38 / 253
1章 第2部 電子の世界エデン
35話 結月の暴走?
しおりを挟む
「久遠くん。事情はよくわからないんだけど、とりあえず光ちゃんと話がついたってことでいいのよね?」
光が去ってすぐ、結月が心配そうにたずねてきた。
「ああ、心配かけてわるいな、結月。まあ、いろいろあったがなんとかなったよ」
「おい、そこの女ったらしのくおん。緊急事態というのに、敵といちゃつくとはどういう了見なんだぁ?」
突然、聞きなれた子供っぽい声からの聞きづてならない言葉が上空から振ってきた。
見上げると、一人の少女が空からふわふわとゆっくり下りてくる。やや大きめの魔女帽子を深くかぶり、漆黒のゴスロリ服を着た少女。一番の特徴はなんといっても、小学生ぐらいの低すぎる身長だろう。きっとレイジたちよりもかなり歳下なはず。低い背丈と深く魔女帽子をかぶっているせいで、相変わらずその素顔はよく見えなかった。
「ゆきがどうしてここに?」
「はぁ!? くおんが緊急事態って言うから、このゆきがわざわざ! 来てやったんだろうがぁ!」
優雅に地面に着地したゆきは、レイジにビシッと指を突き付け言い放ってくる。
「あー、そういえばそんなこと言ったような……」
心当たりがありすぎるため、ぽりぽり頭をかくしかない。
「で? なに! 来てみたら来てみたで、もう全部丸く収まっててゆきの出番が完全になし! おまけに呼び出した奴に、なんでここにいるんだって言われる始末! あー! なんか無性に腹が立ってきたぁ! ゆきの労力は一体なんだったんだぁ!」
|地団駄じだんだ》を踏み、キィィーっと不満を爆発させるゆき。
確かに今ごろ来られても感があるが、そんなこと口にしたら強制ログアウトさせられるに決まっている。なのでそのことに関してのツッコミはせず、興奮状態のゆきを手で制しながらなだめようと。
「とりあえず落ち着け。確かにゆきの出番はなかったけど、裏を返せば大事がなくてよかったってことだろ? それにオレの私情で、あの天下の剣閃の魔女様の手をわずらわせるわけにいかなかったしさ」
「――くぅ……、そうだけどぉ」
今だ納得がいかないのか、ぷくーとほおを膨らませるゆき。
「こうして心配して、駆けつけてくれただけでも十分だ。ほんと感謝してるよ」
「だ、誰がくおんの事なんか心配するもんかぁ! こんな下っ端がいくら危険にさらされようがゆきの知ったこっちゃない! だ、だから最大速度で飛ばしてなんかいないもん! わかったぁ!?」
ゆきはぴょんぴょん飛び跳ねながら、必死に主張してくる。
「――お、おう。そうか……」
「ねえ、ねえ、久遠くん! この子がもしかして!」
そうこうしていると結月がレイジの上着の袖をクイクイ引っ張り、話しに加わってきた。それもなにやらはずんだ声で。よく見るとどこかそわそわしているようにも見える。
「ああ、剣閃の魔女こと、名前はゆきだ」
「改めて初めまして、ゆづき。ゆきのことはゆきって呼んでくれていいよぉ」
ゆきはスカートの裾をつまんで、ゆうがにお辞儀する。その動作はかなり様になっていて、剣閃の魔女と呼ばれるだけの風格をかもし出していたといっていい。
「ほんと! じゃあ、そう呼ばせてもらうね! ゆきちゃん!」
そんなかっこよく決めていたゆきに、結月は視線を合わせようと中腰に。そしてぱぁぁと顔をほころばせながら、優しく話しかける。その様子はまるで小さい子どもを相手にするような感じであり、ゆきのかっこつけた自己紹介の雰囲気を完全につぶしていた。
「ゆ、ゆきちゃん!? まさかのちゃんづけ!?」
当然そんなふうに接してくると思っていなかったであろうゆきは、面をくらっている様子。
「ゆ、ゆ、ゆづきー」
