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1章 第3部 レイジの選択
51話 目指すべきもの
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「アランさん、オレはアイギスの一員として、これからも戦い続けるんでほかを当たってください」
レイジは意を決し、迷いのない瞳でアランに告げた。
「――アポルオンの巫女につくというわけか……。ふむ、これなら久遠レイジを呼び戻せると、思っていたんだがね」
アランは残念そうに目をふせる。
「一年前なら、その誘いを受けてたでしょうね。今までと比べものにならない規模の戦場で戦えるのは心躍るし、なにより支配されてる世界を自由にするという志は、かつての迷ってたオレにとって啓示のようなもの。そこに求める答えがあると信じ、アポルオンと戦ってたに違いありません」
一年前ならば、アリスとカノンのことでどうすることもできず、心の中で迷い続けていた時期。そんな時にカノンの願いと共通する自由な世界と聞いたら、わらにもすがる思いで承諾したに違いない。
「今は違うのかい?」
「はい、那由他とアイギスで仕事をこなしてきて、やっとわかり始めてきたんです。オレが本来目指すべきものはなんだったのか……。それに気づいた今ならわかる。きっとアランさんたちの進む道の先に、求めた答えがないということを……」
胸に拳を当て自身の想いをかたる。
(カノンは争いによる解決なんて望まないはずだ。だからアランさんの道では、彼女にたどり着くことなんてできやしない)
カノンはだれよりも自由で平和な世界を望んでいた。ゆえに心の優しい彼女が、自由な世界の過程とはいえ力ですべてを解決しようとするとは、どうしても思えないのであった。
「――なるほど。でも久遠レイジが目指すものと、アイギスの目指すものが食い違っている可能性もあるだろう? 相手はあのアポルオン序列一位に属する、アポルオンの巫女。最悪利用されて、取り返しのつかない結末にたどり着くかもしれない」
「ははは、それは大丈夫だと思いますよ」
アランのもしもの話に、レイジは自信をもって否定した。
「なぜそう言いきれる? キミにとってアポルオンの巫女は見ず知らずの相手のはず。そんな信じる要素のない彼女に、どうしてみずからの剣を捧げられることができるんだい?」
アランの疑問はもっともだ。レイジはアポルオンの巫女のことを知らないし、その人物の理想も聞いたことがない。しかも彼女は世界を支配するアポルオン側の人間。そんな少女のなにを信じられるというのだろうか。その結果、最悪アポルオンの理想の手助けをしてしまうかもしれないというのに。
「ははは、そんなの決まってますよ。那由他と結月が心からアポルオンの巫女を信じてる。彼女たちと一緒にいてその想いがどれだけ強いのか、これでもかというほど思い知らされましたからね。だからオレもアポルオンの巫女を信じられるんです。だって他でもない、仲間である二人があそこまで信じてるんですから、信じないわけにはいかないでしょ?」
那由他と結月を見回した後、力強く微笑みながら伝える。
彼女たちが抱く、あのお方の力になってあげたいという想い。その強さはまぎれもない本物であり、彼女たちは本気で信じている。アポルオンの巫女の理想の力になるなら、なんだってしてみせると。たとえレイジがその人物のことを知らなくても、レイジが信頼している彼女たちが信じているのだ。ならば二人のその目に、狂いなんてあるはずがないと断言できた。それはまるで結月がアリスを信じてくれたみたいに。
それともう一つ。二人と接してきて、アポルオンの巫女と彼女たちが目指す理想の本質。その穢れのない平和を願う心が、わかる気がしたのだ。そしてそれはきっとカノンが抱いていた想いと、似通っているはずだと。だからレイジが進むべき道は決まっている。カノンに近づくためにも、那由他や結月たちの進む道についていくべきなのであった。
「さっすが、レイジ! わたしたちをそこまで信じてくれるなんて、那由他ちゃん感謝感激すぎて、涙がでちゃうほどですよ!」
「久遠くん! 信じてくれてありがとう! これからも一緒にがんばろうね!」
すると那由他と結月はぱぁぁと顔をほころばせ、はしゃぎながらレイジの方に詰め寄ってきた。
