27 / 253
1章 第2部 電子の世界エデン
25話 剣閃の魔女
しおりを挟む
レイジたちがいるのは、ビジネス街みたいな場所。辺りはどこもかしくも。大小さまざまなビルが建ち並んでいる。ただここはクリフォトエリアなので、どこも廃墟仕様。窓が割れ壁のところどころ穴が開いた、廃れきったビルの数々。しかも敷き詰められたように配置されているため、閉鎖空間のような窮屈な感じが。さらに周りは人っ子一人いないため静まりかえっており、よりもの寂しさが際立っていた。
そんな不気味なほどの静寂に包まれた廃墟のビル群を、足音を響かせながら進むレイジたち。
「あー、やっと来たぁ。まったくー、ゆきは忙しいんだから、さっさと要件を済ませに来てよねぇ、くおん」
するとどこからともなく不満げな声が聞こえてきた。
だが周りにはレイジと結月の二人だけ。それもそのはずこれは通信による会話なのだから。
「ん、ゆきか? しかたないだろ、こっちは結月にいろいろレクチャーしながら向かってるんだぞ。それとも剣閃の魔女様直々に講義してみるか?」
「えー、やだよぉ、めんどくさい。そんな雑務は全部下っ端に押し付けて、ゆきは快適なマイホームでゆうがに過ごす。これぞゆきのスタンスだもん」
「はいはい、そうかよ。相変わらずの引きもり野郎だな、ゆきは」
ふふんと得意げにかたるゆきに、肩をすくめるしかない。
声の主が剣閃の魔女と呼ばれている少女、ゆきである。彼女はSSランクの電子の導き手なのでウデは超一流なのだが、非常にめんどくさがり屋な性格をしていた。なので仕事が入ったとしても、極力外に出ようとしない。用があるなら自分のところに来させたり、他の誰かを向かわせてその人物を中継点に仕事をこなしたりする始末。まさに筋金入りの引きこもりといってよかった。
「――で、用件はなんだ? わざわざ通信回線を使ってくるってことは、催促じゃなくてなんか押し付けてくる気だろ」
クリフォトエリアではこのエリア限定の特殊な通話システムがあらかじめ用意されており、それ以外の連絡はとある例外をのぞいてとれなくされているのだ。それによりエデン内のほかのエリアにいる者やターミナルデバイスに連絡はおろか、向こう側からの連絡もなにひとつ受け取れなくなってしまう。一応メール系自体は受け取ることができるのだが、それもクリフォトエリアを出るまで更新されず閲覧不可能の仕様となっていた。ようはエデンやターミナルデバイスの連絡に関するシステムすべてが、一時的に使えなくなるというわけだ。なので一度こちらがクリフォトエリアに入れば、相手側にもこのエリアに来てもらうか、とある例外の条件に当てはまらないと連絡のやり取りが完全に途絶えてしまうのである。
しかもたちが悪いことにこのエリアでは例外を除いて、ネット回線はもちろん、アーカイブスフィアにも接続することができない。なので情報といったたぐいからほぼ完全に切り離されてしまうのだ。これによりクリフォトエリアにいるときは基本、エデンや現実でなにかが起こっても知るよしがないのであった。
ちなみにクリフォトエリアでの通信回線の通話は、あらかじめ周波数と使用するためのパスワードを決めておく。それさえ完了させれば割と普通に連絡が取り合えるのだが、改ざんの力を使えば簡単に傍受や、通話している者の現在地の場所を特定できてしまうのだ。そのため使うとしても非常にリスクがあり、基本緊急時ぐらいしか使われないといっていい。
しかし改ざんを使える者であるならばその通信回線に細工をほどこし、安全に通話できるようにすることが可能。しかも現在使っている通信回線に干渉して傍受や居場所を突き止めようとする者を、逆探知することさえ可能なのである。ただ細工するには、使用する前にいろいろと面倒な作業をしないといけないらしく、おまけに外部からの干渉を随時警戒しなければいけないと聞いたことがあった。
「おぉ、あの脳筋バカだったくおんが、こんなにもおりこーさんに……。ふふん、ようやくゆきのしつけがきいてきたかぁ。あとはゆきに絶対の忠誠心を植え付ければ完璧だぁ!」
レイジの質問に対し、ゆきはどこかバカにしたような感じで返してくる。
