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第85話 魔王様、プレオープンです

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 妖精族との新たな交易ルートと、妖精シードルという特産品を得た俺たち。
 そしてついに、満を持して温泉宿がプレオープンを迎えた。

「うにゃー! ついにこの日がやってきたのニャ!」

「僕もお客様を全身全霊でお迎えするです!」

「あたしは適当にやるねー」

 獣人三姉妹は宿の入り口で、やってきた客たちを満面の笑みで迎える。

 そんな彼女らは今、着物風の衣装を身にまとっている。三人でデザインから話し合って決めて、俺が王都の仕立て屋にお願いしてあつらえた特注品だ。それぞれ猫・鳥・犬獣人としての特徴をモチーフとした絵柄が描かれているのだが、それがまた良く似合っていて可愛い。

 保護者である俺やリディカを始めとした、大人たちにも大好評だ。


「うぅ、緊張するよぉ……」

 一方、リディカは従業員として接客することに不安を抱いているようだ。そんな彼女を励ますように、俺はその肩に手を置く。

「リディカなら大丈夫だよ」

「ほ、本当ですか?」

「あぁ。それにほら、今日はプレオープン。日頃からお世話になっている人を呼んでいるわけだし……いつも通りにやればいいんじゃない?」

「……ストラがそう言うなら、分かりました!」

 力強く頷くリディカを見て、俺も一安心する。

 最初は領主である俺の補佐を頑張っていたのだが、最近の彼女は接客のイロハを学んでいる。アチコチに手を出すと大変だし、無理しなくていいとは伝えてはいるんだけど、本人がやる気なので応援することにした。
 抑圧された生活が長かった分、やりたいことが沢山見つかったのは良いことだろうしね。

 彼女は勉強熱心で真面目だし、その良さを生かして接客も頑張ってほしいところだ。


「さて、俺は様子を見てくるとしようかな」

 あらかた客は入ったようなので、宿の中へと向かう。

 温泉宿の建物は3階建ての木造建築で、2~3階部分が宿として運営される。1階部分は大浴場と繋がっていて、主に食事処や休憩所として活用する予定だ。
 利用客は入り口近くの受付でチェックインを済ませれば、その日は自由に使うことが出来る。

 ちなみに今のところ、宿泊は予約制にしていない。メインの利用層が商人や旅人だからだ。いつ来て帰るのか予想がつかないし、向かった先で商談が長引く可能性もあるだろうし。

 とはいえ客の中には帰りも寄る人も居るので、その場合は事前声掛けをしてもらうことになっている。

 まぁこの施設の目的はあくまで温泉を楽しむことなので、それが満たせていればいいのだ。


「お、足湯コーナーに居るのはサムアッさんか。彼女の隣に居る赤髪マッチョは……うわちゃあ」

 サムアッさんは、ティリングにある八百屋の店長さんだ。

 元々ベジタリアンだった彼女は肉食に目覚め、今では筋肉の魅力にハマっている。自分でも体作りを始めたらしく、見るたびにどんどんマッチョになっていた。

 先日会った時は、一緒にトレーニングを励んでくれる素敵なパートナーを探していると聞いていたのだが……。


「クリム様! その素晴らしい大腿二頭筋はどうやってお造りに?」

「む、これか? まずは健康的な食生活をベースに、日々の鍛錬を欠かさないこと。それだけだ」

「なるほど! 私は少しサボるとすぐに脂肪がつくので、それが悩みなんですよねぇ」

「そういう時は、重りなどの負荷を手足に掛けて通常の生活をするといい。だが無理は禁物だぞ、継続が何より重要なのだからな!」

「くぅ~! さすがです~っ!!」

「…………」

 クリムはサムアッさんとすっかり意気投合して、何やら熱く語り合っているところだった。

(見なかったことにしよう)

 触らぬ神に祟りなしだ。俺は何も見なかったことにして背を向けた……だがその瞬間、背後から何者かに肩をポンッと叩かれる。


「おいおい。声も掛けずに立ち去るなんて、つれないじゃないか兄弟ィ~」

 その声に嫌な予感を覚えつつも振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた赤髪の大男が居た。
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