「――そうか……。ならばワタシとキミは敵同士というわけだね。――ククッ、まあ、それはそれで面白くなりそうだからよしとしておこうか。――さて、では柊那由他。次はキミに話がある」
アランは残念がっているようだが、どこか満足気そうにほほえむ。そして今度は那由他に話を振ってきた。
「もー、なんですか? 今こちらは感動に浸ってる真っ最中なので、あとにしてほしいんですけどー」
那由他は空気を読んでほしいと、ほおを膨らませる。
「それはすまないね。でも最後に大事な要件があるんだ。――端的に言うと、アポルオンの巫女と同盟を結びたい。ちょうど彼女も今のアポルオンに不満があるみたいだしね」
「ふむ、確かにあのお方がそちらに加われば、かなり有利になりますからね。でもまさか、アポルオンの象徴たる彼女を取り込もうなんて、大胆にもほどがありません?」
「ククッ、こちらとしては少しでもこの戦局差を、埋めておきたいんだよ。彼女がついてくれれば巫女の力と久遠レイジ、それにあの柊那由他さえもこちらに引き込めるんだからなおさらだ」
アランはレイジたちに意味ありげな視線を向けながら、得意げにかたる。
巫女の力はよくわからないが、那由他を味方に引き入れればレイジ以上にいい働きをするのは確かだ。彼女の反則めいたエージェントとしての力はもちろんのこと、レイジと同格レベルのデュエルアバターの技量をもつ那由他は、即戦力になるのは間違いない。レイジ自身、那由他だけは敵に回したくないというのが、素直な感想であった。
「うわー、レイジだけでなく、この優秀すぎる那由他ちゃんまで仲間に引き入れようとしてましたかー。ほんと、抜け目のない人ですねー」
彼のあまりの徹底ぶりに、那由他は引き気味になりながら肩をすくめる。
「アポルオンに戦争を申し込もうとしてるんだ。もはやなりふりかまってなんていられない。さあ、どうだろうか? そちらとしても悪い話ではないと思うが?」
「答えはノーです! あのお方は争いを好みませんので、あなたたちのような力に頼ったやり方には反対なさるでしょう!」
那由他はアランに指を突き付け、自信満々に答えを告げた。
「交渉は決裂か……。やはりそううまくはいかないようだね。――しかたない。出来ればこの手は使いたくなかったが、キミたちアイギスは非常に厄介な組織。ゆえにこちらの計画の第一段階がおわるまで、少しばかりここでゆっくりしていってもらおうか」
するとアランは申し訳なさそうにしながら、パチンと指を鳴らす。
その直後すぐさま扉が開き、数人の屈強な男たちがレイジたちを取り囲んだ。
「那由他、久遠くん!?」
「――あはは……、そうきましたか……。これは少しばかりまずいですねー」
那由他は苦笑交じりに分のわるさを認める。
彼女の言う通り、この事態はこちらにとって非常にまずい状況。不意を突けば、もしかするとこの場をしのげるかもしれないが、しょせんそこまで。ここは高層ビルの最上階なので、外に着くまでに増援を呼ばれ取り押さえられるのがオチだろう。
「クッ、那由他、どうする?」
「――しかたありません。ここは敵地のど真ん中。今は大人しくつかまるしかないですねー」
両手を上げて降参だと、笑う那由他。
「ククッ、そう警戒しなくてもいいよ。三日間ぐらいワタシの客人として、迎えるだけだ。それまで最高のおもてなしをさせてもらうつもりだから、ゆっくりここでくつろいでくれたまえ」
アランは手を差し出し、優雅にほほえんでくる。
どうやらその言葉は本当のようで、大事な客人を迎える態度であった。
「あはは、それは楽しみですねー。では超VIP待遇に期待しておきましょうか!」
この絶対絶命の状況に、那由他は指をほおに当てニッコリ笑う。
「おい、那由他なにのんきなことを」
「えー、せっかくですしー、お言葉に甘えましょうよー。どうせしばらくは大人しくするしかなさそうですし!」
さすがは凄腕のエージェント。こんな事態でも動揺せず、いつもの強気な態度である。もはや彼女の肝の据わりように感心するしかない。
「要望があればなんでも言ってくれ。キミたちとは今後のためにも、よりよい関係を結んでおきたいからね」
「ではこちらへ」
レイジたちはアランの部下たちにうながされて、部屋を出ていくことに。
そんな中アランは意味ありげな口調で、声をかけてきた。
「そうだ、久遠レイジ。キミは特に楽しみにしておくといい。きっと甘い展開が待っているだろうからね」