「おい、それ完全に犬だろ。まったく……、だれがゆきみたいな人使いが荒すぎるご主人様にしっぽを振るかよ」
「あーあ、これだからバカは困るー。才気あふれ、地位や権力までもゆうしてるこのゆき様のもとで働けるんだから、光栄に思わないとなぁ」
「ははは、あとそこにもう少し色気でもあれば考えないでもないが、さすがにわがままなお子様相手だと無理だわ」
自身のことをこれでもかというほど持ち上げるゆきに、レイジは意地の悪い笑みを浮かべて本当のことを突きつけた。
「あぁん? くおん、なんか言ったぁ?」
返ってきたのはゆきの殺気がこもった声。
完全にきれかけ寸前といったところで、もし目の前に彼女がいたら、攻撃態勢に入っているところであろう。あまり怒らせると後が怖いので、とりあえず誤魔化しておく。
「――いや、なにも……。そ、そんなことより用件を言え、用件を」
「――ふんだ、まぁ、いい。用件をと言いたいけど、くおんには用がないから少しだまってて。――さっ、バカはほっといて、初めましてかたぎりゆづき。剣閃の魔女ことゆきだよぉ」
ゆきはそう言い捨てて、結月に自己紹介を。
どうやら今レイジとゆきが使っている通信回線に、結月を招いたようだ。こうすることでこの回線の周波数とパスワードが結月のクリフォトエリア用の通話張に記録され、いつでも使えるようになるのである。
「あなたが剣閃の魔女さん? ええと、初めまして片桐結月です。よろしくお願いします」
「よろしくー。それとゆきに対して、そんなかしこまらなくてもいいからぁ」
「じゃあ、そうさせてもらうね。――ところで質問なんだけどクリフォトエリアでの通話は、傍受とかでいろいろ危ないんじゃなかったけ?」
「なにかと思えばそんなことぉ? すでにこの回線にはセキュリティーをほどこし、網も仕掛けてるー。だからもしどこぞのバカがこの回線に干渉しようものなら、即刻逆探知して、改ざんの格の違いというやつを思い知らせてあげるもん。このゆきに楯突いた報いを存分とねぇ……、ふふん!」
ゆきは不敵に笑いながら宣言する。
その刃向かう者には相応の罪を、と言いたげな気迫がこもった言葉に、結月は引きつった表情に。
「――あはは……、それは頼もしいね……」
「――ゆづき、それでさっそくだけど、あなたに依頼してあげるー。今さっきどこぞの狩猟兵団が、運ばれてたメモリースフィアを奪ってったからそれを奪還して」
メモリースフィアとはアーカイブスフィアに大きく関係する代物であり、このクリフォトエリアでなくては欠かせない存在。簡単に説明するとデータを保管するため専用の記憶端末といっていい。
「おいおい、結月にいきなり実戦をさせる気か? 本来のデュエルアバターでもないのにさすがにきついだろ?」
「あのねぇ、くおん。文句を言いたいのはほかでもない、ゆきの方なんだからなぁ。なにがちょうどいい敵を探して、ゆづきの実戦をサポートしてくれだよぉ。あー! なゆたの奴ー、よりにもよってこんなめんどすぎる依頼をゆきに押し付けやがってぇ」
レイジの抗議に、ゆきは声を張り上げて文句を。
ゆき個人の依頼かと思ったが、那由他の差し金だったらしい。
「那由他が? なるほど。アラン・ライザバレットの件もあるし、早いとこ実戦を積ませておくってことか……」
のちほどレーシスから正式に、アラン・ライザバレットと狩猟兵団たちの動向について調査の依頼が来るはず。
そうなると結月も連れていくことになるので、戦闘にいつ直面するかわからない。そのため今のうちに、少しでも実戦経験を積んでおいてほしいのだろう。あとついでに結月の戦闘スタイルの把握なども出来るので、一石二鳥というわけだ。
「あー、だるいー。やっぱあの時、なにがなんでも断るべきだったぁ……」
ゆきの後悔の声から察するに、今ごろ机にふせて嘆いているのだろうと容易に想像できた。
「ははは、その様子だとまた那由他のペースにはまったみたいだな」
「――はぁ……、那由他ってゆきがいくら嫌だと言っても、あらゆる手で懐柔しやがるからほんとやっかいすぎるー……。しかもあの明るすぎて親しげな性格は、日陰でひっそりと生きる引きこもりのゆきの、まさに天敵そのものだしー。――あー、早く縁を切らないと、ゆきの身がマジでヤバイよぉ……。なぁ、くおん、どうにかしやがれぇ……」
