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1章 第2部 電子の世界エデン
23話 クリフォトエリア
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レイジたちが座標移動して次に目にした光景は、 廃墟の建物が立ち並ぶ街中。
時刻は現実と連動しているため、クリフォトエリアも昼中ごろ。空は不気味な黒い雲に覆われているため、時間帯の割りには暗く感じてしまう。しかも廃墟の街並みと合わさって、さらに重々しく物騒な雰囲気をただよわせていた。そんな街中の様子は建物の窓ガラスが割れ、壁のいたるところが崩れていたり、道路のあちことにクレーターができていたり。もはや激しい戦闘が行われたようにボロボロ。もはや人が住めないほど廃れきった、ゴーストタウンのようになっていた。今はまだ時間的にも明るいのでまだましだが、これが夜になると辺り一面が闇に染まりダークな雰囲気がより一層増すのである。
クリフォトエリアの構造はセフィロトが現実の地形や建物のデータをコピーし、ランダムに配置して出来ている。なので普通の市街地はもちろん、有名な建造物や名所、森林、湖、高原、砂漠、氷雪、地中といった様々な場所が。さらに中には本来存在しない遺跡や城、洞窟といった一風変わったものまでも。しかもそのランダム具合はかなり雑で、砂漠を歩いていたら急に氷雪地帯になるといったこともよく見る光景。ほかにも近代の街中に中世風のお城やピラミッドがそびえたっているといった、めちゃくちゃな地形も割とざらにあるという。ちなみにどこもクリフォトエリアの雰囲気に合わせて、廃墟のような寂れた感じになっている。あと建物とかはメインエリアのように近未来ふうではなく、だいたいが2020年代ぐらいの仕様になっていた。
この場所こそがエデンにある戦場クリフォトエリアであり、エデン協会や狩猟兵団が主に活動する仕事場なのである。
「――ここがあの……」
「ああ、ここがクリフォトエリアだ」
レイジは周りの光景に圧倒されている結月に話しかける。
クリフォトエリアはエデンが創造された時から存在するエリア。ここはある特殊な分野の者たちがデータを奪い合うために創られた場所であり、パラダイムリベリオンが起こる前から戦いが繰り広げられていた。しかし九年前は今と違って利用者が限られており、今の世の中のように大規模な戦場ではなかったのだが。
クリフォトエリアを簡単に説明すると、共有用やある一定以上のレベルのデータを保存するために使われる記憶端末アーカイブスフィアが、このエリア内だと特殊な仕様になってしまっているのだ。そのため触れてしまえば誰でも簡単に、中のデータを奪ったり改ざんしたりできる仕様に。しかもよりデータを奪い合うことができるよう、セフィロト自身がシステムによる制約でおぜん立てをしているので、奪える機会が非常に多かった。
ゆえに人々は奪うのであれ守るのであれ痛覚の問題や、やられた時に様々なペナルティーが課せられるデュエルアバターを使用して戦う戦場。それがクリフォトエリアなのである。
「あはは……、なんだか想像以上に雰囲気がありすぎて、怖いぐらい……」
「夜になるときれかけた街灯と月の光だけしか 灯りがないから、ホラー要素満載になるぞ」
「うわー、やだなぁ……。慣れるまでは一人で行動出来そうにないよ……」
結月は夜の光景を想像したのか、肩を抱きながら身震いする。
「大丈夫。しばらくはオレが指導役になるから、一人で行動することはそうそうないさ」
「そうなんだ。久遠くんがいてくれるならまだなんとかなりそうかも」
ほっと胸をなでおろす結月。
「でも危ない状況になったらオレが対処するから、新人の結月はしばらくその場で待機な。ちなみに依頼は人目が付きにくい夜に多い」
「え? そ、そんなぁ……。――はぁ……、それもこれもクリフォトエリアの構造が悪いのよ……。どうしていかにも出てきそうな、ゴーストタウンみたいになってるの……」
レイジの一言に、結月はヘナヘナとうなだれる。そして恨みがましく不満を口に。
「ははは、仕方ないさ。かつての世界を二分したら、セフィロトの秩序を受け入れた表側の人間と、なじめなかった裏側の人間に。そしてここはその後者のために作られた世界なんだから。表が光なら、彼らは闇というわけで物騒な感じにしたんだろ」
