上 下
81 / 106

第81話 魔王様、禁断の果実です

しおりを挟む

「おい!? なんで泣いているんだ!?」

「美味しいです……こんなに美味しい果物は、生まれて初めてです!!」

 涙声のまま彼女は続けてシャクシャクと青のリンゴを食べていく。齧った中身まで真っ青なのだが、見た目に反して甘そうだ。


「はぅ~美味しいです……」

 すっかり泣き止んだリディカが、幸せそうな表情を浮かべてリンゴを貪る。

 よほど気に入ったのか、気付けばもう5個も平らげていた。

 サラちゃんも調子に乗って腕いっぱいにリンゴを抱えているし、その後ろには順番待ちのリザードマンがゾロゾロと列で並んでいる始末。いや、さすがにはそんなに食べられないだろ……。


「――ん? こうして見ているかぎりだと、採っても食べても、木から実が無くならないように見えるんだが」

「たしかに……なんだか不思議ですね」

 最初見たときは、木に20個ほどしかなかったはずの果実が、いまや50個ほどになっている。まるでリディカに食べてもらうために、出現させたみたいだ。

「まるで生きているみたいだな……」

 これは果たして普通の木なのか?

 とにかく分からないことだらけだ。


「――あら、珍しい。それは妖精樹よ」

「あれ、ティターニアか?」

 後ろから声を掛けられて振り返ると、そこには妖精の国にいるはずのティターニアが居た。

「さすがに気になったから、私も様子を見に来たわよ。急に現れたかと思いきや、リディカさんを連れてまた消えちゃうんだもの。何かあったのかと心配に思うでしょう」

「あー、さっきは急に転移して済まなかった」

 サラマンドラの治療のためにリディカを迎えに行ったんだが、急いでいたからなぁ。ティターニアにとっては、何が起きたのか訳が分からなかっただろうな。


「ふふっ。まぁそこまで心配はしていなかったけどね。案の定、面白いことになっているみたいだし?」

 そう言ってティターニアは、サラちゃんに向き直った。

 彼女たちは魔物だが、こちらに敵対する意思がないのは見ての通りだ。であれば、ティターニアとしてもここで争うつもりはないらしい。


「それで、その妖精樹っていうのはなんなんだ?」

「あら。ストラなら知っていると思っていたんだけど」

 ティターニアいわく、『妖精樹』とは空気中の魔素を取り込み成長する、特殊な魔法生物らしい。

 例えば“魔素の少ない地域”や“土地が枯れた”ところに植えることで、周囲の魔素不足を補う役目を果たすのだとか。逆に魔素が濃くなる場所では中和する効果もあるそうで、あらゆる環境にも適応して育つようだ。

 ティターニアによると、こういった不思議な木や植物は他にもあるらしい。
 元々は普通の木だったものが、長い年月を経て成長し、魔法生物のような存在に変化するんだとか。


「そんな便利な樹があったのか……でも俺は聞いたことが無かったぞ?」

「かつては、妖精の国の至る所で生えていたんだけど……。そういえば火龍の活動が活発になってきた頃から、あまり見かけなくなってしまったわね」

 この果実は火龍が好む味だそうで、ブゥード火山にあった妖精樹は食べ尽くされて枯れてしまったらしい。

 そして奇跡的に残ったのは、狭い坑道の中にあったこの一本だったと。


「……昔は妹と一緒にもぎ取ってはオヤツにして、食べ過ぎだってお母様に怒られていたわ」

 頬に手を当てて、昔を懐かしむかのようにティターニアは語る。


「ねぇ、ストラ。ティターニアって何歳ぐらいなの?」

「俺に聞くなアクア。年齢の話をしたら殺される……」

 ティターニアは妖精の国を守護する、妖精族の王。寿命は遥か長く、エルフ族と並ぶとされている。

 先代の魔王が子供のころから女王の座に居るって言っていたし、古い時代から生きているはずだ。200歳や300歳と言われても、全くおかしくはない。なのに見た目は20代のままだからなぁ……。


「それで貴方たちは、この妖精樹をどうするつもりなの?」

「うーん、そうだなぁ」

 果実そのもの美味しいし、木も増やしてプルア領に植えてみたい。いろいろと使い道はありそうだ。

 頭の中で色々と考えていると、ティターニアが俺をジッと見つめていた。

「できれば私たちにも融通してほしいなー、なんて」

 いや、まぁ元は妖精族の国にあったものだし。彼女たちにも流通させるのは当たり前だとして。

 ……あ、そうだ。

「これでお酒を造ってみたら、美味しいんじゃないか?」

「なんですって!?」

 その言葉を口にした途端、その場にいた全員の目が一斉に俺へ向いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移したら~彼女の"王位争い"を手助けすることになった件~最強スキル《精霊使い》を駆使して無双します~

そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ とある大陸にあるローレスト王国 剣術や魔法、そして軍事力にも長けており隙の無い王国として知られていた。 だが王太子の座が決まっておらず、国王の子供たちが次々と勢力を広げていき王位を争っていた。 そんな中、主人公である『タツキ』は異世界に転移してしまう。 「俺は確か家に帰ってたはずなんだけど......ここどこだ?」 タツキは元々理系大学の工学部にいた普通の大学生だが、異世界では《精霊使い》という最強スキルに恵まれる。 異世界に転移してからタツキは冒険者になり、優雅に暮らしていくはずだったが...... ローレスト王国の第三王女である『ソフィア』に異世界転移してから色々助けてもらったので、彼女の"王位争い"を手助けする事にしました。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...