そしてゆきは引きつった笑みを浮かべながら、拳を震わせる。
もし今の発言をしたのがレイジなら、間違いなく攻撃が飛んでくるところだろう。それもそのはず彼女は子ども扱いされることを、なにより嫌っているのだから。
「落ち着けゆき。ゆきは剣閃の魔女。この程度のことでキレるわけがない……」
しかし相手が相手だけに、なんとかこらえるゆき。
結月に注意した方がいいかもしれないが、子供扱いされているゆきの様子が面白いのでもうしばらくだまっておくことにした。
「――それより、くおん! 引きこもり主義のゆきを外に出した責任、どうとってくれるんだぁ?」
ゆきは怒りの矛先をレイジに変えることにしたらしく、腰に両手を当てて問いただしてきた。
「――仕方ない。追加料金を払うということでどうだ?」
「ふふーんだ! 金なんてもう稼ぎまくってるからいらないもん。そう、ゆきが欲しいのは、ゆきの言うことをなんでも聞いて楽させてくれる、都合のいい下僕! ちょうど久遠みたいな人材が欲しいなぁ。だからー、ゆき専属の下僕になってよぉ。そしたらご主人様であるゆきが、たっぷりこき……、いや、かわいがってやるぞぉ」
ゆきは得意げに自身の胸へと手を当てながら、悪魔じみた要求をしてくる。
もちろんそれに対する答えは決まっていた。
「ははは、誰がそんな自殺行為みたいなことするやつがい……」
「わかった! 私がゆきちゃんの下僕になってあげるよ!」
「――あ、いた……」
レイジが言葉を言いおえる前に、結月が手をビシッと上げノリノリで立候補しだす。
その反応に意味がわからないと、戸惑いを隠せず不審がるゆき。
「え? なんでゆづきがくいついてくるんだぁ……?」
「そうだ! ゆきちゃん! 私のことは気軽に、結月お姉ちゃん! って呼んでほしいなぁ! さあ、呼んでみて!」
結月は目を輝かせながら、ゆきへグイグイ詰め寄っていく。
さっきの回線で話していた時とまったく違うその態度。どうやらゆきに実際に会ってその見ためから、今まで抱いていた畏怖するイメージが完全に壊れたようだ。
「――ゆ、ゆづき……お姉ちゃん……」
そんな彼女の圧に押されてか、ゆきはおずおずとお姉ちゃん呼びを。
「キャー! ゆきちゃんに、お姉ちゃんって呼ばれちゃったー!」
それに対し結月は両ほおに手を当て、なにやらもだえ始めた。
「――ッ、じゃなーい! ――ゆづき! さっきからいったいなに! その態度はぁ!」
とうとう抑えていた怒りが爆発したらしく、両腕を思いっきり上げて猛抗議するゆき。
「あはは、ごめんね。ゆきちゃんがあまりにもかわいいから、ついお姉さんはしゃいじゃった! ――ところで一つ気になってることがあるんだけど確めていい? でも断られそうだからお先に失礼して、ていっ!」
結月はてへへとテレ笑いしながら、反省を。しかしそう見えたのもつかの間、すぐにさっきのハイテンションに戻り、ゆきの魔女帽子を問答無用で取り上げた。
「な、なななぁ」
そして魔女帽子を取られたことで、ゆきの素顔があらわに。きれいな長い黒髪に、あどけない顔立ち。その素顔と黒いゴスロリ服、さらに低い背丈の三つが合わさり、まるでかわいらしいお人形さんみたいな少女であった。
そんなゆきを見て、結月はテンションが爆上がりしたらしい。 ぴょんぴょんその場で飛び跳ね、黄色い声をあげだす。
「キャー! 私の思った通り、ゆきちゃんはお人形さんみたいで可愛いー! 帽子で隠すのがもったいなさすぎるよ!」
「なんてことしてくれたんだぁ! ゆづ、ぐふっ!?」
ぷんすか怒りをあらわにして抗議しにいくゆきであったが、途中でぼふっと結月の豊満な胸へ顔をうずめることに。なにが起こったかというと、結月が彼女をぎゅーと抱きしめたのだ。