「――ははは……、なんだか嫌な予感しかしないんですけど……、それ……」
不意によぎる嫌な予感に、乾いた笑みしかでないレイジなのであった。
レイジは意を決し、迷いのない瞳でアランに告げた。
「――アポルオンの巫女につくというわけか……。ふむ、これなら久遠レイジを呼び戻せると、思っていたんだがね」
アランは残念そうに目をふせる。
「一年前なら、その誘いを受けてたでしょうね。今までと比べものにならない規模の戦場で戦えるのは心躍るし、なにより支配されてる世界を自由にするという志は、かつての迷ってたオレにとって啓示のようなもの。そこに求める答えがあると信じ、アポルオンと戦ってたに違いありません」
一年前ならば、アリスとカノンのことでどうすることもできず、心の中で迷い続けていた時期。そんな時にカノンの願いと共通する自由な世界と聞いたら、わらにもすがる思いで承諾したに違いない。
「今は違うのかい?」
「はい、那由他とアイギスで仕事をこなしてきて、やっとわかり始めてきたんです。オレが本来目指すべきものはなんだったのか……。それに気づいた今ならわかる。きっとアランさんたちの進む道の先に、求めた答えがないということを……」
胸に拳を当て自身の想いをかたる。
(カノンは争いによる解決なんて望まないはずだ。だからアランさんの道では、彼女にたどり着くことなんてできやしない)
カノンはだれよりも自由で平和な世界を望んでいた。ゆえに心の優しい彼女が、自由な世界の過程とはいえ力ですべてを解決しようとするとは、どうしても思えないのであった。
「――なるほど。でも久遠レイジが目指すものと、アイギスの目指すものが食い違っている可能性もあるだろう? 相手はあのアポルオン序列一位に属する、アポルオンの巫女。最悪利用されて、取り返しのつかない結末にたどり着くかもしれない」
「ははは、それは大丈夫だと思いますよ」
アランのもしもの話に、レイジは自信をもって否定した。
「なぜそう言いきれる? キミにとってアポルオンの巫女は見ず知らずの相手のはず。そんな信じる要素のない彼女に、どうしてみずからの剣を捧げられることができるんだい?」
アランの疑問はもっともだ。レイジはアポルオンの巫女のことを知らないし、その人物の理想も聞いたことがない。しかも彼女は世界を支配するアポルオン側の人間。そんな少女のなにを信じられるというのだろうか。その結果、最悪アポルオンの理想の手助けをしてしまうかもしれないというのに。
「ははは、そんなの決まってますよ。那由他と結月が心からアポルオンの巫女を信じてる。彼女たちと一緒にいてその想いがどれだけ強いのか、これでもかというほど思い知らされましたからね。だからオレもアポルオンの巫女を信じられるんです。だって他でもない、仲間である二人があそこまで信じてるんですから、信じないわけにはいかないでしょ?」
那由他と結月を見回した後、力強く微笑みながら伝える。
彼女たちが抱く、あのお方の力になってあげたいという想い。その強さはまぎれもない本物であり、彼女たちは本気で信じている。アポルオンの巫女の理想の力になるなら、なんだってしてみせると。たとえレイジがその人物のことを知らなくても、レイジが信頼している彼女たちが信じているのだ。ならば二人のその目に、狂いなんてあるはずがないと断言できた。それはまるで結月がアリスを信じてくれたみたいに。
それともう一つ。二人と接してきて、アポルオンの巫女と彼女たちが目指す理想の本質。その穢れのない平和を願う心が、わかる気がしたのだ。そしてそれはきっとカノンが抱いていた想いと、似通っているはずだと。だからレイジが進むべき道は決まっている。カノンに近づくためにも、那由他や結月たちの進む道についていくべきなのであった。
「さっすが、レイジ! わたしたちをそこまで信じてくれるなんて、那由他ちゃん感謝感激すぎて、涙がでちゃうほどですよ!」
「久遠くん! 信じてくれてありがとう! これからも一緒にがんばろうね!」
すると那由他と結月はぱぁぁと顔をほころばせ、はしゃぎながらレイジの方に詰め寄ってきた。
「――そうか……。ならばワタシとキミは敵同士というわけだね。――ククッ、まあ、それはそれで面白くなりそうだからよしとしておこうか。――さて、では柊那由他。次はキミに話がある」
