29 / 45
ヘリオス王国編
第29話 マリアージュを探せ!
しおりを挟む見学している捕食者たちから食べ尽くされる前にヤンニョムを保護した俺は、魔葉キムチを作りを続ける。
塩漬けした魔葉を取り出し、水気を取ったら、一枚一枚丁寧にヤンニョムを刷り込んでいく。
甕に重ね合わさるように詰め、密封したらひとまず完成だ。
「空気に触れて発酵すると、酸っぱくなりやすいから注意してくれ。これで密封したまま数日経つと、ゆっくりと発酵が進んで味がまろやかになるから、それで食べ頃だ」
「「「「……」」」」
説明を終えると、無言の眼差しを全員から向けられた。
うん、言う前から「そんなの待てない」「いますぐ寄越せ」って思われるのは分かっていたけどさぁ。
「ってことで。アンさん、今回もお願いします……」
「くぅ!」
もはや便利調理器具と化したアンさん。甕ごと丸呑みすると、何度か脈動するようにビクンビクンと震えたあと、ピカーとまばゆい光りを放ちはじめた。
「くぅっぷ」
「完成したよ!」とばかりに、吐き出された甕を開けると、ツンと刺激的な匂いが立ち込めた。もちろん、不快ではない匂いだ。
「うーん。醤油といいキムチといい、アンさんは発酵を止めるタイミングをどうやって判断しているんだろう。不思議だ……」
この子がチートすぎて、なんだか恐ろしくなってくるんだけど。
「別にいいじゃないの。それがアンさんだもの」
「実は勇者として召喚されたのってアキラ様じゃなくて、アンさんの方なんじゃないです? あれ? アン様って呼んだほうがいいですか?」
「それですリタさん! きっとこんな中身カッスカスな勇者より、ずっと素敵ですよ! スライムなのにこんな愛らしいなんて!!」
「ソルティーナも悪乗りすんな。二人もそろそろ止めないと、アキラがスライムみたいに溶けてくぞー?」
女性陣の暴言をトゥーリオがフォローしてくれるが、全く効果がない。
いいんだ、俺もそんな気がしてきたし。
俺がアンさんの従者、いやペットでもいいよ、うん。
「さて、恒例の勇者イジりはここまでにして――魔葉のキムチ? とやらをいただきましょうか」
「わぁい! 楽しみですぅ!」
それぞれがフォークを手に持ち、キムチ(もどき)を口に運んでいく。
「からっ! うまっ!! からうま!!」
「んんー! 舌が燃えるように辛いけど、フォークが止まらないです!!」
「これは……美味しいですね。お酒はなにが合うでしょうか」
「おうっ! エール持ってきたぜェ! 記念すべき新しい魔葉料理に、乾杯だァ!!」
ただの試食会だったはずが、気付けばいろんな人を集めた宴会にまで発展してしまった。
少数の慣れない辛さで食べられない人も居たが、概ね好評みたいで良かったぜ。
これからは、さっそく渡航船組合や冒険者機関、農業と食品組合と総出で生産に取り掛かるそうだ。
というか、この場に農業と食品組合の役員が居たらしく、一緒に試食していた。いったいいつの間に……。
「いや~!! アキラさんのおかげで、再び魔葉ブームの到来ですよ!!」
「えぇ、本当に感謝してもしたりないですよ! ここだけの話、この街の人達も魔葉の塩漬けには若干飽きてきてましてね。これは我が国の米にも合うし、最高ですよ!」
俺もすっかり忘れかけていたが、この国では米が栽培されている。
数日前にはピギールでご飯物を作ったが、これはキムチと一緒に食べても美味しい。
ほかほか炊きたてご飯に、キムチをチョイと乗せて一緒にいただく。
キムチの辛さが熱々ご飯の甘味と合わさって、唾液がじゅわっと溢れてくる。合間にエールを挟んでもなお美味い。
「ねぇ、このキムチとエールはよく合うんだけど、私はワインもよく飲むのよね。なにか良いオツマミにならないかしら?」