この様子からして結月はかわいいものに、目がないタイプのようだ。だからさっきから異様にテンションが高かったのだろう。
「――まさかゆきの素顔を暴くところまでいくとは……、すごいな結月。たぶんゆきの素顔をここまではっきり見たのは、エデンでオレたちが初めてだと思うぞ」
結月の胸に埋まりじたばたするゆきを見ながら、関心の言葉を投げかける。
「え? 久遠くんも見たことないの?」
「ああ、ゆきは素顔をさらすのが嫌いらしく、常時帽子を深くかぶって隠してるからな。それにしても素顔がこんな感じだったとは……。ははは……、なんか今までの暴挙も許してしまいそうな勢いだ」
結月の言う通りここまで愛くるしい外見だと、そう思わずにはいられない。
するとゆきは結月をやっとのことで押しのけ、涙目になりながらも助けを求めてきた。
「い、いい加減にしろぉ! ――くおん! ゆづきは一体どういう性格をしてやがるんだぁ! 絶対ゆきに対してケンカ売ってるだろぉ、これー!」
「いや、オレも驚いてるぞ。結月がまさかここまでするとは……」
「あれ? 私は久遠くんに言われたことを思い出して、小さな子供と接するようにしてるよ? だからこんなふうに遠慮なく、愛でてるんだけど?」
結月はアゴに指を当てながら、不思議そうに首をかしげてくる。
「あー、なるほど。そういうことか。あれはゆきのわがままを耐える時用の話なんだ。ついでに言うとゆきが一番嫌うのは、子ども扱いされることだ」
レイジの説明した言葉の意味を勘違いしていたため、さっきからあんな態度をとっていたのだろう。まさかよりにもよって真逆の解釈をしてしまうとは。
「……え……? そんなの聞いてないんだけど……」
レイジの訂正に、結月は顔を青ざめる。取り返しのつかないことをやってしまったというような顔でだ。
「ふふふふふっ、つまり元凶はくおん! お前だったてわけかぁ! 散々な目にあわされたこの落とし前、どうとるきだぁ!」
ゆきは拳をポキポキ鳴らしながら、鬼の形相で問いただしてきた。
そこに込められているのは明確な殺意であり、いつゆきの攻撃が飛んできてもおかしくない状況である。
「――あはは……、ごめんね……。えっと……ゆき、……ちゃん……?」
結月はなんとかゆきをなだめようと、おそるおそる声をかける。
「ゆづきもゆづきだもん! ゆきはこんなに背が低くて胸もほとんどない! だけど二人と同い年なんだからぁ!」
次の瞬間、ゆきは自身の胸へドンっと手を当てながら、怒りに任せてとんでもないカミングアウトをしてきた。
「え!? 同い年だったの!? もっと歳下の女の子かと!?」
「それはオレも初耳だぞ。かなり歳下のわがままなガキじゃ、なかったのか?」
あまりの衝撃的事実に、レイジも結月も唖然としながら正直な感想を言ってしまう。それがゆきをさらに怒らせるとわかっていてもだ。
「えーん! 二人なんて地獄に落ちて消え失せてしまえー! このバカどもぉ!」
そんな二人の正直すぎる発言に、ゆきのプライドはズタズタに引き裂かれてしまったらしい。結月から帽子を取返
し、涙をごしごしこすりながら捨てゼリフと共に去っていってしまった。
「――行っちゃったね……」
「――ああ……」
レイジたちは事態を飲み込めず、ただ呆然と立ち尽くすしかない状況。ただわかることは、ゆきが今までの怒りがなくなってしまうほど傷ついたらしい。そのおかげでレイジたちは一応助かったみたいだ。
「……えっと……、久遠くん、これからどうすればいいんだろ……?」
「――まあ、とりあえずゆきのいるところに、向かえばいいんじゃないか……?」