パラダイムリベリオン前の世界は、確かにセフィロトが 導いた不変の世界であった。だがそれは完全ではなく、あくまで表向きの話。実はもう一つの側面が存在していたのだ。それこそマフィアなどの不正を働く、裏稼業側の人間がいる世界である。本来なら彼らのような存在はあまりセフィロトの世界に合わなかったため、潰すという選択もあったらしい。だが彼らもこれまでの世界に居座り、影響を及ぼしてきた要因の一つ。なので当時の世界の形を最善とし保持し続けると公言していたセフィロトとしては、切り離すのがまずいと判断したとか。そのためある程度大人しくさせるようにと制限をかけるだけかけ、存続を認めたのであった。
しかしその選択がのちに悪い方向へと 傾いてしまう。というのもセフィロトが起動し世の中の形が変わっていく中、最善の状態を固定した不変の世界のあり方になじめない者たちがそちらに流れ込んだのだ。裏側の世界は派閥による抗争といった特性があるため、セフィロトの管理がなかなか機能しない。ゆえに基本彼らに任せる形となったという。よって決められた役割をまっとうし、世界を回す歯車の一部にならずに済む。まさに唯一残された抜け道として、逃げてくる者が大勢いたとか。たとえ警察や軍の人間が常に目を光らせ、捕まれば重い罪に問われるリスクが高くても、自由を求め世界の裏側に足を染めていったらしい。こうして裏側の世界は肥大化し、セフィロトの世界が抱える闇の部分として大きな社会問題になっていったのであった。
「一応ここはセフィロトが彼らをつぶし合わせるために作った、 煉獄のような場所だしな」
もちろんセフィロトはこの状態をただだまって見過ごしはしなかった。電子による世界エデンを創造するにあたり彼らに対処する策、クリフォトエリアを用意したのである。
それこそがさだめられたある一定以下の不正なデータを見逃す代わりに、それ相応のリスクを負わせるというクリフォトエリア。当然不満の声もあったが、データを奪えるということは相手を 蹴落としみずからの勢力拡大を簡単におこなえる。しかも命の危険がなく、うまくいけば一切こちらの情報を残さず誰がやったかわからないようにできるのだ。そのため下位の者でも上の組織を容易に出し抜くことが出来た。そういうメリットがあったため彼らはこのクリフォトエリアの件を受け入れ、データの奪い合いという名の勢力争いを始めていったのである。
これにより過激な派閥抗争を押さえられ、暴れることでちょうどいいガス抜きとなり現実での荒事は激減する。しかも潰し合わせることで最終的には勝ち残った派閥だけが残り、監視や管理が楽になる寸法だ。実際のところセフィロトの世界にふさわしくない者をクリフォトエリアに押し込め、最後にはまとめて 粛清する思惑があると噂されていたとか。その裏付けにセフィロトは警察や軍を物的証拠となるデータを集めさす目的で投入し、彼らをつかまえさせたりしていた。
「今には及ばなくても、昔は昔で結構カオスな状況だったのよね」
「派閥争いはもちろん、軍や警察の介入。金のために 傭兵になる人たち。さらには企業や政治家が汚職といった不正なデータをここへ隠したり、裏側の人間と非合法な取引をしたりとか、いろいろ面白いことになってたらしいぞ」
裏側の人間だけでなく、表側の人間もよく不正データや資金関係でクリフォトエリアの戦場にたびたび 干渉していたらしい。隠していた不正データを守るときははもちろんだが、それ以外のパターンも。というのも一度闇の住人とつながりを持ってしまうと、その協力者側に証拠となるデータが残ってしまう。それを軍や警察側に押収されると、罪が明るみに出てしまうのだ。そのことを恐れ協力者側が危なくなったときは、証拠データを守ろうと戦力を送ったりして裏で暗躍していたとか。
「まあ、そんなわけでパラダイスリベリオンが起こる前から、今のクリフォトエリアの原型ができてたってわけだな。ついでに言っておくと、そんな裏側の人間の抗争は今だ激しく行われていて、勝ち残り拡大した勢力が傘下を引きつれしのぎを 削ってるんだとさ」
クリフォトエリアが生まれてから数多くの抗争が繰り広げられ、今では財閥のごとく大量の傘下を引きつれ勢力争いをしている状況に。そのため現在無数にあった勢力が吸収されてまとまり、勝ち残った 猛者たちの勢力だけが名乗りを上げていた。結局のところ裏の住人の勢力争いについては、セフィロトの思惑通りに進行しているといっていいのであろう。
「――さて、そろそろクリフォトエリアでの注意点についての説明に移るとするか」
時刻は現実と連動しているため、クリフォトエリアも昼中ごろ。空は不気味な黒い雲に覆われているため、時間帯の割りには暗く感じてしまう。しかも廃墟の街並みと合わさって、さらに重々しく物騒な雰囲気をただよわせていた。そんな街中の様子は建物の窓ガラスが割れ、壁のいたるところが崩れていたり、道路のあちことにクレーターができていたり。もはや激しい戦闘が行われたようにボロボロ。もはや人が住めないほど廃れきった、ゴーストタウンのようになっていた。今はまだ時間的にも明るいのでまだましだが、これが夜になると辺り一面が闇に染まりダークな雰囲気がより一層増すのである。
クリフォトエリアの構造はセフィロトが現実の地形や建物のデータをコピーし、ランダムに配置して出来ている。なので普通の市街地はもちろん、有名な建造物や名所、森林、湖、高原、砂漠、氷雪、地中といった様々な場所が。さらに中には本来存在しない遺跡や城、洞窟といった一風変わったものまでも。しかもそのランダム具合はかなり雑で、砂漠を歩いていたら急に氷雪地帯になるといったこともよく見る光景。ほかにも近代の街中に中世風のお城やピラミッドがそびえたっているといった、めちゃくちゃな地形も割とざらにあるという。ちなみにどこもクリフォトエリアの雰囲気に合わせて、廃墟のような寂れた感じになっている。あと建物とかはメインエリアのように近未来ふうではなく、だいたいが2020年代ぐらいの仕様になっていた。
この場所こそがエデンにある戦場クリフォトエリアであり、エデン協会や狩猟兵団が主に活動する仕事場なのである。
「――ここがあの……」
「ああ、ここがクリフォトエリアだ」
レイジは周りの光景に圧倒されている結月に話しかける。
クリフォトエリアはエデンが創造された時から存在するエリア。ここはある特殊な分野の者たちがデータを奪い合うために創られた場所であり、パラダイムリベリオンが起こる前から戦いが繰り広げられていた。しかし九年前は今と違って利用者が限られており、今の世の中のように大規模な戦場ではなかったのだが。
クリフォトエリアを簡単に説明すると、共有用やある一定以上のレベルのデータを保存するために使われる記憶端末アーカイブスフィアが、このエリア内だと特殊な仕様になってしまっているのだ。そのため触れてしまえば誰でも簡単に、中のデータを奪ったり改ざんしたりできる仕様に。しかもよりデータを奪い合うことができるよう、セフィロト自身がシステムによる制約でおぜん立てをしているので、奪える機会が非常に多かった。
ゆえに人々は奪うのであれ守るのであれ痛覚の問題や、やられた時に様々なペナルティーが課せられるデュエルアバターを使用して戦う戦場。それがクリフォトエリアなのである。
「あはは……、なんだか想像以上に雰囲気がありすぎて、怖いぐらい……」
「夜になるときれかけた街灯と月の光だけしか 灯りがないから、ホラー要素満載になるぞ」
「うわー、やだなぁ……。慣れるまでは一人で行動出来そうにないよ……」
結月は夜の光景を想像したのか、肩を抱きながら身震いする。
「大丈夫。しばらくはオレが指導役になるから、一人で行動することはそうそうないさ」
「そうなんだ。久遠くんがいてくれるならまだなんとかなりそうかも」
ほっと胸をなでおろす結月。
「でも危ない状況になったらオレが対処するから、新人の結月はしばらくその場で待機な。ちなみに依頼は人目が付きにくい夜に多い」
「え? そ、そんなぁ……。――はぁ……、それもこれもクリフォトエリアの構造が悪いのよ……。どうしていかにも出てきそうな、ゴーストタウンみたいになってるの……」
レイジの一言に、結月はヘナヘナとうなだれる。そして恨みがましく不満を口に。
「ははは、仕方ないさ。かつての世界を二分したら、セフィロトの秩序を受け入れた表側の人間と、なじめなかった裏側の人間に。そしてここはその後者のために作られた世界なんだから。表が光なら、彼らは闇というわけで物騒な感じにしたんだろ」