どんよりとした声色で助けを求めてくるゆき。
「いや、あれはさすがに無理だろ……。――というか逆にオレの方がなんとかしてほしいぐらいだし」
「チッ、この役立たずがぁ……」
「あのー、依頼の件なんだけど……」
二人でため息をついていると、結月がおずおず説明を求めてくる。
「はっ、そうそう、ゆきとしたことがうっかりしてたぁ。それで受けるー? もちろん、断ってくれてもいいからねぇ! むしろそっちにした方がいいよぉ、絶対!」
ゆきはもはや断ってくれと言いたげに、二択を突き付ける。
そのあまりのめんどくさいオーラを感じ取ったのか、結月は答えづらそうにしながらも肯定の意を。
「――あはは……、――ええと、受けようかな。私も少し自分の力を試してみたいし」
「大丈夫なのか、結月? 初めての実戦だし、オレとしてはゆきからデュエルアバターを受け取って、万全な状態でやることをお勧めするけど」
「安心して、久遠くん。私こう見えてサーバーエリアで戦うゲームを、やり込んでる方だから。それに私の戦闘スタイルは、あまりアバターのスペックを必要としないタイプだし」
結月が胸に手をやり、少し得意げに伝えてくる。
「――あーあ……、じゃあ、決まりかぁ……。仕方ない、ゆきはこの子を使って危なくなったら手を貸してあげるから、適当に頑張っといてねぇ」
ゆきのだるそうな言葉と共に、上空から一羽の鳥が降下して来る。そしてゆっくりレイジの肩に着地した。
その鳥はシルバーを基調とした見るからにメカメカしいワシ。鋭いくちばしと爪を持っており、なかなか強そうな機体である。これが機械人形であるガーディアンというやつだ。
「わー、すごい! これってガーディアンだよね?」
そんなワシのガーディアンに対し、結月は物珍しそうにさわりだす。
「こんだけ距離が離れてるっていうのに、よく戦闘用のを操作できるな。こういうのは使用者が近くにいないと、起動すらしないだろ?」
「ふっふーん、まっ、当然だぁ! ゆきは世界で五本の指に入るほどの電子の導き手だもん! この程度のことできなくて、どうするって話だぁ!」
実際ガーディアンは改ざんの力を持っていなくても使えるので、その道のスペシャリストであるゆきならば、これぐらいの操作どうってことないのだろう。
ちなみにゆきの声はさっきまでの通信回線からとは違い、ワシのガーディアンの方から直接聞こえてくる。実際ガーディアンには会話する機能などない。だが高位の電子の導き手だとガーディアンそのものに通信回線を付け加え、通話機のようにできるのだ。もちろんこれだとさっきまでのように内密の会話ができず、相手に漏れる可能性がある。しかしこの方法だと人数分の回線のラインを管理せずに済み、ガーディアンの回線一本に絞れて楽ができるのだとか。それゆえ労力を嫌うゆきは、ガーディアンを使う場合基本こっちで会話するのであった。
「そうだったな。それじゃあ、オレも結月のサポートを頑張るとするか」
「うん、お願いするね。二人とも」
こうして話がまとまり、結月はレイジたちにぺこりと頭を下げてくるのであった。
そんな不気味なほどの静寂に包まれた廃墟のビル群を、足音を響かせながら進むレイジたち。
「あー、やっと来たぁ。まったくー、ゆきは忙しいんだから、さっさと要件を済ませに来てよねぇ、くおん」
するとどこからともなく不満げな声が聞こえてきた。
だが周りにはレイジと結月の二人だけ。それもそのはずこれは通信による会話なのだから。
「ん、ゆきか? しかたないだろ、こっちは結月にいろいろレクチャーしながら向かってるんだぞ。それとも剣閃の魔女様直々に講義してみるか?」
「えー、やだよぉ、めんどくさい。そんな雑務は全部下っ端に押し付けて、ゆきは快適なマイホームでゆうがに過ごす。これぞゆきのスタンスだもん」
「はいはい、そうかよ。相変わらずの引きもり野郎だな、ゆきは」
ふふんと得意げにかたるゆきに、肩をすくめるしかない。
声の主が剣閃の魔女と呼ばれている少女、ゆきである。彼女はSSランクの電子の導き手なのでウデは超一流なのだが、非常にめんどくさがり屋な性格をしていた。なので仕事が入ったとしても、極力外に出ようとしない。用があるなら自分のところに来させたり、他の誰かを向かわせてその人物を中継点に仕事をこなしたりする始末。まさに筋金入りの引きこもりといってよかった。
