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第20話 魔王様、入浴の時間です
しおりを挟む――ブシャアアアア!!
クーがあけた穴から、大量の水が柱となって噴き上がっていた。
「これって……地下水!?」
まさかクーは、水が湧く場所を掘り当てたのか!?
「す、すげー……」
俺は地面に膝をつき、呆然と呟いた。
「ニャニャッ!? これ、あっつい水なのニャ」
顔や体についた土を洗い流そうと近付こうとしたフシが、悲鳴を上げながら戻ってきた。たしかに、ちょっと触れただけでも火傷しそうなほどの温度である。
「ストラゼス様、これって大変な事態なんじゃ……」
「あ、あぁ……ヤバいぞこれは」
顔を真っ青にさせたリディカ姫が、俺の腕をつかむ。彼女の言う通り、これはこの村の未来を左右する大事件だ。
「まさか熱湯が噴き出てくるなんて……こんな危険な場所じゃ、余計に人が避けちゃいますね……」
「――ん? いや、むしろ逆だぞ。これでさらなる人寄せができる!」
「え? 逆??」
「あぁ、温泉っていう大きな観光資源だぞコレ! よくやったぞ、クー。大手柄だ!」
だがそのクーを含め、四人はキョトンとしている。
あぁ、もしかしてこの国には温泉っていう文化が無いのか?
「なら、言葉で説明するよりも実践だ。さっそくみんなで入ってみよう」
◇
「はうぅ……ここは天国だニャア……」
魔法で作った急ごしらえの温泉に、オッサンみたいな声を出したフシがプカプカと浮いていた。
子供とは言え、もちろん湯あみ用の水着モドキを着せている。今回はお試しだし、家族風呂みたいなもんだと思って細かいマナーは置いておこう。
なにより温泉の良さを分かってくれれば、それで良い。
「ピィも入れば良かったのになァ」
「あの子は水に濡れるのが嫌いなのです! 普段から、行水させるだけでも苦労しているのです!」
「まぁいつか慣れてくれるだろ。興味はありそうだったしな」
「なのです~!」
すっかり闇堕ちモードは解除され、いつもの温厚なクーに戻っている。温泉の癒し効果のおかげか?
「ところで姫様は……」
「こ、こっち見ないでください!」
「あー、すまんすまん。見ない見ない」
服を着ているとはいえ、リディカ姫は異性と同じお湯の中へ入ることに抵抗があるらしい。
まぁ普通の女の子ならそうだよな。
魔王時代はあんまり気にしない奴が多かったせいで、すっかりその感覚を忘れていた。
懐かしいなぁ。俺が入浴していると、四天王のアクアや妹のシャルンたちが頻繁に乱入してきたっけ。
「元気しているかなぁ、アイツら……」
懐かしさと罪悪感が混じった溜め息が、湯けむりの中に溶けて消えていく。
戦いで死んで勇者の体を乗っ取ってから、そのまま黙って国を出てしまった。本当は全部説明しておけばよかったんだが、一刻も早く魔王が死んだと伝えて、戦争を終わらせる必要があった。
だけど……今になって思えば、それは間違いだったって分かる。魔王や勇者が居なくなったところで、人間たちの争いは止まらない。
……過ぎたことをいつまでも悔やんでも仕方がない。大事なのはこれからだ。
「まぁ互いに生きていれば、アイツらとはまた会うこともあるだろう」
シャルンや四天王は優秀な奴らだ。むしろ俺よりも上手く、魔族をまとめてくれるに違いない。
そんなことを考えていると、クーが俺の隣にやってきた。
「ストラ兄さん」
「ん? どうした?」
彼女は俺の隣に座ると、温泉を手のひらで掬って水面を見つめ始めた。しばし無言の時間が流れ……おもむろに口を開いた。
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