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1章 第2部 電子の世界エデン

36話 アーカイブポイント

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 あれからしばらく廃虚の街中を歩き、ようやく目的の場所に到着。見渡せばすたれた高層マンションがずらりと立ち並んでいる。そして今レイジたちがいるのは、そんなマンション街の中心付近にそびえたつバカでかい高層マンション前であった。
 ちなみにあれからワシのガーディアンは、レイジたちに追従していない。一応ゆきのことだから、少し離れたところで周辺を索敵しながら待機させてあるのだろう。

「やっとゆきのアーカイブポイントにたどり着いたか」

 アーカイブポイント。それはクリフォトエリアで、アーカイブスフィアやメモリースフィアを守るために必要不可欠な要塞ようさいだ。用意するにはまずクリフォトエリアに広がる地上のどこかに起点となる穴を開け、その内部の空間へデータによる建造物を建てる流れ。言葉では大変そうな気もするが、実際のところ白神コンシェルンや改ざんを使える者に力を貸してもらえば、ものの数時間ですべての作業をおえることができるといっていい。所詮データで出来た電子の世界の中なので、内部構造を作り変えるなど知識さえあれば造作もないらしい。
 アーカイブポイントを作った後はその場所に、個人が好きなだけセキュリティをほどこしていく流れである。そのメインは主にアーカイブポイントに入るための入口であるセキュリティーゾーンと、建物内のアーカイブスフィアなどを実際に保管しておく区画部分の二つ。特にセキュリュティゾーンは防衛のかなめになるので、より厳重にセキュリティーがほどこされていた。

「え? この場所がそうなの? さっきまで見てきたアーカイブポイントみたいに、半透明の建物が見えないんだけど」

 ここに来る途中、アーカイブポイントがある場所を何度か目にしていた。明らかに他の建造物とは違う青白い半透
明の建物が、デュエルアバター使いたちに守られている光景を。
 これはアーカイブポイントという要塞の弱点の一つで、空間内部の建物が青白い半透明で見えてしまうというもの。しかもその青白い半透明の建物に重なるクリフォトエリアに元々あった建造物などは消えてしまうので、かなり目立ってしまうのだ。よってクリフォトエリアを歩き回っていれば、自然に目に付くのであった。

「半透明に見える部分を丸ごと、用意した建造物でおおい隠し偽装してるからな。ほかにもここら一帯に厳重な監視網や、電子の導き手の目に引っかからないようにしてるらしいぞ」

 ゆきの場合は見つかって襲撃されたくないので、自身の電子の導き手の才能をフルに使い、反則技ギリギリのこういった偽装をほどこしているのである。この偽装工作はほかの電子の導き手が直接近くを通らない限り、発見は難しいらしい。実際ここまで偽装をするのには骨が折れるらしく、そう何度もやるのは御免だそうだ。それゆえ一番発見されやすいであろう、電子の導き手相手の対策も万全に済ませているとのこと。

「なるほどね。それでこれからどうする? もう中に入っちゃっていい感じ?」
「周りの警戒はゆきがしてるはずだし、たぶん大丈夫だろ。中に入ったら内部の空間へとばされるから気を付けてな」

 二人が中に入ると、急に座標移動した時のような感覚が。これはアーカイブポイント内に入ろうとした時起こるもので、内部の空間へと自動的にとばされているのだ。
 気づくとレイジたちは、ゆきのアーカイブポイントの中にある建物内にいた。中はマンション内ではなく、高級感あふれる立派なお屋敷のエントランス。天井にはきらびやかなシャンデリア。床は重厚感あふれるカーペットが敷かれ、あちこちに手の込んでいそうな銅像や、騎士のよろいといったオブジェが飾られている。そしてここで普通と違うのは、建物内の広さだろう。このエントランスだけでなく、通路もまた幅、高さともに広々としている。そう、どこもかしくも全体的に一回りでかい仕様になっているのだ。ゆえに室内はもちろん、通路内でも思う存分戦闘が行えるのであった。
 こうなっているのもこの場所が住居ではなく、アーカイブスフィアなどを守る要塞だから。ゆえに侵入者を排除するための戦闘を考慮して作られており、あちこちにトラップやバリケード、敵を迎え撃つ防衛ラインなどがいくつも用意されているのである。あと建物内の天井や壁などはどこも強固な材質で作られており、そうそう壊れはしない。なので突き破って進むことは難しく、できてもかなり時間がかかってしまうのだ。基本アーカイブポイント内の建物はこんなふうにバカでかく作られており、中はバリバリに防備を固めているのが一般的であった。
 ちなみにこのアーカイブポイント内に建てられているのは、三階建てのバカでかい洋館とのこと。ただこれはどこのアーカイブポイントにもいえることなのだが、基本建物内から出ることは不可能となっていた。そのため外から屋上に向かい、上から侵入といったルートはとれないのである。

「わぁ、すごい広いお屋敷! 私の予想ではもっと、現代風の建物かと思ってたよ!」

 結月は物珍しそうに辺りを見渡し、はしゃいでいる。

「ここは三階建てのバカでかい洋館だ。建物はゆきの趣味でこうなってるだけで、ほかのところは基本そんな感じだな」
「そっか。データの建物だから好きなようにできるものね」
「――一応アーカイブポイントに入った時の補足をしとくと、ここに直接来れたのはゆきが許可してくれたからだ。
もし許可がなかったら今ごろ、侵入者対策用のセキュリティゾーンへとばされてた」

