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第45話 魔王様、登城のお時間です
しおりを挟む「それじゃ、行ってくる」
「本当におひとりで大丈夫ですか?」
「大丈夫だって。俺は世界最強の勇者様なんだぜ?」
心配そうにこっちを見上げるリディカ姫の肩に手を置いて、安心するよう語り掛ける。
今日はこれから、王様からの“呼び出し”があるのだ。まぁどんな用事かは、なんとなく想像がついているけれどね……。
「ちゃちゃっと用事を済ませて帰ってくるからさ、心配しないで待っていてくれ」
そうして俺は単独で王城へと向かった。
方法は勿論、転移魔法だ。
直接城に転移して、もし勇者が転移魔法持ちだとバレたら面倒事になる。
なので身を隠しやすい、城下町にあるスラム街へと転移する。
久々に訪れたスラム街は以前よりも廃墟化が進んでいて、どの建物も破壊と略奪のあとが深く残っている。住人もどこかの物陰に潜んでいるのか、表通りのような活気はほとんど感じられなかった。
重税で身を持ち崩す者が今も後を絶たないらしいから、こうなってしまうのは仕方ないんだろうけれど。国民の不満を早く対処しないと、この国は足元から腐り落ちてしまうよなぁ……なんて思う。
今や俺も名目上はこのローウン王国の貴族なわけだし、あまり国内が荒れてほしくないのだが。
「ま、ともかく今日は王城へ向かおう。今の俺にできるのはそれだけだ」
「勇者殿! ようこそ、我が城へ!」
王城の入り口までやってくると、一人の女性騎士が俺を迎えてくれた。
腰まである金髪に、切れ長の蒼い瞳。薄めながらしっかりと化粧もしている美少女だ。背は小柄だがスタイル抜群、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるという魅惑のボディライン。
着ているのが鎧じゃなかったら……と期待させるような、そんな女性だった。
「貴方は……」
「あぁすまない、申し遅れた。私は第二王女のジャンミス。騎士団の副団長をしている」
あぁ、なるほど。それで“我が城”ね。
しかしリディカ姫よりも、第一王女のミレーユ姫の方と似ているな。銀髪のリディカ姫と違って金髪ということは、上二人は同じ母親なんだろうか。
彼女に城の中を案内されながら、こちらも軽い自己紹介を済ませる。すると、ジャンミス姫は不思議そうな顔で首を傾げた。
「……ん? そういえば我が愚妹の姿が見えないが」
「あぁ、今は陛下から賜った領地の再興が忙しくて。彼女には村に残ってもらって、仕事をしてもらっているんです」
そう答えると、彼女はムッと眉をひそめた。
「あの子は昔から部屋に引き篭もってばかりで、本当に駄目な女に育ってしまった。仮にも王族の血を引くのならば、人の役に立つことをしなさいと普段から言っているのだが……」
ジャンミス姫が歩きながら、ブツブツと文句を口にする。
これはリディカ姫を心配しているってよりも、王族という立場に生まれたのにそれらしい働きをしていないって意味で怒っているな。
「そんなことはないですよ? 村での彼女の活躍は、素晴らしいものがあります」
「ん? どういうことだ?」
「それは……」
彼女の功績を説明するべく口を開きかけたところで、ちょうど謁見の間に到着してしまった。
「愚かな妹のことはまぁ良い。父上が中でお待ちだ。どうぞ入られよ」
話を変えるように、ジャンミス姫がパンッパンッと手を二度叩いた。すると目の前にある重厚な扉が、ギイィと音を立ててゆっくり開かれていく。
「実は最近、我が騎士団には“ある噂”が流れていてな」
「噂?」と訊ね返す俺に、彼女はこくりと頷いた。
「国内の村々で、魔物を討伐しては何も報酬を得ず姿を消している――そんな正体不明の男が出没しているらしい。民は騎士よりも有能で頼れると口にしていてな。それを快く思わぬ者も居る。何をとは言わんが――気を付けられよ」
言い終わると同時に、扉が完全に開かれた。
視界の先には玉座に腰掛け、にこやかな笑顔でこちらを見る王様の姿。
一方でその隣には、怒りの形相を隠そうともせずに殺意のオーラを振り撒く、騎士団長が控えていた。
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