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ヘリオス王国編
第32話 王都ヘキザットへ向けて
しおりを挟む俺はテーブルに広げた簡易地図をジッと見つめていた。
ここテトリアの漁港から、南方にある王都“ヘキザット”へ向かう迂回路をシミュレートしているのだ。
真っ直ぐ南へ向かうルートは現在、領主軍が大量発生したモンスターの制圧中のため、通行不可能となっている。では南西方面へ向かうのはどうか。
「川が蛇のように流れているみたいだし、こっちの陸路は行きにくいんじゃないかしら」
「うーん、そうだなぁ」
ロロルの言うとおりだ。そうすると、やや南東寄りに弧を描くようにして南下していくのがベターかな。
ちなみに俺が召喚されたアクテリア国から今いるヘリオス国までの進路は、地球で言うところのスェーデンからバルト海を抜けてポーランドに入る感じに似ている。
だから今はポーランドの首都、ワルシャワに向かおうとしているようなものだ。
……え? そう言われてもパッと頭に浮かばないって?
日本に置き換えると、岡山県(アクテリア国)から海を船で渡って四国地方(ヘリオス国)に入り、ぐるっと外周を回って高知県(王都)に向かうといった感じだ。あぁ、桃と蜜柑食べたい。
「そうすると、ジャン君が生まれた村も通りそうですね……」
「リタの言う通りだな。旅のついでだし、ジャン君の代わりに俺たちが村の様子がどうなったか見ておくか?」
もちろん、それをジャン君本人に伝えるかどうかは別だが。
「うーん、そうね。もし解放者達と遭遇するようなことがあったら、勇者であるアンタの役目よ。その聖剣クレージュの錆にしてやりなさい!」
「人殺しなんて、そんな野蛮なことしないよ!?」
やっぱりロロルはジャン君の一件を根に持ってるよなぁ。彼の親が殺されたキッカケになった解放者達を、かなり嫌悪してる。
普段は素っ気無い性格に見えて(俺に対してだけかもしれないが)、妙に情に厚いところをたまに見せるんだよなぁ。そういうところは別に、嫌いってわけじゃないんだけどさ。
「ちょっと、変な目で私を見ないでよ! ほら、私たちのリーダーはアンタなんだから、ちゃっちゃとルートを決めなさい!」
「へーへー。分かりましたよーだ。それじゃあ明日は久しぶりに魔導機に乗って、ヘリオスの王都へ向かいますか!」
◆◆◇◇
次の日の朝。俺たちはテトリアを出発する前に、ソルティーナさんのいる冒険者組合へとやって来ていた。出てくるモンスターの情報収集と、道中にこなせる依頼が無いかを確認するためだ。
「王都ヘキザットまでの情報ですか? えぇっと、詳細な情報は軍部関係者しか知らされていないのですが」
「あー、そっか。国内の情報を他国の人間に対して、そんな気軽に言えないよなぁ」
……でもソルティーナさんなら、どうにかなりませんかね?
「確かに私の読心スキルで彼らから情報を引き出すことはできますよ?」
「できるってことは、つまり……」
「そりゃまぁ、ある程度の情報は把握してますけど……分かりました。もう、仕方ないですね。勇者であるアキラさんになら、多少は開示しても大丈夫でしょう。……でも、他に人には絶対に内緒ですよ?」
さすが読心能力持ちのソルティーナさん。
それに心配されなくとも、「秘密ですよ?」ってウインクしながら可愛く言われてバラすような奴は、男じゃあない。
その後、モンスターの出現状況や治安の良し悪し、この国の貴族や軍部の関係性なんかを出来る限り教えて貰った。
……うん、やっぱり読心スキルはずるいだよね。
軍のお偉いさんが裏で武具商会と組んで談合していたり、実はその商会は宰相の紐付きで悪巧みの情報が筒抜けだったり。万が一このネタが表に出たら、一時間もしないうちに大勢の暗殺者が大通りを走って襲いかかってきそうだ。そんな危険な話ばかりだった。
そんな情報が冒険者機関の支部長が知っている、という事実にも驚きだけど。
「そんな危ないネタを持っていて、国に恨まれて消されたりしないんですか?」
「ふふっ。心配してくださるんですか? でも大丈夫です。だって私は――」
なんと、彼女の一族(親戚家族が世界各地に居るらしい)は元々、そういう諜報を扱っている家系だったらしい。
一族はみな冒険者機関でこっそり働いていて、世界中の国々と繋がっている。そして共通の平和目的に限って情報を提供する代わりに、彼女の一族は機関に保護されているんだとか。
まるで生きた核爆弾のようだ。自ら抑止力扱いされる事で、誰も手を出すことができないという仕組みなわけで。
「うふふ。アキラさんはミステリアスな女性は嫌だったかしら?」
「大好きです!!」
そんなの大好物に決まってるじゃないですか~!