「――で、用件はなんだ? わざわざ通信回線を使ってくるってことは、催促じゃなくてなんか押し付けてくる気だろ」
クリフォトエリアではこのエリア限定の特殊な通話システムがあらかじめ用意されており、それ以外の連絡はとある例外をのぞいてとれなくされているのだ。それによりエデン内のほかのエリアにいる者やターミナルデバイスに連絡はおろか、向こう側からの連絡もなにひとつ受け取れなくなってしまう。一応メール系自体は受け取ることができるのだが、それもクリフォトエリアを出るまで更新されず閲覧不可能の仕様となっていた。ようはエデンやターミナルデバイスの連絡に関するシステムすべてが、一時的に使えなくなるというわけだ。なので一度こちらがクリフォトエリアに入れば、相手側にもこのエリアに来てもらうか、とある例外の条件に当てはまらないと連絡のやり取りが完全に途絶えてしまうのである。
しかもたちが悪いことにこのエリアでは例外を除いて、ネット回線はもちろん、アーカイブスフィアにも接続することができない。なので情報といったたぐいからほぼ完全に切り離されてしまうのだ。これによりクリフォトエリアにいるときは基本、エデンや現実でなにかが起こっても知るよしがないのであった。
ちなみにクリフォトエリアでの通信回線の通話は、あらかじめ周波数と使用するためのパスワードを決めておく。それさえ完了させれば割と普通に連絡が取り合えるのだが、改ざんの力を使えば簡単に傍受や、通話している者の現在地の場所を特定できてしまうのだ。そのため使うとしても非常にリスクがあり、基本緊急時ぐらいしか使われないといっていい。
しかし改ざんを使える者であるならばその通信回線に細工をほどこし、安全に通話できるようにすることが可能。しかも現在使っている通信回線に干渉して傍受や居場所を突き止めようとする者を、逆探知することさえ可能なのである。ただ細工するには、使用する前にいろいろと面倒な作業をしないといけないらしく、おまけに外部からの干渉を随時警戒しなければいけないと聞いたことがあった。
「おぉ、あの脳筋バカだったくおんが、こんなにもおりこーさんに……。ふふん、ようやくゆきのしつけがきいてきたかぁ。あとはゆきに絶対の忠誠心を植え付ければ完璧だぁ!」
レイジの質問に対し、ゆきはどこかバカにしたような感じで返してくる。
「おい、それ完全に犬だろ。まったく……、だれがゆきみたいな人使いが荒すぎるご主人様にしっぽを振るかよ」
「あーあ、これだからバカは困るー。才気あふれ、地位や権力までもゆうしてるこのゆき様のもとで働けるんだから、光栄に思わないとなぁ」
「ははは、あとそこにもう少し色気でもあれば考えないでもないが、さすがにわがままなお子様相手だと無理だわ」
自身のことをこれでもかというほど持ち上げるゆきに、レイジは意地の悪い笑みを浮かべて本当のことを突きつけた。
「あぁん? くおん、なんか言ったぁ?」
返ってきたのはゆきの殺気がこもった声。
完全にきれかけ寸前といったところで、もし目の前に彼女がいたら、攻撃態勢に入っているところであろう。あまり怒らせると後が怖いので、とりあえず誤魔化しておく。
「――いや、なにも……。そ、そんなことより用件を言え、用件を」
「――ふんだ、まぁ、いい。用件をと言いたいけど、くおんには用がないから少しだまってて。――さっ、バカはほっといて、初めましてかたぎりゆづき。剣閃の魔女ことゆきだよぉ」
ゆきはそう言い捨てて、結月に自己紹介を。
どうやら今レイジとゆきが使っている通信回線に、結月を招いたようだ。こうすることでこの回線の周波数とパスワードが結月のクリフォトエリア用の通話張に記録され、いつでも使えるようになるのである。
「あなたが剣閃の魔女さん? ええと、初めまして片桐結月です。よろしくお願いします」
「よろしくー。それとゆきに対して、そんなかしこまらなくてもいいからぁ」
「じゃあ、そうさせてもらうね。――ところで質問なんだけどクリフォトエリアでの通話は、傍受とかでいろいろ危ないんじゃなかったけ?」