こうしてレイジと結月は、改めてゆきがいる場所へと歩き始めるのだった。
光が去ってすぐ、結月が心配そうにたずねてきた。
「ああ、心配かけてわるいな、結月。まあ、いろいろあったがなんとかなったよ」
「おい、そこの女ったらしのくおん。緊急事態というのに、敵といちゃつくとはどういう了見なんだぁ?」
突然、聞きなれた子供っぽい声からの聞きづてならない言葉が上空から振ってきた。
見上げると、一人の少女が空からふわふわとゆっくり下りてくる。やや大きめの魔女帽子を深くかぶり、漆黒のゴスロリ服を着た少女。一番の特徴はなんといっても、小学生ぐらいの低すぎる身長だろう。きっとレイジたちよりもかなり歳下なはず。低い背丈と深く魔女帽子をかぶっているせいで、相変わらずその素顔はよく見えなかった。
「ゆきがどうしてここに?」
「はぁ!? くおんが緊急事態って言うから、このゆきがわざわざ! 来てやったんだろうがぁ!」
優雅に地面に着地したゆきは、レイジにビシッと指を突き付け言い放ってくる。
「あー、そういえばそんなこと言ったような……」
心当たりがありすぎるため、ぽりぽり頭をかくしかない。
「で? なに! 来てみたら来てみたで、もう全部丸く収まっててゆきの出番が完全になし! おまけに呼び出した奴に、なんでここにいるんだって言われる始末! あー! なんか無性に腹が立ってきたぁ! ゆきの労力は一体なんだったんだぁ!」
|地団駄じだんだ》を踏み、キィィーっと不満を爆発させるゆき。
確かに今ごろ来られても感があるが、そんなこと口にしたら強制ログアウトさせられるに決まっている。なのでそのことに関してのツッコミはせず、興奮状態のゆきを手で制しながらなだめようと。
「とりあえず落ち着け。確かにゆきの出番はなかったけど、裏を返せば大事がなくてよかったってことだろ? それにオレの私情で、あの天下の剣閃の魔女様の手をわずらわせるわけにいかなかったしさ」
「――くぅ……、そうだけどぉ」
今だ納得がいかないのか、ぷくーとほおを膨らませるゆき。
「こうして心配して、駆けつけてくれただけでも十分だ。ほんと感謝してるよ」
「だ、誰がくおんの事なんか心配するもんかぁ! こんな下っ端がいくら危険にさらされようがゆきの知ったこっちゃない! だ、だから最大速度で飛ばしてなんかいないもん! わかったぁ!?」
ゆきはぴょんぴょん飛び跳ねながら、必死に主張してくる。
「――お、おう。そうか……」
「ねえ、ねえ、久遠くん! この子がもしかして!」
そうこうしていると結月がレイジの上着の袖をクイクイ引っ張り、話しに加わってきた。それもなにやらはずんだ声で。よく見るとどこかそわそわしているようにも見える。
「ああ、剣閃の魔女こと、名前はゆきだ」
「改めて初めまして、ゆづき。ゆきのことはゆきって呼んでくれていいよぉ」
ゆきはスカートの裾をつまんで、ゆうがにお辞儀する。その動作はかなり様になっていて、剣閃の魔女と呼ばれるだけの風格をかもし出していたといっていい。
「ほんと! じゃあ、そう呼ばせてもらうね! ゆきちゃん!」
そんなかっこよく決めていたゆきに、結月は視線を合わせようと中腰に。そしてぱぁぁと顔をほころばせながら、優しく話しかける。その様子はまるで小さい子どもを相手にするような感じであり、ゆきのかっこつけた自己紹介の雰囲気を完全につぶしていた。
「ゆ、ゆきちゃん!? まさかのちゃんづけ!?」
当然そんなふうに接してくると思っていなかったであろうゆきは、面をくらっている様子。
「ゆ、ゆ、ゆづきー」
そしてゆきは引きつった笑みを浮かべながら、拳を震わせる。
もし今の発言をしたのがレイジなら、間違いなく攻撃が飛んでくるところだろう。それもそのはず彼女は子ども扱いされることを、なにより嫌っているのだから。
