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第93話 魔王様、旅支度です
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書けたので今週も投稿いたします……!
――――――――――――――――――
宿屋をプレオープンさせた日の午後。
俺は領主館の執務室で、収納ポーチに服や食料を詰め込んでいた。
「本当にお一人で、ドワーフの国へ向かうおつもりですか……?」
顔を上げると、執務用の机で事務仕事をしていたリディカと目が合った。
俺が不在の間は、彼女が代わりに仕事を引き受けてくれる。書類仕事用の眼鏡をつけた彼女は普段よりも知的で魅力的に映るが、瞳の奥には俺を気遣う感情が表れていた。
「ブードゥ火山は今も活動が活発で、暑さで過酷な環境だしな。それに凶暴な火龍の存在もある。勇者の肉体を持った俺ぐらいじゃないと……」
「でも、私だって結界魔法がありますし! この村に来てからもちょっとは成長したんですよ?」
彼女の言い分は俺も分かる。聖獣様の加護もあるが、リディカは毎日の鍛錬をかかさない。王城での軟禁生活でひ弱だったけれど、今では畑仕事や森での狩りを一日中続けていても平気なくらい体力がついている。
「だけどプルア村はようやく始動したばかりだろ? さすがに統治者が誰も居ないのはマズい。だから俺たちの村を任せられるのは他でもない、リディカしかいないんだよ」
「私たちの、村……」
心配性な彼女を安心させるよう、なるべく穏やかな声で説得を試みる。するとなぜか、リディカは少し顔を赤らめた。
「ま、まぁ私は将来的に領主の妻になるわけですし? 夫が不在の間、帰る場所を守るのが妻の務めですね」
「ははは、そうだね。留守は任せたよ」
「……分かりました。でも無事に帰ってきてくださいね。今度また貴方に死なれたら、地獄の果てまで追いかけてやりますから」
「うっ、リディカに死なれるのは勘弁だな~。骨になってでも戻ってくるよ」
ちょっとブラックなジョークで笑い合う俺たち。こんなアホみたいな話ができるようになったのも、互いに信頼しているからだろう。
「しかし火山の地下にあるドワーフの国か。どんな国なんだろうな」
ティターニアはドワーフたちが救援を求めていると言っていたが、まずは彼らの状況を確認しなければならない。
なにか災害が起きているのか、それとも妖精国のように外敵が現れたのか。いくら転移魔法ですぐに帰れるとはいえ、何が起きるか分からない。装備品も万全にしておかなければならないだろう。
あくる日の朝。
旅の支度を終えた俺は、さっそくドワーフの国へ向かおうと思ったのだが――。
「え、変わった客が来ている?」
出発前に領主館の食堂でリディカの作った朝食を食べていると、不意にそんな話題となった。
「私もさっき、フシちゃんたちから聞いたんですけど……。昨晩、フラっと宿に現れたんだそうです」
彼女の説明する経緯を聞きながら、俺はコッケの朝採れ卵で作った目玉焼きをモグモグと咀嚼した。濃厚でトロッとした半熟の黄味が甘くて美味しい。でもやっぱり塩じゃなくて醤油が欲しいなぁ……。
「なんだか、ちょっと怪しくないですか?」
「うーん、そうだなぁ。出かける前にちょっとだけ挨拶していくか」
前回の盗賊騒動で警戒心を覚えたリディカが、不安そうにそう口にする。正直、俺も同意見だ。自分の村を悪く言いたくはないが、よっぽどの用が無ければこんな辺境には来ない。交易が活発になればそれも変わってくるんだろうけど……。
食事を終えた俺とリディカで旅館へ向かう。さすがに客として迎え入れた以上、部屋に突入するわけにはいかない。チェックアウトするまで待ってようかと思ったのだが、その人物はフシの猫鍋亭で呑気に朝食を食べていた。
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宿屋をプレオープンさせた日の午後。
俺は領主館の執務室で、収納ポーチに服や食料を詰め込んでいた。
「本当にお一人で、ドワーフの国へ向かうおつもりですか……?」
顔を上げると、執務用の机で事務仕事をしていたリディカと目が合った。
俺が不在の間は、彼女が代わりに仕事を引き受けてくれる。書類仕事用の眼鏡をつけた彼女は普段よりも知的で魅力的に映るが、瞳の奥には俺を気遣う感情が表れていた。
「ブードゥ火山は今も活動が活発で、暑さで過酷な環境だしな。それに凶暴な火龍の存在もある。勇者の肉体を持った俺ぐらいじゃないと……」
「でも、私だって結界魔法がありますし! この村に来てからもちょっとは成長したんですよ?」
彼女の言い分は俺も分かる。聖獣様の加護もあるが、リディカは毎日の鍛錬をかかさない。王城での軟禁生活でひ弱だったけれど、今では畑仕事や森での狩りを一日中続けていても平気なくらい体力がついている。
「だけどプルア村はようやく始動したばかりだろ? さすがに統治者が誰も居ないのはマズい。だから俺たちの村を任せられるのは他でもない、リディカしかいないんだよ」
「私たちの、村……」
心配性な彼女を安心させるよう、なるべく穏やかな声で説得を試みる。するとなぜか、リディカは少し顔を赤らめた。
「ま、まぁ私は将来的に領主の妻になるわけですし? 夫が不在の間、帰る場所を守るのが妻の務めですね」
「ははは、そうだね。留守は任せたよ」
「……分かりました。でも無事に帰ってきてくださいね。今度また貴方に死なれたら、地獄の果てまで追いかけてやりますから」
「うっ、リディカに死なれるのは勘弁だな~。骨になってでも戻ってくるよ」
ちょっとブラックなジョークで笑い合う俺たち。こんなアホみたいな話ができるようになったのも、互いに信頼しているからだろう。
「しかし火山の地下にあるドワーフの国か。どんな国なんだろうな」
ティターニアはドワーフたちが救援を求めていると言っていたが、まずは彼らの状況を確認しなければならない。
なにか災害が起きているのか、それとも妖精国のように外敵が現れたのか。いくら転移魔法ですぐに帰れるとはいえ、何が起きるか分からない。装備品も万全にしておかなければならないだろう。
あくる日の朝。
旅の支度を終えた俺は、さっそくドワーフの国へ向かおうと思ったのだが――。
「え、変わった客が来ている?」
出発前に領主館の食堂でリディカの作った朝食を食べていると、不意にそんな話題となった。
「私もさっき、フシちゃんたちから聞いたんですけど……。昨晩、フラっと宿に現れたんだそうです」
彼女の説明する経緯を聞きながら、俺はコッケの朝採れ卵で作った目玉焼きをモグモグと咀嚼した。濃厚でトロッとした半熟の黄味が甘くて美味しい。でもやっぱり塩じゃなくて醤油が欲しいなぁ……。
「なんだか、ちょっと怪しくないですか?」
「うーん、そうだなぁ。出かける前にちょっとだけ挨拶していくか」
前回の盗賊騒動で警戒心を覚えたリディカが、不安そうにそう口にする。正直、俺も同意見だ。自分の村を悪く言いたくはないが、よっぽどの用が無ければこんな辺境には来ない。交易が活発になればそれも変わってくるんだろうけど……。
食事を終えた俺とリディカで旅館へ向かう。さすがに客として迎え入れた以上、部屋に突入するわけにはいかない。チェックアウトするまで待ってようかと思ったのだが、その人物はフシの猫鍋亭で呑気に朝食を食べていた。
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