パラダイムリベリオン前の世界は、確かにセフィロトが 導いた不変の世界であった。だがそれは完全ではなく、あくまで表向きの話。実はもう一つの側面が存在していたのだ。それこそマフィアなどの不正を働く、裏稼業側の人間がいる世界である。本来なら彼らのような存在はあまりセフィロトの世界に合わなかったため、潰すという選択もあったらしい。だが彼らもこれまでの世界に居座り、影響を及ぼしてきた要因の一つ。なので当時の世界の形を最善とし保持し続けると公言していたセフィロトとしては、切り離すのがまずいと判断したとか。そのためある程度大人しくさせるようにと制限をかけるだけかけ、存続を認めたのであった。
しかしその選択がのちに悪い方向へと 傾いてしまう。というのもセフィロトが起動し世の中の形が変わっていく中、最善の状態を固定した不変の世界のあり方になじめない者たちがそちらに流れ込んだのだ。裏側の世界は派閥による抗争といった特性があるため、セフィロトの管理がなかなか機能しない。ゆえに基本彼らに任せる形となったという。よって決められた役割をまっとうし、世界を回す歯車の一部にならずに済む。まさに唯一残された抜け道として、逃げてくる者が大勢いたとか。たとえ警察や軍の人間が常に目を光らせ、捕まれば重い罪に問われるリスクが高くても、自由を求め世界の裏側に足を染めていったらしい。こうして裏側の世界は肥大化し、セフィロトの世界が抱える闇の部分として大きな社会問題になっていったのであった。
「一応ここはセフィロトが彼らをつぶし合わせるために作った、 煉獄のような場所だしな」
もちろんセフィロトはこの状態をただだまって見過ごしはしなかった。電子による世界エデンを創造するにあたり彼らに対処する策、クリフォトエリアを用意したのである。
それこそがさだめられたある一定以下の不正なデータを見逃す代わりに、それ相応のリスクを負わせるというクリフォトエリア。当然不満の声もあったが、データを奪えるということは相手を 蹴落としみずからの勢力拡大を簡単におこなえる。しかも命の危険がなく、うまくいけば一切こちらの情報を残さず誰がやったかわからないようにできるのだ。そのため下位の者でも上の組織を容易に出し抜くことが出来た。そういうメリットがあったため彼らはこのクリフォトエリアの件を受け入れ、データの奪い合いという名の勢力争いを始めていったのである。
これにより過激な派閥抗争を押さえられ、暴れることでちょうどいいガス抜きとなり現実での荒事は激減する。しかも潰し合わせることで最終的には勝ち残った派閥だけが残り、監視や管理が楽になる寸法だ。実際のところセフィロトの世界にふさわしくない者をクリフォトエリアに押し込め、最後にはまとめて 粛清する思惑があると噂されていたとか。その裏付けにセフィロトは警察や軍を物的証拠となるデータを集めさす目的で投入し、彼らをつかまえさせたりしていた。
「今には及ばなくても、昔は昔で結構カオスな状況だったのよね」
「派閥争いはもちろん、軍や警察の介入。金のために 傭兵になる人たち。さらには企業や政治家が汚職といった不正なデータをここへ隠したり、裏側の人間と非合法な取引をしたりとか、いろいろ面白いことになってたらしいぞ」
裏側の人間だけでなく、表側の人間もよく不正データや資金関係でクリフォトエリアの戦場にたびたび 干渉していたらしい。隠していた不正データを守るときははもちろんだが、それ以外のパターンも。というのも一度闇の住人とつながりを持ってしまうと、その協力者側に証拠となるデータが残ってしまう。それを軍や警察側に押収されると、罪が明るみに出てしまうのだ。そのことを恐れ協力者側が危なくなったときは、証拠データを守ろうと戦力を送ったりして裏で暗躍していたとか。
「まあ、そんなわけでパラダイスリベリオンが起こる前から、今のクリフォトエリアの原型ができてたってわけだな。ついでに言っておくと、そんな裏側の人間の抗争は今だ激しく行われていて、勝ち残り拡大した勢力が傘下を引きつれしのぎを 削ってるんだとさ」
クリフォトエリアが生まれてから数多くの抗争が繰り広げられ、今では財閥のごとく大量の傘下を引きつれ勢力争いをしている状況に。そのため現在無数にあった勢力が吸収されてまとまり、勝ち残った 猛者たちの勢力だけが名乗りを上げていた。結局のところ裏の住人の勢力争いについては、セフィロトの思惑通りに進行しているといっていいのであろう。
「――さて、そろそろクリフォトエリアでの注意点についての説明に移るとするか」
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