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ヘリオス王国編

第29話 マリアージュを探せ!

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 見学している捕食者たちから食べ尽くされる前にヤンニョム旨辛調味料を保護した俺は、魔葉キャベツもどきキムチを作りを続ける。

 塩漬けした魔葉を取り出し、水気を取ったら、一枚一枚丁寧にヤンニョムを刷り込んでいく。
 かめに重ね合わさるように詰め、密封したらひとまず完成だ。


「空気に触れて発酵すると、酸っぱくなりやすいから注意してくれ。これで密封したまま数日経つと、ゆっくりと発酵が進んで味がまろやかになるから、それで食べ頃だ」

「「「「……」」」」

 説明を終えると、無言の眼差しを全員から向けられた。
 うん、言う前から「そんなの待てない」「いますぐ寄越せ」って思われるのは分かっていたけどさぁ。


「ってことで。アンさん、今回もお願いします……」

「くぅ!」


 もはや便利調理器具と化したアンさん。甕ごと丸呑みすると、何度か脈動するようにビクンビクンと震えたあと、ピカーとまばゆい光りを放ちはじめた。

「くぅっぷ」

 「完成したよ!」とばかりに、吐き出された甕を開けると、ツンと刺激的な匂いが立ち込めた。もちろん、不快ではない匂いだ。


「うーん。醤油といいキムチといい、アンさんは発酵を止めるタイミングをどうやって判断しているんだろう。不思議だ……」

 この子がチートすぎて、なんだか恐ろしくなってくるんだけど。

「別にいいじゃないの。それがアンさんだもの」

「実は勇者として召喚されたのってアキラ様じゃなくて、アンさんの方なんじゃないです? あれ? アン様って呼んだほうがいいですか?」

「それですリタさん! きっとこんな中身カッスカスな勇者より、ずっと素敵ですよ! スライムなのにこんな愛らしいなんて!!」

「ソルティーナも悪乗りすんな。二人もそろそろ止めないと、アキラがスライムみたいに溶けてくぞー?」

 女性陣の暴言をトゥーリオがフォローしてくれるが、全く効果がない。
 いいんだ、俺もそんな気がしてきたし。
 俺がアンさんの従者、いやペットでもいいよ、うん。


「さて、恒例の勇者イジりはここまでにして――魔葉のキムチ? とやらをいただきましょうか」
「わぁい! 楽しみですぅ!」

 それぞれがフォークを手に持ち、キムチ(もどき)を口に運んでいく。


「からっ! うまっ!! からうま!!」

「んんー! 舌が燃えるように辛いけど、フォークが止まらないです!!」

「これは……美味しいですね。お酒はなにが合うでしょうか」

「おうっ! エール持ってきたぜェ! 記念すべき新しい魔葉料理に、乾杯だァ!!」

 ただの試食会だったはずが、気付けばいろんな人を集めた宴会にまで発展してしまった。
 少数の慣れない辛さで食べられない人も居たが、概ね好評みたいで良かったぜ。

 これからは、さっそく渡航船組合や冒険者機関、農業と食品組合と総出で生産に取り掛かるそうだ。
 というか、この場に農業と食品組合の役員が居たらしく、一緒に試食していた。いったいいつの間に……。


「いや~!! アキラさんのおかげで、再び魔葉ブームの到来ですよ!!」

「えぇ、本当に感謝してもしたりないですよ! ここだけの話、この街の人達も魔葉の塩漬けには若干飽きてきてましてね。これは我が国の米にも合うし、最高ですよ!」


 俺もすっかり忘れかけていたが、この国では米が栽培されている。
 数日前にはピギールウナギもどきでご飯物を作ったが、これはキムチと一緒に食べても美味しい。

 ほかほか炊きたてご飯に、キムチをチョイと乗せて一緒にいただく。
 キムチの辛さが熱々ご飯の甘味と合わさって、唾液がじゅわっと溢れてくる。合間にエールを挟んでもなお美味い。


「ねぇ、このキムチとエールはよく合うんだけど、私はワインもよく飲むのよね。なにか良いオツマミにならないかしら?」

 ソルティーナさんは、それぞれの手にエールと白ワインを持ちながら聞いてきた。酔ってるせいかだいぶ口調が崩れているが、大丈夫なのだろうか……。


「ワインですか? キムチは辛くて味が濃いので難しいですね。あ、でも飲み合わせマリアージュでイイのがありますよ?」

 太陽の国ヘリオスは農業も盛んだが、その広大な土地を活かした畜産も有名だ。

 そして酪農とくれば……そう、チーズである。
 あれ? 発酵食品があるってことは、わざわざ実験で確認しなくても微生物はいたんじゃん。……ま、まぁいいか結果オーライだ。


「このクリームみたいなチーズと、キムチを混ぜて食べてみてみてください。たぶんその白ワインにも合うと思いますよ」

「チーズと?? ……あら、ホント。ねっとりとしたチーズとキムチの辛さ、ワインの酸味が上手くまとまっていて面白いわ。ふふ、アキラさんはまさにシューマッパ様の再来のようみたいだわね」

 出会った頃の刺々しさは鳴りを潜め、ソルティーナさんは俺に楽しそうに笑いかけてくる。


「あれ? 俺のこと少しは認めてくれたんですか?」

「ん、そうね。少なくとも、害はなさそうね」

「む、試していたんですか?」

「ごめんなさいね。冒険者には多少力があるからって調子に乗ったり、暴力で言うことを聞かせようとしたりする奴が多くて……」

 あー、それで壁を作っていたと。
 それじゃあ冷たかったのはそのせい?

「機関の職員で少なくない数の被害者がいるのよ。だから私が盾となって守らないと」

「あーそれに関しては俺も何も言えませんね。俺もこの世界に来た当初はかなり恥ずかしい事していたんで」

「あはっ。いいのよ? 女の子に無理矢理してなきゃ。それに、私もこんな年増じゃなかったら貴方と……」

「年増だなんて……俺は、仕事を頑張る年上のお姉さんは大好きですよ?」

「えっ……?」

 唐突に俺のことを見つめはじめるソルティーナさん。
 あれ? なんだかちょっと色っぽいぞ……!?

「はーっ! あっついわねー、キムチ食べると身体が熱くなるわぁ~」

「でも辛いのに砂糖みたいに甘々ですぅ!」

「おい、アキラよぅ。女を口説くなら、もう少し人の少ない所でやったほうがいいぜ?」

 周りがニヤニヤと見ていることに気付いた俺とソルティーナさんは、まるで唐辛子のように顔を真っ赤にさせて同時に俯くのであった。

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