
彼女を名字で呼ぶと、森羅レイジを真っ直ぐに見つめてすぐさま訂正を求めだす。
「――うっ、森羅さんは……」
腕に抱き着かれている関係上彼女の顔があまりにも近く、思わず視線をそらしてしまう。
「森羅! もしくは森羅ちゃんでもいいよ!」
森羅は至近距離からの満面の笑顔でねだってくる。
どうやら聞き届けるしかないようで、テレながらもその通りに呼んでたずねることに。
「――森羅とオレって初対面だよな。なのになんでそんな……」
「好き好きオーラ全開って?」
ほおにゆび指を当て、小首をかしげてくる森羅。
「――ああ、そんな感じだ……」
そこまではっきり言われると、さすがに気恥ずかしくなってしまう。それはつまり彼女がレイジに、好意を持っているということなのだから。
「うーん、それはほら、一目惚れってやつかな!」
「え? 一目惚れってあの……?」
「そう! あの一目惚れ! レイジくんを見た瞬間、森羅ちゃんの心は射抜かれてしまったの! そして気づいてしまった。この人こそあたしの運命の人なんだってね!」
森羅はレイジの腕をさらにぎゅーと抱きしめ、はにかんだ微笑みを向けてくる。
「――そ、そうなのか……」
「あはは、驚くのも無理はないよ! あたし自身、すごく驚いてることだもん!」
困惑するレイジに、森羅は感慨深そうにうんうんとうなずく。
「――それにしても柊の血筋は久遠の血筋に惚れっぽいって話、まさか本当だったとは……。この分だと柊は恋に狂う宿命というのが、現実になりそうな勢いね……。――くす、でもこれはこれでうれしい誤算かな。力になってあげたい人が、好きな人だなんて素敵だもんね……」
そしてレイジに熱のこもったまなざしを向け、おかしそうに口元を緩めながら意味ありげにつぶやく森羅。
「――ん? なにを一人で納得してるんだ?」
「ううん、なんでもないよ。ただうちの血筋って、ほんとちょろすぎるんだなーって、改めて思ってただけ。柊那由他もあたしと同じみたいだしね」
「なんだそれ? ――いや、それよりも……。――と、とりあえずこの話は置いておこう」
少しひどいかもしれないが、現状どうすればいいのかわからないのでしかたない。なので那由他によく使うスルー技術を、ここで存分に発揮しておいた。
「あー、森羅ちゃんの告白をスルーしちゃうんだー」
すると森羅はレイジの腕をゆさゆさ揺らしながら、ほおを膨らませてくる。
「しかたないだろ。いきなりそんなこと言われても、反応に困るんだから。それに森羅は災禍の魔女。オレたちの敵だ」
実は森羅がこの建物に向かう途中に、自分が災禍の魔女だと教えてくれたのである。まさかゆきに頼まれていたターゲットと、こんなに簡単に接触できるとは。
「うー、それはそうだけどさー。――あーあ、あたしも柊那由他みたいに、レイジくんのそばにいようかなー。そうすれば敵としてのわだかまりもなく、思いっきりアタックできるのにー」
森羅は天井を見上げて、本気で悩み始める。
そんな彼女に、レイジは即座に主張を。もちろん懇願の思いでだ。
「それだけはマジ勘弁してください」
「――すごく切実なんだね……」
「――ははは……、那由他だけでも精一杯なのに、森羅まで来たらオレの精神的負担がカンストしそうだからな……」
これにはがっくりうなだれながら、答えるしかない。
「柊那由他と組むのは不本意だけど、レイジくんの困った顔を見れるのはなかなか魅力的な話ね!」
森羅はいたずらっぽくほほえみ、ウィンクしてきた。
「おい」
「くす、冗談よ。いくらそうしたくても森羅ちゃんにはやることがあるから、レイジくん側には行けないの……。――ある人との大切な誓いを、果たすまではね……」
そっと瞳を閉じ、万感の想いを込めてかたる森羅。
どうやら久遠レイジが、カノンやアリスとの誓いを果たそうとしているのと同じく、柊森羅にも譲れないなにかがあるようだ。自分の幸せよりも、優先すべき想いが。
「――さて、そろそろあたしはあたしの役目を果たそうかな。ほんとはレイジくんともっとお話してたいけど、アラン・ライザバレットが動き始めるころあいだろうし」
森羅はレイジから離れ、ベッドから立ち上がる。そして制服のボタンをとめ服装を整えながら、レイジに向き直った。
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