 許可を与えられていない者は必ず、厳重なセキュリティがほどこされた外敵撃退用のセキュリティゾーンへと向かうことになるのだ。それ以外にアーカイブポイント内部への侵入経路はなく、侵入者は罠が敷き詰められている通路をあえて進むしかないのであった。
 セキュリュティゾーンの部分はここだけ独立した特殊な空間になっており、この場所の最奥にたどり着けば目的のアーカイブポイントの内部に出れるという仕組み。その構造はというと複雑で巨大な迷路状になっており、ゲームでよくあるダンジョンのようなもの。ここにセキュリティ用の障壁や、警備用の自動人形であるガーディアンを設置。さらに私兵やエデン協会の人間などの増員を呼んだりして、侵入者の妨害を行う流れだ。ただいくら防備を固めたとしても、凄腕のデュエルアバター使いが来れば時間稼ぎ程度にしかならないといっていい。それゆえ異変を察知したらすぐにエデン協会に依頼して増援を呼びまくり、物量によって侵入者を撃退させるのが一般的なやり方。なのでいち早く敵を察知する必要があり、企業や財閥はアーカイブポイント周辺に私兵やエデン協会の者を警護につけるのが一般的であった。
 ちなみにアーカイブポイントの所有者なら、セキュリティゾーンに入ろうとする友軍を好きな地点に送り込むことができた。よってゴール地点手前に送り、防備を固めつつ迎え打たせるということも。あとセキュリティゾーンに侵入者が入った場合、アーカイブポイントの所有者のところへ警告がくるらしい。それは現実にいようが、クリフォトエリア内のどこにいようが知らせが入るため、すぐに防衛行動に移れるのであった。

「確かゲームでよくあるダンジョンみたいなところだよね。そこで時間を稼いでる間に戦力をかき集めたり、持ち出すメモリースフィアの準備をしたりするんだっけ」
「ああ、だから少しでも早く敵が攻めてきたのを察知するため、アーカイブポイントを事前に警護する人間を雇っておくわけだ。本来ならここも軍が警備する手はずだったんだが、ゆきが目立つからって断ったらしい」
「軍が?」
「剣閃の魔女と軍はいろいろつながりがあるからな。――さて、ゆきも待ってることだし先を急ごう」
「うん、でもこの洋館の広さから見て、かなり歩かないといけないんじゃ?」
「そこんとこは大丈夫。ゆきがいる、三階に続く隠し通路があるからそこを通ればすぐだ」
「へぇ、そんなのがあるんだ。それは楽でいいけど、少し残念。この洋館、内装とかすごく凝ってるみたいだし、ちょっとした観光気分で回れると思ったんだけど」

 結月はくるっと周りを見渡し、肩を落とす。

「あー、それはマジでおすすめできないな。ゆきの話によると一、二階は外敵用のトラップが大量に設置されてるらしい。しかもそのいくつかは剣閃の魔女お墨付きで、デュエルアバターであろうともひとたまりもないとか……」

 そう、この洋館が無駄にでかいのは主に外敵用のため。様々なトラップはもちろん、内部構造が迷路状になっていたりして、侵入者が中心部に易々とたどり着けなくしていた。そのため正しいルートを知っておかないと、三階にたどり着くまで一苦労するのだ。

「あはは、さあ、久遠くん。寄り道せずに隠し通路を使おう!」

 さすがにそんな道を行くのはごめんだと、考えをすぐさま改める結月。

「ははは、懸命な判断だ」

 レイジはさっそく隠し扉の仕掛けがある壁に、手を当てる。するとすぐ隣の壁が開き、その中には上の階へと続くらせん階段が。これが三階へとショートカットする通路であり、
ゆきが許可をだしている時限定でいける場所なのだ。

「おっ、そうだ。一応那由他に、ついたことを連絡してと」
「そっか、アーカイブポイント内だと、外との連絡がつくんだったね」
「ああ、クリフォトエリアは基本外部と連絡は取れないけど、アーカイブポイント内なら大丈夫なんだ」

 本来クリフォトエリアにいる時は外部とのやりとりができない。なので現実やほかのエリアと切り離された状態になり、非常に不便ふべんなのだ。しかしアーカイブポイント内だと、その制限が当てはまらず可能に。だからクリフォトエリアに入る前、ゆきに送った連絡が無事彼女に届いたのであった。

「ちなみにアーカイブスフィアが保管されているアーカイブポイント内だと、普通にネットにつながるぞ。アーカイブスフィアに関しては、保管されてるものだけつながれるって感じだ」
「ほんとだ。普通にネットで調べられるね」

 結月は画面を開き、実際に試し始める。
 本来なら情報といったたぐいから、完全に切り離されてしまうクリフォトエリア。しかしアーカイブスフィアがあるアーカイブポイント限定で、ネット回線に。さらにはアーカイブスフィアの方も、その場所に保管されているやつだけにならつながることができるのだ。これにより外と切り離されることなく、安心して仕事ができる。なのでゆきはたいてい自身のアーカイブポイントにこもり、電子の導き手の仕事をしているのだ。これこそゆきが常に本命のアーカイブポイントにいる理由なのであった。

「よし、連絡も入れたことだし、さっさと用件を済ましに行くか」

 そして連絡をおえ、レイジたちはゆきがいるであろう三階の仕事場に向かった。
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