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第72話 魔王様、妖精の情報を得る
しおりを挟む「妖精の国を俺が支援する……?」
「そう。あの国は今、大規模な魔獣災害に襲われているの。幸いにも妖精女王の力で、人的被害は食い止められているんだけど……農地が荒れて、食糧問題が起きているみたい」
魔獣災害とはその名の通り、魔物が大量に発生する災害のことだ。その規模はまちまちで、一週間ほどで収束する小規模なものもあれば、数年にわたって続くものもある。
発生が人里の近くでなければ、魔物同士が喰い合って勝手に終息するのだが……。
「鎖国状態だったことも相まって、このままでは妖精の民が飢えてしまうわ。――と、そこへヒーローである勇者の登場ってワケ」
「中立の立場である勇者が介入し、今後は他種族と妖精族を結ぶパイプラインとしての地位を確立する……ってことですか?」
リディカ姫の言葉に、アクアはグッと親指を立てた。どうやら正解らしい。
つまりだ。
この村を中心にして、もう一つ新たな交易路を作ろうということか。
「なるほど……確かに人の出入りが活発になれば、温泉宿の利用者も増えるかもな」
「中には村の特産品を購入していく商人や旅人の方もいますよね!」
「あぁ。これなら村の財政も立て直せるし、新たな経済圏を作ることもできる!」
俺の脳裏には瞬く間に様々なアイディアが浮かび上がり、興奮で顔がほてってくるのを感じた。
「ところで、魔獣災害の原因は何なんだ?」
アクアに訊ねると、彼女は机に広げた地図を指でなぞりながら、魔物災害の現状を語り始めた。
「詳細は分からないけれど、周囲の山でリザード系の魔物が大量発生したらしいわ」
妖精の国がある湖の周囲には、大きな山脈が幾つも連なっている。
この山々は魔族の間でブゥード火山帯と呼ばれているのだが、そこには恐ろしい火龍が棲むという伝承がある。かつてはその山にドワーフの国があったらしいが、火龍の活動が頻繁になってからは地中深くへと身を隠してしまったそうだ。
「リザード系の魔獣か。それなら火龍に怯えて、山から逃げてきたってことかもな」
「可能性はあるわね。でも勇者なら余裕で討伐できるでしょ?」
「まぁな」
アクアからウインクまじりに訊ねられ、もちろんだと頷いた。
「本当に大丈夫なのですか? リザード系って、ドラゴン種みたいな恐ろしい見た目をしている……って本で見たことがありますけど」
「あぁ、いや。火龍みたいなドラゴンは最強種の魔物だけど、リザード系はただのトカゲだよ。一緒にするとドラゴンを神聖視する竜人族に怒られちまう」
ちなみに俺を拾ってくれた先代の魔王は竜人族で、娘のシャルンはハーフだ。
もれなく彼女も竜人族の血に誇りを持っていて、リディカと同じ間違いをした俺をボッコボコにしたことがある。
腕組みをして思い出に浸っていると、そんな俺を見たリディカがほっぺを膨らませていた。
「なんだか、他の女の子のこと考えてません?」
「ブフッ!? そ、そんなことないぞ」
「……ホントですかぁ?」
ジトーっと疑いの目を向けられるが、そんな目を向けられても困る。だってシャルンは恩人の娘だし、世話のかかる妹としか思ったことがないしな。
それをどう説明するべきか悩んで口ごもっていると、見かねたアクアが助け船を出してくれた。
「はいはい。痴話ゲンカはその辺にしておきましょう。ここまでの経緯は、ざっとこんなものなんだけど……どう? 協力してくれるかしら?」
「当たり前だ! 俺に任せておけ!」
俺は椅子から立ち上がり、ドンと胸を叩いてみせた。するとアクアはニヤリと笑って言葉を続けた。
「その言葉を待っていたわ! すでにフシちゃんたちには、出発の準備をお願いしてあるから。安心して向かってちょうだい!」
「え、もう!?」
っていうか、いつの間にアイツらとそんなに仲良くなったんだ?
「裸の付き合いをすれば、一発よ」
「そ、そういうものなのか……」
おかしいな。俺が獣人娘たちと出逢ったときあんて、かなり警戒されていたはずなんだけどなぁ。
……さすがは外交も担当する水の四天王だ。仕事が早いこと。
「それじゃあ、行こうか。いざ、妖精の国へ――!」
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