「なにかと思えばそんなことぉ? すでにこの回線にはセキュリティーをほどこし、網も仕掛けてるー。だからもしどこぞのバカがこの回線に干渉しようものなら、即刻逆探知して、改ざんの格の違いというやつを思い知らせてあげるもん。このゆきに楯突いた報いを存分とねぇ……、ふふん!」
ゆきは不敵に笑いながら宣言する。
その刃向かう者には相応の罪を、と言いたげな気迫がこもった言葉に、結月は引きつった表情に。
「――あはは……、それは頼もしいね……」
「――ゆづき、それでさっそくだけど、あなたに依頼してあげるー。今さっきどこぞの狩猟兵団が、運ばれてたメモリースフィアを奪ってったからそれを奪還して」
メモリースフィアとはアーカイブスフィアに大きく関係する代物であり、このクリフォトエリアでなくては欠かせない存在。簡単に説明するとデータを保管するため専用の記憶端末といっていい。
「おいおい、結月にいきなり実戦をさせる気か? 本来のデュエルアバターでもないのにさすがにきついだろ?」
「あのねぇ、くおん。文句を言いたいのはほかでもない、ゆきの方なんだからなぁ。なにがちょうどいい敵を探して、ゆづきの実戦をサポートしてくれだよぉ。あー! なゆたの奴ー、よりにもよってこんなめんどすぎる依頼をゆきに押し付けやがってぇ」
レイジの抗議に、ゆきは声を張り上げて文句を。
ゆき個人の依頼かと思ったが、那由他の差し金だったらしい。
「那由他が? なるほど。アラン・ライザバレットの件もあるし、早いとこ実戦を積ませておくってことか……」
のちほどレーシスから正式に、アラン・ライザバレットと狩猟兵団たちの動向について調査の依頼が来るはず。
そうなると結月も連れていくことになるので、戦闘にいつ直面するかわからない。そのため今のうちに、少しでも実戦経験を積んでおいてほしいのだろう。あとついでに結月の戦闘スタイルの把握なども出来るので、一石二鳥というわけだ。
「あー、だるいー。やっぱあの時、なにがなんでも断るべきだったぁ……」
ゆきの後悔の声から察するに、今ごろ机にふせて嘆いているのだろうと容易に想像できた。
「ははは、その様子だとまた那由他のペースにはまったみたいだな」
「――はぁ……、那由他ってゆきがいくら嫌だと言っても、あらゆる手で懐柔しやがるからほんとやっかいすぎるー……。しかもあの明るすぎて親しげな性格は、日陰でひっそりと生きる引きこもりのゆきの、まさに天敵そのものだしー。――あー、早く縁を切らないと、ゆきの身がマジでヤバイよぉ……。なぁ、くおん、どうにかしやがれぇ……」
どんよりとした声色で助けを求めてくるゆき。
「いや、あれはさすがに無理だろ……。――というか逆にオレの方がなんとかしてほしいぐらいだし」
「チッ、この役立たずがぁ……」
「あのー、依頼の件なんだけど……」
二人でため息をついていると、結月がおずおず説明を求めてくる。
「はっ、そうそう、ゆきとしたことがうっかりしてたぁ。それで受けるー? もちろん、断ってくれてもいいからねぇ! むしろそっちにした方がいいよぉ、絶対!」
ゆきはもはや断ってくれと言いたげに、二択を突き付ける。
そのあまりのめんどくさいオーラを感じ取ったのか、結月は答えづらそうにしながらも肯定の意を。
「――あはは……、――ええと、受けようかな。私も少し自分の力を試してみたいし」
「大丈夫なのか、結月? 初めての実戦だし、オレとしてはゆきからデュエルアバターを受け取って、万全な状態でやることをお勧めするけど」
「安心して、久遠くん。私こう見えてサーバーエリアで戦うゲームを、やり込んでる方だから。それに私の戦闘スタイルは、あまりアバターのスペックを必要としないタイプだし」
結月が胸に手をやり、少し得意げに伝えてくる。
「――あーあ……、じゃあ、決まりかぁ……。仕方ない、ゆきはこの子を使って危なくなったら手を貸してあげるから、適当に頑張っといてねぇ」
ゆきのだるそうな言葉と共に、上空から一羽の鳥が降下して来る。そしてゆっくりレイジの肩に着地した。
その鳥はシルバーを基調とした見るからにメカメカしいワシ。鋭いくちばしと爪を持っており、なかなか強そうな機体である。これが機械人形であるガーディアンというやつだ。
