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ヘリオス王国編
第42話 龍鱗狼
しおりを挟む『グオォォオオオ゛ォ!!!!』
王都へ向けて魔導機に乗りながら森の中を進んでいると、この辺りには居ないはずのモンスターの叫び声が木々の合間に木霊した。
「おいおい。ロロルが出てこないとか言っちまったから、モンスターも仕方無しに空気読んで出てきたんじゃねーの?」
「そんなわけないでしょ!? ちょっと雑談で言っただけじゃない!!」
「お二人とも、そんなこと言っていないでアレ、どうするんです!? 向こうの方からかなりの数の雄叫びと足音が聞こえるですよ!!」
三人の中で一番聴力が優れているリタが、リス耳をピクピクと動かしながら進行方向右手を指差した。
このまま進んでは危険だと判断した俺達は、魔導機を緊急停止させてリタが指し示した方向を確認する。
確かにその方向からもうもうと砂煙が立ち上り、空気が震える程の音量で『ドドドド……』と地響きが聞こえてきた。
「二足……いや、四足型か? それにあの地響きのデカさだと、中々のウェイトがあるモンスターのようだな。ロロル、リタ。心当たりはあるか!?」
「あの音の大きさはどう考えても一匹じゃないわよね!? 野生のモンスターで群れる習性があるのは、ゴブリンやウルフ、ボア達よ。でもダンジョンでも無ければ、普通の獣と同じように複数の種類のモンスターが混ざることは無いハズ!」
「叫び声はウル……フ? に似ているみたいです……??」
木々がうっそうと生い茂ってるような深く昏い森なので、視覚で直接的に確認することはできない。だが、かなりの速さで音が近づいていることは分かる。
このままならそう時間も掛からずこちらにエンカウントしそうだ。
俺達は顔を見合わせ、コクリと頷くと急いで魔導機から降り、ロロルがそれを小型化させて収納する。
そして各々が自分の武器を取り出し、戦闘準備を行う。
とは言っても、俺達が装備しているのは片手剣にメイス、そして短杖という超接近武器だ。
……ん?
「ちょーっと待て! 今なんかおかしなモノが混ざってなかったか!?」
「なによ、今はそれどころじゃないでしょ!!」
「緊急事態なんですよ! 緊張感を持ってくださいです!!」
ビュンッビュンッ!!と風を斬るように野球のバッターとテニスのスウィングをかましている女性二人が俺に文句を言ってくる。
――いやいやいや、おかしいでしょ。
今までリタが使っていた釘バットでさえ突っ込みたかったのに、更に布団叩きが増えちゃったよ。
ていうか、そもそもそれは杖として機能するのか?
なんなの? 異世界ではイロモノ武器が流行しているの?
「だって私だけ手ぶらって言うのも寂しいじゃない! この間の買い物でこのビートマニアックス見つけた瞬間、ビビビッときたんだもの。買うしかないじゃない?」
ロロルが布団叩きをアッパーカットのような下スウィングを披露しながらそう熱弁する。
そもそも、その素振りをいつ実戦で使うつもりなのだろう?
あのフォームで武器が当たる部位って場所的にお尻とか急所だと思うんだけど……
彼女達が満面の笑みでボールを打ち抜く姿を想像して、思わず下腹部がキュンとする。
「ていうか君達、後衛職なのにやたら武器が前衛的過ぎてません?」
「うるさい! そんなことより、そろそろモンスターが来るわよ!」
「数は恐らく三……いや、五は来ているです!!」
『ウォオオォオォオン!!!!』
そうして襲撃者たちは鼓膜を突き刺すような威嚇の雄叫びを轟かせ、見上げるほどの高さを持った体躯を左右に震わせながら俺たちの眼前へとやって来た。
障害となる木々を前脚でなぎ倒し、のそりと凶悪な顔を三人の頭上から覗かせる。
そして爬虫類のような双眸で周囲をギロリと一瞥し、本日の獲物達を見つけると獰猛な顔でグギャギャと嗤った。
――やべぇな。これがウルフだって?
冗談じゃない。こんなTレックスみたいな犬っころがいてたまるか。
というより、コイツは今までの雑魚とはあまりにも"格"が違くないか!?
チュートリアルの森にラスボス並みのモンスター配置してんじゃねーよ……
「おい、こっちの世界のウルフってのはこう、モフっとした可愛げのあるモンじゃないのか?」
鋭い歯を剥き出し、餌を前に涎をボタボタと溢れ落とす。悪臭ただようその液体は、どこかの被害者の血で赤黒く濁っている。
「わ、私に言われても分からないわよ! こんなに大っきいのなんて初めて見たし、そもそもあんなトカゲ頭じゃなかったわ!」
――大地に突き刺さる一歩。そしてまた一歩と焦らすようにジリジリと寄ってくるのは強者ゆえの余裕か、恐怖で獲物を竦ませるためなのか。
人間の身長をゆうに超える体躯を持ち、見るからに強靭そうな鱗の鎧をガチガチと鳴らしながら近づいて来る。
「あれは恐らくパキラにいるモンスターですよ! 名前は龍鱗狼。名剣も通さぬ鱗の防御力と無差別に襲い掛かる凶暴さを持ち、他のモンスターでさえも出会えば即戦意喪失、首を垂れて死を待つことからついた二ツ名は――」
『グオォォオオオ!!!!』
「――グランレクトール!!」
突如現れた二ツ名モンスター。
相手は既にスタンバイオーケー。
己の生存権を賭けたバトルが今、咆哮のゴングと共に始まろうとしていた――
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