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杖の章
♧31 死のデリバリー
しおりを挟むカズオは自身で用意したはずの拘束具と、必死に格闘していた。
悠真が置いて行った鋏をどうにか手繰り寄せ、口を使ってナイフのように斬ろうとしている。身体はすっかり汗だくで、息もゼェゼェと苦しそうだった。
助けは来ない。
悠真と紅莉がここを出てから、すでに一時間ほどが経過してしまっている。
料金は自動更新制で時間が過ぎれば勝手に宿泊となってしまうため、明日の朝までは清掃員も入って来ない。
それにここは、ラブホテルだ。防音がしっかりとしている。
つまり、助けを呼んでも誰も来てくれないのだ。
挙句の果てには監視カメラは建物の入り口にしかなく、カズオがこんな目に遭っているということは誰も知らない。
そんな絶体絶命の状況に陥っていたカズオの元に、ふらりと訪れた人影があった。
「あ、アンタは……!!」
カズオの前には、汚れた黒髪をした長身の女が立っていた。
そう、あの連続殺人鬼が再びカズオの前に現れたのだ。
すでに禍星の子は殆どが、彼女の手に掛かっている。影を奪われていない者は洋一たちを含め、残りはもう僅かしか居ない。
しかし、全ての元凶とも言える存在が現れたというのに、カズオはまるで救世主が来たかのような喜びの声を上げていた。
「こ、これで良いんだろう? 俺の本と影、返してくれよ……か、身体が変なんだよぉ……!!」
全てが予定調和。ここへ日々子が来るのが分かっていたかのような口振りだ。
そして彼のセリフは、敵対している者に使うような言葉では無かった。
日々子はカズオがいるベッドへと一歩一歩、ゆっくり近寄っていく。
そして、黒い染みだらけになってしまっているトートバッグの中に手を入れた。
「え? いやいやいや、話が違うだろ。僕は、言われた通りのことはやったじゃないか……!」
バッグから出てきた手に握られていたのは。
血の塊で用をなさなくなっている、あの裁ち切り鋏だった――。
「や、やめろ! 助けてくれ! だれかたす、ぎゃあああ」
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