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聖杯の章
♡7 逃げた先に
しおりを挟む薔薇の館を脱出した悠真たちは、一度体制を整えるため、マルコのいる教会へと向かっていた。
「クソッ、どうして花音さんが……」
悠真はふと、来た道を振り返る。
薔薇の館がある方角では煙がもうもうと立ち上り、空を黒く染めているのが視界に入った。
消防車のサイレンが街に鳴り響き、悠真の心を余計に掻き回す。
せっかく知り合ったばっかりだったのに。
ただお兄さん想いの良い子だった彼女が、どうしてそこまで……。
「悠真君、今は急がないと……!」
「分かってる! 分かってるけど!!」
紅莉は今、かなり焦っているように見える。
花音があの化け物女と繋がりがあったということは、占星術の本はすでに敵側に渡ったと考えていいだろう。
こちらに残されているのは、汐音から預かった手相の本と、紅莉の持つタロットの本の二冊しかない。つまりこの二冊がある内に、透影の呪いを解除させないといけないのだ。
そう、悠真たちの影はまだ戻っていなかった。
「良かった、教会は無事のようだぞ……!」
悠真たちが到着すると、そこには前回来た時のままの天啓教会があった。
これで教会まで襲撃に遭っていたら、最後の逃げ場まで失ってしまうところだった。
ここまで足が攣りそうになるまで走ってきた。二人とも汗だくになりながら、教会の前で地面に崩れ落ちる。夏場な上に、今日はやけに太陽が照りつけていたのが余計に恨めしい。
「大丈夫か、紅莉……」
もともと運動が得意ではない紅莉はヒュウヒュウと過呼吸になりそうになっている。悠真の心配に答える余裕もない。
だが彼らに、休んでいる余裕など無かった。まずはタロットの本を安全なところに隠さなくては――。
「紅莉、タロットの本はどこに……?」
悠真は紅莉が本を持っているところを見たことが無かった。
マルコが本そのものだと言えばそうなのだが。本というからには、紙としてどこかに置いてあるのだろう。
「ふぅ、ふぅ……マルコが、教会のどこかに隠しているはずよ。いきましょう」
深呼吸で息をどうにか整えながら、紅莉はよろよろと立ち上がった。
悠真は彼女を支えるようにして、二人は教会の中へと入っていく。
「……マルコ? どこにいるの!?」
教会の木扉をギギギ、と開けて足を踏み入れていく。
紅莉がマルコの名を呼ぶが――返事がない。
礼拝堂にも、懺悔室にも居ない。
二階に上がってもみるが、そこには冷めた紅茶のカップがテーブルの上にポツンと置かれているだけでどこにも彼の姿が無かった。
「どこかに出掛けているのか……?」
「それはないと思う。彼は本の悪魔。本を置いたまま、この教会からは出られないの」
マルコは自分では本を移動できないらしい。だからこの教会のどこかに居るはずなのだと、紅莉は言う。
しかし、どこを探しても居る気配すら感じられないのだ。
悠真たちは一度礼拝堂まで戻り、マルコの良そうな場所について考えてみるがやはり見当もつかない。
――そして、遂に時間切れとなってしまった。
「みぃつけたぁ……」
最後の本を求めて、鬼がやってきた。
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