アランは残念がっているようだが、どこか満足気そうにほほえむ。そして今度は那由他に話を振ってきた。
「もー、なんですか? 今こちらは感動に浸ってる真っ最中なので、あとにしてほしいんですけどー」
那由他は空気を読んでほしいと、ほおを膨らませる。
「それはすまないね。でも最後に大事な要件があるんだ。――端的に言うと、アポルオンの巫女と同盟を結びたい。ちょうど彼女も今のアポルオンに不満があるみたいだしね」
「ふむ、確かにあのお方がそちらに加われば、かなり有利になりますからね。でもまさか、アポルオンの象徴たる彼女を取り込もうなんて、大胆にもほどがありません?」
「ククッ、こちらとしては少しでもこの戦局差を、埋めておきたいんだよ。彼女がついてくれれば巫女の力と久遠レイジ、それにあの柊那由他さえもこちらに引き込めるんだからなおさらだ」
アランはレイジたちに意味ありげな視線を向けながら、得意げにかたる。
巫女の力はよくわからないが、那由他を味方に引き入れればレイジ以上にいい働きをするのは確かだ。彼女の反則めいたエージェントとしての力はもちろんのこと、レイジと同格レベルのデュエルアバターの技量をもつ那由他は、即戦力になるのは間違いない。レイジ自身、那由他だけは敵に回したくないというのが、素直な感想であった。
「うわー、レイジだけでなく、この優秀すぎる那由他ちゃんまで仲間に引き入れようとしてましたかー。ほんと、抜け目のない人ですねー」
彼のあまりの徹底ぶりに、那由他は引き気味になりながら肩をすくめる。
「アポルオンに戦争を申し込もうとしてるんだ。もはやなりふりかまってなんていられない。さあ、どうだろうか? そちらとしても悪い話ではないと思うが?」
「答えはノーです! あのお方は争いを好みませんので、あなたたちのような力に頼ったやり方には反対なさるでしょう!」
那由他はアランに指を突き付け、自信満々に答えを告げた。
「交渉は決裂か……。やはりそううまくはいかないようだね。――しかたない。出来ればこの手は使いたくなかったが、キミたちアイギスは非常に厄介な組織。ゆえにこちらの計画の第一段階がおわるまで、少しばかりここでゆっくりしていってもらおうか」
するとアランは申し訳なさそうにしながら、パチンと指を鳴らす。
その直後すぐさま扉が開き、数人の屈強な男たちがレイジたちを取り囲んだ。
「那由他、久遠くん!?」
「――あはは……、そうきましたか……。これは少しばかりまずいですねー」
那由他は苦笑交じりに分のわるさを認める。
彼女の言う通り、この事態はこちらにとって非常にまずい状況。不意を突けば、もしかするとこの場をしのげるかもしれないが、しょせんそこまで。ここは高層ビルの最上階なので、外に着くまでに増援を呼ばれ取り押さえられるのがオチだろう。
「クッ、那由他、どうする?」
「――しかたありません。ここは敵地のど真ん中。今は大人しくつかまるしかないですねー」
両手を上げて降参だと、笑う那由他。
「ククッ、そう警戒しなくてもいいよ。三日間ぐらいワタシの客人として、迎えるだけだ。それまで最高のおもてなしをさせてもらうつもりだから、ゆっくりここでくつろいでくれたまえ」
アランは手を差し出し、優雅にほほえんでくる。
どうやらその言葉は本当のようで、大事な客人を迎える態度であった。
「あはは、それは楽しみですねー。では超VIP待遇に期待しておきましょうか!」
この絶対絶命の状況に、那由他は指をほおに当てニッコリ笑う。
「おい、那由他なにのんきなことを」
「えー、せっかくですしー、お言葉に甘えましょうよー。どうせしばらくは大人しくするしかなさそうですし!」
さすがは凄腕のエージェント。こんな事態でも動揺せず、いつもの強気な態度である。もはや彼女の肝の据わりように感心するしかない。
「要望があればなんでも言ってくれ。キミたちとは今後のためにも、よりよい関係を結んでおきたいからね」
「ではこちらへ」
レイジたちはアランの部下たちにうながされて、部屋を出ていくことに。
そんな中アランは意味ありげな口調で、声をかけてきた。
「そうだ、久遠レイジ。キミは特に楽しみにしておくといい。きっと甘い展開が待っているだろうからね」
「――ははは……、なんだか嫌な予感しかしないんですけど……、それ……」
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