「……リタ、あんな馬鹿は放っておいて、私達はさっさと行きましょうか」
「早く行くですね。なんだかあの人と一緒に居ると、得体の知れない気持ち悪い病気が移りそうですー」
おい、聞こえてるぞ二人とも。
「……それではッ! ソルティさん、お世話になりましたです! また会ったら魔葉パーティーするです!!」
「色々と世話になったわ、ありがとう」
「ちょっ、待てって二人とも! もうちょっとだけソルティーナさんとお話を……」
「はい、気をつけて行ってきてくださいね。またのお越しをお待ちしております」
約一名(俺)を無視しながら、カウンター越しに深々とした一礼で見送ってくれたソルティーナさん。そんな彼女の元を辞去し、俺たちはいよいよ王都ヘキザットへ向けて出発するのであった。
◆◆◇◇
「おぉ~!? これはまた長閑な風景だなぁ~」
魔導機の窓から外の景色を覗くと、小麦畑が黄金の大海原のように広がっていた。
丸々と稔った実が風に揺られて、潮騒のようにざわざわと音楽を奏でている。遠くにはクワを持った農民が畦道をゆっくりと歩いているのが見えた。
どこか遠い昔に見たようなノスタルジックな風景は、俺に郷愁の念を抱かせてくれた。
そして故郷を思い出す者は一人だけではなく……
「ボクの生まれた村も、小麦畑がたくさんあったです。お父さんとお母さんと一緒に毎日働いて……懐かしいな……」
魔導機の後部座席から、くぐもった声が聞こえてくる。
普段明るい性格なので忘れがちだが、リタもジャン君と同様に生まれ故郷と家族を失っている。
それにまだ彼女は十代半ばの少女だ。辛いに決まっているだろう。
「こういう風景もいいよなぁ。俺がいた故郷では米を育ててたんだ。米は水田っていう水を張った畑で育てるから、色々と管理が難しくてさぁ……」
俺はリタを下手に慰めることも出来ず、気を紛らわるために自分の昔話を語った。
田んぼで滑って泥だらけになった話や、カエルの合唱、おたまじゃくしすくい。日本特有の景色なんかを、取り留めもなく話した。
ロロルはいつものMDをあえて聴かずに、俺の話を黙って聞きながら運転していたし、リタも泣き疲れて寝るまでずっと短い相槌を打っていた。
「なぁ……リタをジャン君の生まれた村に連れて行って、大丈夫だと思うか?」
「……どうかしらね。同じ獣人だし、その村でどんな扱いを受けるか分からないわ。取り敢えず状況が分かるまでは、リタが獣人だってことを極力隠して、私たち二人でどうにかしましょう」
……だよなぁ。
それに万が一リタが差別されて傷つけられでもしたら、ロロルはブチ切れそうで怖い。村人相手に突然殴り掛かりそうだ。
「ねぇアキラ。ジャン君が生まれた村は、テトリア漁港から二つ目の村だっけ?」
「そうだよ。今日はその一つ手前の村で夜を明かす予定だ」
「りょーかいよ」
リタが眠りについた後は、俺たち二人は何となく会話することも無くなり、無言で魔導機を走らせた。
「(差別かぁ、難しい問題だ。ここが日本だったら、自分が正義だって主張できたかもしれないけど……)」
正直、俺という存在はこの世界の異物だ。宗教観とか、倫理観。そういったものは国や民族が違えば異なるのは当然の話。だから現在の俺は、何が正しいのかはまだ分からない。
だから俺が正義を振りかざして一方的に断罪することなど、いくら勇者であっても許される行為ではない。
「(だけど……身内となったリタや、知り合った人に関しては、出来る限りのことをしてやりたい。世界を変えるなんてことはできずとも……)」
俺が与えられたチートでは、人々の考えや常識までを変えるなんてマネはできやしない。
だからこそ俺は勇者としてではなく、一人の人間としてチート無しでこの困難に立ち向かわなければならないだろう。
それが真の勇者なんだと、俺は思う。
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