「落ち着けゆき。ゆきは剣閃の魔女。この程度のことでキレるわけがない……」
しかし相手が相手だけに、なんとかこらえるゆき。
結月に注意した方がいいかもしれないが、子供扱いされているゆきの様子が面白いのでもうしばらくだまっておくことにした。
「――それより、くおん! 引きこもり主義のゆきを外に出した責任、どうとってくれるんだぁ?」
ゆきは怒りの矛先をレイジに変えることにしたらしく、腰に両手を当てて問いただしてきた。
「――仕方ない。追加料金を払うということでどうだ?」
「ふふーんだ! 金なんてもう稼ぎまくってるからいらないもん。そう、ゆきが欲しいのは、ゆきの言うことをなんでも聞いて楽させてくれる、都合のいい下僕! ちょうど久遠みたいな人材が欲しいなぁ。だからー、ゆき専属の下僕になってよぉ。そしたらご主人様であるゆきが、たっぷりこき……、いや、かわいがってやるぞぉ」
ゆきは得意げに自身の胸へと手を当てながら、悪魔じみた要求をしてくる。
もちろんそれに対する答えは決まっていた。
「ははは、誰がそんな自殺行為みたいなことするやつがい……」
「わかった! 私がゆきちゃんの下僕になってあげるよ!」
「――あ、いた……」
レイジが言葉を言いおえる前に、結月が手をビシッと上げノリノリで立候補しだす。
その反応に意味がわからないと、戸惑いを隠せず不審がるゆき。
「え? なんでゆづきがくいついてくるんだぁ……?」
「そうだ! ゆきちゃん! 私のことは気軽に、結月お姉ちゃん! って呼んでほしいなぁ! さあ、呼んでみて!」
結月は目を輝かせながら、ゆきへグイグイ詰め寄っていく。
さっきの回線で話していた時とまったく違うその態度。どうやらゆきに実際に会ってその見ためから、今まで抱いていた畏怖するイメージが完全に壊れたようだ。
「――ゆ、ゆづき……お姉ちゃん……」
そんな彼女の圧に押されてか、ゆきはおずおずとお姉ちゃん呼びを。
「キャー! ゆきちゃんに、お姉ちゃんって呼ばれちゃったー!」
それに対し結月は両ほおに手を当て、なにやらもだえ始めた。
「――ッ、じゃなーい! ――ゆづき! さっきからいったいなに! その態度はぁ!」
とうとう抑えていた怒りが爆発したらしく、両腕を思いっきり上げて猛抗議するゆき。
「あはは、ごめんね。ゆきちゃんがあまりにもかわいいから、ついお姉さんはしゃいじゃった! ――ところで一つ気になってることがあるんだけど確めていい? でも断られそうだからお先に失礼して、ていっ!」
結月はてへへとテレ笑いしながら、反省を。しかしそう見えたのもつかの間、すぐにさっきのハイテンションに戻り、ゆきの魔女帽子を問答無用で取り上げた。
「な、なななぁ」
そして魔女帽子を取られたことで、ゆきの素顔があらわに。きれいな長い黒髪に、あどけない顔立ち。その素顔と黒いゴスロリ服、さらに低い背丈の三つが合わさり、まるでかわいらしいお人形さんみたいな少女であった。
そんなゆきを見て、結月はテンションが爆上がりしたらしい。 ぴょんぴょんその場で飛び跳ね、黄色い声をあげだす。
「キャー! 私の思った通り、ゆきちゃんはお人形さんみたいで可愛いー! 帽子で隠すのがもったいなさすぎるよ!」
「なんてことしてくれたんだぁ! ゆづ、ぐふっ!?」
ぷんすか怒りをあらわにして抗議しにいくゆきであったが、途中でぼふっと結月の豊満な胸へ顔をうずめることに。なにが起こったかというと、結月が彼女をぎゅーと抱きしめたのだ。
この様子からして結月はかわいいものに、目がないタイプのようだ。だからさっきから異様にテンションが高かったのだろう。
「――まさかゆきの素顔を暴くところまでいくとは……、すごいな結月。たぶんゆきの素顔をここまではっきり見たのは、エデンでオレたちが初めてだと思うぞ」
結月の胸に埋まりじたばたするゆきを見ながら、関心の言葉を投げかける。
「え? 久遠くんも見たことないの?」
「ああ、ゆきは素顔をさらすのが嫌いらしく、常時帽子を深くかぶって隠してるからな。それにしても素顔がこんな感じだったとは……。ははは……、なんか今までの暴挙も許してしまいそうな勢いだ」
結月の言う通りここまで愛くるしい外見だと、そう思わずにはいられない。
するとゆきは結月をやっとのことで押しのけ、涙目になりながらも助けを求めてきた。
「い、いい加減にしろぉ! ――くおん! ゆづきは一体どういう性格をしてやがるんだぁ! 絶対ゆきに対してケンカ売ってるだろぉ、これー!」
「いや、オレも驚いてるぞ。結月がまさかここまでするとは……」
「あれ? 私は久遠くんに言われたことを思い出して、小さな子供と接するようにしてるよ? だからこんなふうに遠慮なく、愛でてるんだけど?」
結月はアゴに指を当てながら、不思議そうに首をかしげてくる。
「あー、なるほど。そういうことか。あれはゆきのわがままを耐える時用の話なんだ。ついでに言うとゆきが一番嫌うのは、子ども扱いされることだ」
レイジの説明した言葉の意味を勘違いしていたため、さっきからあんな態度をとっていたのだろう。まさかよりにもよって真逆の解釈をしてしまうとは。
「……え……? そんなの聞いてないんだけど……」
レイジの訂正に、結月は顔を青ざめる。取り返しのつかないことをやってしまったというような顔でだ。
「ふふふふふっ、つまり元凶はくおん! お前だったてわけかぁ! 散々な目にあわされたこの落とし前、どうとるきだぁ!」
ゆきは拳をポキポキ鳴らしながら、鬼の形相で問いただしてきた。
そこに込められているのは明確な殺意であり、いつゆきの攻撃が飛んできてもおかしくない状況である。
「――あはは……、ごめんね……。えっと……ゆき、……ちゃん……?」
結月はなんとかゆきをなだめようと、おそるおそる声をかける。
「ゆづきもゆづきだもん! ゆきはこんなに背が低くて胸もほとんどない! だけど二人と同い年なんだからぁ!」
次の瞬間、ゆきは自身の胸へドンっと手を当てながら、怒りに任せてとんでもないカミングアウトをしてきた。
「え!? 同い年だったの!? もっと歳下の女の子かと!?」
「それはオレも初耳だぞ。かなり歳下のわがままなガキじゃ、なかったのか?」
あまりの衝撃的事実に、レイジも結月も唖然としながら正直な感想を言ってしまう。それがゆきをさらに怒らせるとわかっていてもだ。
「えーん! 二人なんて地獄に落ちて消え失せてしまえー! このバカどもぉ!」
そんな二人の正直すぎる発言に、ゆきのプライドはズタズタに引き裂かれてしまったらしい。結月から帽子を取返
し、涙をごしごしこすりながら捨てゼリフと共に去っていってしまった。
「――行っちゃったね……」
「――ああ……」
レイジたちは事態を飲み込めず、ただ呆然と立ち尽くすしかない状況。ただわかることは、ゆきが今までの怒りがなくなってしまうほど傷ついたらしい。そのおかげでレイジたちは一応助かったみたいだ。
「……えっと……、久遠くん、これからどうすればいいんだろ……?」
「――まあ、とりあえずゆきのいるところに、向かえばいいんじゃないか……?」
こうしてレイジと結月は、改めてゆきがいる場所へと歩き始めるのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる