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第21話 誰が為の拳(クーSide:前編)
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~クー視点~
やっぱり僕は駄目な子なんだ。
「僕は、また失敗してしまったのです」
ストラ兄さんの隣で、僕は俯きながら呟いた。
次から次へと涙が勝手にあふれてくる。
頬を伝う雫がポタリポタリと落ちて、温泉の水面に波紋を作っていった。
「失敗? 畑を作るのをか?」
兄さんが優しく僕の頭を撫でながら言う。僕はコクッと頷いて、その優しさに甘えさせてもらった。
「……ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ」
そんな僕に兄さんは笑いかけてくれた。
「クーは畑に穴をあけたことを、失敗だと思ったのか?」
「……はい」
僕は昔から力が強かった。
母さんは「貴方はお父さんに似たのね」って言っていた。父さんは獣人の中でも、武神と呼ばれる存在だったから。
そんな父さんも、病気には勝てなかった。
父さんが天国に旅立ってから、母さんもすぐに後を追うように亡くなってしまった。
独りぼっちになった僕は、生きていくために人族の傭兵になった。
これはフシやピィにも言っていない、僕の闇――取り返しのつかない失敗談だ。
雇い主から言われたとおりに、僕は敵を殴り始めた。人も魔物も、ぜんぶ。ぜんぶ殴った。
……こわかった。
手にこびり付く生ぬるい血も、断末魔の叫びも。それらの感覚が離れてくれずに、泣きながら眠れない夜を何度も過ごした。
だから僕は、心を封印することにしたんだ。そうでもしないと、僕は本当のケダモノになってしまいそうだったから。
でも、そうなる前に生活が一変した。雇い主や所属していた傭兵団が、一匹の魔物に壊滅させられてしまったから。
僕も殴られて吹っ飛ばされたけど、体が頑丈だったおかげで、耳が遠くなっただけで済んだ。
ボロボロになった状態で彷徨っていたところに、フシに出逢って……僕はもう、力を使う必要は無くなった。
相変わらず生活はひもじくて、思わず笑っちゃうくらい苦しかったけど。二人の姉妹のおかげで、心から楽しいって思える日々を過ごせていた。
だから僕は、いつまでもこの時間が続けばいいなって。
大切な二人を失わないためにも、もう二度と力の使い方で失敗しないんだって……そう決めていたんだけど――。
僕が考え事をしている間も、沈黙は続いていた。
また呆れられてしまったかな……そう思ったそのとき。ストラ兄さんはゆっくりと話し出した。
「俺は今日、とても楽しかったぞ? クーの意外な一面を知れて、なんか嬉しかった」
「え?」
僕が驚くと、兄さんは優しい顔で微笑んだ。
「人ってさ、みんな違うんだよ。得意なことや苦手なこと、好きなこと嫌いなこと……それぞれ全部違うから面白いんじゃないか?」
「……そういうものなのですか?」
「あぁ。だからクーも気にしなくて良いんだぞ? クーはクーの良いところがあるんだから」
そう言うと、兄さんは再び僕の頭を撫でてくれた。
ゆっくりとした話し口調はまるで子守歌のように、心地の良い声色だった。
「実は俺も、失敗ばかり繰り返してきたんだ」
「ストラ兄さんが、ですか?」
なんだか意外だ。
リディカ姉さんからは、兄さんは国の英雄だって聞いていたから。
「ああ。俺が魔お……」
「まお?」
「……魔王を倒した英雄だって、もてはやされているけどな。小さい頃は他人に迷惑ばっか掛けていたんだよ、うん」
何かを言い直しながら、ストラ兄さんは懐かしそうに目を細めた。
「俺もクーたちみたいに、物心がついた時には親が居なくってさ」
「そうなのですか!?」
「代わりに拾って育ててくれた人がいたんだ。その人はもう亡くなっちゃったけど……オヤジが居なければ、今の俺は居なかったと思う」
兄さんは「オヤジには感謝してもしきれない」と、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「幼い頃はチビで弱っちくて、魔法も苦手でさ。妹や周りには馬鹿にされて、いつも泣いていたよ」
「い、意外なのです……」
「でもオヤジは泣く俺を『お前は何でもかんでも、一人で器用にやろうとし過ぎだ』って笑い飛ばしながらも励ましてくれたんだ」
兄さんの苦労話を聞いて、僕は驚いた。だって僕の知る兄さんはいつも堂々としていて、何でも出来ちゃうすごい人だったから。
だけどそれを否定したのは他でもない、目の前にいる兄さんだった。たしかに体は豚さんみたいに太っているし、あんまり勇者っぽくないですけど……。
そんなことを考えていたら、兄さんは真剣な表情で僕を見つめていた。
やっぱり僕は駄目な子なんだ。
「僕は、また失敗してしまったのです」
ストラ兄さんの隣で、僕は俯きながら呟いた。
次から次へと涙が勝手にあふれてくる。
頬を伝う雫がポタリポタリと落ちて、温泉の水面に波紋を作っていった。
「失敗? 畑を作るのをか?」
兄さんが優しく僕の頭を撫でながら言う。僕はコクッと頷いて、その優しさに甘えさせてもらった。
「……ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ」
そんな僕に兄さんは笑いかけてくれた。
「クーは畑に穴をあけたことを、失敗だと思ったのか?」
「……はい」
僕は昔から力が強かった。
母さんは「貴方はお父さんに似たのね」って言っていた。父さんは獣人の中でも、武神と呼ばれる存在だったから。
そんな父さんも、病気には勝てなかった。
父さんが天国に旅立ってから、母さんもすぐに後を追うように亡くなってしまった。
独りぼっちになった僕は、生きていくために人族の傭兵になった。
これはフシやピィにも言っていない、僕の闇――取り返しのつかない失敗談だ。
雇い主から言われたとおりに、僕は敵を殴り始めた。人も魔物も、ぜんぶ。ぜんぶ殴った。
……こわかった。
手にこびり付く生ぬるい血も、断末魔の叫びも。それらの感覚が離れてくれずに、泣きながら眠れない夜を何度も過ごした。
だから僕は、心を封印することにしたんだ。そうでもしないと、僕は本当のケダモノになってしまいそうだったから。
でも、そうなる前に生活が一変した。雇い主や所属していた傭兵団が、一匹の魔物に壊滅させられてしまったから。
僕も殴られて吹っ飛ばされたけど、体が頑丈だったおかげで、耳が遠くなっただけで済んだ。
ボロボロになった状態で彷徨っていたところに、フシに出逢って……僕はもう、力を使う必要は無くなった。
相変わらず生活はひもじくて、思わず笑っちゃうくらい苦しかったけど。二人の姉妹のおかげで、心から楽しいって思える日々を過ごせていた。
だから僕は、いつまでもこの時間が続けばいいなって。
大切な二人を失わないためにも、もう二度と力の使い方で失敗しないんだって……そう決めていたんだけど――。
僕が考え事をしている間も、沈黙は続いていた。
また呆れられてしまったかな……そう思ったそのとき。ストラ兄さんはゆっくりと話し出した。
「俺は今日、とても楽しかったぞ? クーの意外な一面を知れて、なんか嬉しかった」
「え?」
僕が驚くと、兄さんは優しい顔で微笑んだ。
「人ってさ、みんな違うんだよ。得意なことや苦手なこと、好きなこと嫌いなこと……それぞれ全部違うから面白いんじゃないか?」
「……そういうものなのですか?」
「あぁ。だからクーも気にしなくて良いんだぞ? クーはクーの良いところがあるんだから」
そう言うと、兄さんは再び僕の頭を撫でてくれた。
ゆっくりとした話し口調はまるで子守歌のように、心地の良い声色だった。
「実は俺も、失敗ばかり繰り返してきたんだ」
「ストラ兄さんが、ですか?」
なんだか意外だ。
リディカ姉さんからは、兄さんは国の英雄だって聞いていたから。
「ああ。俺が魔お……」
「まお?」
「……魔王を倒した英雄だって、もてはやされているけどな。小さい頃は他人に迷惑ばっか掛けていたんだよ、うん」
何かを言い直しながら、ストラ兄さんは懐かしそうに目を細めた。
「俺もクーたちみたいに、物心がついた時には親が居なくってさ」
「そうなのですか!?」
「代わりに拾って育ててくれた人がいたんだ。その人はもう亡くなっちゃったけど……オヤジが居なければ、今の俺は居なかったと思う」
兄さんは「オヤジには感謝してもしきれない」と、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「幼い頃はチビで弱っちくて、魔法も苦手でさ。妹や周りには馬鹿にされて、いつも泣いていたよ」
「い、意外なのです……」
「でもオヤジは泣く俺を『お前は何でもかんでも、一人で器用にやろうとし過ぎだ』って笑い飛ばしながらも励ましてくれたんだ」
兄さんの苦労話を聞いて、僕は驚いた。だって僕の知る兄さんはいつも堂々としていて、何でも出来ちゃうすごい人だったから。
だけどそれを否定したのは他でもない、目の前にいる兄さんだった。たしかに体は豚さんみたいに太っているし、あんまり勇者っぽくないですけど……。
そんなことを考えていたら、兄さんは真剣な表情で僕を見つめていた。
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