「わー、すごい! これってガーディアンだよね?」
そんなワシのガーディアンに対し、結月は物珍しそうにさわりだす。
「こんだけ距離が離れてるっていうのに、よく戦闘用のを操作できるな。こういうのは使用者が近くにいないと、起動すらしないだろ?」
「ふっふーん、まっ、当然だぁ! ゆきは世界で五本の指に入るほどの電子の導き手だもん! この程度のことできなくて、どうするって話だぁ!」
実際ガーディアンは改ざんの力を持っていなくても使えるので、その道のスペシャリストであるゆきならば、これぐらいの操作どうってことないのだろう。
ちなみにゆきの声はさっきまでの通信回線からとは違い、ワシのガーディアンの方から直接聞こえてくる。実際ガーディアンには会話する機能などない。だが高位の電子の導き手だとガーディアンそのものに通信回線を付け加え、通話機のようにできるのだ。もちろんこれだとさっきまでのように内密の会話ができず、相手に漏れる可能性がある。しかしこの方法だと人数分の回線のラインを管理せずに済み、ガーディアンの回線一本に絞れて楽ができるのだとか。それゆえ労力を嫌うゆきは、ガーディアンを使う場合基本こっちで会話するのであった。
「そうだったな。それじゃあ、オレも結月のサポートを頑張るとするか」
「うん、お願いするね。二人とも」
こうして話がまとまり、結月はレイジたちにぺこりと頭を下げてくるのであった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~
ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。
それは現地人(NPC)だった。
その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。
「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」
「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」
こんなヤバいやつの話。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、pixivにも投稿中。
※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。
※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。
鉄錆の女王機兵
荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。
荒廃した世界。
暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。
恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。
ミュータントに攫われた少女は
闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ
絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。
奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。
死に場所を求めた男によって助け出されたが
美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。
慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。
その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは
戦車と一体化し、戦い続ける宿命。
愛だけが、か細い未来を照らし出す。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる