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第73話 魔王様、妖精の国へ

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 妖精の国へ向かうことになった俺たちは、けわしい山中を歩いていた。

 俺自身は妖精女王のいる幻想都市ルシードへ行ったことがあるんで、本来なら転移の条件は揃っている。だが直接転移しようとしても、妖精女王が張った特殊な結界に弾かれてしまうのだ。なので今回も近くまで転移してから、自分の足で向かっているのだが――。


「それで? どうしてアクアまで俺たちについて来たんだ?」
「なんでよ、私が居たら邪魔だって言いたいわけ?」

 青い髪をかき上げながら、アクアが不機嫌そうに頬を膨らませる。

「いや、そういうわけじゃないんだが……」

 このタイミングで彼女が同行するというのは少々想定外だ。てっきりアクアは魔族領での仕事が多忙だから、さっさと帰るのかと思っていたんだが。

 そんな俺の考えに気が付いたのか、アクアはフフンと笑って胸を張った。


「当然よ! 妖精女王と謁見できるこのチャンスを、この私が逃すわけないじゃない!」

 なるほどそういうことか……って納得するか!

「ウチの村の赤字回復に協力してくれる、って話じゃなかったのかよ!?」
「それはそれ、これはこれよ! というより、私だって魔族の外交担当者という立場があるんだもの!」」

 いやまぁ確かにそうか。
 人族との戦争のせいで、国交が断絶してしまっていた影響はかなり大きい。

 魔道具の動力源として使われている魔法宝石マジックジュエルの多くは、妖精の国で産出されている。

 魔法が得意な魔族はその技術を生かして開発した魔道具を、大きな産業のひとつとしているわけで。国内の財政管理に関わっている彼女が、国交再開のために妖精女王と会いたがるのは当たり前だった。


「ていうかアクアお前、まさか最初からそれを狙っていたんじゃ……」

 俺がそう指摘すると、アクアは誤魔化すように目を逸らして口笛を吹き始めた。

「べ、別に私が同行しても良いわよね、リディカちゃん!?」
「私ですか?」

 突然名前を呼ばれたリディカが、足元から顔を上げた。
 村での生活で体力がついてきたとはいえ、慣れない山歩きで表情に疲労の色が見える。それでも文句ひとつ言わずについてきてくれたのだが……アクアの態度に呆れたのか、リディカは小さくため息をつく。


「……はぁ。仕方がありませんね」

 そして彼女は、俺に視線を向けてからゆっくりと頷いた。

「ストラ、別に構わないんじゃないですか?」
「いいのか?」
「はい。それに利害は一致していますし……今回の交渉が上手くいったら、きっと私たちにとって大きなプラスになると思うんです」

 そう言ってリディカは嬉しそうに笑った。
 確かに妖精族との国交が再開すれば、魔法宝石を融通してもらえるようになるはずだ。それに今回の件をきっかけに、人族との交流も広がるだろう。


「分かった。それじゃあアクア、女王との交渉はしっかり頼んだぞ」
「えぇ! この私の手腕で、ばっちり友好条約を結んでみせるわ!」

 そんなやり取りを交わした後、俺たちはルシードに向けて歩き始めた。

 道中では魔物が出てきたものの、俺とアクアがあっさりと蹴散らしていく。四天王の中では頭脳担当とはいえ、彼女の水魔法は一級品だ。


「ふふん、やるわね!」

 そんなアクアとの共闘は、随分と久しぶりだ。どれだけ年月が経っても、どれだけ立場が変わっても。お互いに遠慮のないやり取りが出来る関係は特別で、心地いいものだった。


 それからも俺たちは順調に旅を続けた。
 といっても元々近くまで来ていたので、おおよそ数時間という短い冒険だ。おかげでリディカ姫を危険な目に遭わせることなく、目的地に到着した。

 そこで俺たちを出迎えてくれたのは、巨大な氷の城壁に囲まれた湖畔のみやこと、門番の木人間トレントだった。

「ちょっと、話だけでも聞きなさいよ!」
「駄目だ駄目だ。妖精女王ティターニア様から、何人なんぴとたりともここを通すなと言われておる!」

 あれ? さっそく前途多難じゃない?
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