ソルティーナさんは、それぞれの手にエールと白ワインを持ちながら聞いてきた。酔ってるせいかだいぶ口調が崩れているが、大丈夫なのだろうか……。
「ワインですか? キムチは辛くて味が濃いので難しいですね。あ、でも飲み合わせでイイのがありますよ?」
太陽の国ヘリオスは農業も盛んだが、その広大な土地を活かした畜産も有名だ。
そして酪農とくれば……そう、チーズである。
あれ? 発酵食品があるってことは、わざわざ実験で確認しなくても微生物はいたんじゃん。……ま、まぁいいか結果オーライだ。
「このクリームみたいなチーズと、キムチを混ぜて食べてみてみてください。たぶんその白ワインにも合うと思いますよ」
「チーズと?? ……あら、ホント。ねっとりとしたチーズとキムチの辛さ、ワインの酸味が上手くまとまっていて面白いわ。ふふ、アキラさんはまさにシューマッパ様の再来のようみたいだわね」
出会った頃の刺々しさは鳴りを潜め、ソルティーナさんは俺に楽しそうに笑いかけてくる。
「あれ? 俺のこと少しは認めてくれたんですか?」
「ん、そうね。少なくとも、害はなさそうね」
「む、試していたんですか?」
「ごめんなさいね。冒険者には多少力があるからって調子に乗ったり、暴力で言うことを聞かせようとしたりする奴が多くて……」
あー、それで壁を作っていたと。
それじゃあ冷たかったのはそのせい?
「機関の職員で少なくない数の被害者がいるのよ。だから私が盾となって守らないと」
「あーそれに関しては俺も何も言えませんね。俺もこの世界に来た当初はかなり恥ずかしい事していたんで」
「あはっ。いいのよ? 女の子に無理矢理してなきゃ。それに、私もこんな年増じゃなかったら貴方と……」
「年増だなんて……俺は、仕事を頑張る年上のお姉さんは大好きですよ?」
「えっ……?」
唐突に俺のことを見つめはじめるソルティーナさん。
あれ? なんだかちょっと色っぽいぞ……!?
「はーっ! あっついわねー、キムチ食べると身体が熱くなるわぁ~」
「でも辛いのに砂糖みたいに甘々ですぅ!」
「おい、アキラよぅ。女を口説くなら、もう少し人の少ない所でやったほうがいいぜ?」
周りがニヤニヤと見ていることに気付いた俺とソルティーナさんは、まるで唐辛子のように顔を真っ赤にさせて同時に俯くのであった。
12
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
異世界開拓時代物語
茶柄
ファンタジー
気がついた時異世界の少年だったチート何かもらって無いし神様にもあっていない有るのは日本での生活の記憶の身だただ生活の記憶のはあるのに自分や家族の事はわからないんだけど後は死因も?魔法のある世界だったのは少年心にダイレクトアタックだったのだかこの世界で魔法やとんでも能力を使えるのは神様の加護もしくは恩寵に愛護を持つ者のみだ良くある物語のように貴族だから使えるのではなく使えるから貴族や王に祭り挙げれるのだ。そしてこの世界は良い意味でも悪い意味でも神様と近い世界だ神の恩恵を受けられるが神の怒りに触れて一夜にして大国が亡ぶ世界だ。祖そしてこの世界の食物連鎖の頂点は魔物だどうやっても勝てないほどに現時点では離れた距離のある隔たりのあるのた最弱の魔物を討伐するために100人単位の戦士が必要になる程にそれを憐れんた神の恩寵が人や物に宿りし魔法の力だ。故に人々はその土地の神を崇め祟りその代わりに恩恵を賜る世界だ。そんな殺伐した時代になんの印加が前世の記憶を思い出してしまった少年のドタバタな開拓記だ本人も段々と魔法使いになつていくのだが、周りの方がチートすぎるだろうなんんで目立たない不憫な男の子の物語り
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる